水商売・夜職の税務調査——元国税調査官が「調査官は現場で何を見ているか」を明かす

著者:市田佳祐(税理士・元大阪国税局 資料調査課)


少し前の話になりますが、国税庁が令和7年12月に公表した「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」に、毎年注目が集まるランキングがあります。「事業所得を有する個人の1件当たり申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」、いわゆる"申告漏れ常連業種"のランキングです。

令和6事務年度の結果はこうでした。

1位:キャバクラ(申告漏れ所得4,164万円) 3位:ホステス・ホスト(2,968万円) 6位:バー(1,968万円) 9位:スナック(1,873万円)

私は税務弘報2026年3月号でこのデータを分析しましたが、水商売関連の業種がこれだけ並ぶのは毎年のことです。「元々コンプライアンス意識が低い業界であることに加えて、無申告者が多い点が大きく影響している」と私は記事に書きました。

この記事では、私自身が大阪国税局の調査官として現場で経験してきたことをもとに、水商売への税務調査で何が起きているかをお伝えします。


調査官は「二重帳簿」をどう見つけるか

私が共著で執筆した「質問応答記録書のポイントと税理士の対応策」(税務研究会出版局)の中で、ホストクラブの事例を取り上げました。

京都地判平成7年9月29日の事案です。ホストクラブを営む納税者が、売上を過少に記載した内容虚偽の売上伝票を作成しつつ、公表帳簿には過少な金額を記帳し、一方で大学ノートに真実の売上金額を記録していた——いわゆる「二重帳簿」の典型例です。

調査の現場でよく見るパターンがあります。「申告用の売上帳のほかに、真実の売上帳が存在していた」という構図です。「二重帳簿」という言葉だと法的な定義が問われますが、要は「表の数字と裏の数字が別々に管理されている」状態のこと。ノートでもスマホのメモでも、それが存在していれば調査官は必ず見つけます。

お店の売上集計の流れを最初に確認するのは、このためです。


調査官が現場で見ている5つのポイント

実際に調査に入ったとき、私が確認する順番はほぼ決まっていました。

伝票・日計表・出勤記録

水商売では、レジではなく手書きの伝票や日計表で売上を管理しているお店がほとんどです。調査官はまず「売上をどうやって集計しているか」という流れを聞きます。伝票の枚数と日計表の合計が合うか、出勤しているキャストの数とテーブル数から見た売上規模が申告額と整合しているか——こうした照合から、数字のズレを探します。

日計表が存在しない、あるいは「全部頭の中で管理していた」というお店は、それ自体が調査を深掘りするきっかけになります。

ホステス・キャストへの支払い記録

これが一番見落とされているポイントです。お店がホステスやキャストに支払う報酬は「給与」ではなく「外注費(報酬)」として扱われることが多く、源泉徴収が必要です。計算式は「(支払金額 − 5,000円 × 支払対象期間の日数)× 10.21%」で、原稿料や講演料とは異なる計算方法が適用されます。

この処理をしていないお店は非常に多い。調査に入ってみると「給与として処理していました」というケースが後を絶ちません。源泉徴収の漏れは、発覚すればそのまま追徴の対象になります。

ドリンク売上の全額計上

ドリンクバックがある店舗でよく見るのが、「ドリンク売上の全額を計上せず、キャストへ払い出したドリンクバック分を差し引いた純額だけ帳簿に記録している」というパターンです。お客様から受け取ったドリンク代の全額が売上であり、キャストへのドリンクバックはそこから支払う経費です。この区分を混同すると、売上の計上漏れとして指摘を受けます。

売掛金(ツケ)の管理台帳

常連客のツケ払いがある店舗では、その管理台帳の有無を確認します。口約束だけでツケを管理しているお店は、売上全体の把握が曖昧だとみなされます。

仕入れ量と売上の乖離

アルコールの仕入れ金額と、申告している飲料売上が大きくかけ離れている場合は、「仕入れたお酒はどこへ消えたのか」という観点で深掘りが始まります。


「帳簿も調査協力もしない」と何が起きるか

前述の著書で取り上げた別の事案があります(宇都宮地判平成17年11月2日)。風俗業を営む納税者が、所得税の無申告や虚偽申告を繰り返し、税務調査においても帳簿を備えず調査協力も拒否したケースです。

税務署長は同業者の所得率による「推計」で所得税・消費税を決定し、重加算税を賦課しました。

帳簿がなければ調査ができないと思っている方もいますが、そんなことはありません。帳簿を備えず調査に協力しない場合、推計課税が適用され、同業者の所得率をもとに税務署が一方的に税額を決定することになります。


令和8年以降、調査はさらに変わる

私が税務弘報で書いたもう一つのポイントは、調査手法の変化です。

令和8年中に国税庁はKSK2という新システムを導入する予定です。現行のKSKシステムの後継で、「データ活用を基軸とした選定」が標準化されます。AIによる調査対象の絞り込みが精度を増し、「経験則」から「データ活用」へ完全に転換する転換点です。

同記事では「1件当たりの追徴税額も241万円(対前年比107.6%)と高水準であり、当局がAI等を活用して高額・悪質事案への選定精度を高めていることを示している」と書きました。

つまり、調査件数が減っても、かかるときは徹底的にかかる——そういう時代になっています。


調査が来る前にやっておくべきこと

「まだ来ていない」という今が、最もリスクを減らせるタイミングです。

毎日の売上日報・伝票をきちんと保管し、月次で帳簿と照合する。ホステス・キャストへの報酬は源泉徴収の要否を確認する。もし数年間申告していないのであれば、調査が来る前に自主的な期限後申告を検討する(自主申告であれば無申告加算税が大幅に軽減される場合があります)。

それだけで、リスクは全然違います。


おわりに

水商売の税務は、源泉徴収・売上管理・報酬処理など、一般の税理士が苦手としやすい論点が重なる業種です。私は大阪国税局の資料調査課で、現金商売・夜間営業業態への調査を実際に経験してきました。

調査官がどの資料を見て、どう判断するかを知っているからこそ、できることがあると思っています。

大阪市内はもちろん、オンラインで全国からご相談を受け付けています。

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参考文献

  • 市田佳祐「所得税」税務弘報2026年3月号(中央経済社)
  • 市田佳祐ほか「質問応答記録書のポイントと税理士の対応策」(税務研究会出版局、2025年)

この記事を書いた人

市田 佳祐(税理士) 同志社大学商学部卒業後、2011年に大阪国税局入局。資料調査課では国際課税・富裕層に対する調査事務に従事。総務課、個人課税課における税務行政の実務も経験。国税庁長官賞彰・国税局長表彰の受賞歴あり。2023年6月退官、大阪市内で税理士事務所を開設。著書「質問応答記録書のポイントと税理士の対応策」(税務研究会出版局、共著)、税務弘報2026年3月号「所得税」執筆。1級FP技能士。

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