不動産オーナーに税務調査は来る?|元国税調査官が家賃収入と経費の注意点を解説


著者:市田佳祐(税理士・国税OB)

「賃貸物件を持っているが、自分のところにも税務調査は来るのか」
「修繕にかかった費用を経費にしたが、これが問題になると聞いて不安だ」
「サラリーマンをしながら不動産投資をしている。自分のような兼業でも調査の対象になるのか」

賃貸経営を行う不動産オーナーは、税務調査で問題になりやすい論点が多い立場にあります。家賃収入はまとまった金額になりやすく、経費の判断には専門的な論点が多く、さらに賃料や登記、仲介などの情報が税務署に集まりやすいためです。

そして、不動産所得の調査にはこの分野ならではの「狙われるポイント」があります。中でも最大の争点が、「修繕費か、資本的支出か」という区分の問題です。ここを誤ると、経費にできる時期が大きく変わり、思わぬ追徴につながります。

この記事では、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、不動産オーナーの税務調査で調査官が重点的に確認するポイント、家賃収入と経費の注意点、そして正しい備えを解説します。

この記事でわかること

  • 不動産オーナーが税務調査で問題になりやすい理由
  • 調査官が不動産所得で重点的に確認するポイント(内側の視点)
  • 「修繕費か資本的支出か」がなぜ最重要なのか
  • 家賃収入・減価償却の注意点と正しい備え

1. 不動産オーナーは税務調査で問題になりやすい論点が多い

すべての納税者が均等に調査されるわけではありません。税務署は、限られた人員の中で、申告漏れの可能性が高いと見込まれる先に調査を集中させています。その中で、不動産オーナーは構造的に論点が多く、注目されやすい立場にあります。理由は次のとおりです。

  • 家賃収入がまとまった金額になりやすい:申告漏れがあれば追徴額も大きくなりやすい
  • 経費の判断が専門的:修繕費・減価償却など、誤りや解釈の違いが生じやすい論点が多い
  • 資料情報で把握されやすい:一定の場合には不動産の使用料等の支払調書、不動産の登記情報、仲介・管理会社の記録など、税務署が把握できる情報がある
  • 譲渡・相続との接点:物件の売却や相続をきっかけに、過去の不動産所得の申告まで確認されることがある

特に、複数の物件を持つ資産家や、相続で物件を取得した方は、不動産にまつわる資料情報が税務署に集まりやすく、所得の規模も大きくなりがちです。資産全体を継続的に管理する対象として見られることもあり、不動産所得の申告は、その入口として丁寧に確認されます。

「サラリーマン大家だから」「規模が小さいから」来ない、とは限りません。給与所得者であっても、不動産所得の申告内容や資料情報から申告漏れが見込まれれば、調査の対象になり得ます。調査がどう選ばれるかについては、次の記事で詳しく解説しています。

(関連記事:税務調査が来る確率は?どんな人に来るのか|元国税調査官が選ばれる基準を解説)


2. 調査官が不動産所得で重点的に確認するポイント——内側の視点

不動産所得の調査には、調査官が重点的に確認する定番のポイントがあります。資産家の調査の現場で見てきた経験から、重要な順に整理します。

(1) 家賃収入の計上漏れ

まず確認されるのが、家賃収入がもれなく計上されているかです。入居者からの家賃、駐車場代、更新料、礼金など、賃貸に伴う収入が申告に反映されているかが確認されます。管理会社を通している場合は管理会社の記録と、自主管理の場合は通帳の入金と、申告内容を突き合わせれば、計上漏れは把握され得ます。詳しくは次章で説明します。

(関連記事:税務調査で通帳はどこまで見られる?|元国税調査官が個人口座・家族口座の扱いを解説)

(2) 修繕費か、資本的支出か

不動産所得の調査における最大の争点です。物件の工事費用を「修繕費」として一度に経費にしているが、その実態は資産価値を高める「資本的支出」ではないか——ここが徹底的に確認されます。区分によって経費にできる時期が大きく変わるため、調査官が最も重視するポイントです。第4章で詳しく説明します。

(3) 減価償却

建物の減価償却が正しく計算されているかも確認されます。土地と建物の按分が適切か、中古物件の耐用年数の見積もりが妥当か、といった点が見られます。土地は減価償却の対象にならないため、土地・建物の按分は特に重要です。

(4) 経費の妥当性

計上された経費が、不動産賃貸のために使われた妥当なものかが確認されます。自宅と兼用している部分の按分、交際費の事業関連性など、私的な支出が混ざっていないかが見られます。


3. 家賃収入の計上で見られる点

(1) 計上時期は「契約上の支払日」が基本

家賃収入は、原則として、契約や慣習で定められた支払日に計上します。実際に入金された日ではなく、契約上、支払いを受けるべき日が基準です。たとえば「翌月分を当月末までに支払う」契約なら、その支払日が属する年分の収入になります。

そのため、年末に受け取るべき翌月分の家賃を、入金が翌年だからといって翌年の収入にしていると、計上時期の誤りになります。なお、支払日が定められていない場合や、請求があったときに支払う契約になっている場合には、収入計上時期の考え方が異なることがあります。契約書の内容を確認したうえで判断することが重要です。調査では、契約書と入金記録を照らし合わせて、計上時期がずれていないかが確認されます。

(関連記事:税務調査では何を聞かれる?|元国税調査官が質問の意図と答え方を解説)

(2) 滞納家賃も、原則として収入になる

注意したいのが、滞納されている家賃です。実際には受け取れていなくても、契約上の支払日が到来していれば、原則として、その年分の収入として計上する必要があります。「もらっていないから収入に入れない」という処理は、計上漏れと指摘される可能性があります。なお、滞納家賃を収入に計上した後、実際に回収不能となった場合には、その時点で別途処理を検討します。不動産貸付けが事業的規模かどうかによって取扱いが変わるため、滞納が長期化している場合は、単に未入金として放置せず、回収可能性や税務処理を確認しておくことが重要です。

(3) 礼金・更新料・敷金の扱い

礼金や更新料など、返還を要しないものは、原則として収入に計上します。一方、敷金や保証金のうち、退去時に返還する部分は、預かっているだけなので収入にはなりません。ただし、敷金・保証金のうち返還を要しないことが確定している部分(いわゆる敷引きなど)は、その確定した時点で収入に計上します。この区別が曖昧になっていると、計上漏れが生じやすいポイントです。


4. 「修繕費か資本的支出か」がなぜ最重要なのか

(1) 経費にできる「時期」が大きく変わる

同じ工事費用でも、修繕費とされるか資本的支出とされるかで、経費にできる時期がまったく変わります。

  • 修繕費:支出した年に、全額を一度に経費にできる
  • 資本的支出:資産として計上し、減価償却を通じて数年〜数十年かけて少しずつ経費にする

たとえば、ある工事費用を修繕費として全額その年の経費にしていたところ、調査で「これは資本的支出だ」と認定されると、その年に経費にできる金額は減価償却分だけに減ります。結果として、その年の所得が増え、追徴につながるのです。金額が大きい工事ほど影響も大きいため、調査官が力を入れて確認します。

(2) 修繕費と資本的支出の区分

基本的な考え方は、次のとおりです。

  • 修繕費:壊れた部分の原状回復、通常の維持管理のための支出(例:雨漏りの補修、壊れた設備の取り替え)
  • 資本的支出:資産の価値を高めたり、使用可能期間を延ばしたりする支出(例:建物の増築、性能を上げる改良)

もっとも、実際には判断が難しいケースが多くあります。そのため、税法には、形式的な基準で判定できる場合の取扱いも設けられています。たとえば、一つの修理・改良の金額が20万円未満の場合や、おおむね3年以内の周期で行われる場合は、修繕費として処理できるとされています。また、金額が60万円未満か、または前年末の取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費として差し支えないとする取扱いもあります。

こうした基準はありますが、工事の内容を具体的に説明できることが前提です。「何のために、どの部分を、どう工事したのか」が分かる見積書・請求書・工事内容の資料を残しておくことが、修繕費として認められるための土台になります。なお、区分の判断が分かれるのは解釈の問題であり、直ちに重い処分につながるものではありませんが、実態と異なる請求書を作るなど作為があれば、隠蔽・仮装として重加算税の対象になり得ます。


5. 減価償却と土地・建物の按分

(1) 土地は減価償却できない

建物は使用や時間の経過で価値が減っていくため減価償却の対象になりますが、土地は減価償却の対象になりません。そのため、土地と建物を一括で購入した場合、購入代金を土地分と建物分に按分し、建物分についてのみ減価償却を行います。

この按分が適切かは、調査でよく確認されます。建物の割合を実態より大きくすれば、減価償却費を多く計上できるため、合理的な根拠のない按分は否認されることがあります。契約書での区分、固定資産税評価額の比率など、按分の根拠を説明できるようにしておくことが大切です。

(2) 中古物件の耐用年数

中古物件を取得した場合、建物部分については、法定耐用年数によらず、取得時以後の使用可能期間を合理的に見積もった年数を耐用年数とすることができます。使用可能期間の見積もりが困難な場合には、一定の要件のもとで簡便法による計算が認められます(ただし、取得時に多額の資本的支出を行った場合など、簡便法を使えないケースもあります)。耐用年数が短いほど1年あたりの減価償却費は大きくなるため、耐用年数の見積もりが適切かどうかも確認の対象です。


6. 正しい備え

不動産オーナーが税務調査に備えるために、やっておくべきことを整理します。

  • 家賃収入の管理:入居者ごとの家賃・更新料・礼金などを、契約上の支払日基準でもれなく計上する。滞納分の扱いにも注意する。
  • 工事内容の記録:修繕・改良を行ったら、見積書・請求書とともに、何のためにどの部分を工事したのかが分かる資料を残す。修繕費か資本的支出かの説明の土台になる。
  • 取得時の資料の保管:物件購入時の契約書、土地・建物の按分の根拠、減価償却の計算根拠を保管する。
  • 経費の按分:自宅兼用部分などは合理的に按分し、その考え方を説明できるようにする。
  • 不安があれば専門家へ:修繕費の区分や減価償却に不安があれば、調査が来る前に税理士に相談する。

過去の申告に誤りの心当たりがある場合は、調査の連絡が来る前に自主的な修正申告を検討することで、加算税の負担を抑えられる可能性があります。

(関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説)


7. よくある質問

Q1. サラリーマン大家でも、税務調査は来ますか?

来ることがあります。給与所得者であっても、給与以外に一定の所得があれば不動産所得の申告が必要であり、その申告内容や資料情報から申告漏れが見込まれれば、調査の対象になります。本業の会社員であることは、調査の対象外になる理由にはなりません。家賃収入の計上漏れや経費の問題が疑われれば、規模にかかわらず対象になり得ます。

Q2. 不動産所得が赤字でも、税務調査は来ますか?

来ることがあります。特に、不動産所得の赤字を給与所得などと損益通算して税負担を減らしている場合、その赤字の中身(経費が過大でないか、修繕費の区分は適切か)が確認されることがあります。なお、土地取得に係る借入金利子や、国外中古建物について簡便法で計算した減価償却費相当額など、損益通算に制限があるケースもあります。赤字だから調査が来ない、とは限りません。

Q3. 敷金は収入として申告する必要がありますか?

退去時に返還する部分は、預かっているだけなので収入にはなりません。一方、敷金・保証金のうち、契約により返還を要しないことが確定している部分(敷引きなど)は、その確定した時点で収入に計上する必要があります。返還する分と返還しない分の区別が重要です。

Q4. 海外の不動産を持っている場合は、どうなりますか?

国外にある不動産から生じる所得についても、日本の居住者であれば日本で申告が必要になる場合があります。特に、非永住者以外の居住者は、国内外を問わずすべての所得が日本の課税対象になります。一方、非永住者に該当する場合は課税範囲が異なるため、居住者区分の確認が必要です。また、その年12月31日時点で国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える場合には(非永住者を除く居住者が対象)、国外財産調書の提出義務が生じます。海外不動産だから日本で申告しなくてよい、ということにはなりません。

Q5. 相続した物件の家賃は、いつから誰の収入になりますか?

相続した賃貸物件の家賃は、相続開始後の分について相続人側の不動産所得になります。ただし、遺産分割が確定するまでの間は、その不動産から生じる所得は、原則として共同相続人に法定相続分などに応じて帰属します。その後に遺産分割が確定しても、未分割期間中の所得の帰属が当然にさかのぼって変わるわけではありません。相続した物件がある場合は、誰がどの期間の家賃を申告するのかを税理士に確認することをお勧めします。


8. まとめ——家賃収入の計上と修繕費の区分が要

不動産オーナーは、家賃収入がまとまった金額になりやすく、経費の判断が専門的で、資料情報でも把握されやすいため、税務調査で問題になりやすい論点が多い立場です。調査官が重点的に確認するのは、家賃収入の計上漏れ、修繕費か資本的支出かの区分、減価償却、そして経費の妥当性です。

中でも、修繕費か資本的支出かの区分は、経費にできる時期を大きく左右する、不動産所得特有の重要な論点です。判断は工事の実態によるため、工事内容を説明できる資料を残しておくことが欠かせません。あわせて、家賃収入を契約上の支払日基準でもれなく計上し、取得時や減価償却の根拠を保管しておくことが、最大の備えになります。

「修繕費の処理は大丈夫か」「家賃収入の計上に不安がある」という方は、調査の連絡が来る前の今の段階でご相談ください。


不動産オーナーの税務調査でお困りの方へ

以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。

  • 修繕費として処理した工事が、資本的支出と認定されないか不安だ
  • 家賃収入や礼金・更新料の計上に、心当たりがある
  • 土地・建物の按分や減価償却の計算に不安がある
  • 海外不動産や相続した物件の申告について相談したい
  • すでに税務調査の連絡が来ている

国税OB(元大阪国税局)の税理士が、家賃収入・経費の点検、修繕費区分や減価償却の整理、調査前の自主的な見直し、調査当日の立会いについて、当局側の視点も踏まえてサポートします。資料調査課で資産家の調査に携わった経験から、不動産特有の論点を踏まえた対応が可能です。

顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。

顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。

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引用・参考文献
・所得税法26条(不動産所得)、36条(収入金額)、37条(必要経費)、49条(減価償却)
・所得税基本通達(修繕費・資本的支出の区分、敷金等の収入計上時期 ほか)
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・国税庁「中古資産の耐用年数」「修繕費とならないものの判定」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)

著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応・立会い、無申告対応、重加算税、国際課税など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。