質問応答記録書とは?署名を求められたら|元国税調査官が拒否の可否と注意点を解説


著者:市田佳祐(税理士・国税OB)

「税務調査で『質問応答記録書』への署名を求められたが、サインしてよいのか分からない」
「署名は拒否できるのか。拒否したら不利になるのではと不安だ」
「すでに署名してしまったが、内容に納得できていない。どうすればいいのか」

税務調査の終盤、調査官から「質問応答記録書」という書面を示され、署名・押印を求められることがあります。聞き慣れない書類であるうえ、その場の流れでサインを促されるため、意味が分からないまま署名してしまう方も少なくありません。

最初に、最も重要なことをお伝えします。質問応答記録書は、後の課税判断——とりわけ重加算税の賦課判断——の証拠資料として、非常に重要な意味を持つ書面です。そして、署名は強制されるものではありません。内容を十分に確認しないまま署名すると、自分の認識と異なる事実が「動かしにくい記録」として残ってしまうことがあります。

私は、この書面の実務について、共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)を著しました。本記事では、その内容も踏まえ、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、質問応答記録書とは何か、なぜ調査官がこれを作るのか、署名を求められたときの正しい対応を解説します。

この記事でわかること

  • 質問応答記録書とは何か(どんな書面で、どう使われるのか)
  • なぜ調査官がこの書面を作成するのか(内側の視点)
  • 署名・押印は拒否できるのか、拒否すると不利になるのか
  • 署名の前にチェックすべきことと、正しい対応

1. 質問応答記録書とは——調査官が作る一問一答の記録

質問応答記録書とは、税務調査の過程で、調査官の質問と納税者の回答を一問一答の形式で書面化した記録です。調査官が、納税者から聴き取った内容のうち重要な事項について作成し、内容を読み上げるなどして確認したうえで、納税者に署名・押印を求めるのが一般的な流れです。

この書面は、税法上「必ず作成しなければならない」と定められた手続きそのものではありません。しかし、実際の調査では、後で事実関係が争点になりそうな事案、とりわけ重加算税が問題になり得る事案で作成されることが多く、作成されれば、その内容は課税処分の重要な証拠資料として扱われます。

典型的には、調査がある程度進み、申告漏れなどの事実関係が見えてきた段階で作成されます。調査官が「これから、これまでお伺いした内容を記録にまとめさせていただきます」と切り出し、改めて一問一答の形で質問し、その回答を文書化していきます。問答が終わると、調査官が記録を読み上げ、あるいは納税者自身が読んで内容を確認し、誤りがなければ署名・押印を求められる、という流れです。

つまり、「ただのメモ」ではありません。納税者がその場で語った内容が、署名によって公式な記録となり、後の課税判断や、不服申立て・訴訟の場面でも証拠として用いられ得る——それが質問応答記録書です。


2. なぜ調査官はこの書面を作るのか——内側の視点

質問応答記録書がどういう場面で作られるのかを知っておくと、署名を求められたときの意味が分かります。作成する側だった経験から説明します。

(1) 主な目的は、重加算税の事実認定の証拠

質問応答記録書が作成される最大の場面は、重加算税の賦課が視野に入ったときです。重加算税は、納税者が「隠蔽・仮装」によって税を免れていた場合に課される重い加算税です。この「隠蔽・仮装」があったと認定するには、その裏づけとなる事実——たとえば「売上を意図的に除外していた」「経費を架空に計上していた」といった事実——を、証拠で固める必要があります。

納税者本人の口から語られた説明は、その有力な証拠になります。質問応答記録書は、その説明を、後から「言った・言わない」で覆されないよう、書面の形で残しておくためのものなのです。

(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説)

(2) 「言った・言わない」を防ぐ

口頭のやり取りだけでは、後になって「そんなことは言っていない」と双方の認識が食い違うことがあります。質問応答記録書は、重要な供述を、その場で文字にして本人に確認させることで、こうした食い違いを防ぐ役割を持っています。

裏を返せば、納税者にとっては、署名した内容は「自分が確かにそう述べた」という強い証拠になるということです。だからこそ、署名の前に内容を慎重に確認する必要があります。

共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳しく整理しましたが、調査官はこの書面を作成する際、後の不服申立てや訴訟に耐えられるよう、いつ・誰が・何を・どのように行ったのかという「隠蔽・仮装の事実」を、納税者自身の言葉で具体的に引き出そうとします。つまり、質問応答記録書の作成が始まったということは、調査官が重加算税を視野に入れている可能性がある、というサインでもあるのです。この局面の重みを理解しておくことが、適切な対応の第一歩になります。


3. 署名・押印を求められたら——拒否できるのか

(1) 署名は強制されない

結論として、質問応答記録書への署名・押印は、強制されるものではありません。納税者が署名を拒否しても、それ自体で罰則が科されるようなものではありません。内容に納得できなければ、署名しないという選択もあり得ます。

(2) ただし、署名しなくても記録自体は残る

ここは誤解されやすい点です。署名を拒否しても、調査官は「納税者は署名を拒否した」という事実とともに、聴き取った内容を記録として残します。署名しなければ供述がなかったことになる、というわけではありません。

つまり、「署名さえしなければ大丈夫」という単純な話ではないのです。重要なのは、署名するかどうか以前に、調査の場でどのような説明をするかです。曖昧な記憶のまま推測で答えたり、その場の雰囲気に流されて不正確な説明をしたりしないことが、何よりの備えになります。

(関連記事:税務調査では何を聞かれる?|元国税調査官が質問の意図と答え方を解説)

(3) 署名する場合は、内容の確認と訂正を

署名する場合でも、記載内容をそのまま受け入れる必要はありません。読み上げられた内容や記載が、自分の認識・記憶と異なるのであれば、その場で訂正を求めることができます。納得できる内容に直されてから署名する、という対応が大切です。


4. 署名前にチェックすべきこと

署名を求められたとき、特に注意して確認すべきポイントを挙げます。

(1) 自分の認識と違う表現になっていないか

調査官がまとめた文章が、自分の話したニュアンスと微妙にずれていることがあります。「だいたい合っているから」と流さず、一文ずつ、自分の認識と一致しているかを確認してください。

(2) 隠蔽・仮装をうかがわせる文言が入っていないか

最も注意すべきは、「わざと」「意図的に」「知っていながら」といった、隠蔽・仮装をうかがわせる表現です。重加算税では、単なるミスや認識違いではなく、売上除外や架空経費の計上など、隠蔽・仮装と評価される事実があったかが問題になります。単なるミスだったことが、記録の文言次第で「意図的にやった」と読めてしまうと、重加算税の認定につながりかねません。事実が「うっかりミス」なのであれば、その通りに記録されているかを確認することが重要です。

(3) 推測で答えた箇所が、断定になっていないか

「たぶんそうだったと思います」と曖昧に答えたことが、記録では「〜でした」と断定的に書かれていることがあります。記憶が不確かなことは、不確かなまま記録されるべきです。断定的な表現になっていれば、訂正を求めてください。

(4) 一部だけでも訂正・削除を求められる

「全体としては概ね合っているが、この一文だけは違う」という場合、その一文の訂正や削除を求めることができます。書面全体を受け入れるか拒否するかの二択ではありません。気になる箇所があれば、遠慮せず、具体的に「ここはこう直してほしい」と伝えてください。調査官が応じない場合は、その部分について署名を保留する選択もあります。


5. 正しい対応——その場でサインを迫られても

調査の現場では、「これで終わりますので、ここに署名を」と、流れの中で署名を促されることがあります。しかし、署名は急ぐ必要のないものです。正しい対応を整理します。

  • その場で即座に署名しない:内容を十分に読み、確認する時間を取ってください。急かされても、慌てて署名する必要はありません。
  • 内容に疑問があれば、訂正を求めるか、署名を保留する:納得できない記載があるのに署名するのは避けるべきです。訂正に応じてもらえない、判断に迷うという場合は、その場での署名を保留して構いません。
  • 税理士に相談する:特に重加算税が問題になっている場合や、記載内容に「隠蔽・仮装」をうかがわせる表現がある場合は、署名の前に税務調査の経験が豊富な税理士に相談してください。立会いの税理士がいれば、その場で内容を一緒に確認できます。

質問応答記録書への対応は、重加算税の認定を大きく左右する局面です。一人で判断せず、専門家の関与を得ることが、結果を守ることにつながります。

(関連記事:税務調査に税理士の立会いは必要?|元国税調査官が頼むべきケースと費用の考え方を解説)


6. よくある質問

Q1. 署名を拒否すると、不利に扱われますか?

署名の拒否自体で、ただちに不利な処分がされるわけではありません。署名は強制ではなく、拒否したことで罰則が科されることもありません。ただし、署名を拒否しても、調査官は聴き取った内容と「署名を拒否した」事実を記録として残します。署名するかどうかよりも、調査の場で正確な説明をすること、そして記載内容を確認することの方が重要です。

Q2. 質問応答記録書の写し(控え)はもらえますか?

質問応答記録書は、行政側が作成・保管する文書であり、その場で写しが必ず交付される性質のものではありません。控えを受け取れるかどうかは状況によりますので、署名する場合は、少なくとも記載内容を自分でも書き留めておく、立会いの税理士に内容を記録しておいてもらうなどの対応をお勧めします。なお、後日、保有個人情報開示請求等により内容の確認を検討する余地もありますが、開示の可否や範囲は事案によります。

Q3. すでに署名してしまいましたが、後から訂正できますか?

いったん署名した記録の内容を後から覆すのは、容易ではありません。署名は「内容を確認し、その通りである」と認めたことを意味するためです。ただし、事実と異なる重要な点があるなら、できるだけ早く、税理士を通じて税務署にその旨を主張すべきです。修正申告や不服申立ての場面で、実際の事実を主張していくことになります。早い段階での専門家への相談が重要です。

Q4. やり取りは録音されているのですか?

質問応答記録書は、録音ではなく、調査官が聴き取った内容を文書にまとめるものです。納税者側で調査のやり取りを録音することについては、録音それ自体を一律に禁止する明文の規定があるわけではありませんが、実務上は調査官から録音の中止を求められたり、調査が中断したりすることがあります。録音に固執して帳簿書類の提示や調査への対応が進まなくなると、別の不利益やトラブルにつながり得ます。記録を残したい場合は、事前に録音の可否を確認し、あわせて書面でのメモも残すのが現実的です。

Q5. サインはしましたが、内容に納得できていません。どうすればよいですか?

まず、どの記載が事実と異なるのか、具体的に整理してください。そのうえで、税務調査の経験が豊富な税理士に相談し、今後の調査の進め方(修正申告に応じるか、更正処分を受けて争うか等)を含めて方針を立てることをお勧めします。署名済みであっても、最終的な課税内容が確定するまでには、まだ対応できる余地が残されている場合があります。

(関連記事:修正申告と更正処分の違いは?|どちらを選ぶべきか・デメリットを解説)


7. まとめ——署名の前に、内容を確認し、専門家に相談を

質問応答記録書は、税務調査の現場で作られる一問一答の記録であり、とりわけ重加算税の事実認定において、重要な証拠資料として扱われます。署名は強制されませんが、署名すれば「自分が確かにそう述べた」という強い証拠になり、署名しなくても聴き取った内容自体は記録として残ります。

だからこそ大切なのは、調査の場で正確な説明をすること、そして署名を求められたら、内容を一文ずつ確認し、自分の認識と違えば訂正を求めることです。特に「隠蔽・仮装」をうかがわせる文言や、推測が断定に変わっている箇所には注意が必要です。

署名を迫られて判断に迷ったら、その場で署名せず、立ち止まって構いません。重加算税が絡む局面では、署名の前に税務調査の経験が豊富な税理士に相談することが、結果を大きく左右します。


質問応答記録書・税務調査の対応でお困りの方へ

以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。

  • 税務調査で質問応答記録書への署名を求められ、対応に迷っている
  • 重加算税の話が出ており、署名してよいか判断できない
  • 記載内容に、自分の認識と違う部分がある
  • すでに署名したが、内容に納得できていない
  • 調査当日の立会いを依頼したい

国税OB(元大阪国税局)の税理士が、質問応答記録書への対応、署名前の内容確認、調査当日の立会い、重加算税への対応について、当局側の視点も踏まえてサポートします。質問応答記録書については、共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局)を執筆した立場から、実務に即した対応が可能です。

顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所での対応または提携する国税OB税理士のネットワークを活用し、状況に応じた適切な対応を提供します。

顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。

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引用・参考文献
・国税通則法65条(過少申告加算税)、68条(重加算税)、74条の2(質問検査権)
・国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)

著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応・立会い、質問応答記録書への対応、重加算税、無申告対応、国際課税など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。