飲食店に税務調査は来る?|元国税調査官が現金売上と原価率の見られ方を解説
著者:市田佳祐(税理士・国税OB)
「飲食店を経営しているが、自分のところにも税務調査は来るのか」
「現金でのやり取りが多いが、売上はどこまで把握されるのか」
「まかないや自家消費は、どう扱えばいいのか分からない」
飲食店は、税務調査で問題になりやすい論点が多い業種です。現金での売上が中心になりやすく、仕入や原価率から売上を分析しやすいうえ、まかないや自家消費など飲食店特有の論点が多いためです。
そして、飲食店の調査にはこの業種ならではの「見られ方」があります。中でも中心になるのが、現金売上の計上漏れと、仕入や原価率からの売上の検証です。ここに不自然さがあると、思わぬ追徴や、場合によっては重い加算税につながります。
この記事では、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、飲食店の税務調査で調査官が重点的に確認するポイント、現金売上がどう把握されるのか、そして正しい備えを解説します。
この記事でわかること
- 飲食店が税務調査で問題になりやすい理由
- 調査官が飲食店で重点的に確認するポイント(内側の視点)
- 現金売上がどう把握され、原価率がどう見られるのか
- まかない・自家消費・人件費の注意点と正しい備え
1. 飲食店は税務調査で問題になりやすい論点が多い
すべての納税者が均等に調査されるわけではありません。税務署は、限られた人員の中で、申告漏れの可能性が高いと見込まれる先に調査を集中させています。その中で、飲食店は構造的に論点が多く、注目されやすい業種です。理由は次のとおりです。
- 現金売上が中心になりやすい:記録が残りにくく、売上の計上漏れが起きやすいとされる
- 仕入や原価率から売上を分析しやすい:食材の仕入と売上の関係から、申告された売上の妥当性を検証しやすい
- まかない・自家消費がある:飲食店特有の処理が必要で、誤りが生じやすい
- 人件費の論点:アルバイトの出入りが多く、架空人件費などが疑われやすい
「小さな店だから来ない」とは限りません。むしろ、申告内容や仕入の状況から申告漏れが見込まれれば、規模にかかわらず対象になります。とりわけ、売上が伸びて消費税の課税事業者になる規模に近づくと、所得税だけでなく消費税の観点からも確認すべき項目が増えます。消費税は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合のほか、特定期間の課税売上高やインボイス登録の有無などによっても納税義務が問題になるため、売上規模の管理が重要です。調査がどう選ばれるかについては、次の記事で詳しく解説しています。
(関連記事:税務調査が来る確率は?どんな人に来るのか|元国税調査官が選ばれる基準を解説)
2. 調査官が飲食店で重点的に確認するポイント——内側の視点
飲食店の調査には、調査官が重点的に確認する定番のポイントがあります。調査の現場で見てきた経験から、重要な順に整理します。飲食店の調査の多くは、突き詰めれば「申告された売上は、本当にこの店の実態に合っているか」という一点に向かいます。
(1) 現金売上の計上漏れ
飲食店の調査で最も中心になる確認事項が、現金売上がもれなく計上されているかです。現金でのやり取りが多い飲食店では、レジを通さない売上や、一部の売上を除外していないかが、重点的に確認されます。詳しくは次章で説明します。
(2) 仕入・原価率からの売上検証
飲食店ならではの確認方法が、仕入や原価率からの売上の検証です。食材をどれだけ仕入れ、それがどれだけの売上になるはずかを分析し、申告された売上が不自然に少なくないかが見られます。これも次章で掘り下げます。
(3) まかない・自家消費・廃棄
従業員のまかないや、経営者自身が店の食材を消費する自家消費、廃棄した食材の扱いも確認されます。仕入れた食材が、売上・まかない・自家消費・廃棄のいずれかで説明できるか、という観点です。
(4) 人件費
アルバイトやパートへの給与が、実際に支払われた実在のものかが確認されます。働いていない人に支払ったことにする架空人件費や、水増しがないか、という観点です。
3. 現金売上はどう把握されるのか
(1) 「現金だから分からない」は通用しない
「現金売上は記録が残らないから、少なく申告しても分からないだろう」——これは、飲食店の経営者が陥りやすい誤解です。調査官は、現金売上を直接見られなくても、さまざまな周辺情報から、本来あるべき売上を推測します。
具体的には、レジのデータ(ジャーナル)、予約や注文の記録、仕入の量、水道光熱費の使用量、座席数と回転数、従業員のシフトなど、店の規模や営業実態を示す情報を突き合わせ、申告された売上と整合するかを検証します。申告売上が、これらの実態から見て不自然に少なければ、計上漏れが疑われます。
たとえば、おしぼりや割り箸の仕入数、ドリンクの仕入本数から客数を推測したり、予約サイトやキャッシュレス決済の記録から実際の来店状況を把握したりすることもあります。近年はキャッシュレス決済が普及し、その記録は明確に残るため、現金売上だけを抜くと、かえってキャッシュレス分との比率が不自然になって目立つ、ということも起こります。
(関連記事:税務調査で通帳はどこまで見られる?|元国税調査官が個人口座・家族口座の扱いを解説)
(2) 現金売上の意図的な除外は、重加算税のリスク
現金売上の計上漏れは、その態様によって扱いが変わります。単なる記帳漏れであれば過少申告の問題ですが、レジを通さない、売上の一部をことさら帳簿に載せないなど、意図的に除外していたと評価されれば、隠蔽・仮装として重加算税の対象になり得ます。飲食店で重い結果を招きやすいのが、まさにこの現金売上の意図的な除外です。
(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説)
4. 仕入・原価率から売上を見られる仕組み
(1) 原価率という「ものさし」
飲食店の調査で特徴的なのが、原価率を使った売上の検証です。原価率とは、売上に対する食材原価(売上原価)の割合のことです。たとえば、原価率が30%の店であれば、食材を30万円分使えば、おおむね100万円の売上があるはず、という見方ができます。
調査官は、仕入の記録から食材原価を把握し、その店の業態で一般的な原価率と照らし合わせて、申告された売上が妥当かを検証します。仕入の割に申告売上が少なく、計算上の原価率が不自然に高ければ(=売上が少なすぎれば)、売上の計上漏れが疑われることになります。
なお、帳簿が十分に整っておらず、実際の売上を実額で把握できないような場合には、こうした仕入や原価率などをもとに売上を推計して課税する方法(推計課税)が問題となる場面もあります。帳簿による実額計算が原則ですが、記録が不十分だと、かえって不利な推計につながりかねないということです。
(2) 説明できる材料を持っておく
もっとも、原価率は店ごとに事情が異なります。大盛りやサービスが多い、食材ロスが多い、価格を抑えているなど、原価率が高くなる正当な理由があることもあります。大切なのは、自分の店の原価率がなぜその水準なのかを、説明できる材料を持っておくことです。仕入の記録、メニューと価格、ロスや廃棄の状況などを整理しておけば、原価率について質問されても、根拠をもって説明できます。
5. まかない・自家消費・人件費の注意点
(1) 自家消費は売上に計上する
経営者自身や家族が、店の商品や食材を消費した場合(自家消費)は、原則として、その分を売上(収入)に計上する必要があります。仕入れた食材を経費にしている以上、自分で消費した分を何も計上しないと、その分だけ所得が圧縮されてしまうためです。いくらで計上するかには取扱いの定めがありますが、いずれにせよ、自家消費をまったく計上していないと、計上漏れとして指摘される可能性があります。自家消費の計上が漏れていないかは、確認されるポイントです。
(2) まかない・廃棄は説明できるように
従業員に提供するまかないや、廃棄した食材については、仕入れた食材の使い道として、合理的に説明できることが大切です。仕入量に対して売上が少ない場合、その差が「まかない・自家消費・廃棄」で合理的に説明できなければ、売上の計上漏れを疑われる材料になります。まかないの食材費や廃棄の状況を、ある程度記録しておくと安心です。
なお、従業員へのまかない(食事の支給)は、売上計上の問題というより、従業員に対する給与課税の問題が生じないか、という観点でも見られることがあります。本人が一定割合を負担しているかなど、一定の要件を満たさない食事の支給は、その差額が従業員への給与として扱われる場合があります。まかないの提供方法や従業員負担の有無も整理しておくと安心です。
(3) 人件費は実在性が問われる
アルバイトやパートへの給与については、その人が実際に働き、実際に支払われたものかが確認されます。タイムカードやシフト表、給与の支払記録などを整え、誰に・いつ・いくら支払ったかを説明できる状態にしておくことが大切です。実在しない人への架空の人件費は、隠蔽・仮装として重加算税の対象にもなり得る、重い問題です。
6. 正しい備え
飲食店が税務調査に備えるために、やっておくべきことを整理します。
- 現金売上の記録:レジを必ず通し、日々の売上を正確に記録する。レジのデータや日報を残す。
- 仕入・原価の管理:仕入の記録を残し、原価率を把握しておく。原価率の水準を説明できるようにする。
- まかない・自家消費・廃棄の記録:仕入れた食材の使い道を、ある程度説明できるよう記録する。自家消費は売上に計上する。
- 人件費の管理:シフト表・タイムカード・支払記録を整え、人件費の実在性を示せるようにする。
- 不安があれば専門家へ:現金売上や原価率の扱いに不安があれば、調査が来る前に税理士に相談する。
過去の申告に誤りの心当たりがある場合は、調査の連絡が来る前に自主的な修正申告を検討することで、加算税の負担を抑えられる可能性があります。
(関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説)
7. よくある質問
Q1. 小さな個人経営の飲食店でも、税務調査は来ますか?
来ることがあります。規模の大小ではなく、申告内容や仕入の状況から申告漏れが見込まれるかどうかで対象は選ばれます。小さな店であっても、現金売上の計上漏れや原価率の不自然さが疑われれば、調査の対象になり得ます。「小規模だから大丈夫」という油断は禁物です。
Q2. 現金売上は、本当に税務署に把握されるのですか?
現金売上そのものを直接見ることはできなくても、レジのデータ、仕入の量、水道光熱費、座席数や回転数など、営業の実態を示す情報から、本来あるべき売上は推測されます。これらと申告売上が大きくずれていれば、計上漏れが疑われます。「現金だから分からない」とは限りません。
Q3. まかないは、何か申告に影響しますか?
従業員へのまかないそのものを売上に計上する必要は通常ありませんが、仕入れた食材の使い道として、まかないに使った分を合理的に説明できることが大切です。また、従業員への食事支給は、本人負担の有無や金額によっては給与課税の問題が生じることがあります。一方、経営者自身や家族が消費した自家消費は、原則として売上に計上する必要があります。まかないと自家消費は扱いが異なる点に注意してください。
Q4. 原価率が高いと、必ず疑われますか?
原価率が高いこと自体が、ただちに問題になるわけではありません。大盛りやサービス、食材ロス、低価格設定など、原価率が高くなる正当な理由もあります。大切なのは、自分の店の原価率がなぜその水準なのかを説明できることです。根拠を持って説明できれば、過度に心配する必要はありません。
Q5. アルバイトの給与は、どこまで記録しておくべきですか?
誰に・いつ・いくら支払ったかを説明できるよう、シフト表やタイムカード、給与の支払記録を整えておくことが大切です。人件費は経費として大きくなりやすく、架空人件費が疑われやすい項目でもあります。実在性を示せる記録を残しておくことが、調査でのスムーズな説明につながります。
Q6. 家族に給与を払っている場合は、どう扱われますか?
個人事業主が、生計を一にする家族(配偶者や親族)に支払う給与は、原則として必要経費になりません。ただし、青色申告であれば青色事業専従者給与の届出・支給額の相当性・専従要件を、白色申告であれば事業専従者控除の要件を満たしている場合に、一定の取扱いが認められます。家族が店を手伝っている飲食店では、この要件を満たしているかが確認されるため、届出や勤務実態の記録を整えておくことが大切です。
8. まとめ——現金売上の記録と原価率の説明が要
飲食店は、現金売上が中心になりやすく、仕入や原価率から売上を検証されやすいため、税務調査で問題になりやすい論点が多い業種です。調査官が重点的に確認するのは、現金売上の計上漏れ、仕入・原価率からの売上の検証、まかない・自家消費・廃棄、そして人件費の実在性です。
中でも、現金売上をもれなく計上すること、原価率について説明できる材料を持っておくことが、飲食店の調査対応の核心です。現金売上の意図的な除外は、重い結果を招きかねません。だからこそ、レジを通して売上を正確に記録し、仕入や原価の状況を整理しておくことが、最大の備えになります。
「現金売上の申告に不安がある」「原価率について説明できるか心配だ」という方は、調査の連絡が来る前の今の段階でご相談ください。
飲食店の税務調査でお困りの方へ
以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。
- 現金売上の申告に、心当たりがある
- 原価率について、説明できるか不安だ
- まかない・自家消費・廃棄の処理が分からない
- 人件費の記録が整っていない
- すでに税務調査の連絡が来ている
国税OB(元大阪国税局)の税理士が、現金売上・原価率の点検、まかない・自家消費の整理、調査前の自主的な見直し、調査当日の立会いについて、当局側の視点も踏まえてサポートします。飲食店特有の論点を踏まえた対応が可能です。
顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
引用・参考文献
・所得税法36条(収入金額)、39条(家事消費等)、37条(必要経費)
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・国税庁「やさしい必要経費の知識」「家事消費等の総収入金額算入」
・国税庁「食事を支給したとき」「納税義務の免除」
・国税庁「個人事業者の自家消費の取扱い」「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応・立会い、無申告対応、重加算税、国際課税など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
