国税組織の全体像と税務調査の担当部署——資料調査課OBが解説
国税組織は、国税庁を頂点として国税局・税務署が連なるピラミッド構造をとっています。
しかし、この組織の実態——特にどの部署が何を目的として税務調査を行っているのか——は、一般の方にはほとんど知られていません。
大阪国税局・資料調査課に在籍した経験を持つ税理士として、納税者の方に知っておいてほしい国税組織の実像をお伝えします。
1. 国税組織の全体像
国税組織のトップは国税庁(東京・霞が関)であり、その下部組織として全国12局の国税局が設置されています。さらにその下に524の税務署があり、税務署が納税者との最前線の窓口となっています。
令和7(2025)年度の職員数は56,018人で、その内訳は以下のとおりです。
- 国税庁本庁:1,135人(2.0%)
- 税務大学校:329人(0.6%)
- 国税不服審判所:464人(0.8%)
- 各国税局・沖縄国税事務所:17,724人(31.6%)
- 税務署:36,366人(64.9%)
(出所:国税庁レポート2025)
職員の約65%が税務署に配置されており、税務署が国税行政の実働部隊であることがわかります。
2. 税務調査を行う部署はどこか
「税務調査」と一口に言っても、どの部署が担当するかによって調査の性格が全く異なります。この点を理解しておくことが、税務調査への対応において極めて重要です。
(1)税務署の調査部門
税務署には、法人課税部門・個人課税部門・資産課税部門という3つの調査部門があります。
一般的な税務調査の大半はここが担当します。法人税・所得税・相続税など、それぞれの税目を専門とする調査官が、担当する納税者のもとに調査に訪れます。
(2)国税局・資料調査課(通称「料調」)
国税局の課税部内に設置されている「資料調査課」は、税務署単独では対応が困難な案件——不正計算を常習的に行う納税者や大口の申告漏れが見込まれる案件——を担当する特殊部隊です。
私はこの資料調査課に在籍し、国際課税や富裕層に対する調査事務に従事していました。
資料調査課の調査は、税務署の一般調査とは一線を画します。複数の調査官が組織的に動き、財産状況の分析や資金の流れの解明など、緻密な事前調査を経た上で実地調査に臨みます。資料調査課からの調査通知が届いた場合、早急に専門家に相談することを強くお勧めします。
(3)国税局・調査部
資本金1億円以上の大規模法人を対象とする部署です。国際取引や企業再編など、高度な専門知識を要する案件を担当します。
(4)国税局・査察部(通称「マルサ」)
映画でも有名になった査察部は、悪質な脱税事案に対して刑事責任を追及するための強制調査を行います。裁判所の令状を取得した上で調査を実施するため、任意調査である資料調査課の調査とは法的性格が異なります。
3. 調査する部署でわかること
税務調査の連絡が来た際、まず確認すべきは「どの部署からの調査か」という点です。
税務署の一般調査であれば、通常の申告内容の確認が中心です。
国税局・資料調査課からの調査であれば、当局はすでに相当の事前情報を把握した上で臨場してきます。対応を誤ると重加算税の賦課につながる可能性があります。
国税局・査察部からの調査であれば、刑事事件として立件される可能性がある極めて深刻な事態です。
私が共著した「質問応答記録書のポイントと税理士の対応策」(税務研究会出版局、2025年)でも詳述していますが、調査の初動対応が最終的な結果に大きく影響します。担当部署を確認した上で、適切な対応方針を立てることが重要です。
4. 国税庁の使命と現場の実態
国税庁には「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」という使命があります。
しかし、現場の実態として、調査官は「増差税額(追加徴収した税額)」という評価指標に縛られています。調査によって追加の税を取れるかどうかが、調査官個人の評価に直結するのです。
この現実を理解した上で税務調査に臨むことが、納税者にとって極めて重要です。調査官は「納税者の権利を守る」ために来ているのではなく、「申告の誤りを見つける」ために来ています。調査官の視点で自社の帳簿を点検しておくことが、最大の事前対策となります。
5. 税務調査を受けないためにできること
残念ながら「税務調査を完全に回避する方法」は存在しません。しかし、調査対象として選定されるリスクを下げることは可能です。
正確な帳簿の整備が最も重要です。国税庁はAIを活用した調査対象の選定を強化しており、申告書の数字と各種情報源から得た情報を照合することで、申告漏れの可能性が高い納税者を絞り込んでいます。帳簿が整備されており、収支の実態が申告書に正確に反映されていれば、調査対象として選定されるリスクは大幅に下がります。
申告期限を守ることも重要です。無申告者は調査対象として優先的に選定されます。令和6事務年度の無申告事案の1件当たり追徴税額は524万円と高水準にあり(私が税務弘報2026年3月号(中央経済社)に執筆した論稿より)、申告しないことのリスクは非常に大きいと言えます。
6. まとめ
国税組織は、税務署・国税局・国税庁という階層構造の中で、それぞれの部署が異なる役割を担っています。
税務調査の連絡が来た際には、まずどの部署からの調査かを確認し、その上で適切な対応を取ることが重要です。特に国税局・資料調査課からの調査は、通常の税務署調査とは全く異なる次元の調査です。
税務調査に関するご不安やご相談は、お気軽にお問い合わせください。大阪国税局・資料調査課出身の税理士として、納税者の立場に寄り添った対応をいたします。
税務調査の担当部署に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 税務調査はどの部署が担当するのですか?
税務調査は、対象となる税目や納税者の規模によって担当部署が異なります。一般的な調査は、各税務署の個人課税部門・資産課税部門・法人課税部門などが担当し、それぞれ所得税、相続税・贈与税、法人税などの税目に応じて調査を行います。一方、内容によっては、国税局の資料調査課や調査部など、税務署ではなく国税局の部署が関与することもあります。
Q2. 「資料調査課(料調)」の調査は通常の税務署調査と何が違うのですか?
資料調査課は、所得税、法人税、相続税、消費税などについて、特に必要があると認められる調査を担当する国税局の部署です。通常の税務署調査よりも、事前に資料情報の収集・分析が進んでいる可能性があり、調査の規模や確認内容が重くなることもあります。そのため、資料調査課から連絡があった場合には、早い段階で税務調査対応に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。
Q3. 税務調査の連絡が来たら、まず何を確認すべきですか?
まず、どの部署からの調査なのかを確認することが重要です。税務署の個人課税部門・法人課税部門・資産課税部門からの調査なのか、国税局の資料調査課や調査部などからの調査なのかによって、調査の規模、想定される論点、準備すべき資料が変わってきます。そのうえで、顧問税理士に連絡し、対応方針を相談しましょう。
Q4. 税務調査の対象に選ばれないためにできることはありますか?
税務調査を完全に回避する方法はありません。ただし、正確な帳簿を整備し、取引の実態を申告書に正しく反映させることは、調査リスクを下げるうえで重要です。また、国税当局は申告書の内容や各種資料情報を分析して調査対象を選定しているため、申告期限を守ること、売上・経費・資産の内容を適切に記録することも大切です。無申告や申告漏れがある場合には、調査対象となる可能性が高まるため、早めに申告・修正の要否を確認しましょう。
市田税理士事務所 市田佳祐
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