国税組織の全体像と税務調査の担当部署|国税OB税理士が解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「税務署と国税局では、税務調査の意味が違うのか」
「資料調査課や特別国税調査官から連絡が来たが、通常の調査と何が違うのか」
「査察部、いわゆる『マルサ』と通常の税務調査はどう違うのか」
国税の組織は、国税庁、国税局、税務署という階層で構成されています。ただし、税務調査を担当する部署は一つではありません。個人課税部門、資産課税部門、法人課税部門、国税局の資料調査課・調査部門・査察部門など、対象となる税目や事案の性質によって担当が異なります。
私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、現在は税理士として税務調査対応に力を入れています。この記事では、令和8年の国税庁公表資料を基に、国税組織の全体像と、税務調査の連絡が来たときに「どの部署からの連絡なのか」を確認する意味を整理します。
結論:担当部署は調査の対象・規模を考える手掛かりになるが、それだけで不正を意味するものではない
一般的な個人事業主の所得税調査であれば、税務署の個人課税部門が担当することが多く、相続税・贈与税や不動産・株式の譲渡所得は資産課税部門、法人税等は法人課税部門が担当します。
一方、国税局の課税部には、税務署の課税部門を指導・監督するとともに、大口・悪質などの調査困難な納税者に対する調査を行う部署があります。また、国税局の調査部門は大規模法人等の調査を、査察部門は重要な犯則事件の調査を担当します。なお、これらの正式な組織名称は国税局によって異なります。
ただし、国税局や特別国税調査官から連絡が来たという事実だけで、不正や重加算税が決まるわけではありません。まず所属部署、対象税目、対象期間、調査日などを正確に確認し、調査の範囲と申告内容を整理することが重要です。
この記事でわかること
- 国税庁・国税局・税務署の役割の違い
- 税務署の個人・資産・法人課税部門が担当する税目
- 国税局の資料調査課・調査部門・査察部門の違い
- 特別国税調査官から連絡が来た場合の考え方
- 税務調査の連絡を受けたときに最初に確認する事項
第1章 国税組織は「国税庁・国税局・税務署」の三層が基本
国税庁は財務省の外局として設置され、その下に全国12の国税局(沖縄国税事務所を含みます)と524の税務署があります。国税庁レポート2026によると、令和8年度の国税庁全体の定員は56,035人です。
- 国税庁本庁:1,176人(2.1%)
- 国税局:20,289人(36.2%)
- 税務署:33,779人(60.3%)
- 税務大学校:328人(0.6%)
- 国税不服審判所:463人(0.8%)
国税庁本庁は税務行政を執行するための企画・立案や税法解釈の統一を行い、国税局・税務署を指導・監督します。国税局は管内税務署の指導・監督に加え、大規模・広域・困難事案の税務調査や滞納処分などを担当します。そして税務署は、納税者との窓口となり、第一線で申告・相談・調査・徴収を担います。
第2章 税務署で税務調査を担当する主な部門
税務署の組織構成は署の規模によって異なりますが、税務調査に関係する主な課税部門は次のとおりです。
(1)個人課税部門
所得税や個人事業者の消費税などについて、相談や調査を行います。個人事業主・フリーランスの税務調査では、この個人課税部門から連絡が来ることが多くあります。
(2)資産課税部門
相続税・贈与税のほか、土地・建物や株式などを譲渡した場合の所得税について相談・調査を行います。相続税調査や不動産・株式の譲渡所得に関する調査では、資産課税部門が担当することがあります。
(3)法人課税部門
法人税、地方法人税、法人の消費税、源泉所得税などについて相談・調査を行います。中小法人の一般的な法人税調査では、税務署の法人課税部門が担当します。
(4)特別国税調査官
特定の税務署には、特別国税調査官が置かれています。特別国税調査官は、総合調査担当、所得税等担当、開発調査担当、資産税担当、法人税等担当、源泉所得税担当に分かれ、大口納税者に対する調査、重要な資料源開発、財産評価などを行います。名称に「特別」と付いていても、査察部門が行う犯則調査とは異なり、その名称だけで強制調査を意味するものではありません。特別国税調査官から連絡が来た場合も、まず税目・対象期間・調査内容を確認して対応します。
第3章 国税局の課税部・資料調査課は何をする部署か
国税局の課税部は、税務署の課税部門を指導・監督するとともに、税務署だけでは対応が難しい事案について調査を行います。国税庁レポート2026では、国税局の課税部について「大口・悪質などの調査困難な納税者に対する調査など」を行うと説明されています。
(1)資料調査課とは
国税局の課税部には資料調査課が置かれており、所得税、法人税、相続税等について、特に必要があると認められる調査等を担当します。国税局によって課の構成や名称は異なり、大阪国税局では課税第一部・課税第二部に複数の資料調査課が設けられています。
私は大阪国税局の資料調査課で、国際課税や富裕層に対する調査事務に従事していました。資料調査課の調査では、事前に収集された資料情報、資産状況、取引関係などを踏まえて調査が行われることがありますが、資料調査課から連絡が来たこと自体をもって申告漏れや不正が確定しているわけではありません。
(2)税務署の調査との違いをどう考えるか
税務署の一般的な調査と比較すると、国税局が関与する事案では、取引の規模、広域性、国際取引、資産状況など、確認事項が複雑になることがあります。そのため、国税局や資料調査課から調査の連絡を受けた場合は、対象年分の申告書や関連資料を早めに確認し、論点を整理しておくことが重要です。
第4章 国税局の調査部門は大規模法人等を担当する
国税局の調査部門は、大規模法人などに対する税務調査を担当します。国税庁の事務年報では、法人税・法人の消費税について、原則として資本金1億円以上の大規模法人と外国法人を国税局側が所管し、それ以外の中小法人を税務署が所管する体制が示されています。
大規模法人では、国際取引、企業再編、移転価格、デジタル取引など論点が複雑になりやすいため、国税局の調査部門には国際調査等を担当する部署も設けられています。
なお、国税局の組織名称は地域によって異なります。東京国税局では調査第一部から第四部と査察部、大阪国税局では調査第一部・第二部と査察部、名古屋国税局では調査部と査察部が置かれています。その他の国税局では、原則として調査査察部が調査担当と査察担当の業務を担います。したがって、「国税局から来た」というだけではなく、課税部・資料調査課なのか、調査部門なのかを確認することで、その調査が主にどのような納税者や税目を対象としているのかを把握しやすくなります。
第5章 査察部門(マルサ)は通常の税務調査とは法的性格が異なる
国税局の査察部門は、重要な犯則事件について刑事責任の追及を視野に入れた調査を行います。国税査察官には任意の質問・検査等を行う権限があり、必要に応じて裁判官の許可状に基づく臨検・捜索・差押え等の強制調査を行うこともあります。
通常の税務調査では、税務職員が質問検査権に基づいて申告内容を確認します。一方、査察調査は犯則調査として刑事責任の追及を視野に入れるため、同じ「税務調査」という言葉でも性格が大きく異なります。
なお、査察関係の正式な組織名称も国税局によって異なります。東京・大阪・名古屋国税局では査察部が置かれていますが、その他の国税局では原則として調査査察部の査察担当がこれらの業務を担います。そのため、査察部門による犯則調査と、税務署や資料調査課による通常の課税調査を混同しないことが重要です。
第6章 どの部署から連絡が来たかで分かること・分からないこと
(1)分かること:所管税目や事案の規模の手掛かり
個人課税部門なら事業所得・不動産所得などの所得税や個人事業者の消費税、資産課税部門なら相続税・贈与税や所得税のうち譲渡所得・山林所得、法人課税部門なら法人税等というように、所属部署から対象税目を推測しやすくなります。また、国税局の資料調査課や調査部門であれば、税務署よりも規模・広域性・複雑性のある事案である可能性があります。
(2)分からないこと:申告漏れや重加算税の有無
一方、担当部署だけから「不正が見つかっている」「重加算税になる」と判断することはできません。重加算税は、隠蔽・仮装など法令上の要件を個別に確認して判断されます。所属部署はあくまで調査の性格を考える手掛かりの一つです。
(3)連絡が来たら所属・氏名を正確に確認する
税務調査の電話を受けたら、税務署・国税局名だけでなく、部署名、担当者名、対象税目、対象期間、調査予定日をメモしておきます。国税庁も、税務職員が調査を行う場合には質問検査章と身分証明書を携帯すると案内しています。また、税務署や国税局を名乗る不審な電話もあるため、不安がある場合は国税庁ホームページに掲載された税務署等の代表番号から確認するとよいでしょう。
税務調査の事前通知を受けた段階で何を確認すべきかは、税務調査の事前通知が来たらで詳しく整理しています。税務調査全体の流れを確認したい方は、税務調査が来たら何をすべきかもあわせてご覧ください。
第7章 国税庁の使命と税務調査の考え方
国税庁は、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことを使命として掲げています。国税庁レポート2026では、適正・公平な課税・徴収のため、納税者の権利・利益の保護を図りつつ、悪質な納税者には厳正に対応し、課税に当たっては的確な事実認定と法令の適用を行う方針が示されています。
税務調査を受ける側として重要なのは、調査官を必要以上に恐れたり、逆に軽視したりすることではありません。申告書の数字がどの帳簿・通帳・請求書・契約書に基づくものかを整理し、事実関係を正確に説明できる状態にしておくことが基本です。
国税局から直接税務調査の連絡を受けた場合の対応については、国税局から税務調査の連絡が来たらもあわせてご覧ください。
第8章 税務調査の連絡が来たら、部署名だけでなく通知内容全体を確認する
税務調査の初動では、「どの部署から来たか」だけでなく、どの税目・何年分が対象なのか、いつ・どこで調査を行うのか、どの資料を準備するよう求められているのかを確認します。
国税局や資料調査課からの連絡であっても、まず対象となる申告内容を確認し、売上、経費、資産、海外取引など、調査で確認されそうな事項を資料とともに整理します。顧問税理士がいない場合でも、調査通知後から税理士へ相談し、調査対応のみを依頼することは可能です。
よくある質問
Q1. 税務調査はどの部署が担当するのですか?
対象となる税目や納税者の規模によって異なります。個人の所得税のうち事業所得・不動産所得などや個人事業者の消費税は個人課税部門、相続税・贈与税と所得税のうち譲渡所得・山林所得は資産課税部門、中小法人の法人税等は法人課税部門が担当するのが一般的です。内容によっては国税局の資料調査課や調査部門が担当します。
Q2. 資料調査課から連絡が来たら、不正を疑われているということですか?
資料調査課からの連絡だけで不正が確定しているとはいえません。国税局の課税部は、大口・悪質などの調査困難な納税者への調査を行いますが、個別の調査理由や確認事項は事案ごとに異なります。まず対象税目・期間・通知内容を確認します。
Q3. 特別国税調査官は「マルサ」ですか?
同じではありません。税務署等の特別国税調査官は課税調査を担当する職員であり、国税査察官が行う犯則調査とは法的性格が異なります。査察調査は刑事責任の追及を目的とする犯則調査であり、任意の質問・検査等に加え、必要に応じて裁判官の許可状に基づく臨検・捜索・差押え等の強制調査が行われることがあります。
Q4. 国税局の調査部門はどのような法人を担当しますか?
法人税・法人の消費税について、原則として資本金1億円以上の大規模法人や外国法人を国税局の調査部門が所管します。中小法人は税務署が所管するのが基本です。正式な組織名称は国税局によって異なり、東京・大阪・名古屋では独立した調査部が置かれ、その他の国税局では原則として調査査察部の調査担当が担います。
Q5. 担当部署を聞けば重加算税になるか分かりますか?
分かりません。重加算税は、課税標準等の基礎となる事実について隠蔽・仮装があったかなど、個別の事実関係から判断されます。担当部署だけで結論は決まりません。
Q6. 税務調査の電話が来たとき、最初に何を聞けばよいですか?
税務署・国税局名、部署名、担当者名、対象税目、対象期間、調査予定日、調査場所、準備を求められた資料などを確認します。聞き取れなかった事項は、担当者に確認して構いません。
まとめ:税務調査では「どこから来たか」を確認し、調査の範囲を冷静に整理する
国税組織は、国税庁、国税局、税務署を中心に構成され、それぞれ役割が異なります。税務署では個人課税・資産課税・法人課税などの部門が税目ごとの調査を行い、国税局では課税部の資料調査課、大規模法人を担当する調査部門、犯則調査を行う査察部門などが置かれています。なお、調査部・査察部・調査査察部などの正式名称は国税局によって異なります。
税務調査の連絡が来た際は、担当部署を確認することで調査の対象や規模を考える手掛かりになります。ただし、部署名だけで申告漏れ、不正、重加算税の有無を判断することはできません。所属・対象税目・対象期間・調査日を確認した上で、対象年分の申告書と資料を整理して対応することが重要です。
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引用・参考文献
- 国税庁「国税庁レポート2026」
- 国税庁「国税庁レポート2026 Ⅰ 国税庁について」
- 国税庁「第74回事務年報」
- 税務大学校「税法入門(令和8年度版)」
- 国税庁「国税庁70年史 税務行政の組織等の変遷」
- 国税庁「採用情報 国税調査官・国税徴収官・国税査察官」
- 国税庁「不審なメールや電話にご注意ください」
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
