越境EC・輸出入ビジネスに税務調査は来る?|元国税調査官が論点を解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「海外のショッピングサイトで売った売上まで、日本の税務署に分かるのだろうか」
「輸出免税で申告しているが、書類がきちんと揃っているか不安だ」
「海外仕入れの領収書が外国語のままで、経費をどう説明すればよいのか分からない」
越境EC(国境をまたぐ通信販売)や輸出入ビジネスの方から、こうしたご相談が増えています。海外取引は資料が国内で完結しないため、調査で何を確認されるのかが見えにくく、不安も大きくなりがちです。この記事では、元大阪国税局で調査事務に従事した税理士が、越境EC・輸出入ビジネスの税務調査で問題になりやすい論点と対応を解説します。なお、本稿は主として個人事業者を前提に解説しています。法人については、法人税上の外貨換算や所得計算の取扱いが異なる部分があるため、個別に確認が必要です。
結論:海外取引の情報は国内外から照合される。輸出免税・還付は書類の保存が要
国外送金等調書やCRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)など、海外取引に関する資料情報の収集体制は年々充実しており、「海外の取引だから分からない」という考えは通用しにくくなっています。実際、令和6事務年度の海外投資等を行っている個人に対する調査では、1件当たりの追徴税額が866万円と、実地調査全体の2.9倍に達しています。
一方で、輸出免税や消費税の還付は、要件を満たす書類を保存していれば正当に受けられる制度です。恐れるべきは記録の不備です。証拠書類を整えることが最大の備えになります。
この記事でわかること
- 越境EC・輸出入ビジネスに関係する税務調査の統計と傾向
- 調査官が海外売上を把握する情報の入手経路(内側の視点)
- 売上・仕入・消費税(輸出免税・還付)で問題になりやすい論点
- 無申告だった場合の加算税と遡及期間
- 調査の連絡が来たときの初動対応
1. 越境EC・輸出入ビジネスと税務調査の現状
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表・全国計)には、「海外投資等を行っている個人に対する調査状況」という項目があります。同事務年度(令和6年7月から令和7年6月)の状況は次のとおりです。
- 実地調査(特別・一般)の件数:2,666件
- 1件当たりの申告漏れ所得金額:3,459万円(実地調査全体1,486万円の約2.3倍)
- 1件当たりの追徴税額:866万円(同299万円の2.9倍)
この統計では取引区分として「輸出入」が独立して集計されており、「事業に係る売上及び原価に係る取引で、海外の輸出(入)業者との契約による取引」と定義されています。輸出入区分の1件当たりの申告漏れ所得金額は3,209万円と、実地調査全体を大きく上回る水準です。
消費税の還付申告者に対しても、同事務年度に1,008件の実地調査が行われ、1件当たり140万円が追徴されています。これは輸出免税に限らず個人事業者の還付申告全体の統計ですが、輸出免税で還付申告を行う事業者にも無関係ではありません。
なお、これらの数値は調査対象として選定された事案の実績であり、業界全体の申告漏れ額や調査の確率を示すものではありません。もっとも、海外取引のある事案は1件当たりの追徴額が大きいことは読み取れます。個人に対する税務調査全般の傾向は「個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?」でも解説しています。
2. 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の内側視点)
調査官はどこを見ているのか。情報の入手経路から整理します。
(1)国外送金等調書とCRS情報
金融機関を通じて100万円を超える国外送金・国外からの受金があると、法律に基づき「国外送金等調書」が税務署に提出されます。また、CRS情報では、日本の居住者が参加国の金融機関に保有する報告対象口座の残高や利子等が、各国の税務当局から国税庁に提供されます。海外との入出金は、この段階で把握の手がかりになります。
同資料の調査事例には、国外送金等調書とCRS情報を端緒に国外不動産の賃料収入等を把握し、3年分で約2億6千百万円の申告漏れを指摘した事案があります。
(2)プラットフォーム・決済事業者等から得られる情報
国内の決済代行会社や取引先等が保有する売上・入出金記録は、必要に応じて反面調査(取引先等への照会)で確認されることがあります。海外に所在するプラットフォーム等の情報も、国内拠点への照会や租税条約等に基づく情報交換などを通じて把握される場合があります。国税庁には電子商取引を専門とする調査チームがあり、インターネット取引の資料情報を収集・分析しています。手元に売上データが残っていなくても、相手方側の記録から金額を把握することは可能です。
(3)通帳・輸入実績など周辺情報からの推測
「海外の取引だから分からない」は通用しません。国外送金等調書、輸入の実績、決済用口座の入出金、在庫の量といった周辺情報から売上規模は推測されます。私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、海外取引のある事案では、着手前にこれらの資料情報を突き合わせ、事業規模の見当をつけて臨むのが通常でした。申告内容と資料情報の差が大きいほど、深度ある調査につながりやすくなります。口座の見られ方は「税務調査と通帳」で解説しています。
3. 売上で問題になりやすい論点
(1)入金額ベースの計上(総額と手数料)
海外モールでは、販売手数料や配送関連費用が差し引かれた後の金額が入金されるのが通常です。入金額をそのまま売上に計上すると過少になります。自らが販売者となっている場合には、売上は総額で計上し、差し引かれた手数料は経費として処理するのが原則です(買取型や委託販売など、契約形態によって取扱いが異なる場合があります)。消費税の課税売上高の判定にも影響します。
(2)売上の計上時期
売上の計上時期は、入金日ではなく代金を受け取る権利が確定した時点が基準となり、契約や取引の内容によって異なります。年末をまたぐ注文・発送・入金のずれで計上年分が問題になりやすいため、いつ権利が確定するのかを整理しておきましょう。
(3)外貨建て取引の円換算
外貨建ての売上や仕入は、原則として取引日の対顧客直物電信売買相場の仲値(TTM)で円換算します(所得税基本通達57の3-2。継続適用を条件に別レートによる方法もあります)。換算レートの根拠を残しましょう。
4. 仕入・経費で問題になりやすい論点
(1)海外仕入の証憑
海外仕入の請求書や領収書が外国語であること自体は問題ではありません。ただし、領収書があるだけで経費になるわけではなく、用途や利用状況と併せて説明できる必要があります。日付・相手先・品目・金額が分かる形で保存してください。主要な取引には概要のメモを添えておくと確認が円滑です。
(2)関税・輸入消費税・国際送料の区分
輸入商品の仕入れに直接要した関税、引取運賃、国際送料等は、原則として商品の取得価額に含めます。一方、輸入時に税関へ納付する消費税・地方消費税(輸入消費税)は、輸入申告者が所定の帳簿・書類(輸入許可通知書等)を保存している場合、仕入税額控除の対象になります。まとめて経費処理すると所得と消費税の両方で誤りが生じやすいため、内訳を区分して管理してください。
(3)在庫の計上漏れと架空仕入
期末在庫には、手元の商品のほか、海外倉庫やフルフィルメントサービスに保管されている自社所有の商品も含まれます。期末時点で既に自社が取得している輸送中の商品も「未着品」として棚卸しが必要で、取得時期は契約条件や引渡条件に基づき確認します。計上漏れは所得の過少計上に直結します。また、仕入の水増しや架空計上は重加算税の対象になり得ます。重加算税は、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装し、それに基づいて申告した場合等に課されるもので、単なる計上漏れや見解の相違だけで直ちに適用されるものではありません。
5. 消費税の論点:輸出免税と還付申告
(1)輸出免税は書類の保存が要件
商品を輸出として販売する場合、消費税法第7条により消費税が免除されます(輸出免税)。ただし、この免税の適用には、輸出許可書などの輸出したことを証する書類を7年間保存することが要件とされています(郵便による輸出では、価額や発送方法に応じて必要書類が異なります)。書類の保存がない場合、免税が認められず、国内の課税売上として消費税を追徴される可能性があります。取引ごとに書類を保存し、売上データと対応づけましょう。
(2)還付申告には厳格な審査がある
輸出売上の割合が高い事業者は、仕入に係る消費税を控除しきれず還付になることがあります。還付申告に対しては添付書類や資料情報に基づく厳格な審査が行われ、内容に疑義がある場合には還付を保留したまま実地調査等が行われることがあります。帳簿・請求書・輸出書類・入出金の整合を申告前に確認しましょう。
(3)納税義務の判定とインボイス
消費税の納税義務は、基準期間(前々年)の課税売上高に加え、特定期間の課税売上高等も参照して判定します。また、インボイス登録の効力が生じている期間は、売上規模にかかわらず申告が必要です。免税事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に、課税期間の途中から登録を受ける経過措置を利用した場合は、原則として登録日以後の取引が申告対象となります。もともと課税事業者である場合は、課税期間全体について申告します。輸出免税売上も課税売上高に含めて判定する点は誤解が多く、注意が必要です。
6. 為替差損益の取扱い
外貨建ての売掛金・買掛金などを決済すると、取引時と決済時の換算額の差額として為替差損益が生じます。事業取引に直接伴うものは、原則として事業所得の計算に含めます。一方、個人的な資産運用として保有する外貨を円転した場合や、別の通貨・資産に交換した場合に生じる為替差益は、一般に雑所得となり、為替差損は雑所得の金額の計算上控除されます。なお、同一通貨のまま外貨預金を別口座へ移すなど、外貨の保有状態に実質的な変化がない場合には、通常、為替差損益は認識しません。区分や認識時期の判断に迷う場合は、円転や交換の記録(日付・レート・金額)を残し、個別に確認してください。
7. 無申告だった場合はどうなるか
海外売上を申告していなかった場合、期限後申告のタイミングで加算税の負担が変わります。実地調査に係る調査通知(対象税目・対象期間等の通知)を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、50万円以下の部分10%・50万円超300万円以下の部分15%・300万円超の部分25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は法定申告期限により区分が異なります)。なお、一定の繰返し無申告や、調査時に帳簿を提示しなかった場合などには、さらに加重されることがあります。
令和6事務年度の所得税無申告者に対する実地調査(特別・一般)では、1件当たりの追徴税額が524万円と過去最高になっています。公表された調査事例にも、無申告の転売事案で収入を反面調査により把握され、売上書類の破棄が隠蔽行為に該当するとして重加算税が賦課されたものがあります。調査で確認される期間については「税務調査は何年分さかのぼる?」をご覧ください。
8. 調査の連絡が来たときの対応
税務署からの接触には、実地調査の調査通知のほか「お尋ね」などの文書照会もあります。私自身、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)の論稿でも整理しましたが、その接触が実地調査なのか行政指導なのかを見極めて対応を検討することが出発点になります。文書照会への対応は「税務署から「お尋ね」が届いたら」をご覧ください。
資料の準備では、プラットフォームの売上データ、口座の入出金、輸出入の許可書類、仕入の証憑を取引の流れに沿って整理します。書類が一部残っていない場合でも、現存する客観的資料による再整理・復元は可能です。一方、存在しなかった証憑の作成・偽装は認められません。再作成した資料には作成時期と根拠資料を明確にします。
9. 税理士に相談する場合のポイント
越境EC・輸出入の調査対応は、所得税に加え、輸出免税・還付の消費税論点、外貨換算、海外資料の整理が絡み合います。調査の過程で作成される質問応答記録書は、後の課税処分や重加算税認定の判断に影響する重要書類です。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、署名を求められた場合は、記載内容が事実と一致しているかを十分に確認し、誤りや不正確な表現があれば訂正を求めたうえで、署名の可否を判断することが重要です。海外取引の調査に対応した経験のある税理士に早めに相談してください。輸出免税や還付申告は毎期続く手続きのため、調査を機に帳簿と書類保存の体制を整えることが、翌期以降の還付を守ることにもつながります。
まとめ:書類の保存と早めの相談が越境ECの税務リスクを抑える
越境EC・輸出入ビジネスは、国外送金等調書やCRS情報、反面調査など複数の経路から取引が把握され得る分野で、海外投資等の調査は1件当たり追徴税額866万円と高水準です。一方、輸出免税や還付は書類を整えていれば正当に受けられる制度で、売上の総額計上・在庫・輸出証明書類といった基本を押さえればリスクの多くは抑えられます。申告に不安がある方や調査の連絡を受けた方は、資料の整理と並行して早めに専門家へ相談してください。
よくある質問
Q1. 海外のショッピングサイトの売上は税務署に把握されますか?
国外送金等調書やCRS情報、国内の決済事業者等への反面調査、租税条約等に基づく情報交換など、複数の経路から把握される可能性があります。海外の取引だから分からないという考えは通用しにくくなっています。
Q2. 輸出免税の書類が不十分だとどうなりますか?
輸出免税の適用には輸出許可書などの輸出したことを証する書類の保存が要件とされています。保存がない場合、免税が認められず、課税売上として消費税を追徴される可能性があります。取引ごとに整理して保存してください。
Q3. 消費税の還付申告をすると調査されますか?
すべての還付申告が調査の対象になるわけではありませんが、還付申告には厳格な審査が行われており、内容に疑義がある場合は還付を保留して実地調査等が行われることがあります。根拠書類を整えておくことが重要です。
Q4. 海外仕入れの領収書が外国語でも経費として認められますか?
外国語の証憑であることのみを理由に否認されるものではありません。ただし、取引内容や金額、事業との関連性を説明できることが前提です。日付・相手先・内容が分かる形で保存し、概要のメモを添えておくと説明しやすくなります。
Q5. 無申告のまま税務調査の連絡が来た場合はどうすればよいですか?
調査を無視せず、取引履歴や入出金記録などの資料を整理して対応してください。調査通知後でも決定を予知する前の期限後申告であれば加算税が軽減される区分があります。早い段階で税理士に相談することをおすすめします。
Q6. 税務調査は何年分さかのぼりますか?
調査では当初3年分程度の資料を求められることがありますが、問題の内容によって対象期間が拡大されます。法律上、増額更正等ができる期間は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。無申告の場合も原則5年分が対象となります。
市田税理士事務所は、元国税調査官(大阪国税局 資料調査課 出身)の税理士が税務調査への対応をサポートする事務所です。顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
越境EC・輸出入ビジネスに限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
- 国税庁タックスアンサーNo.6551「輸出取引の免税」
- 国税庁タックスアンサーNo.6563「輸入取引」
- 消費税法第7条(輸出免税等)
- 所得税基本通達57の3-2(外貨建取引の円換算)
- 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
- 『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

