キッチンカーに税務調査は来る?|元国税調査官が現金売上の把握経路を解説
著者:市田佳祐(元大阪国税局 国税OB税理士)
「イベント出店の売上は現金が多く、どんぶり勘定だ」
「副業で週末だけ出している。申告が要るか分からない」
「開業からずっと無申告。どうすればいいのか」
キッチンカー・移動販売は、店舗を持たずに始められる業態として広がりました。「売上が外から見えにくい商売」と思われがちですが、記録は主催者・許可・仕入れ・決済データの形で外側に残り続けています。
この記事では、大阪国税局の資料調査課で調査事務に従事していた税理士が、キッチンカーの調査のポイント、売上が把握される経路、無申告の解消方法を解説します。
結論:現金中心でも売上は周辺情報から推測される。売上日報の整備と、過去分の自主的な是正が最善の備え
先に結論をお伝えします。キッチンカーの売上は現金が中心でも、仕入れの量、容器などの消耗品、出店先の記録、決済データといった周辺情報から推測・検証が可能です。売上の適正な計上は調査の中心的な確認事項の一つで、売上日報と月次照合を習慣にしていれば説明できる調査でもあります。過去の申告に不安がある方は、実地調査に係る調査通知の前に自主的に申告・是正することが、負担を最も小さくする選択です。
この記事でわかること
- 調査官がキッチンカーのどこを重点的に確認するか:仕入れ・消耗品・出店記録・現金の動き(★内側視点)
- 税務署が移動販売の売上を把握する経路と、大阪で報じられた参考事例
- 消費税(軽減税率・1,000万円の判定)の考え方と、無申告の解消手順
1. キッチンカー・移動販売の税務の基本と調査の現状
キッチンカーの収入は事業所得または雑所得です。区分は専業か副業かだけでなく、営利性・継続性・独立性・事業規模・記帳状況などを総合して判断されます。いずれの場合も、売上から経費を差し引いた所得を計算して申告するのが基本です。年末調整済みの給与を1か所から受けるなど一定の給与所得者は、給与・退職所得以外の所得が年間20万円を超えると、原則として所得税の確定申告が必要です。個人への調査全般は個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?の記事をご覧ください。
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)によれば、所得税の調査等は73万6千件で、内訳は実地調査4万7千件、文書・電話等による簡易な接触68万9千件でした。追徴税額は、調査対象となった全ての年分の合計で、加算税を含め過去最高の1,431億円です。特に所得税無申告者に対する実地調査(特別・一般)では、1件当たりの申告漏れ所得金額は2,992万円、追徴税額は524万円でした。国税庁は調査対象の選定にAIなどのデータ分析の活用を公表しており、事業規模が小さいことだけを理由に、調査等の対象にならないとはいえません。
2. 調査官はキッチンカーのどこを重点的に確認するか:元国税調査官の視点
私が資料調査課(国税局で大口事案・悪質事案を担当する部署。通称「料調」)で調査事務に従事していた経験から言えば、現金を含む売上が中心の飲食業態の調査は、周辺の数字から売上水準を推測して申告と突き合わせるのが基本でした。「現金だから分からない」という感覚は、次の3つの検証の前では通用しませんでした。
(1)仕入れと消耗品の量から販売数を推測する
飲食は、材料と売上の対応が計算しやすい商売です。食材・飲料の仕入れ量、容器・割り箸といった消耗品の仕入れ数は、提供した食数とおおむね対応します。仕入先には請求書や納品書が残るため、仕入れ量に対して申告売上が不自然に少なければ、計上漏れの見立てにつながります。メニュー単価が明確なキッチンカーは、理論上の売上水準を計算しやすい商売です。
(2)出店記録との整合
出店のたびに、記録は事業者の外側へ残ります。主催者や商業施設には出店者リスト・出店料の受領記録が残り、売上歩合方式なら売上報告そのものが残ります。出店告知のSNS投稿も公開情報です。「いつ・どこで・何日営業したか」が第三者の記録から再現でき、営業日数と申告売上の釣り合いは検証しやすいポイントです。
(3)現金の動きと生活水準
申告所得に対して、口座への入金や生活費の支出、車両・設備への投資が大きすぎないかも確認されます。売上が帳簿を通らず費消されれば、お金の流れに不整合が生じるからです。口座の確認のされ方は税務調査で通帳はどこまで見られる?の記事をご覧ください。
3. 税務署が移動販売の売上を把握する経路
売上や事業の存在が把握される主な経路を整理します。
第1に、出店先への確認です。質問検査権は取引先にも及ぶため、調査について必要があるときは、主催者や商業施設に出店料や売上報告の記録を確認できます(反面調査)。第2に、公的な記録です。車内で飲食物を調理・提供するには食品衛生法に基づく営業許可が必要で、許可申請等の行政記録は事業の存在を確認する資料になることがあります。もっとも、大阪では、令和7年6月1日以後に関西広域連合基準による飲食店営業許可を取得した車両等は原則として大阪府・和歌山県の全域で営業できるため、許可記録だけで個々の出店日や売上まで分かるわけではありません。第3に、キャッシュレス決済です。決済代行会社からの入金は口座に記録され、決済データは返金・取消しや手数料、入金時期の差を踏まえて売上を検証する資料になります。第4に、第三者からの情報提供など、税務署に日常的に集まる資料情報です。
当時の新聞各紙の報道によると、平成30年、大阪城公園内でたこ焼きなどを販売していた売店の経営者が、3年間で約3億3千万円の所得を申告せず所得税約1億3千万円を免れたとして大阪国税局から告発され、大阪地方裁判所で有罪判決を受けたとされています。キッチンカーそのものの事例ではありませんが、現金売上が中心の売店でも、売上規模や態様によっては把握され、刑事事件に発展し得ることを示しています。
4. 問題になりやすい論点:売上・自家消費・家事按分
調査で確認されやすい論点は、次の3つです。
(1)現金売上の計上漏れ
レジを使わず現金の受け渡しだけで営業していると、売上の記録がそもそも残りません。悪意がなくても、繁忙時間帯の売上が集計から漏れるなどして、実態より少ない売上になりがちです。日付・出店場所・天候・現金とキャッシュレス別の売上を記録した売上日報が、申告を守る最も有効な資料になります。
(2)家事消費・無償提供
収入が事業所得に該当する場合、売れ残りのまかないや家族への持ち帰りは所得税法第39条の家事消費、販売促進等と関係なく知人などに私的に無償提供した分は同法第40条の贈与等として、原則として総収入金額に算入します。所得税では、取得価額以上で、通常の販売価額のおおむね70%以上の金額を帳簿に記載して事業所得の総収入金額に算入していれば、その金額が認められます(所得税基本通達39-2)。雑所得に該当する場合は取扱いが異なる可能性があるため、所得区分を確認して処理してください。なお、棚卸資産を家事消費した場合の消費税では、仕入価額以上かつ通常の販売価額のおおむね50%以上という別の基準があります。廃棄分は収入計上の必要はありませんが、家事消費と廃棄を区別できる記録を残すことが大切です。
(3)車両・燃料・仕込場所の家事按分
車両を私用にも使っている場合、減価償却費・燃料代・駐車場代は事業使用分に按分します。自宅を仕込場所とする場合(食品衛生上、その場所での仕込みが認められていることが前提です)の水道光熱費も同様です。問われるのは按分割合の根拠です。出店日数や走行記録などを残してください。
5. 消費税の論点:軽減税率と1,000万円の判定
キッチンカーにおける飲食料品(酒類を除きます)の持ち帰り販売は、原則として軽減税率の8%です。ただし、テーブル・椅子などの飲食設備で顧客に飲食させる場合は、外食として標準税率の10%が適用されます。自ら設置した設備に限らず、主催者や施設管理者が設置した設備を合意や使用許可等に基づいて自店の顧客に利用させる場合も10%となることがあります(国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」)。一方、誰でも自由に利用でき、事業者の管理が及ばない公園のベンチ等で客が飲食する場合は、原則として8%です。
納税義務の有無は、基準期間である前々年の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかなど(特定期間の判定もあり得ます)で判定されます。また、インボイス登録をしている場合には、基準期間の課税売上高にかかわらず納税義務が免除されません。企業案件で発行を求められて登録した方は、売上規模を問わず申告が必要です。なお、「売上を少なく申告すれば1,000万円未満に見える」という発想は、売上の計上漏れに消費税の無申告が連動する、所得税と消費税の双方に影響する重大な誤りです。令和6事務年度には、消費税無申告者への実地調査で1件当たり296万円が追徴されています。
6. 無申告のまま放置するとどうなるか
税務署が更正・決定を行うことのできる期間は原則として法定申告期限から5年で、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合などには7年です(税務調査は何年分さかのぼる?)。無申告の期間が長いほど、負担は大きくなります。
一方、対応の順番で負担は大きく変わります。実地調査に係る調査通知(対象税目・対象期間等の通知)を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、50万円以下の部分10%・50万円超300万円以下の部分15%・300万円超の部分25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は法定申告期限により区分が異なります)。なお、一定の繰返し無申告や、調査時に帳簿を提示しなかった場合、帳簿の売上金額が著しく不足している場合などには、さらに加重されることがあります。また、実地調査の前に、文書で申告内容の確認を求められる段階もあります(税務署から「お尋ね」が届いたら)。どの段階でも、連絡前に自分から動くことが、金額面でも精神面でも負担の小さい選択です。
7. 調査の連絡が来たときの対応
調査の連絡が来たら、税目・年分・日時を確認し、売上日報・仕入れの請求書・出店料の記録・決済明細・通帳を年分ごとに揃えます。記録が不十分な場合、仕入れの記録や決済明細から過去の売上を誠実に復元すること自体は問題ありませんが、復元資料であること、作成日・計算方法・根拠資料を明示してください。当時作成した売上日報であるかのように装ったり、事実と異なる数字を作成したりすることは、仮装・隠蔽として重加算税の対象になり得ます。残っている記録を事実のまま整理し、足りない部分はそのまま説明する方が結果は良くなります。
なお、現金を含む売上が中心の業態では、事前通知のない調査もあり得ます(無予告調査とは何か)。また、調査での説明内容は、事案に応じて質問応答記録書が作成され、重加算税の判断等に用いられることがあります。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも整理しましたが、記録内容が事実と乖離していないかの確認は調査対応の基本です。説明に不安があれば、調査前に税理士と事実関係の整理をおすすめします。
8. 今からできる備え:売上日報と月次照合を習慣にする
第1に、売上日報を営業した日のうちに付けること(レジアプリなら記録と集計を自動化できます)。第2に、月次照合。月に一度、日報の合計と決済データの入金・手元現金・帳簿を突き合わせ、ずれをその月に解消すること。第3に、過去分の点検です。申告していない年分は、仕入れの記録・決済データ・出店履歴から売上を再集計できる場合があります。放置が短いほど記録は集めやすく、選択肢も残ります。
よくある質問
Q1. キッチンカーには税務調査が来やすいのですか?
A. 「来やすい業種」と決まっているわけではありませんが、現金を含む売上の記録が残りにくく、出店場所が固定しないという、計上漏れが構造的に起きやすい論点を持つ業態です。一方で、仕入れ・出店記録・決済データという検証可能な記録も多く、日報と月次照合ができていれば説明しやすい商売です。
Q2. 現金売上だけにすれば、税務署には分からないのですか?
A. そうとは言えません。仕入れや消耗品の量、主催者に残る出店記録、SNSの出店告知など、売上水準を推測できる周辺情報は事業者の外側に多く残り、営業許可等の行政記録も事業の存在を確認する資料になることがあります。取引先への確認(反面調査)も可能なため、「現金だから把握されない」という前提は成り立ちにくいのが実際です。
Q3. 会社員で、週末だけの出店です。それでも申告が必要ですか?
A. 年末調整済みの給与を1か所から受けるなど一定の給与所得者は、給与以外の所得(売上から経費を差し引いた金額)が年間20万円を超えると、原則として所得税の確定申告が必要です。所得税の確定申告をしない場合でも、住民税の申告は原則として必要です。
Q4. 売れ残りをまかないで食べた分はどう扱えばよいですか?
A. 自分や家族で消費した分は家事消費として、原則、総収入金額に算入する必要があります。収入が事業所得に該当する場合、所得税では、取得価額以上かつ通常の販売価額のおおむね70%以上の金額を帳簿に記載して計上していれば認められます(雑所得に該当する場合は取扱いが異なる可能性があります)。廃棄した分は収入計上の必要はないため、家事消費と廃棄を区別できる記録を残しておくことが大切です。
Q5. テイクアウト販売の消費税率は8%でよいですか?
A. 飲食料品の持ち帰り販売は原則として軽減税率の8%です。ただし、テーブル・椅子などの飲食設備で顧客に飲食させる場合は外食として10%が適用され、主催者や施設が設置した設備を合意等に基づいて自店の顧客に利用させる場合も10%となることがあります。イートインの形を取る場合は、税率を区分して管理してください。
Q6. 開業からずっと無申告です。今からできることはありますか?
A. あります。実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%に軽減されます(延滞税は別途生じます)。仕入れの記録・決済データ・出店履歴が残っていれば過去分の売上を再集計できる場合がありますので、放置せず早めの確認・対応が負担を最も小さくします。
まとめ:「移動する商売」こそ、記録が自分を守る味方になる
キッチンカー・移動販売は、売上が外から見えにくいようでいて、仕入れ・消耗品・出店記録・決済データという記録が残り続ける商売です。調査ではこれらと申告売上の整合が確認されます。日報と月次照合を習慣にしていれば、記録は申告の正しさを裏付けてくれる味方です。無申告の期間がある方は、調査通知前の自主的な是正という選択肢があるうちに動いてください。
日報の付け方や過去分の再集計に迷う場合は、現金を含む売上が中心の業種に慣れた税理士にご相談ください。
税務調査の連絡が来た方、申告に不安がある方へ
当事務所は、元大阪国税局の国税OBの税理士が対応します。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
キッチンカーに限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
- 所得税法第39条・第40条(たな卸資産等の自家消費・贈与等の場合の総収入金額算入)、所得税基本通達39-2、国税庁タックスアンサーNo.6317(個人事業者の自家消費の取扱い)
- 国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)」(飲食設備・移動販売関係)
- 国税通則法第65条(過少申告加算税)、第66条(無申告加算税)、第68条(重加算税)、第70条(更正・決定の期間制限)、第74条の9・第74条の10(事前通知・事前通知を要しない場合)
- 国税庁タックスアンサーNo.1900(給与所得者で確定申告が必要な人)、No.2024(確定申告を忘れたとき)
- 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

