KSK2で税務調査は増える?|国税の内部資料から見えた「次の一手」

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「KSK2が始まると、税務調査は増えるのでしょうか」
「AIが自動的に調査先を決めるようになるのでしょうか」
「国税の人手が浮けば、その分だけ調査に回るのでしょうか」

KSK2の導入を前に、このような疑問を持つ方は少なくありません。特に「AI」「データ活用」という言葉だけが独り歩きすると、令和8年9月24日から税務調査が一斉に増えるような印象を受けるかもしれません。

私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、税理士として税務調査対応にも力を入れています。この記事では、情報公開請求により開示された国税局長会議等の行政文書と国税庁の公表資料をもとに、KSK2導入後の税務調査を考えます。

なお、本記事でいう「内部資料」とは、行政機関情報公開法に基づく情報公開請求により開示された行政文書を指します。非公開資料やリーク資料という意味ではありません。

結論:実地調査が一律に増えるとは言えないが、「外部事務量」を増やす方向は明確

現時点で、KSK2導入によって実地調査の件数を何件増やすという国税庁の公表目標は確認できません。そのため、「KSK2で税務調査が増える」と件数ベースで断定するのは適切ではありません。

一方、開示資料には、内部事務のセンター化やKSK2導入による効率化を見据え、確保した事務量をデータ分析や外部事務に充てる方針や、確定申告期にも「外部事務量」の最大化を図る方針が示されています。

また、これとは別に、納税者のリスクに応じて行政指導、署内での確認、実地調査などの接触方法を使い分け、調査必要度の高い事案へ事務量を配分する方向も示されています。実地調査件数だけでなく、「外部事務量」の配分とリスクに応じた接触方法の使い分けを分けて見る必要があります。

この記事でわかること

  • KSK2導入で実地調査が増えると断定できない理由
  • 国税の開示資料にある「外部事務量の最大化」の意味
  • KSK2とAIによる調査選定の関係
  • 実地調査と簡易な接触の件数がどう動いているか
  • KSK2導入前に納税者が確認しておきたいこと

第1章 KSK2は「AIが税務調査をするシステム」ではない

(1)KSK2の公式な開発コンセプトは3つ

国税庁はKSK2を、デジタル活用による「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を実現するためのインフラと位置付けています。

公式に示されている開発コンセプトは、①紙からデータへの移行、②税目別データベース・アプリケーションの統合、③メインフレームからオープンシステムへの刷新です。KSK2そのものを「AI調査システム」と説明しているわけではありません。

KSK2の基本的な仕組みは、KSK2とは何かでも解説しています。今回の記事では、導入後に国税の事務量と調査運営がどこへ向かうのかに焦点を絞ります。

(2)AIによる選定はKSK2より前から進んでいる

国税庁は現在、AIについて「予測AI」と「生成AI」を分けて説明しています。予測AIは過去のデータ等から未知の事象を予測する仕組みであり、調査対象の選定支援はKSK2の稼働を待って始まるものではありません。

情報公開請求で入手した会議資料にも、個人課税の選定支援ツール、資産税の選定支援ツール、法人の選定支援システムを活用して調査選定を高度化・効率化する方針が記載されています。

したがって、整理としては「KSK2がAIで調査先を選ぶ」のではなく、KSK2によってデータを扱う基盤が刷新され、その上で既存のデータ分析や予測AIの活用余地が広がる、と考える方が正確です。AI選定については、AI税務調査の実態で詳しく整理しています。

国税庁自身も現在、過去データから未知の事象を予測する「予測AI」と、文章等を生成する「生成AI」を分けて説明しています。KSK2、予測AI、生成AIは同じものではありません。この3つを分けて考えると、導入後の変化を過大にも過小にも評価しにくくなります。

第2章 調査官が重点的に確認するポイント

KSK2の導入後も、税務調査で確認する内容そのものが別物になるわけではありません。変わるのは、申告書や資料情報をデータとして集約し、確認すべき不整合を見つけるまでの効率です。

(1)申告書同士の整合性

所得税、法人税、消費税など税目ごとに分かれていたデータベースやアプリケーションが統合される方向です。これにより、同じ納税者について複数税目を横断して確認するための土台が整います。

例えば、所得税では事業規模が拡大しているのに消費税の申告関係が整合しない場合や、法人と代表者個人の取引関係が申告内容から読み取りにくい場合など、従来から確認対象となる論点をデータ上で拾いやすくなると考えられます。

(2)過年度との変化

データ分析では、単年度の数字だけでなく、過年度との増減や継続的な傾向も重要です。売上、利益率、外注費、支払手数料などに大きな変化があれば、その理由を説明できる資料があるかが実務上のポイントになります。

(3)申告書と資料情報の不一致

法定調書など国税当局が保有する資料情報と申告内容が食い違えば、従来から確認のきっかけになります。KSK2の本質は、こうした確認を新しく生み出すことより、データ中心の事務処理によって照合の効率を高める点にあります。

私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、調査では一つの数字だけを見て結論を出すのではなく、複数の資料を突き合わせ、その数字になった理由を確認します。KSK2後も、この基本は変わらないと考えます。

第3章 最新統計では「実地調査は微減、簡易な接触は増加」

(1)令和6事務年度の所得税調査等

国税庁の「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」によると、所得税の実地調査と簡易な接触を合わせた「調査等」は73万6千件でした。前事務年度の60万5千件から増加しています。

内訳を見ると、実地調査は4万7千件で前事務年度の4万8千件から微減しています。一方、簡易な接触は68万9千件で、前事務年度の55万8千件から増加しました。

簡易な接触とは、原則として納税者宅等へ出向かず、文書、電話、来署依頼による面接などで申告内容を是正するものです。税務署から連絡が来たからといって、すべてが実地調査というわけではありません。

なお、この68万9千件には、更正の請求等に基づく減額更正や添付書類の未提出に対する提出依頼なども含まれます。したがって、簡易な接触の件数をそのまま「申告漏れを疑われた人数」と読むことも適切ではありません。

(2)この数字はKSK2導入前の実績

ここは重要です。令和6事務年度の数字はKSK2導入前の実績なので、件数の増減をKSK2の効果として説明することはできません。

ただし、実地調査を増やさなくても、簡易な接触を組み合わせることで多数の納税者へ対応するという現在の事務運営は確認できます。KSK2導入後を考える際も、「実地調査が増えるか」だけではなく、「どの接触方法に振り分けられるか」を見る必要があります。

税務署からの文書や電話が実地調査なのか、行政指導としての連絡なのかで対応は変わります。詳しくは税務署から「お尋ね」が届いた場合の対応をご覧ください。

第4章 開示資料に書かれた「外部事務量の最大化」

(1)内部事務の効率化で確保した事務量はどこへ行くのか

令和8年6月1日・2日の全国国税局長会議資料では、内部事務のセンター化について、効率化により確保した事務量を「データ分析や外部事務等」に充てる方針が示されています。

また、同じ会議の令和8年分確定申告の取組方針には、全署センター化やKSK2導入による効率化を見据え、確定申告期中も含めて「外部事務量」の最大化を図るという記載があります。

(2)「外部事務量」イコール「実地調査件数」ではない

ここを混同しないことが重要です。国税庁は、内部事務のセンター化に関する公表資料で「外部事務」を「調査・徴収事務」と説明しています。したがって、本記事でも「外部事務」はこの意味で扱います。

ただし、「外部事務量の最大化」が、そのまま実地調査件数の最大化を意味するわけではありません。開示資料は、KSK2導入後に実地調査を何件増やすという数値目標を示しておらず、調査・徴収事務のどの部分へ、どれだけ事務量を配分するかまでは確認できません。

また、別の会議資料では、行政指導、署内での確認、実地調査などの接触方法をリスクに応じて使い分ける方針が示されています。「外部事務量の最大化」と「接触方法の使い分け」は関連する事務運営の方向ですが、同じ意味として扱わず、分けて読む必要があります。

第5章 国税が目指しているのは「一律に増やす」より「振り分ける」運営

(1)リスクに応じて接触方法を変える

令和8年2月の全国国税局長会議資料では、納税者のリスクや非違類型に応じて、行政指導や署内での確認を含む適切な接触方法を選択し、調査を重点化する方針が示されています。

つまり、全員に同じ深度の実地調査を行うのではなく、リスクが相対的に低い事案には簡易な方法で対応し、調査必要度の高い事案へ人員と時間を振り向ける考え方です。

(2)「真に調査すべき者」への対応

同資料では、消費税の不正還付や国際・富裕層などを「真に調査(徴収)すべき者」として挙げています。これは特定の属性であれば直ちに調査対象になるという意味ではなく、限られた事務量を高リスク分野へ重点配分する方向を示したものです。

KSK2は、このリスク判定そのものを単独で行う装置ではありません。しかし、紙からデータへ移行し、税目別システムを統合する基盤が整えば、リスクに応じた振り分けを支えるデータ環境は強化されます。

逆にいえば、申告内容に目立った変化があるから直ちに実地調査になる、という単純な仕組みでもありません。データ分析は調査必要度を考える材料の一つであり、職員による検討や既存の資料情報などと組み合わせて接触方法が判断されると見るべきです。

第6章 KSK2だけではない:GSS端末とセンター化も同時に進む

(1)職員が使う端末も変わる

開示資料では、KSK2と並行してGSS端末の配備が進められています。GSSは各府省庁で共通化を進める事務用端末の環境で、モバイル端末を利用した業務やオンラインツールの活用を支えるものです。

別の開示資料では、先行導入局でTeamsやWebexによる会議・説明、OutlookやPrimeDriveによる連絡・ファイル共有などのBPR施策が試行されたことも示されています。

(2)KSK2は組織運営の変更とセットで見る

KSK2だけを見ていると、「古いコンピュータが新しくなる」という話に見えます。しかし、内部事務のセンター化、職員端末の更新、オンラインツールの利用、データ分析の実装が同時に進んでいます。

その結果として考えられるのは、申告書を処理するための内部事務を集約し、署の職員がデータ分析や納税者との接触に時間を使いやすくなることです。税務調査への影響は、システム単体より、この組み合わせで見る必要があります。

また、オンラインツールの利用が広がれば、調査担当者が庁舎へ戻らなければ確認できなかった事項について、組織内で相談・共有するまでの時間が短くなる可能性もあります。ただし、これは開示資料から読み取れる業務環境の変化を踏まえた見立てであり、個々の調査で同じ運用になると断定するものではありません。

第7章 令和8年9月24日に税務調査が一変するわけではない

(1)9月24日は大きな切替日

国税庁は令和8年9月24日に国税システムの更改を予定しています。e-TaxでもKSK2対応版の仕様が順次公表され、同日に受付を開始する帳票が案内されています。

一方、情報公開請求で入手した資料では、KSK2の全体切替後も、利用時期や業務影響を踏まえて一部機能を令和8年10月以降に段階的にリリースする検討が示されています。

(2)データ蓄積と職員の習熟には時間がかかる

システムを切り替えた日に、過去から将来までのデータ活用効果が同時に完成するわけではありません。職員の研修、運用の定着、データの蓄積が進むにつれて、KSK2の効果も段階的に現れると考えるのが自然です。

したがって、令和8年9月24日を境に税務調査の件数が急増するという読み方より、一部機能の段階リリースや運用の定着に伴って、選定・照合などへの効果も段階的に現れる可能性を見る方が、開示資料の内容に沿っています。

令和8年9月24日前後はシステム移行そのものの影響もあります。国税庁はe-Taxについて、9月19日0時から9月24日8時30分までなどの利用停止時間を公表しています。導入直後の一時的な運用と、中長期的な調査運営の変化は分けて考える必要があります。

第8章 納税者が備えるべきことは「AI対策」ではなく説明できる申告

(1)申告書と外部資料を先に照合する

KSK2時代の対策として、特殊なAI対策を考える必要はありません。まず確認したいのは、申告書の数字と、法定調書、取引資料、過年度申告などとの間に説明できない不一致がないかです。

(2)大きな変動には理由を残す

売上や利益率、特定の経費が前年から大きく変わっていても、それ自体が誤りとは限りません。事業環境の変化、大口取引、設備投資など合理的な理由があるなら、後から説明できるよう根拠資料を整理しておくことが重要です。

個人と法人の間で貸付金、地代家賃、業務委託料などの取引がある場合も同様です。金額の根拠、契約内容、実際の支払状況を一つの取引として説明できるようにしておけば、複数の申告書を横断して確認された場合でも事実関係を整理しやすくなります。

(3)税務調査の事前通知を受けたら初動で整理する

税務調査の事前通知を受けた場合は、対象税目や対象期間を確認したうえで、申告書、帳簿、通帳、請求書等を時系列で整理します。データ照合が進むほど、その場しのぎの説明より、資料と整合する説明が重要になります。

事前通知後の具体的な準備については、税務調査の事前通知が来た場合の初動対応も参考にしてください。

第9章 KSK2でも変わらないこと

(1)税務調査の法的な枠組みは別の問題

KSK2は国税当局の情報処理基盤です。KSK2が導入されること自体によって、質問検査権や事前通知など税務調査手続の法的な枠組みが変更されるわけではありません。

また、データ分析で調査必要度が高いと判定されたとしても、それだけで申告漏れが確定するわけではありません。実際の課税判断には、帳簿や原始資料、取引実態、納税者からの説明などの事実確認が必要です。

(2)「データで選ぶ」と「税務判断をする」は分けて考える

今回の開示資料を読む際に重要なのは、選定の効率化と課税判断を混同しないことです。データは調査の入口や確認項目を絞るために有効ですが、個別の取引が税法上どう扱われるかは、事実関係と法令に基づいて判断されます。

その意味では、KSK2導入後も納税者側の基本対応は変わりません。正確に申告し、その数字の根拠を資料で説明できる状態を作ることが、実務上の中心になります。

よくある質問

Q1. KSK2はいつ導入されますか?

国税庁は令和8年9月24日に国税システムの更改を予定しています。ただし、情報公開請求で開示された資料では、一部機能を令和8年10月以降に段階的にリリースする検討も示されています。

Q2. KSK2が導入されると実地調査は増えますか?

現時点で、KSK2導入を理由に実地調査を何件増やすという公表目標は確認できません。一方、内部事務の効率化で確保した事務量をデータ分析や外部事務に充てる方針は開示資料に示されています。

Q3. KSK2がAIで調査先を自動的に決めるのですか?

KSK2の公式な開発コンセプトは、紙からデータへの移行、税目別システムの統合、メインフレームからの脱却です。AIによる調査選定の支援はKSK2とは別に既に進められています。

Q4. 「外部事務量の最大化」とは実地調査を増やす意味ですか?

実地調査件数の増加と同義ではありません。国税庁は「外部事務」を「調査・徴収事務」と説明していますが、開示資料は、その事務量を実地調査、徴収その他のどこへどれだけ配分するかまでは示していません。

Q5. KSK2で税務署にすべての情報が分かるようになりますか?

KSK2はデータ中心の事務処理と税目別システムの統合を進める基盤ですが、納税者に関するあらゆる情報を自動的に把握する仕組みと説明するのは正確ではありません。国税当局が保有・収集した情報をより効率的に活用する基盤と考えるのが適切です。

Q6. 税務調査の連絡が来たら、KSK2を意識して何をすればよいですか?

KSK2向けの特殊な対応ではなく、対象年分の申告書、帳簿、通帳、請求書等を整理し、数字の根拠と大きな変動の理由を説明できる状態にすることが重要です。回答に迷う事項は資料を確認してから説明します。

まとめ:KSK2で見るべきは「調査件数」より「事務量の振り分け」

KSK2導入後に実地調査が何件増えるかは、現時点の公表資料からは分かりません。むしろ最新の所得税調査等の事績では、実地調査が微減する一方で簡易な接触が増えており、すでに接触方法を使い分ける運営が進んでいます。

今回の開示資料で注目したいのは、内部事務の効率化で確保した事務量をデータ分析や調査・徴収事務へ振り向ける方向と、リスクに応じて「真に調査すべき者」へ重点的に対応する方向が示されていることです。KSK2は、その運営を支える統合データ基盤と位置付けるのが適切です。

納税者側の備えは、AIを意識した特殊な対策ではありません。申告書と資料の整合を確認し、数字の変化を説明できる記録を残すことです。税務調査の事前通知を受けた場合は、対象期間の資料を整理したうえで初動対応を検討します。

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引用・参考文献

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。