適格合併の要件とは?|100%・50%超・共同事業の違いを元国税調査官が解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「100%子会社を吸収合併すれば、法人税は繰り延べられるのか」
「50%超の株式を持っていれば、どのような合併でも適格になるのか」
「他社と事業を統合する場合、適格合併の要件は何か」
グループ会社の整理や事業承継、M&Aで合併を検討するとき、法人税の適格判定は重要な論点です。同じ合併でも、合併対価や資本関係、従業者・事業の継続見込みによって課税関係が変わります。
私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、税理士として税務調査対応や法人税務に関する相談に携わっています。本記事では、令和8年11月7日時点の法令を前提に、適格合併の判定を具体例とともに整理します。
結論:適格合併は3類型と合併対価の両面から判定する
適格合併とは、法人税法の要件を満たす合併です。原則として、被合併法人の資産・負債を税務上の帳簿価額で引き継ぐため、その移転に伴う譲渡損益の認識が繰り延べられます。税負担が永久になくなるという意味ではありません。
最初に確認するのは、①完全支配関係、②支配関係、③共同事業のいずれに該当するかです。次に、合併対価として株式以外の資産が交付されるかを確認します。関係類型ごとに、継続して満たすべき要件が異なります。
この記事でわかること
- 100%、50%超、共同事業の適格要件の違い
- 金銭等不交付要件と3分の2以上保有の例外
- 従業者80%、事業規模5倍、特定役員の判定
- 無対価合併と合併前の株式調整の注意点
- 適格判定と繰越欠損金の引継判定の区別
第1章 適格合併の3つの類型
(1)資本関係によって確認する順序が変わる
法人税法第2条第12号の8は、適格合併を、完全支配関係に基づくもの、支配関係に基づくもの、共同事業を行うためのものに分けています。複数の類型の要件を混ぜると、必要のない判定を追加したり、必要な要件を見落としたりします。
| 類型 | 主な関係 | 主な追加要件 |
|---|---|---|
| 完全支配関係 | 100%の支配関係 | 親子・兄弟会社等の関係に応じた政令上の要件。従業者80%等は通常不要 |
| 支配関係 | 50%超の支配関係 | 所定の支配関係と継続見込み、従業者・事業の継続 |
| 共同事業 | 前二者に該当しない合併 | 事業関連性、事業規模又は特定役員、従業者・事業・株式の継続等 |
判定は、合併前の資本関係、合併直前の株式保有状況、合併の対価、合併後の支配・事業計画の順に整理すると分かりやすくなります。適格性を検討する際の資本関係図は、合併直前と合併直後の少なくとも2時点で作成するのが実務的です。
なお、100%の完全支配関係がある場合でも、親子会社の合併と兄弟会社の合併では、法令上の判定構造が異なります。
例えば、親会社が100%子会社を吸収合併する場合、子会社は合併によって消滅するため、親子会社間の完全支配関係そのものが合併後も継続することを求める構造ではありません。
一方、共通の親会社が完全支配する兄弟会社同士の合併では、合併後もその親会社と合併法人との完全支配関係が継続する見込みなどを確認します。
(2)判定するのは議決権割合だけではない
法人税法の「支配関係」「完全支配関係」は、発行済株式等の保有状況と政令上の間接保有・特殊関係者等の規定で判定します。一般にいう経営権や議決権の過半数と同じではありません。名義、保有主体、自己株式等を含めて確認が必要です。
第2章 合併対価に関する共通要件
(1)原則は株式以外の資産を交付しないこと
適格合併では、被合併法人の株主等に、合併法人又は一定の合併親法人のいずれか一社の株式・出資以外の資産を交付しないことが原則です。現金や不動産等の交付は、まず適格性を検討すべき要因となります。
ただし、株主に金銭が渡っただけで直ちに非適格と判断するのも正確ではありません。法人税法は、剰余金の配当等、反対株主の買取請求に基づく対価などを、この判定から除く仕組みを定めています。
株式対価には、合併法人自身の株式のほか、一定の関係を満たす合併親法人の株式が含まれます。ただし、複数社の株式を組み合わせれば自由に適格になるわけではありません。交付主体と交付する株式の種類を合併契約案で確認します。
(2)合併法人が3分の2以上を保有する場合の例外
合併直前に合併法人自身が被合併法人の発行済株式等の3分の2以上を保有する場合、合併法人以外の株主等に交付される金銭その他の資産は、金銭等不交付要件の判定上、除外されます。保有者が「合併法人」である点が重要です。
例えば合併法人Aが被合併法人Bの株式を70%保有し、残る30%の株主に金銭を交付する場合、金銭交付だけを理由に適格性が否定されるとは限りません。ただし、支配関係類型の従業者・事業継続等は別に判定します。
合併法人以外の親会社や個人株主が被合併法人の株式等を3分の2以上保有しているだけでは、この例外の要件を満たしません。保有主体は、あくまで合併法人自身であることが必要です。
基準は「合併の直前」であり、株式数又は出資金額等を資料により確定する必要があります。
この例外は、金銭等不交付要件の対象から所定の金銭等を除く規定です。合併全体の適格判定を免除する規定ではなく、従業者・事業継続など当該類型に適用される別の要件は引き続き確認します。
実務上は、株主ごとに「交付する株式」「交付する現金等」「配当や買取請求に由来する金額」を分けた一覧表を作成すると判定しやすくなります。株式の交付を予定していないケースでも、会社法上の無対価合併と法人税法上の要件を同一視しないことが重要です。
なお、合併自体の税制適格性と、金銭を受け取る少数株主の課税関係は別問題です。
合併法人が被合併法人の株式等を合併直前に3分の2以上保有し、少数株主に金銭を交付する場合でも、ほかの要件を満たせば適格合併に該当することがあります。
この場合、所得税法第25条第1項第1号は適格合併をみなし配当の対象から除外しているため、適格合併そのものを理由とする同号のみなし配当は生じません。
一方、金銭を受け取る個人株主については、株式等に係る譲渡所得等の課税関係を別途検討する必要があります。
具体的な取扱いは、交付される対価の内容や株式の取得価額等によって異なります。法人段階で合併が適格とされても、株主段階で金銭対価に係る譲渡所得等の課税が繰り延べられるとは限りません。
これに対し、非適格合併の場合には、所得税法第25条に基づくみなし配当と、株式等の譲渡所得等を区分して検討することがあります。
したがって、合併法人側の適格判定と株主側の所得税・法人税の取扱いは、別々に整理する必要があります。
第3章 100%完全支配関係の適格合併
(1)親子会社の合併
親会社Aが子会社Bを100%保有し、AがBを吸収合併する例では、所定の完全支配関係に該当し、株主に株式以外の対価を交付しないなどの条件を満たせば、適格合併となることが考えられます。
この類型では、50%超の支配関係類型と異なり、従業者のおおむね80%引継ぎや主要事業の継続を一律の適格要件として求める構造ではありません。もっとも、逆さ合併や無対価合併では関係の定義を個別に確認します。
親子会社でも、AがBの全株式を直接保有する場合と、複数の会社を経由して間接保有する場合とでは、政令上の関係の確認方法が異なります。「グループ全体で100%」という社内資料の表示だけでは足りず、各社間の持株関係をたどって判定します。
特に、合併法人Aが被合併法人Bの全株式を直接保有する場合には、法人税法施行令第4条の3第2項第1号の関係が問題になります。
この場合、合併によってB社が消滅するため、A社とB社の完全支配関係が合併後も継続することを要件として求めるものではありません。
(2)同一の者が100%保有する兄弟会社
同じ親会社CがA社とB社を100%保有し、A社がB社を吸収合併する場合も、所定の完全支配関係が適格判定の出発点です。この場合には、合併後にCと合併法人Aとの完全支配関係が継続する見込みなどを確認します。
合併前に100%だったという一点だけで判定を終えず、再編後の株式異動や売却予定まで確認します。合併直後のグループ外への株式移転を予定している場合には、当初の判定に影響する可能性があります。
兄弟会社同士の合併では、法人税法施行令第4条の3第2項第2号に基づき、合併前の同一の者による完全支配関係と、合併後の支配関係の継続見込みなどを確認します。
このように、同じ100%の完全支配関係類型でも、親子合併と兄弟会社合併とでは、確認すべき事項が異なります。
第4章 50%超の支配関係における適格合併
(1)支配関係に加えて人と事業の継続を確認
支配関係類型では、完全支配関係ではない所定の50%超の支配関係が前提です。
ただし、合併前に50%超の支配関係があるという事実だけで、適格合併の判定が完了するわけではありません。
法人税法第2条第12号の8ロ及び法人税法施行令第4条の3第3項に基づき、合併当事法人間の支配関係の態様を確認する必要があります。
例えば、親子会社の合併と、同一の者に支配される兄弟会社同士の合併では、政令上の判定構造が異なります。
共通の支配者が存在する会社同士の合併では、合併後もその支配者と合併法人との支配関係が継続する見込みなどが問題となります。一方、親子会社の合併について、消滅する被合併法人との支配関係が合併後も継続するという判定を行うものではありません。
そのうえで、被合併法人の従業者のおおむね80%以上が合併後の合併法人等の業務に従事する見込みと、被合併法人の主要な事業が引き続き行われる見込みを確認します。
例えばB社の従業者が合併直前に15人で、うち12人が合併後に対象となる業務に従事する見込みなら、人数割合は80%です。ただし、誰を従業者に含めるか、合併後の従事先が法令上の対象かという確認は別に必要です。
この類型では、共同事業類型で用いる「事業規模おおむね5倍以内又は特定役員引継ぎ」という要件を、そのまま追加するものではありません。80%という人数基準と事業継続見込みは別々に確認する必要があります。
(2)「おおむね80%」の意味と事業継続
従業者引継要件は、単純に雇用契約書の名義だけで判断するものではありません。出向者等の取扱いにも注意が必要です。
国税庁は、雇用契約の終了と再雇用を伴う事例についても、個別の事実関係に即した文書回答を公表しています。
例えば、名古屋国税局の平成30年11月15日付文書回答では、合併に際して被合併法人の従業者との雇用契約を終了し、合併後に合併法人で新たに雇用する場合の従業者引継要件が検討されています。
当該文書回答は、照会に係る具体的な事実関係を前提として照会者の見解を認めたものであり、雇用契約を終了して再雇用すれば、すべての合併で従業者引継要件を満たすという意味ではありません。
事業継続では、被合併法人が複数の事業を営んでいた場合、どの事業が「主要な事業」に当たるかを、売上・損益・従業者・固定資産等から総合的に確認します。部門の統廃合が予定される場合は慎重な整理が必要です。
第5章 共同事業を行うための適格合併
(1)無関係の会社同士でも適格の余地がある
事前に資本関係のない会社同士の合併でも、共同で事業を行うための要件を満たせば適格合併になり得ます。ここでは、グループ内合併よりも、相互に関連する事業が統合後も続くことが重要です。
(2)事業関連性と事業規模・特定役員
まず、被合併法人の主要事業と合併法人の事業との間に関連性が必要です。業種名が似ていることだけで判断するのではなく、事業活動の実態を確認します。法人税法施行規則第3条には事業関連性の判定に関する規定があります。
さらに、原則として次のいずれかの要件を満たす必要があります。
① 事業規模の割合がおおむね5倍を超えないこと
被合併法人の事業と、これに関連する合併法人の事業について、売上金額、従業者数、各法人の資本金の額又は出資金の額など、法令が定める指標により事業規模を比較します。
法令上のいずれか一つの指標について、規模の割合がおおむね5倍を超えないことが確認できれば、この要件を満たすことが考えられます。
例えば、関連する事業の売上金額がA社6億円、B社1億円であれば、売上金額の割合は6倍です。
一方、関連する事業の従業者がA社60人、B社20人であれば、従業者数の割合は3倍となります。
この場合、従業者数が法令上の比較対象として適切であり、ほかの必要な条件を満たすのであれば、売上金額の比較が5倍を超えることだけを理由に、事業規模要件が満たされないとは限りません。
ただし、企業が自由に選んだ任意の指標で判定できるわけではありません。
法人税基本通達1-4-6では、法令に規定する指標に準ずるものとして、金融機関における預金量など、客観的・外形的に事業規模を表すと認められる指標が例示されています。
どの指標を使用したか、その指標が法令・通達上認められる理由を記録しておくことが重要です。
② 合併当事法人の双方から特定役員が引き継がれること
事業規模の要件に代えて、特定役員引継要件を満たす方法もあります。
法人税法施行令第4条の3第4項第2号では、原則として、合併前の被合併法人の特定役員のいずれかと、合併法人の特定役員のいずれかが、それぞれ合併後の合併法人の特定役員となる見込みを求めています。
つまり、合併当事法人のどちらか一方の特定役員が残れば足りるという要件ではありません。
例えば、A社がB社を吸収合併する場合に、A社の特定役員だけが合併後も残り、B社の特定役員が全員退任する予定であれば、通常、この特定役員引継要件を満たしません。
特定役員には、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役、常務取締役又はこれらに準ずる者で、法人の経営に従事している者が含まれます。
したがって、単に取締役として残ることだけでなく、法令上の特定役員に該当するかを確認する必要があります。
なお、事業規模5倍以内要件と特定役員引継要件は、原則として選択関係にあります。
事業規模の要件を満たす場合には、特定役員引継要件を重ねて満たす必要はありません。
反対に、事業規模の割合が5倍を超える場合でも、特定役員引継要件を満たすことで、共同事業類型の適格合併となる余地があります。
ただし、いずれの場合も、事業関連性、従業者引継ぎ、事業継続及び必要な株式継続保有など、ほかの要件を別途確認する必要があります。
(3)従業者・事業・株式の継続
共同事業類型では、被合併法人の従業者のおおむね80%以上の引継ぎと、関連する被合併事業の継続見込みも確認します。さらに、支配株主がいる場合などには、交付対価株式の継続保有見込みが問題となります。
なお、事業の関連性、規模比較、経営者の継続といった各要件は、合併後の事業が形式的に存続しているかという単純な確認ではありません。合併時点の具体的な事業計画と実際の業務内容が一致するかを確認し、関連事業の範囲を先に明確にしておくことが適切です。
第6章 株式の継続保有と例外規定
(1)共同事業の株式継続保有要件は、従業者80%要件とは異なる
共同事業類型の株式継続保有要件は、従業者80%要件とは別です。現行の法人税法施行令第4条の3第4項第5号では、支配株主に交付される一定の対価株式について、その全部を継続保有する見込み等を規定しています。
被合併法人の全てについて他の者による支配関係がない場合などには、同号の要件が適用されないことがあります。「交付株式の80%を保有すれば足りる」と一律に説明すると、現行の要件を取り違えるおそれがあります。
株式継続保有の要件は、法令上の「見込み」に基づく判定です。「何年間保有すればよい」と機械的に置き換えるのではなく、合併前から決まっている株式譲渡や次の再編の予定を踏まえ、どの規定に該当するか検討します。
(2)一定の協同組合等の令和7年度改正
令和7年4月1日以後に行われる一定の協同組合組織のみを当事者とする共同事業合併については、事業規模比5倍以内要件・特定役員引継要件が除外されています。国税庁の令和7年度法人税関係の改正資料に明記されています。
もっとも、対象となる法人の範囲は限定され、金銭等不交付、事業関連性、従業者引継ぎ、事業継続等の要件まで消えるわけではありません。通常の株式会社同士の合併に一般化できない特例です。
第7章 無対価合併は適格になるのか
(1)無対価なら適格というわけではない
無対価合併とは、合併に際して被合併法人の株主等へ合併法人株式その他の資産を交付しない合併をいいます。
親会社が100%子会社を吸収する場合は典型例ですが、対価を出さないことだけで適格性は決まりません。
法人税法施行令第4条の3第2項では、無対価合併について、資本関係に応じた条件が定められています。
代表的なものは、次の2つです。
① 合併法人が被合併法人の全株式を直接保有する場合
例えば、A社がB社の発行済株式等の全部を直接保有し、B社を無対価で吸収合併する場合です。
このケースでは、合併法人Aが被合併法人Bの全株式を保有しているという関係が、完全支配関係類型の適格判定の基礎となります。
② 同一の者による完全支配関係がある場合
例えば、同じ株主がA社とB社を完全支配しており、A社がB社を無対価で吸収合併する場合です。
このケースでは、合併前の完全支配関係と合併後の継続見込みに加え、無対価合併について政令が定める持株関係を確認します。
具体的には、被合併法人と合併法人の各株主について、法令に従って計算した株式の保有割合が等しいかなどが問題となります。
例えばA社とB社の株主が同じ2人でも、A社の持株割合が70%・30%、B社が60%・40%であれば、各株主の割合は一致していません。
無対価とする場合、単に株主の顔ぶれが同じという説明では、政令の条件を満たすとはいえません。
なお、実際の保有割合の判定では、法人税法施行令が定める発行済株式等の範囲や、合併当事法人が保有する株式の取扱いも確認する必要があります。
同一の親族グループが両社を保有しているという事実だけで、無対価の適格合併になると判断しないことが重要です。
(2)合併直前の株式調整をどう考えるか
例えば両社の持株割合をそろえるため、合併前に株式を売買する方法が検討されます。
しかし、その株式売買自体に譲渡所得課税、法人税又は贈与税等の論点が生じ得ます。
また、取引全体の実態によっては、法人税法第132条の2に規定する組織再編成に係る行為計算否認が検討対象となる場合があります。
ただし、合併前に株式移転を行ったという事実だけで、直ちに行為計算否認の対象になるわけではありません。
取引の目的、経済合理性、対価の算定、当事者間の関係、合併後の事業計画などを踏まえた個別の検討が必要です。
単に形式上の持株割合を整えたという理由だけで、適格判定を確定させることはできません。
特に親族間で株式を移動する場合は、個別の移転取引を適切な時価で評価することも重要です。
株式・不動産を親族や同族会社間で低額譲渡するときの課税の考え方は、同族会社への低額譲渡の解説も参考になります。
第8章 具体例で確認する適格合併の判定
(1)親会社Aが100%子会社Bを無対価で吸収
AがBの株式を直接100%保有し、ほかの特別な事情がない場合には、完全支配関係類型の適格合併が考えられます。
個別の無対価合併要件や資本関係を確認しますが、従業者80%の要件をこの類型へ機械的に持ち込む必要はありません。
(2)AがB株式70%を保有し、残り30%を現金交付で整理
合併法人A自身が合併直前に3分の2以上を保有するため、少数株主への現金交付について金銭等不交付要件の例外が問題となります。
さらに50%超の支配関係類型として、所定の支配関係、従業者引継ぎ、主要事業継続等の要件が満たされれば、適格合併となる余地があります。
この場合、合併が適格合併に該当するのであれば、所得税法第25条第1項第1号による合併を理由とするみなし配当は生じません。
ただし、現金を受け取る個人株主については、株式等の譲渡所得等の課税関係を別途検討する必要があります。
法人段階の適格判定によって、株主段階の現金対価に係る課税が当然に繰り延べられるわけではありません。
(3)AがB株式60%を保有し、残り40%を現金交付で整理
合併法人Aの保有割合は3分の2未満です。
法定のほかの例外に当たらない現金交付があれば、従業者や事業の継続条件を満たしていても金銭等不交付要件を満たしません。
割合だけではなく交付の法的性質も確認します。
この合併が非適格合併となる場合には、個人株主について、所得税法第25条に基づくみなし配当と株式等の譲渡所得等を区分して検討する必要があります。
もっとも、具体的な課税関係は交付対価、資本金等の額、株式の取得価額その他の事実関係によって異なります。
(4)資本関係のない2社が事業統合
事業関連性、所定の規模比較又は特定役員、従業者・事業継続、必要な株式継続保有等を満たし、適格対価の条件も満たせば共同事業類型で適格になり得ます。
特定役員引継要件によって判定する場合は、原則として、被合併法人と合併法人のそれぞれから特定役員が引き継がれる見込みが必要です。
単に「同業者同士」というだけでは足りません。
以上は合併法人をA社、被合併法人をB社とした単純化した例です。実際には間接保有、複数の被合併法人、無議決権株式、三角合併、特定の公益法人等が関係する場合などに追加の規定があります。
例だけで適格判定を確定させることはできません。
第9章 適格合併の実務チェックリスト
(1)合併契約の前に用意する資料
実務では、合併直前の株主名簿、資本関係図、過去の株式異動、合併契約案、対価の内訳、合併後の資本政策、従業者名簿、事業計画、役員就任予定、関連事業の売上・従業者数・資本金額の資料を整理します。
合併前後の「見込み」が要件になる箇所では、取締役会資料や事業計画等と整合させて説明できる形にします。合併直後の第三者への売却、退職、事業廃止が決まっている場合は、計画段階で判定を見直す必要があります。
適格合併によって資産・負債を帳簿価額で引き継いだ場合、未実現の値上がり益が消滅するわけではありません。承継後に資産を売却したときなどに課税関係が生じ得るため、会計上の仕訳と税務上の帳簿価額の引継ぎを照合します。
(2)適格合併と繰越欠損金の引継ぎは別問題
適格合併になっても、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎや合併法人側の欠損金利用には、法人税法第57条等に基づく制限があります。
支配関係の継続期間や「みなし共同事業要件」等を別途確認します。
ここでいう欠損金の「みなし共同事業要件」と、第5章で説明した「適格合併の共同事業要件」は、根拠規定も役割も異なります。
例えば、合併が完全支配関係類型の適格合併に該当する場合でも、被合併法人の未処理欠損金額が無条件に引き継がれるとは限りません。
合併当事法人間の支配関係がいつ生じたか、事業が継続しているかなど、欠損金に関する別の法令要件を確認する必要があります。
この点について、名古屋国税局は、株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて、支配関係の継続に着目した文書回答を公表しています。
もっとも、これは個別の照会事例に対する回答であり、すべての適格合併に同じ結論が適用されるわけではありません。
欠損金の詳細はシリーズ第5回で取り上げます。
実務上の判定表には、適格・非適格の結論だけでなく、適用した類型、各要件の根拠条文、保有割合の計算根拠、継続見込みの根拠資料、未確認事項と判断日を残すとよいでしょう。
申告書作成時に結論だけを再利用することを避けられます。
(3)組織再編の記録と税務確認
私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、取引当時の契約・株主異動・事業計画の資料と、申告時に採用した税務処理の説明が整合していることは、後日の事実確認を円滑にするうえで重要と考えます。これは実務上の見解であり、特定の調査重点項目を示すものではありません。
合併の前提となる株式譲渡と株主の所得税を混同しないため、M&Aで株式を売却した場合の課税も併せて確認してください。資料整理の一般的な考え方は、税務調査の準備チェックリストで紹介しています。
よくある質問
Q1. 100%子会社を合併すれば自動的に適格合併になりますか?
いいえ。完全支配関係の定義、合併対価、無対価合併の場合の関係等を確認します。100%という数字だけで判定を終えることはできません。
Q2. 株式の50%を持っていれば支配関係に当たりますか?
原則として、50%ちょうどでは「50%超」の保有基準を満たしません。直接・間接保有や特殊関係者等も含め、法令上の支配関係を判定します。
Q3. 従業者80%の要件はすべての適格合併で必要ですか?
いいえ。50%超の支配関係類型や共同事業類型で問題となる要件です。完全支配関係類型に一律に適用されるものではありません。
Q4. 現金を交付する合併は非適格になりますか?
原則は株式等以外の資産を交付しないことですが、剰余金の配当等、反対株主への買取請求対価、合併法人が直前に3分の2以上を保有する場合の所定の交付などの例外があります。ただし、合併自体が適格合併となる場合でも、金銭を受け取る個人株主については、株式等の譲渡所得等の課税関係を別途検討する必要があります。適格合併そのものを理由とする所得税法第25条第1項第1号のみなし配当は生じませんが、非適格合併の場合には、みなし配当の有無も検討します。
Q5. 兄弟会社同士の無対価合併は適格になりますか?
所定の同一支配関係とその継続見込みに加え、無対価合併に関する持株割合等の条件を確認します。単に同じ代表者が経営しているだけでは判定できません。
Q6. 適格合併なら繰越欠損金もそのまま使えますか?
適格合併の判定と、法人税法第57条等による欠損金引継ぎ・利用制限の判定は別です。支配関係の継続期間やみなし共同事業要件等を個別に確認します。
まとめ:適格合併は関係類型と継続要件を分けて確認する
適格合併では、合併法人と被合併法人の関係が100%、50%超、共同事業のどれに当たるかで必要な要件が異なります。
合併対価の原則と例外、従業者・事業・株式の継続見込みを資料に基づいて確認することが重要です。
特に共同事業類型では、事業規模5倍以内要件と特定役員引継要件の選択関係を理解し、特定役員引継要件による場合には、原則として合併当事法人の双方から特定役員が引き継がれることを確認します。
また、無対価合併や合併前の株式移動では形式だけで判断せず、合併後の計画も含めて検証します。
合併法人が被合併法人の株式等を3分の2以上保有する場合の金銭交付の例外についても、合併自体の適格性と、金銭を受け取る株主の課税関係を区別する必要があります。
適格合併の場合には、その合併を理由とする所得税法第25条第1項第1号のみなし配当は生じません。一方、金銭を受け取る個人株主については株式等の譲渡所得等の課税関係を検討し、非適格合併の場合にはみなし配当の有無も確認する必要があります。
繰越欠損金については、適格性とは別の判定が必要です。
引用・参考文献
- e-Gov法令検索「法人税法」第2条第12号の8、第57条、第62条の2、第132条の2
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」第4条の2、第4条の3
- e-Gov法令検索「法人税法施行規則」第3条、第3条の2
- e-Gov法令検索「所得税法」第25条
- 財務省「組織再編税制に関する資料」
- 国税庁「令和7年度法人税関係法令の改正の概要」協同組合組織の適格要件の見直し
- 国税庁「無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)」
- 名古屋国税局「合併に際し、被合併法人の従業者との雇用契約を終了させ、当該合併後に合併法人において当該従業者を新たに雇用する場合の従業者引継要件の判定」(平成30年11月15日回答)
- 名古屋国税局「株主が個人である法人が適格合併を行った場合の未処理欠損金額の引継ぎについて」(平成29年11月7日回答)
- 国税庁「No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合-法人の合併等、自己株式の取得等の場合-」
- 国税庁「令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係」
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

