自分の会社へ不動産を安く売るとどうなる?|個人・法人・株主の課税を元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「自分の会社に不動産を移したいが、いくらで売ればいいのか分からない」「相場より安く売ってしまったが、税務署から何か言われないか不安だ」「法人化のために移転したら、税務署からお尋ねの文書が届いた」

資産管理会社の設立や事業の法人化、親族の会社への資産移転など、個人所有の不動産を自分や親族の会社へ売却する場面は珍しくありません。このとき売買金額を自由に決められると考えてしまうと、思わぬ課税を招くことがあります。

この記事では、元大阪国税局で富裕層に対する調査事務に従事した税理士(元国税調査官)が、個人から法人への不動産の低額譲渡で生じる課税と、その備えを解説します。

結論:時価の2分の1未満で売ると、実際の売却額ではなく時価で譲渡所得が課税される。さらに法人の受贈益、株主へのみなし贈与と、一つの取引で複数の課税が生じ得る

先に結論をお伝えします。個人が法人に対して、譲渡所得の基因となる不動産を時価の2分の1未満の金額で売却した場合、実際に受け取った金額ではなく、時価で売却したものとみなして譲渡所得が計算されます(所得税法第59条第1項第2号、いわゆるみなし譲渡)。

売却代金として受け取っていないお金にまで課税が及ぶため、手元資金と納税額が釣り合わない事態が起こり得ます。

課税は売主側だけでは終わりません。買主である法人には、時価と購入額との差額が受贈益として法人税の課税対象になります。さらに、売却先が同族会社で、低額譲渡によって株式の価値が増加した場合には、他の株主が売主から贈与を受けたものとして贈与税の対象になることがあります。

一つの取引で、売主・法人・株主の三方向に課税が生じ得るのが、この論点の怖さです。

ただし、事前に時価を適切に把握し、根拠資料を整えて取引すれば、過度に恐れる必要はありません。順に見ていきましょう。

この記事でわかること

  • 時価の2分の1未満で売った場合のみなし譲渡課税のしくみと具体例
  • 買主の法人に生じる受贈益課税と、同族会社の株主へのみなし贈与
  • 税務上の「時価」の考え方と、路線価で売買することのリスク
  • 税務署がこの取引を把握するしくみと、お尋ね・調査への対応

第1章 なぜこの取引が行われ、なぜ確認されやすいのか

個人から法人への不動産売却は、資産管理会社への資産の集約、個人事業の法人化、賃貸物件の法人所有への切替え、相続対策など、正当な目的で広く行われている取引です。問題は取引そのものではなく、売買金額の決め方にあります。

買主が自分の会社であれば、売買金額は当事者間で自由に決められるように見えます。しかし、税務上は「時価とかけ離れた金額での取引」に対して、時価で取引したものとみなして課税する仕組みが複数用意されています。そして、不動産の所有権移転は登記されるため、この種の取引は税務署に把握されやすい類型です。

登記の異動情報をきっかけに、売買金額や資金の決済状況を尋ねる文書(お尋ね)が届くことも珍しくありません。売主側には譲渡所得に関するお尋ねが、買主側には買入価額や資金の出どころに関するお尋ねが、それぞれ届くことがあります。

第2章 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の視点)

個人と法人の間の不動産取引について、確認の視点を整理します。

(1)登記情報と申告内容の突合

所有権移転登記の情報は、税務署が把握できる基本的な資料です。不動産を譲渡したにもかかわらず譲渡所得の申告がない場合や、申告された売買金額が周辺の相場水準とかけ離れている場合は、その理由が確認の対象になります。

(2)同族間取引はなぜ確認されやすいのか

売主が法人の代表者や株主である場合、親族が経営する会社である場合など、当事者間に利害の対立がない取引は、金額が恣意的に決められやすいため、時価との乖離が特に確認されやすくなります。逆に、第三者間の取引で成立した金額は、それ自体が時価の有力な証拠になります。

(3)代金決済の実態

売買契約書があっても、代金が実際に支払われているか、支払いの原資は何か、分割払いであれば約定どおり履行されているかが確認されます。資金の流れは通帳で裏付けられるため、契約書と入出金記録の対応が重要です。詳しくは税務調査で通帳がどこまで確認されるかを解説した記事をご覧ください。

私が大阪国税局で富裕層に対する調査事務に従事していた経験から言えば、同族間の不動産取引は、金額の根拠を示す資料があるかどうかで調査の展開が大きく変わります。不動産鑑定や複数の査定など、取引時点で時価を検討した形跡が残っていれば、金額の妥当性を土台から議論できます。

根拠資料がなく「なんとなくこの金額にした」という取引は、課税側の時価認定を覆す材料に乏しく、議論が不利に傾きやすいのです。

第3章 売主(個人)の課税:時価の2分の1未満なら「みなし譲渡」

個人が法人に対して、譲渡所得の基因となる資産を時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合、時価により譲渡があったものとみなして譲渡所得が計算されます(所得税法第59条第1項第2号、所得税法施行令第169条)。

具体例で確認します。時価5,000万円(取得費2,000万円)の土地を、自分の会社に2,000万円で売却したとします。売却額2,000万円は時価の2分の1(2,500万円)を下回るため、みなし譲渡に該当し、収入金額は実際の2,000万円ではなく時価の5,000万円として扱われます。

譲渡所得は5,000万円から取得費2,000万円を差し引いた3,000万円となり、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える長期譲渡であれば、税率20.315%で約609万円の税負担が生じます(譲渡費用や特別控除がない前提の概算です)。

手元に入った現金は2,000万円でも、5,000万円で売った場合と同じ税額を納めることになるのです。

譲渡所得は給与や事業の所得とは分離して課税されます。所有期間は譲渡した年の1月1日現在で判定し、同日現在で5年を超える場合は長期譲渡として20.315%、5年以下の場合は短期譲渡として39.63%(いずれも所得税・復興特別所得税・住民税の合計)の税率が適用されます。

先祖代々の土地などで取得費が分からない場合は、収入金額の5%を取得費とする概算取得費で計算できますが、その分譲渡所得は大きくなります。みなし譲渡では収入金額が時価に引き上がるため、概算取得費との組合せでは税負担が特に重くなりやすい点に注意が必要です。

なお、一つの契約で土地と建物など複数の資産をまとめて譲渡した場合、2分の1未満かどうかは資産ごとではなく、その契約で譲渡したすべての資産の対価の合計額で判定します(所得税基本通達59-4)。

第4章 買主(法人)と株主の課税:受贈益とみなし贈与

買主である法人の側では、時価より低い金額で資産を取得したことによる利益、すなわち時価と購入額との差額が受贈益として益金に算入され、法人税の課税対象になります。先ほどの例では、時価5,000万円の土地を2,000万円で取得しているため、差額の3,000万円が受贈益です。法人は税務上、その土地を時価5,000万円で取得したものとして扱います。

さらに注意すべきなのが、株主への課税です。同族会社が時価より著しく低い対価で財産の譲渡を受けたことにより、その会社の株式の価値が増加した場合、株主は、その増加した部分の金額を、財産を譲渡した者から贈与により取得したものとして取り扱われます(相続税法第9条、相続税法基本通達9-2)。

たとえば、父が子の経営する会社(株主は子)に不動産を低額で売却した場合、会社の純資産の増加を通じて子の保有する株式の価値が上がるため、父から子への贈与があったものとして贈与税の対象になり得るのです。相続対策のつもりの取引が、贈与税の申告漏れという形で問題になる典型例といえます。

なお、「時価の2分の1」という基準は、売主側における所得税法上のみなし譲渡の判定基準です。法人の受贈益課税や株主へのみなし贈与については、それぞれ別の基準で判定されます。

なお、売主自身がその会社の唯一の株主である場合は、株式価値の増加が売主自身に帰属するため、他の株主へのみなし贈与の問題は基本的に生じません。ただし、売主側のみなし譲渡課税の有無と、法人側の受贈益課税は、これとは別に判定されます。株主構成によって結論が変わるため、個別の確認が必要です。

なお、売主が消費税の課税事業者であり、事業用・賃貸用建物などを事業として譲渡する場合、建物部分の譲渡は消費税の課税対象になります(土地の譲渡は非課税です)。一方、自宅など事業用でない生活用資産の譲渡は、課税事業者であっても原則として消費税の課税対象になりません。法人への移転を検討する際は、消費税の負担も含めて全体を設計する必要があります。

法人化そのものの設計や、同族会社の行為計算否認については次の記事で解説しています。

(関連記事:不動産オーナーの法人化と相続税対策|否認リスクを抑える設計を元国税調査官が解説)

第5章 税務上の「時価」とは何か:路線価で売ってもよいのか

ここまでの課税はすべて「時価」を基準に判定されます。では、税務上の時価とは何でしょうか。

時価とは、その資産が通常の取引で成立すると認められる客観的な交換価値をいいます。不動産であれば、不動産鑑定士による鑑定評価、周辺の売買事例、地価公示価格や都道府県地価調査の価格水準、複数の不動産業者による査定などを組み合わせて把握するのが実務的です。

注意したいのが、相続税評価額(路線価による評価額)をそのまま売買金額とするケースです。路線価は地価公示価格の8割程度の水準を目安に設定されているとされており、相続税・贈与税の財産評価のための基準であって、売買の時価そのものではありません。

地域や物件によっては実勢価格との開きがさらに大きいこともあり、路線価ベースの金額が時価の2分の1を下回っていた、あるいは時価との乖離が大きいと認定された、という事態も起こり得ます。売買金額の設定は、路線価ではなく時価の把握から始めることをおすすめします。

また、時価は一点の正解がある数字ではなく、一定の幅を持つものです。だからこそ、鑑定・査定・売買事例といった複数の資料で幅を検討し、売買金額がその幅の中に収まっていることを示せる状態にしておくことが、実務上の守りになります。建物については、再調達価額や帳簿価額なども参考にしながら、土地とは分けて個別に検討します。

個人として賃貸を続ける場合の申告上の論点は、次の記事で整理しています。

(関連記事:不動産オーナーに税務調査は来る?|元国税調査官が家賃収入と経費の注意点を解説)

第6章 実行前にできること・してしまった後にできること

これから法人への売却を検討している方は、第一に時価の把握です。金額の規模や物件の個別性に応じて、不動産鑑定の取得や複数査定の収集を行い、その資料を保存します。第二に、売買契約書の作成と、契約どおりの代金決済です。時価を検討した過程と、実際の資金の流れが書面で残っていれば、後日の説明は格段に容易になります。

金額設定を含めた全体の設計は、実行前に税理士へ相談することを強くおすすめします。なお、法人側には不動産取得税や登録免許税といった移転コストも生じるため、所得税・法人税・贈与税だけでなく、負担全体を比較して判断することが大切です。

すでに取引を終えていて、金額が時価と乖離していたかもしれないと不安な方は、まず取引時点の時価を検証し、申告内容との差を確認します。誤りがあった場合、実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、過少申告加算税は課されません(延滞税は別途生じます)。

贈与税の申告が漏れていた場合も、申告書を提出していなかったときは期限後申告、既に申告書を提出していたときは修正申告により、自主的に対応することが可能です。対応が早いほど負担を抑えやすいのは、他の論点と同じ構図です。

過去分の対象期間について、税務署が更正・決定を行うことのできる期間は原則5年(贈与税は原則6年)で、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。詳しくは税務調査は何年分さかのぼるのかを解説した記事をご覧ください。

不動産以外の高額な資産、たとえば高級車の売却でも時価と取得費の考え方が問われます。あわせて次の記事もご覧ください。

(関連記事:高級車・スーパーカー売却の税金|生活用動産の非課税と譲渡所得を元国税調査官が解説)

第7章 お尋ね・調査の連絡が来たときの対応

不動産の登記異動をきっかけに届く「お尋ね」は行政指導であることが多く、実地調査とは性質が異なりますが、放置は禁物です。回答の前に、売買契約書・決済記録・時価の根拠資料を整理し、記載内容に誤りがないよう慎重に作成します。文書への対応は税務署からお尋ねが届いたときの対応を解説した記事をご覧ください。

実地調査に進んだ場合、調査の過程では聴き取りの内容が質問応答記録書という書面にまとめられることがあります。低額譲渡の事案では、金額を決めた経緯や当事者の認識が課税判断や重加算税の認定に影響するため、この書面の記載は特に重要です。

筆者は共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でその実務対応を詳しく解説していますが、要点は、記載内容が事実と一致しているかを十分に確認し、誤りがあればその場で訂正を求めることに尽きます。同族間の不動産取引の調査は専門性が高いため、早い段階で税務調査への対応経験のある税理士に相談してください。

よくある質問

自分の会社なら、いくらで売っても自由ではないのですか?

売買金額自体は当事者間で決められますが、税務上は時価を基準とした課税の仕組みがあります。時価の2分の1未満での売却は時価で譲渡所得が計算され、法人側には受贈益課税が生じます。金額の設定は時価の把握から始める必要があります。

買った法人側には、どのような課税がありますか?

時価と購入額との差額が受贈益として益金に算入され、法人税の課税対象になります。法人は税務上、その不動産を時価で取得したものとして扱います。さらに同族会社では、株式価値の増加を通じて他の株主にみなし贈与の課税が生じることがあります。

路線価で売買金額を決めてもよいですか?

おすすめしません。路線価は相続税・贈与税の財産評価のための基準で、地価公示価格の8割程度の水準を目安に設定されているとされており、売買の時価そのものではありません。鑑定評価や売買事例、複数の査定などにより時価を把握したうえで金額を決めることが安全です。

税務署はどうやってこの取引を把握するのですか?

不動産の所有権移転は登記されるため、登記の異動情報を通じて把握されやすい取引です。登記をきっかけに、売買金額や資金の決済状況を尋ねる「お尋ね」の文書が届くことがあり、申告内容や相場との乖離があれば確認が進むことがあります。

すでに安く売ってしまいました。どうすればよいですか?

まず取引時点の時価を検証し、申告内容との差を確認してください。誤りがあった場合、調査通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税は課されません(延滞税は別途生じます)。時価の検証を含めて、早めに税理士へ相談することをおすすめします。

まとめ:金額は「自由に決められる」が、課税は時価で判定される

個人から法人への不動産の低額譲渡では、時価の2分の1未満であれば売主にみなし譲渡課税が生じ、法人には時価と購入額との差額について受贈益課税が生じます。さらに、同族会社への低額譲渡によって他の株主の株式価値が増加した場合には、その増加額についてみなし贈与課税が生じ得ます。

裏を返せば、取引前に時価を適切に把握し、鑑定や査定などの根拠資料と、契約・決済の記録を整えておけば、この取引は正当な資産移転として堂々と行えます。金額設定に迷ったら、実行前に相談することが、結果として負担の少ない対策になります。すでに取引を終えて不安がある方も、時価の検証と自主的な対応で負担を抑えられる可能性があります。

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引用・参考文献

  • 国税庁タックスアンサーNo.3217「時価より低い価額で売ったとき」
  • 所得税法第59条第1項第2号、所得税法施行令第169条
  • 所得税基本通達59-4
  • 相続税法第9条、相続税法基本通達9-2
  • 国税庁タックスアンサーNo.2026「確定申告を間違えたとき」
  • 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。