会計ソフトで確定申告した個人事業主の税務調査|間違いやすい点を元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「freeeやマネーフォワードを使って、自分で確定申告しているけれど大丈夫だろうか」
「銀行口座やクレジットカードを連携しているので、申告は合っていると思う」
「税理士を付けていない状態で税務調査の連絡が来たら、どうすればよいのだろう」

会計ソフトが普及し、税理士に依頼せず、自分で記帳から確定申告まで行う個人事業主も珍しくありません。自分で確定申告すること自体に問題はありません。

一方、「会計ソフトで申告書を作成できた」ことと「税務上正しい申告になっている」ことは別です。会計ソフトは記帳や集計を効率化してくれますが、売上の計上時期、必要経費、家事按分、固定資産、在庫、消費税などは取引実態に応じた判断が必要です。

私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、税理士として税務調査への対応に強みを持っています。この記事では、会計ソフトを使って自分で確定申告している個人事業主が間違いやすいポイントと、税務調査に備えて考えておきたいことを解説します。

結論:自分で確定申告しても大丈夫。税務調査になったときの相談先も考えておく

税理士を付けず、会計ソフトを使って自分で確定申告すること自体は問題ありません。売上を漏れなく把握し、事業用と私的支出を区分し、帳簿や証憑を保存できているのであれば、自分で申告を続けるという選択肢もあります。

ただし、顧問税理士を付けない場合でも、「税務調査になったらスポットで相談・立会いを依頼できる税理士」を事前に把握しておくと対応しやすくなります。税務調査の事前通知後から新たに税理士へ税務代理を依頼することも可能です。

会計ソフトを使うこと自体が問題なのではありません。重要なのは、実際の取引に基づいて正しく申告し、税務署から確認されたときに処理の根拠を説明できる状態にしておくことです。

この記事でわかること

  • 会計ソフトで自分で確定申告しても問題ないのか
  • 税務調査で売上や経費をどのように確認されるのか
  • 銀行・カードの自動連携で起こりやすい間違い
  • 家事按分、減価償却、在庫、消費税の注意点
  • 税理士がいない個人事業主が税務調査に備えてできること

第1章 会計ソフトで自分で確定申告しても問題ない

(1)税理士への依頼は必須ではない

日本の所得税は、納税者が自ら税法に従って所得金額と税額を計算し、申告・納税する申告納税制度を採っています。個人事業主が会計ソフトや国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用して、自分で申告することもできます。

(2)ただし、記帳と資料保存は必要

税理士に依頼していなくても、記帳や帳簿書類の保存義務はあります。青色申告者には一定の帳簿書類の備付け・記帳・保存が求められ、白色申告者についても事業所得等がある方には記帳制度と帳簿書類の保存制度があります。

確定申告書を提出できたことだけで終わりではありません。税務調査では、申告金額がどの帳簿や資料から計算されたのかを説明できることが重要です。

(3)会計ソフトは税務判断まで保証するものではない

銀行口座やクレジットカードを連携すると、取引データが自動で取り込まれ、勘定科目の候補も表示されます。しかし、支出が事業に必要か、売上をいつ計上するか、家事按分をどの割合にするかなどは、取引内容や事業実態を踏まえて判断します。

第2章 調査官が重点的に確認するポイント

会計ソフトを使っている個人事業主の税務調査でも、基本は「実際の取引と帳簿・申告書が一致しているか」の確認です。

(1)売上が漏れなく計上されているか

事業用口座だけでなく、個人名義口座、現金、クレジット決済、QRコード決済、ECモール、予約サイト、売掛金などを確認し、帳簿の売上と整合しているかを見ます。連携していない口座や現金取引は、会計ソフトへ自動では入ってきません。

(2)入金額と売上高の違いを説明できるか

銀行への入金額と売上高は一致しないことがあります。決済手数料や源泉所得税が差し引かれている場合、複数件の売上がまとめて入金される場合、売掛金を回収した場合などは、入金額だけを売上として登録すると正しい売上高にならないことがあります。

(3)経費に私的支出が混ざっていないか

会計ソフトにカードを連携すると、事業と関係のない飲食代、旅行代、ネット通販、家族関係の支出なども取り込まれます。連携された取引をそのまま経費登録していないか確認されることがあります。

(4)帳簿と根拠資料が一致しているか

会計ソフトに数字が入っていても、その根拠となる請求書、領収書、契約書、通帳、カード明細等を確認します。摘要だけでは内容が分からない取引は、原始資料まで確認することがあります。

(5)年末残高が正しいか

売掛金、買掛金、未払金、在庫、現金、固定資産などの年末残高も確認対象です。銀行・カードの自動連携だけでは、これらの決算整理が自動的に正しく行われるとは限りません。

私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、会計ソフトの種類よりも、売上の把握方法と帳簿の根拠を説明できるかが実務上の分かれ目です。個人事業主の税務調査全般については、個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?もあわせてご覧ください。

第3章 間違い① 入金された日をそのまま売上日にしている

(1)原則として入金日だけで決めない

所得税では、その年に収入すべき金額は、実際に代金を受け取ったかどうかだけで決まりません。例えば12月20日に商品を販売し、翌年1月10日に代金を受け取った場合、原則として商品を販売した年の収入になります。

(2)サービス業も契約内容等から判断する

役務提供や請負についても、契約内容、業務の完了時期、検収などから収入すべき時期を判断します。「入金日=売上日」とは限りません。

なお、一定の小規模事業者に該当する青色申告者は、届出により現金主義による所得計算の特例を適用できる場合があります。事業所得・不動産所得については、前々年分の一定の所得金額の合計額が300万円以下であることなどが要件です。

第4章 間違い② 銀行・カードの自動連携をそのまま登録している

(1)売上を二重計上することがある

請求時に「売掛金/売上」を登録しているのに、銀行へ入金された際にもう一度「売上」として登録すると、同じ売上を二重計上します。入金時は売掛金の回収として処理する必要があります。

(2)口座間の資金移動を売上や経費にしない

自分名義の口座間で資金を移動しただけなのに、入金を売上にしてしまうケースがあります。反対に、カード利用時に経費を登録しているのに、銀行口座からのカード代金引落しも経費にすると、経費が二重になります。

(3)現金や未連携口座は別途確認する

現金売上、未連携の銀行口座、海外決済サービス、個人名義口座に入った事業売上などは、必要に応じて別途記帳します。「ソフトに出てこない取引はない」と考えないことが重要です。

第5章 間違い③ プライベートの支出まで経費にしている

(1)事業用カードから払っただけでは経費にならない

必要経費になるかは、どのカードで支払ったかではなく、事業のために必要な支出かどうかで判断します。事業用カードで私的な飲食代を支払っても、それだけで必要経費になるわけではありません。

(2)自宅家賃・通信費・車などは家事按分を検討

自宅兼事務所の家賃、携帯電話、インターネット、自動車など、事業と私生活の両方に関係する家事関連費は、業務上必要な部分を明らかに区分できるかが重要です。面積、使用時間、走行距離など、事業使用割合を説明できる根拠を持っておきます。

事業使用割合が50%以下でも、業務上必要な部分を明らかに区分できる場合には、その部分を必要経費に算入できる場合があります。

第6章 間違い④ 高額な買い物・減価償却・在庫をそのまま経費にする

(1)10万円以上の物を買ったら処理を確認する

パソコン、カメラ、スマートフォン、家具、機械、自動車など、長期間使用するものは減価償却資産に該当することがあります。取得価額10万円未満の一定の資産は、業務の用に供した年分の必要経費とすることができます。

取得価額10万円以上20万円未満の一定の減価償却資産には、3年間で均等に必要経費へ算入する一括償却資産の制度があります。

さらに、一定の中小事業者に該当する青色申告者には少額減価償却資産の特例があります。令和8年4月1日以後に取得等し、業務の用に供した取得価額10万円以上40万円未満の一定の減価償却資産については、一定の要件の下で取得価額を必要経費に算入できます。

この特例では、対象となる少額減価償却資産の取得価額の合計額について年間300万円までという上限があります。そのほかにも適用要件があるため、「40万円未満なら誰でもその年の経費にできる」という制度ではありません。

(2)年末に残っている商品はその年の売上原価から調整する

物販業、EC、せどりなどでは年末在庫の確認が必要です。仕入れた商品のうち12月31日時点で残っているものは、期末棚卸高として売上原価の計算に反映します。会計ソフトへ仕入時に「仕入」と登録しただけで決算を終えると、棚卸しを反映し忘れることがあります。

第7章 青色申告だから安心とは限らない

(1)青色申告には帳簿・保存要件がある

青色申告は、一定水準の記帳を行い、その記帳に基づいて正しい申告をする方に一定の特典を認める制度です。青色申告特別控除についても、控除額に応じて要件があります。

(2)売上帳簿の不保存・記載不十分には加算税の加重措置もある

令和5年分以後の所得税について、税務調査で売上に関する帳簿を保存していなかったことや、帳簿の売上記載が不十分であったことなどが把握された場合には、帳簿に関係する一定の申告漏れについて、通常の過少申告加算税や無申告加算税に5%または10%が加重される制度があります。

帳簿がほとんど残っていない場合の調査については、税務調査で帳簿がないとどうなる?で詳しく解説しています。

(3)電子取引データの保存も確認する

メール、ECサイト、クラウドサービスなどで請求書や領収書等の取引情報を電子的に受領・交付した場合は、電子帳簿保存法に基づく電子取引データ保存のルールも確認します。会計ソフトに仕訳が入っていることと、必要な証憑を保存していることは別の問題です。

第8章 所得税が合っていても消費税を間違えていることがある

(1)インボイス登録をしている場合は消費税申告も確認する

適格請求書発行事業者として登録している場合、登録によって免税事業者から課税事業者となることがあります。「売上が1,000万円以下だから消費税は関係ない」とは限りません。

(2)2割特例・3割特例・簡易課税はそれぞれ要件がある

インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者となった一定の事業者には2割特例があります。個人事業者については、要件を満たせば令和8年分まで対象となります。

また、インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった一定の個人事業者については、令和9年分・令和10年分の消費税申告で3割特例を利用できる場合があります。

簡易課税制度を選択している場合と原則課税でも計算方法は異なります。会計ソフトに消費税区分が表示されても、課税・非課税・対象外の区分や仕入税額控除の可否は取引内容に応じて確認します。

第9章 税務調査になる前に「頼れる税理士」を見つけておく

(1)自分で申告することと、相談先を持つことは両立する

個人事業主が全員、顧問税理士を付ける必要はありません。事業規模や取引内容によっては、自分で会計ソフトを使って申告する方法でも対応できます。

一方で、「自分で申告すること」と「困ったときに相談できる税理士を知っておくこと」は別です。顧問契約までは必要なくても、スポット相談、税務調査のみの依頼、事前通知後からの対応が可能かをあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

(2)事前通知後から税理士へ依頼することもできる

税務署から事前通知を受けた後に、新たに税理士へ税務代理を依頼することも可能です。納税者に事前通知された調査開始日時より前に税務代理権限証書が提出された場合には、新たな税務代理人にも事前通知が行われる取扱いとなっています。

また、新たな税務代理人について調査開始日時等の変更を求める合理的な理由がある場合には、税務署と変更を協議することもできます。詳しくは、税務調査の途中から税理士に依頼できる?で解説しています。

(3)相談するなら早い方が準備時間を取りやすい

事前通知を受けた直後であれば、過去の申告書、青色申告決算書・収支内訳書、仕訳帳、総勘定元帳、通帳、カード明細、請求書、領収書などを調査開始前に確認できます。

税務調査へ税理士の立会いを依頼するか迷っている場合でも、相談だけ先に行うことはできます。調査当日の準備については、税務調査当日の持ち物・準備チェックリストも参考にしてください。

(4)税務調査を過度に恐れる必要はない

会計ソフトで自分で申告していることだけを理由に問題となるわけではありません。重要なのは、実際の取引に基づいて正しく申告されているかです。

自分で申告を続けるのであれば、毎年の資料を整理し、分からない処理を放置せず、必要に応じてスポット相談を利用するという方法があります。税務調査だけ税理士へ依頼することも選択肢の一つです。

よくある質問

Q1. freeeやマネーフォワードで自分で確定申告しても大丈夫ですか?

はい。税理士に依頼せず、自分で記帳・確定申告すること自体に問題はありません。ただし、会計ソフトで申告書を作成できたことと、税務上正しく処理されていることは別です。売上の計上時期、必要経費、家事按分、固定資産、消費税などは個別に確認する必要があります。

Q2. 会計ソフトの仕訳が間違っていたら税務調査で問題になりますか?

仕訳の誤りによって所得金額や税額が間違っていれば、税務調査で修正を求められる可能性があります。一方、勘定科目の違いだけで所得金額や税額に影響しない場合など、誤りの内容によって税務上の影響は異なります。

Q3. 銀行口座を自動連携していれば売上漏れは防げますか?

自動連携だけでは防げないことがあります。現金売上、未連携の口座、個人口座に入金された事業売上などは自動連携に出てこない場合があります。また、売掛金の入金を再び売上として登録すると、売上を二重計上することもあります。

Q4. 事業用カードで支払ったものはすべて経費になりますか?

いいえ。必要経費にできるかは、その支出が事業の遂行上必要かどうかで判断します。事業用カードから支払ったという事実だけで必要経費になるわけではありません。家賃、通信費、自動車費など事業と私生活の両方に関係する支出は、家事按分を検討します。

Q5. 税務調査の連絡が来てから税理士に依頼できますか?

はい。事前通知を受けた後からでも、新たに税理士へ税務代理を依頼することは可能です。納税者に通知された調査開始日時より前に税務代理権限証書が提出された場合には、新たな税務代理人にも事前通知が行われる取扱いです。依頼する場合は、申告内容や資料を確認する時間を確保するため、早めに相談した方が準備しやすくなります。

Q6. 自分で確定申告を続けたいのですが、税理士を付けた方がよいですか?

顧問税理士を付けず、自分で正しく記帳・申告する選択肢もあります。一方で、税務調査や複雑な取引が生じた場合に相談できる税理士をあらかじめ把握しておくと、必要になったときに動きやすくなります。スポット相談や税務調査だけの依頼に対応している税理士もいます。

まとめ:自分で申告するなら正しい処理と困ったときの相談先を持つ

会計ソフトを利用すれば、個人事業主が自分で記帳し、確定申告することは十分可能です。税理士に依頼していないこと自体が税務上の問題になるわけではありません。

一方で、会計ソフトは売上の計上時期、必要経費、家事按分、固定資産、棚卸資産、消費税などについて、個々の取引実態を踏まえた税務判断まで自動的に保証するものではありません。「なぜこの処理にしたのか」を資料とともに説明できる状態を作っておくことが重要です。

顧問税理士を付けない場合でも、「税務調査になったら相談できる税理士」をあらかじめ探しておく方法があります。自分で申告することと、必要なときに専門家を利用することは両立します。

市田税理士事務所は、国税OBの税理士が税務調査対応・無申告のご相談、顧問契約を承っています。

顧問契約なしのスポット相談も可能。関西全域・オンラインで全国対応。

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引用・参考文献

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。