CRSで海外口座は税務署にどう把握される?|海外預金・証券口座と税務調査

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「海外の銀行口座は、日本の税務署には分からないのでしょうか」
「海外証券口座で株を売却していますが、日本へ送金していなければ把握されないのでしょうか」
「CRSで口座情報が日本へ送られると聞きました。どこまでの情報が税務署に届くのでしょうか」

海外に銀行口座や証券口座を持つ方から、このような相談を受けることがあります。

現在はCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)に基づき、日本を居住地国とする人の一定の海外金融口座情報が、外国税務当局を経由して日本の国税庁へ提供される仕組みがあります。

私は大阪国税局で国際課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、税理士として税務調査への対応に強みを持っています。この記事では、CRSで海外預金・海外証券口座の情報が日本へ届く仕組み、交換情報、税務調査での確認点を整理します。

結論:海外口座は「送金したときだけ」税務署に把握されるわけではない

CRSは、海外から日本へお金を送金した場合だけに情報が税務署へ届く制度ではありません。

基本的な流れは、「海外の金融機関 → その国・地域の税務当局 → 日本の国税庁」です。

海外の金融機関が口座保有者の居住地国を確認し、日本を居住地国として報告対象となる口座であれば、現地税務当局に口座情報を報告します。その後、租税条約等の情報交換規定に基づき、日本の国税庁へ情報が自動的に提供される仕組みです。

したがって、海外口座の資金を日本へ一度も送金していなくても、CRSによる情報交換の対象となることがあります。

一方、世界中のすべての口座が一律に報告されるわけではなく、金融機関・金融口座・居住地国・情報交換関係などで対象が決まります。米国はFATCAという別制度です。国税庁はCRS情報を国外送金等調書や国外財産調書などと併せて分析し、海外金融資産や所得の把握に活用しています。

この記事でわかること

  • CRSで海外口座情報が日本へ届く仕組み
  • 交換される口座残高・利子・配当・譲渡等の情報
  • CRSの対象となる金融機関・金融口座
  • 税務調査でのCRS情報の活用
  • 令和8年改訂CRSとCARFの関係
  • 海外口座の申告漏れに気付いた場合の対応

第1章 CRSとは?海外口座情報が日本へ届く仕組み

CRSはCommon Reporting Standardの略で、日本語では「共通報告基準」です。OECDが策定した金融口座情報の自動的交換に関する国際基準です。

(1)外国の銀行から日本の税務署へ直接送る制度ではない

例えば、日本を居住地国とする人がA国の銀行に口座を持つ場合、A国の銀行がA国税務当局へ報告し、その税務当局から租税条約等に基づき日本の国税庁へ情報が提供されます。

逆に、日本の金融機関が保有する一定の非居住者の金融口座情報も、日本の国税庁を経由して、その人の居住地国の税務当局へ提供されます。日本では平成30年からCRSに基づく情報交換が始まっています。

(2)基準になるのは国籍ではなく「居住地国」

CRSの報告先は国籍だけでは決まりません。金融機関は届出書や住所等から居住地国を確認します。日本国籍でも居住地国が外国となる場合があり、外国籍でも日本を居住地国とする場合があります。

なお、令和8年1月1日以後の日本の改正制度では、日本と租税条約の相手国等の双方の居住者に該当する場合、租税条約上の双方居住者の振分けルールにかかわらず、CRS上は日本と相手国等の双方を居住地国として取り扱います。

そのため、所得税や租税条約上の最終的な居住者判定と、CRS上の報告先の考え方が一致しない場合があります。

第2章 調査官が重点的に確認するポイント

国税庁は、CRS情報を単独で見るだけではなく、国外送金等調書や国外財産調書など他の資料情報と併せて分析し、海外金融資産や海外取引の把握に活用していると公表しています。

以下は国税庁の公表資料と私の調査実務経験を踏まえた確認ポイントであり、国税庁が「CRS調査の公式重点項目」として一覧公表しているものではありません。

(1)海外口座の存在と申告所得

CRS情報上は海外金融口座が確認できるのに、確定申告書に海外の利子・配当・株式譲渡などが全く現れていない場合、その理由を確認する必要が生じます。

海外口座を持つだけで申告漏れになるわけではありません。元本の保有や日本で課税されない所得もあるため、口座情報と申告内容の差異を説明できるかが重要です。

(2)口座残高の増減

CRSでは口座の残高・価額に関する情報も報告対象となります。前年と比べて口座残高が大きく増えている場合、その増加原因が何なのかが確認事項となることがあります。

残高増加は給与、株式売却代金、相続、贈与、他口座からの資金移動などでも生じるため、増加自体が所得の申告漏れを意味するわけではありません。

(3)国外送金等調書との突合

CRSと国外送金等調書は別制度です。国外送金等調書は、日本の金融機関を通じた100万円を超える一定の国外送金・国外からの送金受領について、金融機関から税務署へ提出されます。

例えば、CRSで海外口座の存在や残高が確認でき、日本へ多額の送金をした時期が国外送金等調書で確認できれば、両者を併せて資金の流れを検討できます。

海外送金に関する税務署の把握経路は、「海外送金は税務署にどう把握される?」で詳しく解説しています。

(4)国外財産調書との整合性

その年の12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除きます)は、原則として国外財産調書の提出義務があります。

海外銀行口座や海外証券口座がCRS情報上確認できる一方で、国外財産調書に記載がない場合には、提出義務の有無や記載内容との整合性が問題となることがあります。

国外財産調書の未提出や記載漏れについては、「国外財産調書の未提出と税務調査」もあわせてご覧ください。

(5)資金の原資

CRS情報から多額の海外預金が確認された場合、そのお金がどこから生じたものかが重要になります。

国税庁は、CRS情報を端緒に資金原資を解明し、利子・配当等の投資所得の申告漏れや海外口座を利用した売上除外を把握した事例を公表しています。

私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、海外口座の調査では「口座があるかどうか」だけでなく、その残高がどのように形成されたかを時系列で説明できることが重要です。

第3章 CRSではどんな情報が日本へ送られる?

CRSでは口座の存在だけでなく、口座保有者、残高・価額、一定の収入金額等も報告対象となります。

(1)口座保有者に関する情報

主な情報は、氏名・住所、居住地国、居住地国の納税者番号(TIN)などで、制度上の要件に応じて生年月日等も利用されます。

日本を居住地国とする人について、海外の金融機関からマイナンバーの提示を求められる場合があります。国税庁も、CRSやCARFに基づく情報交換の対象情報にマイナンバーが含まれることを案内しています。

(2)口座に関する情報

口座番号などの口座を識別する情報、金融機関の情報などが報告事項となります。

令和8年からの改訂CRSでは、一定の要件を満たす新規届出書等が提出されているか、特定取引の種類、新規特定取引または既存特定取引の別、特定法人とその実質的支配者との関係など、報告事項も拡充されています。

(3)口座残高・収入に関する情報

CRSは「この人は海外に口座を持っています」という存在情報だけを交換する制度ではありません。

報告対象となる口座について、口座残高・口座価額、利子、配当、その他の金融資産の運用・保有による一定の収入、金融資産の譲渡・償還による一定の総収入金額などが報告対象となる場合があります。

海外証券口座では、年末価額に加えて金融資産の売却・償還による一定の総収入金額等も交換対象となり得ます。

ただし、CRSで報告される譲渡・償還の総収入金額は、日本の所得税法上の「譲渡所得」そのものではありません。取得価額、必要経費、日本円への換算、所得区分、居住者区分など、日本の税法に従った計算を別途行う必要があります。

第4章 どんな海外口座がCRSの対象になる?

CRSの対象は銀行預金だけではなく、報告金融機関・金融口座は幅広く定められています。

(1)銀行・証券会社等

典型的には、銀行等の預金機関、証券会社等の保管機関、一定の生命保険会社等、信託等の投資事業体などが報告金融機関となり得ます。

令和8年からは、電子決済手段等取引業者や一定の電子決済手段等の発行者なども報告金融機関等の範囲に加えられています。

(2)預金口座だけではない

金融口座には、普通預金等の預金口座、証券口座等の保管口座、一定の保険契約・年金保険契約、信託受益権等の投資持分などが含まれます。

さらに令和8年からは、一定の電子決済手段等の管理に係る契約、一定のデジタルマネーに関する契約、暗号資産等に関する一定の預託契約なども特定取引の範囲に追加されています。

したがって、「銀行預金でなければCRSとは関係ない」と考えることはできません。

(3)法人名義なら分からないとは限らない

外国法人名義の口座でも、一定の「特定法人」では実質的支配者が報告対象者かを確認し、その情報が報告対象となる場合があります。

国税庁も、外国法人名義の海外預金口座と実質的支配者の関係をCRS情報から把握した事例を公表しています。

(4)すべての国・地域、すべての口座ではない

CRSは有効な情報交換関係のある国・地域との間で行われ、100以上の国・地域が参加していますが、報告対象外の金融機関・口座・口座保有者等もあります。

米国についてはFATCAという別の制度があります。米国にある口座について、「CRSの対象ではないから日本の税務当局には確認できない」と結論付けることも適切ではありません。租税条約等に基づく要請による情報交換など、CRS以外の確認手段もあります。

第5章 海外口座を日本へ送金していなくても課税される?

CRSで海外口座が把握されるかという問題と、その所得が日本で課税されるかという問題は分けて考える必要があります。

(1)一般の居住者は原則として全世界所得が課税対象

非永住者以外の日本の居住者は、原則として国内外で生じたすべての所得について日本の所得税の対象となります。

海外銀行の利息・外国株式の配当・海外証券口座の株式売却代金を海外に置いたままでも、その理由だけで日本の課税対象外になるわけではありません。

日本へ送金したかどうかではなく、日本の居住者としてどの所得が課税対象になるかを確認します。

(2)非永住者は送金との関係が重要

一方、所得税法上の非永住者については取扱いが異なります。非永住者は、国外源泉所得について、国内で支払われたものや日本へ送金されたものなど一定の範囲が課税対象となります。

そのため、外国籍の方で非永住者に該当する場合は、「海外口座に所得がある=すべて日本で課税」と単純に判断することはできません。CRSによる情報交換の対象となることと、日本で所得税が課税される範囲は別問題です。

居住者・非居住者の基本的な判定は、「居住者・非居住者の判定基準」で詳しく解説しています。

(3)外国で税金を払っていても日本の申告を確認する

海外口座の利息や配当について、外国で税金が源泉徴収されている場合があります。しかし、外国で税金を払っていることだけを理由に、日本の申告が不要になるわけではありません。

日本でも課税対象となる場合は所得を申告し、要件を満たせば外国税額控除を検討します。

第6章 CRS情報から税務調査につながることはある?

CRS情報が日本に届いても、自動的に税務調査になるわけではありません。CRSは海外資産・所得を確認する資料情報の一つです。

(1)国税庁はCRS情報の調査活用を公表している

国税庁はCRS情報を国外送金等調書や国外財産調書などと併せて分析し、海外金融資産や所得、海外取引の把握・解明に活用しています。

国税庁レポートでは、海外口座の投資所得の申告漏れ、相続税申告漏れ、売上除外、外国法人名義口座と実質的支配者の関係などの活用事例が公表されています。

(2)CRS情報だけで申告漏れとは決まらない

例えば海外口座に1億円の残高があっても、それがその年の所得とは限りません。過去の貯蓄、相続財産、株式売却代金、自己資金の移動なども考えられます。

そのため、実際の確認では、口座の取引履歴や資金原資、過年度の申告書などを見て事実関係を整理することになります。

(3)CRSは調査の「入口」になり得る

一方、CRS情報と申告内容に大きな食い違いがある場合は、確認の入口となり得ます。

例えば、海外口座から毎年多額の利息・配当が生じているのに申告がない、海外証券口座について金融資産の譲渡・償還による多額の総収入金額が報告されているのに対応する譲渡所得等が申告されていない、といった場合です。

国外財産調書に海外口座が記載されていない場合や、海外口座の残高が大幅に増えているものの資金原資が分からない場合も、他の資料との整合性を確認する必要があります。

CRS情報そのものだけではなく、複数の情報を組み合わせたときに申告との不一致が明確になることがあります。

第7章 CRSで分からない海外資産もある?

CRSは国外財産を網羅する制度ではありません。

(1)海外不動産

外国に直接所有する土地や建物は通常CRSの「金融口座」ではなく、所在地・面積・時価などがそのままCRSで報告される制度ではありません。

ただし、不動産収入が海外銀行口座へ入金され、その口座がCRSの報告対象となっている場合には、金融口座情報が別の確認材料になることがあります。また、必要に応じて租税条約等に基づく外国税務当局への情報提供要請が行われることもあります。

(2)現物の金・美術品など

金地金、美術品、宝飾品なども通常CRSの金融口座ではありません。ただし、売却資金が海外金融口座に入れば、口座情報との関係で確認材料となる場合があります。

(3)暗号資産とCARF・改訂CRSの関係

暗号資産については、CRSとCARFを区別しつつ、両制度の関係も理解する必要があります。

CARFはCrypto-Asset Reporting Frameworkの略で、日本語では「暗号資産等報告枠組み」です。OECDが策定した、CRSとは別かつ補完的な国際基準です。

ただし、CRSとCARFが完全に切り離されているわけではありません。改訂CRSでは、暗号資産を参照するデリバティブや、暗号資産に投資する一定の投資事業体などもCRSの対象となります。

また、一定の電子マネー商品等についてはCRS側で報告する一方、CARFの対象から除外するなど、両制度の重複報告を調整する仕組みも設けられています。

したがって、「暗号資産はすべてCRSで報告される」「暗号資産はCRSとは一切関係なく、すべてCARFだけの対象になる」のいずれも正確ではありません。

日本では令和8年1月1日からCARFに対応する国内制度が施行されています。国内の暗号資産交換業者等は、令和8年分の一定の非居住者に係る暗号資産等取引情報を令和9年4月30日までに初めて税務署へ報告します。

日本は、その情報について令和9年9月末までにCARFに基づく初回の国際的な情報交換を行う予定です。

暗号資産の確定申告とCARFについては、「暗号資産の確定申告と税務調査」もあわせてご覧ください。

第8章 令和8年からCRSはどう変わった?

CRSは一度作られて終わった制度ではありません。OECDは令和4年にCRSを改訂し、日本でも令和6年度税制改正で国内制度の見直しが行われました。改正後の制度は令和8年1月1日から施行されています。

(1)デジタル金融商品等への対応

令和8年からは、電子決済手段等取引業者や一定の電子決済手段等の発行者なども報告金融機関等に加えられています。

また、一定の電子決済手段等の管理に係る契約、一定のデジタルマネーに関する契約、暗号資産、電子決済手段、一定の電子記録移転有価証券表示権利等の預託に係る契約などが特定取引の範囲に追加されています。

さらに、OECDの改訂CRSでは、暗号資産を参照するデリバティブや暗号資産へ投資する一定の投資事業体もCRSの対象となるよう見直されています。

(2)双方居住者の取扱いが変更

令和8年改正では、日本と租税条約相手国等の双方の居住者に該当する場合の取扱いも変更されています。

租税条約上の双方居住者の振分けルールによって一方の国の居住者とされる場合であっても、CRS上は日本と相手国等の双方を居住地国として取り扱います。所得税・租税条約上の居住者判定とCRS上の報告先が一致しない場合がある点は、海外を行き来する方にとって重要な変更です。

(3)報告事項も拡充

改訂CRSでは、一定の要件を満たす新規届出書等が提出されているか、特定取引の種類、新規特定取引または既存特定取引の別、特定法人とその実質的支配者との関係、一定の場合の複数人契約の別など、報告事項が拡充されています。

(4)令和8年分から新制度で収集し、令和9年に報告・交換

改正制度は令和8年1月1日から施行され、令和8年分の金融口座情報から新制度に基づいて収集されます。その情報について、令和9年に金融機関等からの報告と租税条約等に基づく国際的な情報交換が行われます。

国税庁は、令和9年1月4日以降、新しいCRS XMLスキーマに準拠した報告事項の受付を行うと案内しています。

海外口座を持つ個人が新しい確定申告書を提出する制度というより、金融機関側の確認・報告制度が拡充される改正と理解すると分かりやすいでしょう。

第9章 海外口座の申告漏れに気付いた場合

過去の海外口座所得を申告していなかった場合、CRSでどこまで把握されているかを推測するより、実際の所得と申告状況を年分ごとに整理することが先です。

(1)海外口座の明細を取得する

年間取引明細、利息・配当明細、証券口座の売買履歴、外国で徴収された税金の資料などを集めます。

過年度の明細取得には時間がかかる場合があります。

(2)日本の居住者区分を年ごとに確認する

海外口座に所得があっても、日本で課税される範囲はその年の居住者区分によって異なります。

特に、海外赴任中だった年、日本へ帰国した年、外国籍で非永住者に該当する年については、単純にすべての海外所得を申告すればよいわけではありません。

(3)修正申告・期限後申告を検討する

日本で申告すべき所得が漏れていた場合は、修正申告や期限後申告を検討します。

申告漏れがあったからといって、直ちに重加算税になるわけではありません。重加算税では、課税の基礎となる事実について隠蔽または仮装があったかが重要になります。

加算税の取扱いは、国税通則法上の調査通知を受ける前か、調査通知後で更正等を予知する前か、更正等を予知した後かなどによって異なる場合があります。

「海外口座だから分からないだろう」と放置するのではなく、申告内容に不安がある場合は、資料を集めて早めに確認することが重要です。

よくある質問

Q1. 海外銀行口座を持っているだけで日本の税務署に分かりますか?

CRSの報告対象となる外国金融口座で、口座保有者の居住地国に日本が含まれ、有効な情報交換関係がある場合には、外国税務当局を経由して日本の国税庁へ情報が提供されることがあります。ただし、世界中のすべての海外口座が一律にCRSで報告されるわけではありません。

Q2. 日本へ一度も送金していない海外口座もCRSの対象ですか?

はい。CRSは日本への送金を条件とする制度ではありません。一定の外国金融口座について、口座保有者の居住地国を基に情報交換が行われます。日本への送金の有無とCRS報告の有無は別問題です。

Q3. CRSでは海外口座の残高だけでなく利息や配当も分かりますか?

報告対象となる金融口座については、口座残高・価額に加え、利子・配当等の年間受取総額や、金融資産の運用・保有・譲渡・償還による一定の収入金額等が報告対象となります。ただし、CRS情報だけで日本の課税所得がそのまま確定するわけではありません。

Q4. CRS情報が税務署に届くと税務調査になりますか?

CRS情報の受領だけで、すべての口座保有者に税務調査が行われるわけではありません。国税庁は、CRS情報を国外送金等調書や国外財産調書など他の資料情報と併せて分析し、海外資産や所得の把握に活用しています。

Q5. 海外証券口座で株式を売却した情報も日本へ送られますか?

報告対象となる保管口座等では、金融資産の譲渡・償還による一定の総収入金額が報告対象となる場合があります。ただし、これは日本の所得税法上の譲渡益そのものではありません。取得価額や為替換算などを含め、日本の税法に従って譲渡所得等を別途計算します。

Q6. 過去の海外口座の利息・配当・売却益を申告していませんでした。どうすればよいですか?

まず海外金融機関から過年度の明細を取得し、年ごとの居住者区分、利息・配当・売却履歴、外国税額などを整理します。その上で日本で申告すべき所得を計算し、必要に応じて修正申告や期限後申告を検討します。

まとめ:CRS情報と日本の課税関係は分けて確認する

CRSにより、日本の税務当局は一定の海外金融口座について、外国税務当局から口座保有者、残高、利子・配当等の情報を受け取ります。日本への送金の有無とは別の制度です。

一方で、CRSは世界中のすべての財産・口座を報告する制度でもなく、CRS情報があるだけで所得税の申告漏れが確定するものでもありません。

税務上は、居住者区分、海外口座で生じた所得、日本での申告範囲、国外財産調書等との整合性を分けて確認します。

令和8年からは改訂CRSが施行され、デジタル金融商品等や双方居住者への対応が拡充されました。暗号資産には別かつ補完的なCARFも始まっています。

海外口座の保有自体ではなく、その口座から生じた所得や保有財産について必要な申告を行うことが重要です。過去の申告漏れがある場合は、CRSでの把握状況ではなく本来の申告内容を確認して対応を検討してください。

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引用・参考文献

  • 国税庁「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報(CRSコーナー)」
  • 国税庁「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度について(令和8年1月1日以降用)」
  • 国税庁「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度FAQ(令和8年9月改訂版)」
  • 国税庁「報告事項の提供方法等(CRS)」
  • 国税庁「租税条約等に基づく情報交換」
  • 国税庁「国税庁レポート2026」
  • 国税庁「国税庁レポート2024 CRS情報の活用事例」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2010「納税義務者となる個人」
  • 国税庁 タックスアンサー No.7456「国外財産調書の提出義務」
  • 国税庁「暗号資産等報告枠組み(CARF)に基づく自動的情報交換に関する情報」
  • 国税庁「国税庁レポート2025」
  • 財務省「令和6年度税制改正の大綱」
  • 財務省「令和6年度税制改正の解説 国際課税関係の改正」
  • OECD「International Standards for Automatic Exchange of Information in Tax Matters」
  • OECD「Amendments to the Common Reporting Standard」

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)

税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。

共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。