非居住者に税務調査は来る?|海外移住・出国時の注意点を元国税調査官が解説
著者:市田佳祐(元大阪国税局 国税OB税理士)
「海外に移住したのに日本の税務署から連絡が来た。もう関係ないはずでは」
「日本に残したマンションの家賃は、どちらの国で申告すべきか分からない」
「出国時に手続が必要だったと後から知った。間に合うのか」
海外にお住まいの方や移住・出国を予定している方から、このようなご相談をいただくことがあります。「非居住者になれば日本の税金と無関係」と考える方は少なくありませんが、日本国内に所得の源泉が残っていれば課税は続き、「本当に非居住者なのか」という入口の判定自体が調査で争点になることがあります。
この記事では、大阪国税局の資料調査課で国際課税に従事していた税理士が、非居住者にも調査が及ぶ場合、調査官が居住実態をどう見るか、出国前後で問題になりやすい論点と対応を解説します。
結論:非居住者でも国内源泉所得には調査が及ぶ。そして「非居住者かどうか」自体が争点になる
先に結論をお伝えします。非居住者であっても、日本国内にある不動産の賃料や売却益などの国内源泉所得には日本の所得税が課され、申告漏れがあれば税務調査の対象になります。調査は納税管理人を通じた確認や資料の提出依頼という形で進みます。さらに実務上重要なのは、「そもそも非居住者と言えるのか」という居住者判定そのものが調査の争点になる点です。形式的に住民票を抜いて出国していても、生活の本拠が日本にあると認定されれば、日本の居住者として課税関係が判断されます。特に、非永住者以外の居住者に該当する場合には、全世界の所得が日本の課税対象となります。すでに税務署から連絡が来ている方や、出国時の手続に不安がある方は、国際課税の調査対応の経験がある税理士への早めの相談をおすすめします。
この記事でわかること
- 非居住者でも日本の税務調査の対象になる場合(国内源泉所得の範囲)
- 調査官が「本当に非居住者か」をどう判定するか(★内側視点)
- 出国時・出国後に問題になりやすい論点(国外転出時課税・不動産の源泉徴収・居住者認定)と正しい備え
1. 非居住者でも日本の税務調査の対象になる場合
所得税法上、国内に住所を有するか、引き続き1年以上居所を有する個人が「居住者」、それ以外が「非居住者」です(所得税法第2条第1項第3号・第5号)。非居住者は、国内源泉所得についてのみ日本で課税されます(タックスアンサーNo.2010)。
国内源泉所得の代表例は、国内不動産の賃貸料や譲渡による所得、国内勤務の給与、内国法人からの配当などです。つまり、海外に移住しても、日本にマンションを残して貸していれば、その家賃収入には日本の所得税がかかり、原則として日本での確定申告が必要です。申告がなければ、無申告として指摘の対象になります。
非居住者には、日本国内での納税手続を代行する納税管理人の制度があり(国税通則法第117条、タックスアンサーNo.1923)、調査の連絡や資料の確認は納税管理人や関与税理士を通じて行われるのが一般的です。納税管理人を定めていない場合でも、書面や関係者への確認を通じて調査は進み、帰国のタイミングで接触が行われることもあります。海外にいることは、調査が行われない理由にはなりません。そもそもどのような人が調査に選ばれやすいかは、税務調査の確率の記事で詳しく解説しています。なお、国内源泉所得の課税方法は、所得の種類、恒久的施設の有無、租税条約の適用関係によって異なるため、個別確認が必要です。
2. 調査官は「本当に非居住者か」をどう見るか:元国税調査官の視点
非居住者に関する調査で、金額的に最も影響が大きいのが居住者判定です。非居住者なら国内源泉所得だけが課税対象ですが、居住者と認定されれば課税範囲が大きく変わります。特に、非永住者以外の居住者に該当する場合には、海外の事業所得や投資利益を含む全世界所得が日本の課税対象となります。課税範囲が一変する入口のため、当局はここを重点的に確認する傾向があります。
判定の軸は「住所=生活の本拠」がどこにあるかです。生活の本拠かどうかは、住民票の有無ではなく客観的事実で判定されます(タックスアンサーNo.2012)。判定基準の全体像は居住者・非居住者の判定の記事で整理していますので、ここでは調査で確認される事実に絞ります。次のような事実が総合的に見られます。
(1)滞在日数と出入国の記録
出入国記録は当局が確認できる客観資料です。「海外に住んでいる」と説明していても、日本での滞在が長期に及んでいれば、その前提から確認されます。ただし、滞在日数だけで機械的に決まるものではありません。
(2)家族・住まい・資産の所在
配偶者や子どもが日本で生活している、いつでも住める自宅が維持されている、主要な資産や事業の拠点が日本にある。こうした事実は、生活の本拠が日本に残ることをうかがわせます。
(3)職業と収入の源泉
収入の大半が日本国内の事業や取引から生じている場合、職業活動の拠点がどこかもあわせて確認されます。
私が資料調査課(国税局で大口事案・悪質事案を担当する部署。通称「料調」)で国際課税に関する調査事務に従事していた経験から言えば、居住者判定が問題になる事案では、本人の説明よりも先に、出入国記録・家族の生活状況・資金の流れといった周辺事実が積み上げられていました。「住民票を抜いたから非居住者」という形式論は、実務では通用しません。逆に言えば、生活の本拠が本当に海外に移っているなら、それを裏づける客観的事実(現地の住居・家族の帯同・活動拠点)の整理が何よりの備えになります。
3. 出国の年に問題になりやすい論点:確定申告と国外転出時課税
出国する年の所得税には、特有の手続があります。年の途中で非居住者になる場合、出国の時までに納税管理人の届出をしていれば、その年1月1日から出国日までの居住者期間の所得と、出国後その年12月31日までの国内源泉所得を合わせて、通常の申告期限(翌年3月15日)までに申告します。一方、納税管理人の届出をせずに出国する場合は、出国の日までに、原則としてその年1月1日から出国日までの所得について準確定申告を行う必要があります。なお、出国後に国内源泉所得が生じる場合には、別途、翌年の確定申告が必要になることがあります(タックスアンサーNo.1926)。
さらに、株式や投資信託などの有価証券等を合計1億円以上所有する一定の方には、国外転出時課税(いわゆる出国税)が適用されます。国外転出の時に対象資産を譲渡したものとみなし、実際に売却していなくても含み益に所得税が課される制度です(タックスアンサーNo.1478)。対象は、対象資産の価額の合計が1億円以上で、かつ出国前10年以内に国内に5年を超えて住所または居所を有していた方です。納税管理人の届出、申告書への記載、一定書類の添付、担保提供などにより納税猶予を受けられる制度もあります。ただし、国外転出時までに納税管理人の届出を行う必要があるなど、出国前からの準備が前提になります。制度を知らずに出国し、後から指摘される事例もあります。
4. 日本に残した不動産:賃料と売却の源泉徴収
海外移住後も日本の不動産を貸し続けるケースは多く、誤解が集中する論点です。非居住者が受け取る国内不動産の賃料は、借主が法人などの場合、支払の際に20.42%の税率で源泉徴収されます(タックスアンサーNo.2880。借主が個人で自己・親族の居住用に借りる場合は不要)。源泉徴収されていても申告が不要になるわけではなく、不動産所得は原則として確定申告で精算します。「源泉されているから終わり」という誤解や、源泉徴収も申告もないままの状態は、申告漏れとして指摘されやすい典型です。
不動産を売却した場合も、譲渡対価の10.21%が買主による源泉徴収の対象になり(タックスアンサーNo.2879。譲渡対価1億円以下で買主が個人の自己・親族居住用の場合を除く)、譲渡所得は翌年の確定申告で精算します(タックスアンサーNo.1932)。源泉徴収は前払いであり、申告義務は残ります。
5. 出国後も続く日本での取引:居住者と認定されやすいパターン
出国後の状況によっては、非居住者のつもりでも居住者側に引き戻されることがあります。問題になりやすいのは次のパターンです。
第1に、日本の取引先との事業を出国後も実質的に日本で続けているケースです。帰国のたびに長期滞在して業務を行っている、事務所や在庫が日本に残っているといった事実があると、生活の本拠や事業の拠点が日本にあると見られる余地が生じます。第2に、家族を日本に残したままの単身出国です。それ自体で居住者になるわけではありませんが、生計の中心が日本に残っている事情として考慮されます。第3に、日本の口座・証券口座に居住地変更を届け出ないまま使い続けているケースです。事実関係の整理がつかず、調査での説明に苦労する原因になります。
6. 海外にいても把握される仕組み:CRSと各種調書
「海外の情報まで日本の当局に分かるのか」も、誤解されやすい前提です。日本はCRS(共通報告基準)により、多数の国・地域と金融口座情報を自動的に交換しています。CRS参加国・地域の金融機関にある日本居住者の報告対象口座については、残高や利子・配当等の情報が、各国税務当局を通じて日本の国税当局に提供される仕組みです。加えて、100万円超の国外送金・受金は国外送金等調書として金融機関から税務署に提出され、租税条約に基づく個別の情報交換も行われています。
また、出国の年の申告状況、その後の送金記録、不動産の賃料や売却の支払調書といった情報も蓄積され、申告との不整合があれば接触の端緒になります。海外にいることは、把握されにくくなることを意味しません。むしろ国境をまたぐ資金の動きは、記録の残りやすい取引と言えます。海外資産がどのように把握され、どのような調査につながるかは、富裕層の税務調査の記事でも詳しく解説しています。
7. 調査の連絡が来た場合の対応と、してはいけないこと
税務署から連絡があった場合、まず確認すべきは、対象となる税目・年分と、何についての確認なのか(居住者判定なのか、特定の所得の申告漏れなのか)です。そのうえで、出入国記録、日本と現地の住まい・家族・仕事の状況、日本に残る資産と収入の一覧、現地の申告状況を整理してください。居住者判定が絡む事案では、事実関係の整理の質が結論を左右します。
してはいけないのは、慌てて曖昧な説明をすることと、事実と異なる説明で取り繕うことです。説明は質問応答記録書などの形で記録され、後の判断に影響することがあります。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも整理しましたが、記録内容が事実と乖離していないかの確認は調査対応の基本です。国をまたぐ事実関係は複雑だからこそ、専門家と整理してから説明に臨んでください。
8. 出国前・出国後の正しい備え
これから出国する方は、(1)納税管理人の届出、(2)出国年の申告方法の確認、(3)有価証券等が1億円以上ある場合の国外転出時課税の検討、(4)日本に残す不動産・口座の取扱いの整理、の4点が出国前の基本です。すでに出国済みの方は、日本に残る所得の申告状況と、居住実態を裏づける資料(現地の住居・滞在記録・家族の状況)の整理が基本です。申告漏れに気づいた場合は、調査の連絡前に自主的な期限後申告や修正申告を行うことで、加算税が軽減される余地があります(詳しくは確定申告をしないとどうなるかの記事をご覧ください)。迷う場合は、国際課税に対応できる税理士への相談が近道です。
よくある質問
Q1. 海外在住の非居住者にも、日本の税務調査は本当に来るのですか?
A. 来ることがあります。非居住者でも、日本国内の不動産収入などの国内源泉所得には日本の所得税が課されるため、申告漏れがあれば調査の対象になります。調査は納税管理人や関与税理士を通じた確認、書面での資料依頼、帰国時の接触などの形で行われます。
Q2. 住民票を抜いて出国すれば、非居住者になれますか?
A. 住民票だけでは決まりません。居住者か非居住者かは、生活の本拠がどこにあるかを、滞在日数・家族や住まいの状況・職業・資産の所在などの客観的事実で総合的に判定します。形式的に住民票を抜いていても、生活の実態が日本にあると認定されれば、日本の居住者として課税関係が判断されます。特に、非永住者以外の居住者に該当する場合には、全世界の所得が日本の課税対象となるため、実態の整理が重要です。
Q3. 日本に残したマンションの家賃は、源泉徴収されていれば申告不要ですか?
A. 申告は原則として必要です。借主が法人などの場合は賃料の20.42%が源泉徴収されますが、これは前払いであり、不動産所得は確定申告で精算します。必要経費を反映すれば還付になる場合もあります。源泉徴収も申告もないままの状態は、申告漏れとして指摘されやすい典型です。
Q4. 国外転出時課税(出国税)とはどのような制度ですか?
A. 株式などの対象資産を合計1億円以上所有し、出国前10年以内に国内に5年を超えて住所等を有していた方が国外転出する場合、対象資産を譲渡したものとみなして含み益に所得税が課される制度です。実際に売却していなくても課税される点が特徴で、納税管理人の届出や担保の提供などの手続により納税猶予を受けられる場合があります。
Q5. 海外の口座や収入まで、日本の税務署に分かるものですか?
A. 分かる仕組みがあります。日本はCRS(共通報告基準)により多数の国・地域と金融口座情報を自動的に交換しており、日本居住者の報告対象口座については、国外の口座残高や利子・配当等の情報が提供されることがあります。加えて、100万円超の国外送金・受金は国外送金等調書として金融機関から税務署に報告されます。居住者判定が争点になる事案では、出入国記録や資金の流れなどの客観資料が重視されるため、「海外だから分からない」という前提で判断しないことが重要です。
Q6. 海外在住ですが、日本の税務署から連絡が来ました。帰国せずに対応できますか?
A. 多くの場合、納税管理人や税理士を通じて対応できます。まず連絡の内容(税目・年分・確認事項)を正確に把握し、出入国記録や資産・収入の一覧を整理したうえで、対応方針を決めてから説明に臨むことをおすすめします。当事務所でも、海外在住の方のオンラインでのご相談に対応しています。
まとめ:非居住者の税務は「出国して終わり」ではない
非居住者になっても、日本国内に所得の源泉が残っていれば日本の課税と調査は続きます。「本当に非居住者か」という入口の判定自体が、生活の本拠という実態で争われる論点です。出国時は納税管理人の届出・出国年の申告・国外転出時課税の確認、出国後は日本に残る不動産や口座の申告の整合が備えの基本です。
CRSや各種調書により、国境をまたぐ資金の動きは記録に残りやすい時代です。すでに税務署から連絡を受けた方、出国前後の手続や申告に不安のある方は、国際課税の調査に従事した経験のある税理士へ早めにご相談ください。
税務調査の連絡が来た方、申告に不安がある方へ
当事務所は、元大阪国税局の国税OBの税理士が対応します。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
非居住者・海外在住の方に限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁タックスアンサーNo.2010(納税義務者となる個人)、No.2012(居住者・非居住者の判定)
- 国税庁タックスアンサーNo.1478(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)、No.1923(海外勤務と納税管理人の選任又は解任)
- 国税庁タックスアンサーNo.2880(非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき)、No.2879(非居住者等から土地等を購入したとき)、No.1932(海外勤務中に不動産を売却した場合)
- 国税庁タックスアンサーNo.1926(海外勤務中に不動産所得などがある場合)、No.2878(国内源泉所得の範囲)
- 国税通則法第117条(納税管理人)、所得税法第2条(定義)
- 国税庁「CRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)の自動的情報交換」に関する公表資料
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外送金等調書)
- 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

