国税局から税務調査の連絡が来たら|税務署の調査との違いを元資料調査課OBが解説
著者:市田佳祐(元大阪国税局 国税OB税理士)
「税務署ではなく、国税局から税務調査の連絡が来た。何が違うのか」
「調査官の名刺に『資料調査課』とある。初めて聞く部署で不安だ」
「顧問税理士も国税局の調査は経験がないと言っている。誰に相談すればいいのか」
税務調査の連絡は、そのほとんどが所轄の税務署から来ます。だからこそ、「国税局」を名乗る調査官が現れたとき、多くの方が戸惑います。結論から言えば、国税局が直接行う調査は、税務署の調査とは選ばれ方も体制も異なります。そして、その担当部署としてよく登場するのが「資料調査課」です。
この記事では、大阪国税局の資料調査課に在籍し、調査事務に従事していた税理士が、国税局の調査と税務署の調査の違い、査察(マルサ)との違い、連絡が来たときの対応を解説します。ネット上には資料調査課を外側から解説した記事はありますが、この記事は在籍していた立場から、公表資料に基づき正確にお伝えするものです。
結論:国税局の調査は「規模と深度が違う任意調査」。初動対応で結果が変わる
先に結論をお伝えします。国税局(資料調査課など)の調査は、映画のような強制捜査ではなく、法律上は税務署の調査と同じ任意調査です。ただし、対象として選ばれるのは大口・複雑・広域といった事案が中心で、複数の調査官がチームで臨み、事前の資料検討の深さも税務署の一般的な調査とは異なります。とくに資料調査課の調査では、事案の内容によっては、無予告で始まることがあります。慌てて曖昧な説明をしたり、資料を隠したりすることが最も結果を悪くします。連絡または来訪があった段階で、国税局の調査対応の経験がある税理士に早く相談することをおすすめします。
この記事でわかること
- 資料調査課とは何か:国税組織の中での位置づけと、調査を受ける事案の特徴
- 税務署の調査・査察(マルサ)との違い(在籍していた立場からの整理)
- 国税局から連絡が来たときにしてはいけないことと、正しい初動対応
1. 資料調査課とは:国税組織のどこにいる部署か
国税の組織は、国税庁を頂点に、全国11の国税局及び沖縄国税事務所、その下に置かれる税務署(全国524署)という階層で構成されています。納税者と日常的に接するのは税務署で、税務調査の大多数も税務署の職員が行います。
国税局は本来、管内の税務署を指導・監督する立場ですが、国税局が直接調査を行う場合もあり、その調査には課税部・調査部など複数の系統があります。その中で、個人・資産・中小法人等に関する大口・困難事案で登場することがある代表的な部署の一つが資料調査課です。資料調査課は、資料情報の収集・分析や、大口・複雑・困難な事案の調査に関与する部署であり、税務署だけでは対応が難しい事案で登場することがあります。「資料調査課」という名称は、この資料情報の収集・分析の役割から来ています。
2. どのような事案に資料調査課の調査が来るのか
私が大阪国税局の資料調査課に在籍し、調査事務に従事していた経験から言えば、資料調査課の調査は「たまたま選ばれる」ものではありません。着手の前提として、取引資料や申告内容の分析が相応に積み上がっています。公表されている国税組織の役割分担と、実務の感覚を合わせて整理すると、対象になりやすいのは次のような事案です。
- 規模の大きい事案:申告漏れが多額に見込まれる個人・法人。富裕層や高額所得者を含みます
- 複雑な事案:関係法人や親族間の取引が絡む、国際取引や海外資産が関係するなど、解明に専門性を要するもの
- 広域の事案:複数の税務署の管轄をまたいで事業や資産が展開されているもの
- 資料情報との不突合が大きい事案:税務署・国税局に蓄積された取引資料と申告内容の開きが大きいもの
裏を返せば、国税局から連絡が来た時点で、「何も把握されていない」という前提は成り立ちにくいということです。この点は、対応方針を考えるうえで最初に押さえておくべき事実です。
3. 税務署の調査との違い:体制・深度・期間
法律上の位置づけは同じ任意調査で、調査の手続も国税通則法に基づく点は変わりません。違いは運用の規模と深度にあります。一般的に、次のような差があります。
- 体制:税務署の個人課税の調査は1〜2名で行われることが多いのに対し、国税局の調査は複数の調査官がチームで臨みます
- 深度:着手前の資料検討に時間をかけ、臨場後も取引先や金融機関への反面調査を組み合わせて事実関係を検証します(関連記事:反面調査)
- 期間:数か月から、事案によっては半年以上に及ぶことがあります
- 着手の仕方:事前通知が原則ですが、通知することで帳簿書類の破棄・隠匿等のおそれがあると認められる場合には、法律上、無予告で調査が行われることがあります(国税通則法第74条の10。関連記事:無予告調査)
この着手の仕方については、補足しておくべき実務があります。私が資料調査課に在籍していた当時の経験から言えば、事前の資料検討で仮装・隠蔽の可能性が視野に入っている事案では、証拠保全の観点から無予告での着手が選択されることがあり、経験上、そのような事案は少なくありませんでした。突然の来訪であっても、その場で税理士に連絡し立会いを求めることは可能ですので、慌てて一人で対応を始めないことが重要です。
なお、遡及される期間についても意識が必要です。実務上、調査はまず3年分程度から確認されることがありますが、法律上は更正・決定の期間制限として原則5年があり、偽りその他不正の行為があると判断されれば最長7年分まで及ぶことがあります(国税通則法第70条。関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説)。国税局が扱う事案では、後者まで視野に入れた検討が行われる傾向があります。
4. 査察(マルサ)との違い:告発が目的の強制調査とは別物
「国税局が来た=マルサ」と混同されがちですが、資料調査課と査察部(マルサ)は目的も権限も異なる別の部署です。
査察調査は、裁判所の許可状(令状)に基づいて行われる強制調査で、悪質な脱税者の刑事責任を追及し、検察庁への告発を目的とします。国税庁「令和7年度 査察の概要」(令和8年6月公表)によると、令和7年度に検察庁へ告発された件数は全国で82件、脱税額(告発分・加算税額を含む)は約84億円、1件当たりの脱税額は1億200万円でした。令和7年度の告発件数が全国で82件にとどまっていることからも分かるとおり、査察はごく限られた悪質・多額の事案に対するものです。
これに対し、資料調査課の調査は令状に基づかない任意調査であり、目的は刑事告発ではなく、適正な課税(申告漏れの是正と追徴課税)です。任意とはいえ、調査官には法律上の質問検査権があり、正当な理由なく帳簿書類等の提示・提出を拒むと罰則の対象となることがあります。一方で、査察調査のように、同意なく捜索・差押えが行われることはありません。国税局からの連絡に動揺する必要はありませんが、軽く考えてよいものでもない、というのが正確な位置づけです。
5. 調査はどのように進むか
おおまかな流れは、①着手(事前通知または無予告での臨場)、②実地調査(事業や資産の概況の聴き取り、帳簿書類・データの確認)、③裏付けの検証(取引先・金融機関等への反面調査、追加資料の依頼)、④指摘事項の提示と見解のやり取り、⑤修正申告の勧奨または更正処分、という順序です。
税務署の調査と枠組みは同じですが、②と③に投入される人員と時間が違います。複数の調査官が分担して同時並行で確認を進めるため、その場しのぎの説明は、別の資料との矛盾としてすぐに表面化します。事実は事実として正確に答え、確認しないと分からないことは「確認して回答します」と留保する。この基本を守れるかどうかが、調査の着地を大きく左右します。
6. 質問応答記録書には特に注意する
国税局の調査では、納税者の説明内容を書面に残す「質問応答記録書」が作成されることが少なくありません。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、この書類は、仮装・隠蔽の有無、つまり重加算税(原則として、過少申告の場合35%、無申告の場合40%)の賦課や7年遡及の判断に用いられる重要な証拠書類です。
読み聞かせと署名を求められた際は、記載内容が実際の事実関係や自分の説明と食い違っていないかを一言一句確認し、違う部分は訂正を求めてください。その場の雰囲気で曖昧なまま署名することは避けるべきです(関連記事:質問応答記録書)。
7. 連絡が来たときにしてはいけないこと
初動でやってしまいがちな行動のうち、結果を確実に悪くするものを挙げます。
- 資料の破棄・改ざん・隠匿:発覚すれば仮装・隠蔽と評価され、重加算税や7年遡及につながるおそれがあります。さらに、悪質・多額の事案では、査察事案として問題視される可能性も否定できません
- その場しのぎの虚偽の説明:チーム調査では別ルートの資料と突き合わされ、矛盾は記録に残ります
- 連絡の放置:対応を先延ばしにしても調査は止まらず、心証と選択肢を失うだけです
- 一人で抱え込むこと:国税局の調査は、対応経験の有無で進め方が大きく変わります。早い段階で経験のある税理士に相談してください
逆に、やるべきことはシンプルです。通知の内容(対象税目・期間)を正確に控え、帳簿・通帳・契約書などの資料をそのままの状態で整理し、税理士と方針を決めてから調査に臨むことです。
8. 顧問税理士の先生方へ:関与先に国税局の調査が入った場合
この記事は、税理士の先生が読まれていることも想定しています。関与先に資料調査課の調査が入ったものの、国税局対応の経験がなく進め方に迷う、というご相談は珍しくありません。
当事務所では、顧問契約を引き継ぐことなく、調査対応に限ったセカンドオピニオンや立会いの応援という形でのご依頼もお受けしています。調査を行う側の実務を経験した立場から、指摘事項の見通し、質問応答記録書への対応、修正申告と更正の分岐点の検討など、関与先と先生の負担を減らすお手伝いができます。守秘義務の範囲で状況をお聞かせください。
9. よくある誤解を整理する
最後に、国税局の調査についてよくある誤解を3つ正しておきます。第一に、「国税局が来た=犯罪者扱い」ではありません。前述のとおり任意調査であり、申告の適正性を確認・是正する手続です。第二に、「大企業しか対象にならない」わけではありません。個人でも、規模や複雑さ、資料情報との不突合によっては対象になります。第三に、「もう何をしても無駄」ではありません。事実関係の正確な整理と根拠のある主張によって、指摘の範囲や加算税の判断が変わる余地は十分にあります。初動から専門家と組んで、冷静に対応してください。
よくある質問
Q1. 国税局から連絡が来ました。税務署の調査と何が違うのですか?
A. 法律上はどちらも任意調査で手続の枠組みは同じですが、国税局の調査は大口・複雑・広域といった事案が対象で、複数の調査官によるチーム体制、深い事前検討、長めの調査期間という運用面の違いがあります。連絡が来た時点で相応の資料検討が済んでいると考え、初動から慎重に対応してください。
Q2. 資料調査課の調査は拒否できますか?
A. 任意調査ですが、調査官には法律上の質問検査権があり、正当な理由なく帳簿書類等の提示・提出を拒むと罰則の対象となることがあります。一方で、査察調査のように、同意なく捜索・差押えが行われることはありません。日程の都合が悪い場合の調整の申し出などは可能ですので、拒否ではなく、税理士と相談したうえでの適切な対応をおすすめします。
Q3. マルサ(査察)とは違うのですか?
A. 別の部署です。査察は裁判所の令状に基づく強制調査で、刑事告発を目的とします。令和7年度に全国で告発された件数は82件で、ごく限られた悪質・多額の事案が対象です。資料調査課の調査は令状に基づかない任意調査で、目的は適正な課税です。ただし、調査への対応を誤り悪質と判断されれば、重加算税などの重い結果につながることはあります。
Q4. 無予告で調査官が来ることはありますか?
A. あります。事前通知が原則ですが、通知により帳簿書類の破棄・隠匿等のおそれがあると認められる場合には、法律上、無予告での調査が認められています(国税通則法第74条の10)。資料調査課の調査でも、事案の内容によっては無予告で始まることがあります。無予告で来られた場合も、その場で税理士に連絡し、立会いを求めることは可能です。慌てて曖昧な説明をしないことが大切です。
Q5. 調査はどのくらいの期間かかりますか?
A. 事案によりますが、税務署の一般的な調査より長くなる傾向があり、数か月から半年以上に及ぶこともあります。対象期間も、法律上は原則5年、偽りその他不正の行為があると判断されれば最長7年分まで広がることがあります。長丁場を見据えて、資料と主張の整理を早めに始めることをおすすめします。
Q6. 顧問税理士がいますが、国税局の調査対応だけを依頼できますか?
A. 可能です。顧問契約はそのままで、調査の立会いやセカンドオピニオンのみをスポットでお受けしています。税理士の先生からの応援のご依頼にも対応しています。調査を行う側にいた経験を踏まえ、指摘の見通しと対応方針の整理をお手伝いします。
まとめ:国税局の調査は「準備された調査」。だからこそ初動で専門家を
国税局(資料調査課)の調査は、令状に基づく強制調査ではなく任意調査ですが、対象の選ばれ方、チーム体制、事前検討の深さが税務署の一般的な調査とは異なります。連絡が来た時点で相応の資料が積み上がっていると考えるのが安全であり、資料の破棄や虚偽の説明といった初動の誤りが、重加算税や長期遡及という形で最も高くつきます。
正確な事実整理と根拠のある主張で対応すれば、結果を変えられる余地は十分にあります。国税局から連絡を受けた方、無予告で調査官の来訪を受けた方、関与先への調査対応に迷われている税理士の先生は、資料調査課の実務を経験した税理士にご相談ください。
税務調査の連絡が来た方、申告に不安がある方へ
当事務所は、元大阪国税局の国税OBの税理士が対応します。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
国税局の調査に限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁「令和7年度 査察の概要」(令和8年6月公表・執筆時点の最新版)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2026/sasatsu/r07_sasatsu.pdf - 国税庁ウェブサイト「国税庁の機構」(国税局・税務署の役割)
- 国税通則法第70条(国税の更正、決定等の期間制限)、第74条の2(質問検査権)、第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)、第74条の10(事前通知を要しない場合)
- 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

