整骨院・接骨院に税務調査は来る?|自費施術の現金売上を元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官/大阪国税局 資料調査課 出身)

「保険請求はきちんとしているが、自費メニューの現金管理には自信がない」
「回数券の売上をいつ計上すべきか、分からないまま来てしまった」
「近隣の院に税務調査が入ったと聞いた。うちは大丈夫だろうか」

整骨院・接骨院・整体院の税務には、他業種にない特徴があります。それは、収入の一部(保険施術)について、療養費支給申請書=レセプトや保険者からの入金記録という第三者資料が残るという点です。調査する側から見れば、保険側は申告額との照合が比較的しやすい部分であり、確認の照準は自然と、記録が院内にしか残らない自費施術と窓口の現金に絞られていきます。「保険はきちんとしているから大丈夫」という安心と、調査で見られる場所は、ずれていることが多いのです。

この記事では、大阪国税局の資料調査課で調査事務に従事していた税理士が、整骨院・接骨院・整体院の調査のポイントを、自費・窓口現金、回数券の計上時期、消費税の区分の論点ごとに解説します。

結論:保険側はレセプト等で照合しやすい。調査の軸は「自費・窓口現金」と記録の整合

先に結論をお伝えします。整骨院・接骨院の税務調査の軸は、(1)自費施術と窓口負担金の現金売上が漏れなく計上されているか、(2)回数券などの計上処理が正しいか(個人と法人で取扱いが異なります)、(3)保険(非課税)と自費(課税)が区分され消費税の判定が正しいか、の3点です。保険施術は療養費支給申請書や保険者からの入金記録という第三者資料により照合が比較的しやすいため、そこと予約表・施術録・日計表を突き合わせれば、自費側の計上漏れは浮かびやすい構造にあります。日計表と回数券台帳を毎日つけ、施術録・予約・売上・申告の整合を保つことが最大の備えです。過去分に不安があれば、実地調査に係る調査通知を受ける前の自主的な是正で、加算税の負担を抑えられる余地があります。

この記事でわかること

  • 整骨院・接骨院・整体院の収入の3区分と、売上計上の基本(レセプト未入金分の扱い)
  • 調査官が重点的に確認するポイント:自費・窓口現金と院内記録の突き合わせ(★内側視点)
  • 回数券・消費税の区分の注意点と、調査の連絡が来た場合の対応・正しい備え

1. 収入の3区分と売上計上の基本:レセプトの未入金分も当年の売上

整骨院・接骨院(柔道整復師)の収入は、大きく3つに分かれます。第1に保険施術です。骨折、脱臼、打撲、捻挫などに対する施術は、一定の要件の下で療養費の対象となり(骨折・脱臼は緊急時を除きあらかじめ医師の同意が必要です)、受領委任の取扱いにより、患者からは窓口で自己負担分を受け取り、残りは施術者が患者に代わって保険者へ請求します(厚生労働省の公表による制度の枠組み)。第2に自費施術。保険対象外の施術や整体・骨盤矯正などのメニューです。第3にサポーター等の物販。なお、柔道整復師の資格によらない整体院・リラクゼーションサロンの通常の施術収入は、全額が自費施術収入に当たります。

売上計上で注意すべきは時期です。保険者からの療養費の入金はレセプト提出後になりますが、所得税では入金の有無ではなく、収入すべき権利が確定した時点で収入計上するのが原則です。施術を行い対価を収入すべき権利が確定した分は、年末までの施術分であれば入金前でも原則として当年の売上(売掛金)に計上します(所得税について現金主義の特例を適法に選択している小規模な青色申告者を除きます)。12月施術分のレセプトを翌年入金時の売上にしていると、期ズレとして指摘されやすい典型です。個人事業一般の帳簿の考え方は個人事業主・フリーランスの税務調査の記事もご覧ください。

2. 調査官はどこから見るか:保険側の照合から自費の現金へ:元国税調査官の視点

私が資料調査課(国税局で大口事案・悪質事案を担当する部署。通称「料調」)で調査事務に従事していた経験から言えば、収入の一部について第三者資料が残る業種の検討は、資料のある側を照合してから、残りの部分に確認を進めるのが基本の順序でした。整骨院に当てはめると、次の流れになります。

(1)保険側の照合:レセプトと申告の一致

療養費の請求額と保険者からの入金は、申告された保険収入と突き合わせできます。ただし、請求額がそのまま確定するとは限らず、審査による返戻・減額・不支給が生じる場合があるため、入金記録との照合が基本になります。ここが整合していれば保険側の確認は早く進み、合っていなければ(先述の期ズレを含めて)その理由から確認が始まります。

(2)自費・窓口現金:院内の記録との突き合わせ

本丸は自費側です。手掛かりになるのは院内に残る記録で、予約表・予約アプリの履歴、施術録、日計表、レジやキャッシュレス決済の記録が、申告された自費売上と整合しているかが確認されます。たとえば、施術録や予約の件数から見える来院数に対して自費売上が不自然に少ない、キャッシュレス決済の入金だけで申告売上の大半を説明できてしまう(=現金分が計上されていない疑い)、といったずれです。「現金だから分からない」は、施術の記録が残るこの業種では通用しません。

(3)お金の流れと生活水準

事業口座と生活費の関係、申告所得に見合わない支出も、他業種と同様に確認されます(口座の見られ方は税務調査と通帳の記事で解説しています)。なお、療養費の請求内容そのものの適正は保険制度側の問題であり、本記事では税務の範囲に絞りますが、施術録と請求・申告の整合が問われる点は共通です。

3. 論点①自費施術と窓口負担金の現金管理

自費売上の計上漏れが生じやすいのは、記録の習慣が整っていない院です。窓口負担金と自費施術の代金が同じレジに混在し、日計表がなく、月末にまとめて記帳している。この状態では、本人にも正確な売上が分からず、調査での説明はさらに困難になります。対策はシンプルに、毎日の日計表(保険の窓口分・自費・物販を区分)と、レジ・決済端末の記録の保存です。キャッシュレス比率が上がった今、決済会社の入金記録は第三者側に残る資料であり、現金分だけが薄い申告は、比率の不自然さとして表れます。

4. 論点②回数券・プリペイドの計上時期

自費メニューで多い回数券・プリペイドは、税務上の論点になりやすい部分です。回数券の税務処理は、個人事業者か法人か、また回数券が税務上の「商品引換券等」に該当するかによって異なります。法人では、原則として施術の提供に応じて収益計上します(発行時を収益計上の基準としてあらかじめ定め、継続適用する処理が認められる場合もあります)。一方、個人事業者では、商品引換券等の発行対価は原則として発行した年の総収入金額に算入され、施術時まで計上を繰り延べるには、発行年ごとの区分管理や税務署長の確認、継続適用など所定の要件があります。なお、未使用分を無期限に繰り延べることはできません。法人では、原則として発行日から10年が経過した場合、有効期限が到来した場合、発行年度別の管理をしなくなった場合又はあらかじめ定めた合理的な基準に達した場合に、未使用分を収益計上します。個人事業者が税務署長の確認を受けて施術時に収入計上する場合も、原則として発行年以後4年を経過した年又はそれ以前に有効期限が到来した場合の所定の年に、未使用分を収入計上します。また消費税では、回数券が物品切手等に該当する場合、販売自体は非課税で、実際に施術を提供した時に課税関係が生じるため、所得の計上時期とは分けた整理が必要です。券の内容や契約条件を確認しないままの自己流の処理は、調査で整理を求められる典型です。いずれの場合も、回数券台帳(販売・消化・残高)を設けて期末に残高を確認する運用が、正確な処理の前提になります。

5. 論点③経費とスタッフへの支払

経費側では、自宅兼院の家賃・水道光熱費の按分(面積など合理的基準と根拠)、技術セミナーや研修費の事業関連性、家族への給与の実態が確認されやすいポイントです。また、勤務する柔道整復師やセラピストへの支払を「外注費」として処理している場合、給与か外注費かは、他人による代替の可否・業務上の指揮監督の有無・報酬の計算方法・材料や器具の負担関係などを総合して判定されます。固定給が中心で、勤務時間や施術方法について強い指揮監督を受けている場合には、他の事情も総合して実態が給与と判断される可能性があり、源泉所得税の納付漏れを指摘されることがあります。名目ではなく実態で判断される点に注意してください。

6. 消費税:保険は非課税・自費は課税。区分がすべての前提

消費税では、保険施術に係る収入(保険者からの療養費・窓口の自己負担分とも)は社会保険医療の給付等として非課税で、自賠責や労災による施術収入も非課税とされます。一方、自費施術と物販は課税対象です。したがって、保険施術に係る非課税売上は課税売上高に含まれず、消費税の納税義務は、原則として基準期間である前々年の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかなど(特定期間の課税売上高等による判定もあります)で判定されます。インボイス登録をしている場合には、基準期間の課税売上高にかかわらず納税義務が免除されません。保険と自費を帳簿上区分していないと、課税売上高の正確な判定が困難になります。なお、資格によらない整体院の通常の施術収入は原則として課税売上となるため、判定ラインに達しやすい点にも注意が必要です。

7. 調査の連絡が来た場合の対応と、してはいけないこと

税務署から連絡が来たら、まず実地調査の事前通知なのか、行政指導としての「お尋ね」なのかを確認し、対象の税目・年分を控えてください。そのうえで、レセプトの控え・日計表・予約表・施術録・回数券台帳・通帳・決済記録を年分ごとに揃えます。記録間に食い違いが見つかっても、後から日計表を作り直したり、つじつま合わせの説明をしたりしてはいけません。事実と異なる記録の作成は、税務上の仮装・隠蔽の評価につながりかねない行為です。記帳漏れや単純ミスなら、その事実のまま整理して説明する方が結果は良くなります。

調査での説明内容については、事案に応じて質問応答記録書が作成され、重加算税の判断等に用いられることがあります。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも整理しましたが、記録される内容が事実と乖離していないかの確認は調査対応の基本です。現金の多い業種こそ、説明の前に税理士と事実関係を整理することをおすすめします。

8. 正しい備え:日計表・回数券台帳・過去分の点検

備えは3つです。第1に、日計表の習慣化。保険の窓口分・自費・物販を分けた毎日の記録が、売上の網羅性を裏付ける基礎資料になります。第2に、回数券台帳と期末残高の確認。第3に、過去分の点検です。税務署が更正・決定を行うことのできる期間は原則として法定申告期限から5年(偽りその他不正の行為により税額を免れた場合などには7年)です(税務調査は何年分さかのぼる?)。自費売上の計上漏れや期ズレに気づいたら、実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に対応すれば、修正申告であれば原則として過少申告加算税は課されず、期限後申告でも無申告加算税は原則5%に軽減されます(延滞税は別途生じます)。どのような状態だと調査に選ばれやすくなるかは税務調査の確率の記事も参考にしてください。

よくある質問

Q1. 整骨院・接骨院には税務調査が来やすいのですか?

A. 「来やすい業種」と決まっているわけではありませんが、窓口の現金と自費施術という、計上漏れが生じやすい構造上の論点を持つ業種です。一方で、レセプト・予約表・施術録という記録が豊富に残るため、申告との不整合は突き合わせで検証しやすく、日々の記録と申告の整合が取れていれば説明できる調査でもあります。

Q2. 保険請求は正しくやっています。それでも調査で見られるのですか?

A. 見られます。むしろ保険側は療養費支給申請書や入金記録という第三者資料により照合が比較的しやすいため、確認の中心は自費施術と窓口現金の計上に移ります。「保険がきちんとしている」ことと「自費側の記録が整っている」ことは別の問題ですので、日計表や決済記録で自費売上を説明できる状態にしておくことが重要です。

Q3. 12月に施術した保険分の入金は翌年です。売上はいつ計上すればよいですか?

A. 施術した年の売上に計上するのが原則です。所得税では入金の有無ではなく収入すべき権利が確定した時点で計上するため、年末までに施術し対価の権利が確定した分は、入金前でも原則として当年の売上に含めます(現金主義の特例を適法に選択している場合を除きます)。入金日基準で記帳していると期ズレとして指摘されやすいので、年末分の未入金レセプトの拾い漏れに注意してください。

Q4. 回数券の売上は、売った時と使われた時のどちらで計上しますか?

A. 個人事業者か法人かで原則が異なります。法人は原則として施術の提供に応じて収益計上しますが、個人事業者では、税務上の商品引換券等に該当する回数券の発行対価は原則として発行した年の収入となり、施術時まで繰り延べるには所定の要件があります。販売・消化・残高が分かる回数券台帳を設けたうえで、ご自身の処理が要件に合っているかを税理士に確認してください。

Q5. 保険と自費で消費税の扱いが違うと聞きました。どう違うのですか?

A. 保険施術に係る収入(療養費・窓口の自己負担分)や自賠責・労災の施術収入は非課税で、自費施術と物販は課税対象です。保険施術に係る非課税売上は課税売上高に含まれないため、帳簿上で保険と自費を区分していることが判定の前提になります。資格によらない整体院の通常の施術収入は原則として課税売上となるため、判定ラインに達しやすい点にも注意が必要です。

Q6. 自費売上の計上漏れに気づきました。調査が来る前にできることはありますか?

A. あります。実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば、原則として過少申告加算税は課されません。無申告の年分がある場合も、自主的な期限後申告なら無申告加算税は原則5%に軽減されます(延滞税は別途生じます)。日計表・決済記録・レセプト控えから過去分を整理し、迷う場合は税理士に相談してください。

まとめ:レセプト等で照合しやすい「保険側」より、記録が薄い「自費側」が見られる

整骨院・接骨院・整体院の税務調査は、第三者資料で照合しやすい保険側の確認から始まり、自費施術と窓口現金の計上、回数券の処理、保険と自費の区分(消費税)へと進みます。予約表・施術録という業種固有の記録が残る以上、「現金だから分からない」は成り立たず、逆に日計表と回数券台帳の習慣があれば、記録は自らの申告を裏付ける味方になります。過去分に不安がある方は、調査通知を受ける前の自主的な是正という選択肢があるうちに動いてください。

記録の整え方や過去分の是正の進め方に迷う場合は、現金取引の多い業種の調査対応の経験がある税理士にご相談ください。

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引用・参考文献

  • 厚生労働省「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」(受領委任の枠組み)
  • 厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項」(医師の同意等)
  • 消費税法第6条・別表第二第6号(社会保険医療の給付等の非課税)、消費税法基本通達6-6-1〜6-6-3(医療の給付等関係)
  • 所得税基本通達36・37共-13の2(商品引換券等の発行に係る収入金額)、法人税基本通達2-1-39・2-1-39の2(商品引換券等の収益の帰属の時期)
  • 国税庁タックスアンサーNo.6229(商品券やプリペイドカードなど)、No.2200(収入金額とその計算)
  • 国税庁タックスアンサーNo.6125(国内取引の納税義務者)、No.2024(確定申告を忘れたとき)、No.2026(確定申告を間違えたとき)
  • 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
  • 国税通則法第65条(過少申告加算税)、第66条(無申告加算税)、第68条(重加算税)、第70条(更正・決定の期間制限)
  • 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。