非上場株式の評価方法が変わる?|自社株と事業承継への影響を税理士が解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「非上場株式の評価方法が変わると聞いたが、自社株はいくらになるのか」
「数年以内に子どもへ会社を承継する予定だが、見直し前に株式を移した方がいいのか」
「役員退職金やオペレーティングリースなど、これまでの株価対策は今後も有効なのか」
非上場会社の株式、いわゆる「自社株」の相続税・贈与税上の評価方法について、大きな見直しが検討されています。
国税庁は令和8年4月から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催しており、9月16日の第6回会議では、新しい評価方法として検討されている「残余利益方式」の具体的な計算方法や評価水準の試算まで示しました。令和8年9月20日時点では見直し内容は確定しておらず、第6回会議の議事要旨も作成中です。
私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、現在は税理士として相続・事業承継を含む税務相談に対応しています。この記事では、現行制度と現在の見直し方向を整理し、事業承継を考える会社が今確認しておきたい点を解説します。
結論:今確認すべきなのは「現在の株価」と「見直しによる影響」
今回の見直しでは、一般の評価会社について、大会社・中会社・小会社という会社規模ごとの評価体系を廃止し、会社規模にかかわらず残余利益方式を基本とする方向で議論が進んでいます。
一方、第6回資料の試算では、残余利益方式による評価額が現行評価額より高くなる会社と低くなる会社の両方があります。「見直し前に贈与した方がよい」「見直し後まで待った方がよい」と一律に判断することはできません。
事業承継を数年以内に予定している場合には、まず現行制度による自社株評価を行い、そのうえで現在の検討資料を前提に影響を試算し、承継時期や方法を検討することが重要です。
なお、本記事でいう「株価」は、主として相続税・贈与税の計算に使用する財産評価基本通達上の評価額を意味します。M&Aにおける売買価格や、株式売買における税務上の時価とは別の問題です。
この記事でわかること
- 現在の非上場株式の評価方法
- なぜ評価方法の大幅な見直しが検討されているのか
- 残余利益方式と国税庁の1,378社試算の内容
- 役員退職金・オペレーティングリースなどの株価対策への影響
- 事業承継を予定している会社が今確認すべきこと
第1章 現在の非上場株式はどのように評価するのか
現在の非上場株式の相続税・贈与税上の評価は、単純に会社の決算書上の純資産を株数で割って求めるものではありません。
まず、株式を取得する人が同族株主等に該当するか、それ以外の株主に該当するかによって評価方法が分かれます。同族株主等が取得する株式については、一般の評価会社であれば会社規模を大会社・中会社・小会社に区分し、原則として会社規模に応じた評価方法を使用します。
(1)大会社:類似業種比準方式
大会社は原則として類似業種比準方式により評価します。類似業種比準方式では、類似する上場会社の株価を基礎として、評価会社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額(簿価)を類似業種と比較して株価を計算します。
(2)小会社:純資産価額方式
小会社は原則として純資産価額方式により評価します。会社が保有する土地、有価証券などの資産や負債を原則として相続税評価額に洗い替え、そこから負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いて評価します。
(3)中会社:類似業種比準価額と純資産価額を併用
中会社は、会社規模に応じて類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせます。現在の制度では、会社規模が大きいほど類似業種比準価額を使う割合が大きくなる仕組みです。
(4)特定の評価会社や少数株主は別の取扱い
土地や株式を多く保有する会社、開業後3年未満の会社などは「特定の評価会社」として、一般の会社とは異なる方法で評価される場合があります。
また、同族株主等以外の一定の株主については、会社規模にかかわらず配当還元方式が用いられます。今回検討されている残余利益方式についても、「すべての非上場株式が同じ方法になる」という段階ではありません。
第2章 なぜ今、非上場株式の評価方法が見直されているのか
今回の見直しの背景には、現在の評価方式によって生じている評価水準の差があります。
会計検査院は令和5年度決算検査報告で取引相場のない株式の評価を検査し、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の27.2%となっていることを指摘しました。
さらに、純資産価額に対する実際の申告評価額の割合の中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍となっており、会社規模が大きい区分ほど純資産価額に比べて申告評価額が低くなる状況が確認されています。
会計検査院は、会社規模による評価の公平性や社会経済の変化を考慮し、評価制度をより適切なものとするよう検討する必要があると指摘しました。国税庁は、この指摘も踏まえて令和8年4月に有識者会議を設置しています。
第3章 会社規模別の評価体系を見直し、残余利益方式を基本とする方向
今回の議論は、類似業種比準方式の算式を一部修正する程度のものではありません。
第5回会議では、これまでの議論を踏まえた見直しの方向として、会社規模による評価方式の区分を廃止し、広い範囲の一般の評価会社を共通した方法で評価する方向が示されています。
また、企業の将来の収益力に着目するインカム・アプローチを主軸とし、その具体的な方法として残余利益方式を基本に検討する方向が示されています。
ただし、第5回資料も「仮に残余利益方式を採用した場合」という前提で検討しています。現時点で「類似業種比準方式の廃止が決まった」「残余利益方式への変更が決まった」と説明することはできません。
(1)残余利益方式の考え方
残余利益方式は、簡単にいうと「会社が現在持っている簿価純資産」に、「通常期待される利益を上回る、または下回る部分」を加減して株式価値を計算する考え方です。
考え方を単純化すると、ある年の残余利益は「利益-簿価純資産×還元率」と整理できます。実際の利益が通常期待される利益を上回ればプラスの残余利益となり、下回ればマイナスになります。
そのため、多額の純資産を保有していても、それに見合う利益を上げていない会社では、残余利益がマイナスになる可能性があります。
(2)第6回では具体的な算式まで検討
第6回会議では、将来利益について恣意的な事業計画を使うのではなく、過去の利益実績を基礎とする方向が示されています。
具体的には、過去5年間の利益を基礎として将来利益を予測し、一時的・非経常的な損益が含まれている場合には「正常利益」へ補正する考え方が検討されています。
第6回資料の試算では、残余利益の加算期間を5年、還元率を8%と仮定しています。還元率や斟酌率(しんしゃく率)は決定された数字ではなく、第7回以降も検討される予定です。
第4章 国税庁の1,378社試算では、大会社と小会社で結果が大きく違う
第6回資料では、実際の相続税・贈与税申告データを利用した試算が示されました。
対象は、令和2年分から令和5年分までの相続税・贈与税の申告から無作為に抽出された評価会社のうち、類似業種比準価額と純資産価額の両方を算出している1,378社です。内訳は、大会社128社、中会社820社、小会社430社です。
加算期間を5年、還元率を8%、斟酌率を0.8と仮定した場合、純資産価額を100とした評価水準の中央値は次のとおりです。
| 会社規模 | 現行申告評価額 | 残余利益方式による試算 | 現行申告評価額との比較 |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 38.2 | 63.8 | +71.7% |
| 中会社 | 53.4 | 59.2 | +12.1% |
| 小会社 | 63.8 | 50.5 | ▲21.8% |
中央値ベースでは、大会社の評価水準が大きく上昇する一方、小会社では低下する結果となっています。
ただし、同じ斟酌率0.8の試算でも、残余利益方式による評価額が現行の申告評価額以下となった会社の割合は、大会社24.2%、中会社42.2%、小会社67.9%です。
大会社でも約4社に1社は現行申告評価額以下となり、反対に小会社でも約3社に1社は現行申告評価額を上回ります。会社規模だけで「上がる会社」「下がる会社」を分けることはできません。
第5章 1,378社試算を「自社の見直し後株価」と考えてはいけない
第6回資料の1,378社試算は、現在検討されている残余利益方式を個々の会社について完全に再現したものではありません。
試算では、申告時の類似業種比準価額の計算に使用された1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額など、利用可能な既存データを使っています。
したがって、法人税申告書を基礎として過去5年間の正常利益を算定するという現在検討中の方法を、そのまま全1,378社に適用した結果ではありません。完全子会社株式の修正などの個別調整事項も試算にはすべて織り込まれていません。
また、還元率8%、加算期間5年、斟酌率0.8も試算上の仮定です。
そのため、自社の現行評価額が1億円だから「大会社なら1億円×1.717になる」といった計算はできません。今回の試算から読み取れるのは、評価方法を変えると会社によって影響の方向も大きさも相当異なる可能性があるということです。
第6章 事業承継では「現在の株価」と「見直し影響」の両方を見る
事業承継を予定している会社では、現在の自社株評価だけを計算して終わりでは足りなくなる可能性があります。
今後は、①現行制度による自社株評価、②現在検討されている残余利益方式を前提とした影響試算、③株価が上昇した場合と下落した場合の承継方法、まで確認しておくことが重要です。
(1)現行制度では株価はいくらなのか
まず必要なのは現在の株価です。会社規模、株主区分、利益、配当、純資産、土地や有価証券の含み益、子会社株式の有無などを確認し、現在の財産評価基本通達による評価額を計算します。
(2)「見直し後株価」ではなく、複数条件で影響を試算する
現時点では、還元率や斟酌率などが確定していません。一つの数字を「見直し後の株価」として提示するより、条件を変えた場合に評価額がどの程度動くかを見る方が実務的です。
現在の評価額より大幅に高くなる場合、大きく変わらない場合、低くなる場合を比較することで、事業承継のタイミングを検討するための材料が増えます。
(3)株価だけで承継方法を決めない
自社株の評価額が低いからといって、すぐに株式をすべて後継者へ移転することが適切とは限りません。
贈与、売買、相続時精算課税、適用可能な事業承継税制、議決権を移す時期、先代経営者の生活資金、他の相続人とのバランスなども一緒に検討する必要があります。
第三者への株式譲渡も選択肢となる場合には、M&Aの売却益とミニマムタックスもあわせて確認してください。
第7章 これまでの「株価対策」はどうなるのか
今回の見直しでは、評価算式だけではなく、現在の評価制度を利用した株価圧縮への対応も検討されています。
(1)会社規模を変える対策
第4回資料では、会社規模を変更することで類似業種比準方式の適用割合を高め、株価を圧縮する事例が示されています。具体例では、従業員の転籍によって中会社から大会社へ変わり、併用方式から類似業種比準方式へ移行しています。
仮に会社規模による評価方式の区分そのものが廃止されれば、このような対策は前提が変わることになります。
(2)オペレーティングリース
第4回資料では、中古航空機のオペレーティングリースによって短期間に多額の減価償却費を計上し、利益と純資産を減らした時点で株式を移転する事例が示されています。
第6回では、課税時期現在に存在するオペレーティングリースについて、そのリースがなかった状態に損益や純資産を引き直して評価する案が検討されています。この案が採用されれば、一時的な損失を利用した株価圧縮の効果は現在より限定される可能性があります。
(3)役員退職金
役員退職金についても注意が必要です。現在検討されている方法では、評価前に一時的に発生した多額の役員退職慰労金について、将来も継続して発生する費用ではないものとして、正常利益を計算する際に利益へ加算し直す方向が示されています。
一方、すでに会社から支払われた退職金まで純資産へ戻す案ではありません。退職金による一時的な利益減少を収益力の低下として反映させる部分と、実際に会社から資金が流出して純資産が減少する部分を分けて考える必要があります。
(4)直前期だけ利益を落とす対策
現在検討されている残余利益方式では、将来利益を過去の利益実績から推計する方向です。さらに、一時的・非経常的な損益については正常利益へ補正する考え方が示されています。
そのため、株式を移転する直前の1期だけ大きな損失を計上する方法については、株価への影響が現在より限定される可能性があります。
第8章 数年以内に事業承継を考えている会社が今やること
見直し内容が決まっていない段階で、慌てて株式を移転する必要はありません。一方、制度が確定するまで何も確認しないと、準備期間が不足する可能性があります。
(1)現在の自社株評価を行う
まず、現行制度で自社株がいくらなのかを把握します。決算書の純資産だけではなく、会社規模、株主区分、保有資産などを確認する必要があります。
(2)過去5年程度の決算・申告内容を整理する
現在検討されている方式では、過去数年間の利益実績が重要な資料になります。法人税申告書、決算書、配当の状況、役員報酬・役員退職金、一時的な損益、子会社株式、土地や有価証券などの保有資産を整理しておくと、影響を検討しやすくなります。
(3)見直しの影響を幅で見る
現在の議論を前提に試算する場合でも、一つの株価を出して終わりにするのではなく、還元率や斟酌率などの条件を変えて確認することが重要です。
(4)承継方法とタイミングを検討する
影響が大きそうであれば、生前贈与、売買、相続時精算課税、事業承継税制、役員退職金、株主構成の整理などを含めて検討します。
不動産を多く保有するオーナー会社では、自社株だけでなく不動産の保有形態も相続税に影響します。関連する論点は、不動産オーナーの法人化と相続税対策でも解説しています。
第9章 評価方法はいつ変わるのか
令和8年9月20日時点では、具体的な見直し内容や適用開始日は確定していません。
第6回会議までに残余利益方式の具体的な論点が検討されていますが、還元率、斟酌率、純資産価額方式、特定の評価会社、少数株主に対する配当還元方式など、今後検討される項目が残っています。
また、経済産業省は令和9年度税制改正要望として「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」を提出しています。ただし、税制改正要望に掲載されたことと、要望どおりの制度が成立・施行することは別です。
したがって、現時点で「令和9年から残余利益方式になる」と適用時期を断定することはできません。今後の有識者会議、税制改正プロセス、国税庁から公表される通達等を確認する必要があります。
よくある質問
Q1. 見直し前に自社株を後継者へ贈与した方がよいですか?
一律には判断できません。第6回資料の試算でも、残余利益方式による評価額が現行評価額より高くなる会社と低くなる会社があります。まず現行制度による自社株評価を行い、そのうえで現在検討されている方式による影響を確認してから、贈与時期を検討する必要があります。
Q2. 大会社は評価方法が変わると株価が上がりますか?
大会社で評価額が上昇する可能性はありますが、会社ごとに結果は異なります。第6回資料では、加算期間5年、還元率8%、斟酌率0.8という仮定で、大会社の評価額の中央値は現行申告評価額の中央値より71.7%高い結果となりました。一方、試算対象の大会社の24.2%は現行申告評価額以下でした。
Q3. 小会社なら見直し後まで待った方が有利ですか?
会社ごとの確認が必要です。第6回資料では、小会社の中央値は現行より低くなりましたが、小会社のすべてで評価額が下がったわけではありません。利益、純資産、配当などによって結果が異なります。
Q4. 役員退職金による株価対策は使えなくなりますか?
現時点では、そのように決まっていません。現在の検討では、一時的な退職金による利益減少を正常利益の計算上加算し直す一方、すでに会社から流出した退職金について純資産を元に戻さない考え方が示されています。そのため、従来と効果の出方が変わる可能性があります。
Q5. 今の段階で見直し後の自社株価を計算できますか?
確定した「見直し後株価」を計算することはできません。還元率、斟酌率、個別調整などがまだ確定していないためです。一方、第6回までに公表された検討資料を前提として、複数の条件を置き、現在の株価からどの程度動く可能性があるかを試算することはできます。
Q6. 自社株評価を依頼する場合、どのような資料が必要ですか?
一般的には、直近数年分の法人税申告書・決算書、株主名簿、会社の資産内容が分かる資料などを確認します。現在の見直しによる影響まで検討する場合には、過去数年間の利益や配当、一時的な損益、子会社株式などの状況も確認する必要があります。
まとめ:制度が決まるのを待つだけではなく、現在の株価を把握する
非上場株式の評価については、現在の会社規模別の評価体系を大きく見直し、一般の評価会社について残余利益方式を基本とする方向で検討が進んでいます。
第6回資料の1,378社試算では、中央値ベースで、大会社の評価水準が大きく上昇する一方、小会社では低下する結果が示されました。しかし、この試算は将来の制度をそのまま適用したものではなく、還元率や斟酌率も未確定です。同じ会社規模でも評価額が上がる会社と下がる会社があります。
事業承継を考える際に重要なのは、「見直し前と見直し後のどちらが有利か」という一般論ではありません。まず現行制度による自社株評価を行い、そのうえで現在の検討内容を当てはめた場合の影響を幅を持って確認し、贈与、売買その他の承継方法や実行時期を検討することです。
自社株の承継とあわせて相続税調査への備えも確認したい方は、「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁 No.4638「取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」
- 国税庁「第4回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料」
- 国税庁「第5回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料」
- 国税庁「第6回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料」
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告 第4 相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」
- 財務省「令和9年度税制改正要望(経済産業省)」
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
