個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?
著者:市田佳祐(税理士・国税OB)
「自分くらいの規模の個人事業主に、税務調査なんて来るのだろうか」
「フリーランスでも税務調査の対象になるのか、もし来たら何をされるのか不安だ」
「経費の付け方や売上の計上に、内心少し自信がない」
開業して数年が経ち、売上もそれなりに立ってきた個人事業主・フリーランスの方から、こうしたご不安の声をいただきます。脱税をしているつもりはないけれど、確定申告は自己流または会計ソフト任せで、「本当にこれで大丈夫なのか」と漠然とした不安を抱えている、という方は少なくありません。
結論からお伝えすると、個人事業主・フリーランスにも税務調査は来ます。「法人や大きな会社が対象で、自分のような小規模の個人には関係ない」という思い込みは、正確ではありません。一方で、過度に恐れる必要もありません。日頃から正しく備えておけば、税務調査は決して怖いものではないからです。
この記事では、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、個人事業主・フリーランスに税務調査が来る実態、対象に選ばれやすい人の特徴、調査の流れ、指摘されやすいポイント、そして今からできる備えについて、内側の視点で淡々と整理します。脱税の手口や経費のごまかし方をお伝えするものではなく、正しく備えて、安心して事業を続けるための記事です。
この記事でわかること
- 個人事業主・フリーランスに税務調査が来る実態(件数・率の考え方)
- 調査の対象に選ばれやすい人の特徴
- 税務調査の流れと、何年分・何を見られるか
- 今からできる備えと、来てしまったときの初動
1. 個人事業主・フリーランスに税務調査は来るのか
(1) 法人より「率」は低いが、件数では個人も多く調査されている
まず実態をお伝えします。個人事業主に対する実地調査の「率」は、法人に比べると低い傾向があります。しかし、「率が低い」ことと「来ない」ことは、まったく別の話です。
国税庁が公表した「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」によれば、所得税に関する調査等(実地調査と簡易な接触の合計)の件数は73.6万件です。このうち、税務署職員が事業所等に臨場して確認する実地調査は約4.7万件、文書・電話による連絡や来署依頼による面接などの簡易な接触は約68.9万件です。
なお、この統計は事業所得者だけに限ったものではなく、所得税に関する個人全体の調査等を示すものです。それでも、実地調査だけで毎年数万件、簡易な接触まで含めれば数十万件規模で、個人に対する税務署の接触が行われていることがわかります。「自分のような個人には来ない」という前提は、成り立たないのです。
また、見落とされがちですが、「実地調査」という形をとらなくても、税務署から文書・電話・来署依頼などで申告内容の確認を求められる「簡易な接触」は、件数としては実地調査の十数倍にのぼります。所得税の調査等全体は前年の60.5万件から73.6万件へ、簡易な接触は前年の55.8万件から68.9万件へ増加しています。実地調査という本格的な調査だけが、税務署との接点ではないのです。
(2) 売上規模が小さくても対象になるケース
「売上がそれほど大きくないから対象外だろう」と考える方もいますが、これも正確ではありません。税務署は、売上の大小だけで調査対象を選んでいるわけではないからです。
たとえば、売上規模が小さくても、申告内容に不自然な点がある場合や、無申告が続いている場合、特定の資料情報から申告漏れが疑われる場合などには、調査の対象となり得ます。赤字申告であっても、その内容に疑問があれば調査対象から外れるわけではありません。
(3) 開業後どれくらいで来やすいか
「開業したばかりだから、しばらくは来ないだろう」と考える方もいます。確かに、開業初年度から調査が入るケースは多くはありません。しかし、開業から数年が経過し、申告実績が複数年分積み上がってきた頃に調査が入るケースがあります。目安として、開業から3年〜5年程度のタイミングで連絡が来ることもあります。
これは、税務署が複数年分の申告内容を比較し、売上の伸びや経費の変動などを分析した上で調査対象を選ぶためです。「数年は大丈夫」という油断は禁物です。
また、開業から数年が経つと、取引先の数や売上が増え、それに伴って申告内容も複雑になります。複雑になるほど、誤りや判断に迷う部分も生じやすくなります。事業が軌道に乗ってきた時期こそ、申告内容を丁寧に見直しておくことが大切です。
2. 税務調査の対象に選ばれやすい個人事業主の特徴
調査する側の視点でお伝えすると、税務調査の対象は、無作為に選ばれているわけではありません。申告内容や各種の資料情報を分析した上で、「確認の必要性が高い」と判断された納税者が選ばれます。近年は、AIも活用しながら、収集した資料情報や申告書を分析して調査対象を抽出する取組みが進んでいます。次のような特徴があると、対象になりやすい傾向があります。
(1) 売上が伸びているのに申告内容が不自然
売上が順調に伸びているのに、所得(もうけ)がほとんど増えていない、あるいは経費ばかりが急増している、といった申告は、不自然と見られやすくなります。売上と利益のバランスが業種の実態と合わない場合、確認の対象となりやすいといえます。
(2) 無申告・期限後申告が続いている
確定申告をしていない、あるいは期限後申告が常態化している場合は、特に注意が必要です。無申告は、税務署が最も問題視する状態の一つです。
(関連記事:確定申告をしないとどうなるか|元国税調査官が無申告のリスクと対応を解説)
(3) 経費の割合が業種平均から外れている・私的経費の混入
税務署は、業種ごとのおおよその経費水準を把握しています。同じ業種の中で経費の割合が極端に高い場合、その内容に私的な支出が混じっていないかが確認されやすくなります。
自宅兼事務所の家賃、家族との飲食、私用にも使う車両費など、事業とプライベートの線引きがあいまいな経費は、特に指摘を受けやすいポイントです。
(4) 現金商売・ネット取引など把握されやすい業種
現金でのやり取りが多い商売や、ネットを通じた取引は、近年とくに税務署が注目している分野です。決済情報やプラットフォームからの資料情報などを通じて、申告内容との突合が行われています。
(関連記事:YouTuber・インフルエンサーの確定申告と税務調査)
(関連記事:せどり・転売の無申告が税務署にバレる仕組み)
3. 税務調査の流れ(個人の場合)
(1) 事前通知の電話が来る
税務調査は、原則として事前通知から始まります。税務署から納税者に対して、調査開始日時・場所・対象税目・対象期間などが電話などで通知されます。税務代理人である税理士が関与している場合には、税理士にも通知されるのが通常です。
この事前通知への対応は、その後の調査全体に影響します。電話口でその場で日程を即答せず、落ち着いて対応することが重要です。
(関連記事:税務調査の事前通知が来たら|日程変更・延期と初動対応を国税OB税理士が解説)
(2) 当日は何を・何年分見られるか
調査当日は、税務署職員が事業所や自宅を訪問し、帳簿・元帳・領収書・請求書・通帳などを確認します。事業の概要や日々の業務の流れについて、質問を受けることもあります。
さかのぼって確認される期間は、法律上は原則として5年分までが一つの目安になります。ただし、所得を意図的に隠すなど、偽りその他不正の行為があると判断された場合には、7年分までさかのぼって更正・決定が行われる可能性があります。
調査は、1日で終わることもあれば、複数日に及ぶこともあります。当日に確認しきれなかった事項については、後日、追加の資料提出を求められたり、税務署から質問を受けたりすることもあります。調査官は、帳簿の数字だけでなく、事業の実態や日々の業務の流れについても確認し、申告内容と矛盾がないかを見ています。
(3) 調査後の流れ(修正申告・加算税)
調査の結果、申告内容に誤りが見つかった場合は、修正申告を行うか、税務署による更正処分を受けることになります。これに伴い、過少申告加算税や延滞税などが課されます。
さらに、所得を意図的に隠していたなど隠蔽・仮装が認められる場合には、重い負担となる重加算税が課されることがあります。
(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説)
4. 調査で特に指摘されやすいポイント
(1) 売上の計上漏れ・期ズレ
調査で最も基本的に確認されるのが、売上の計上です。とくに、年末から年明けにかけての売上が、正しい年度に計上されているか(期ズレがないか)は、必ずといってよいほど確認されます。入金ベースで売上を計上してしまい、実際に収入すべき時期とずれているケースは、よく見られる指摘事項です。
たとえば、12月に仕事が完了して請求書を出したのに、入金が翌年1月だったため翌年の売上にしてしまう、というのは典型的な誤りです。所得税では、収入すべき時期は取引の内容や契約関係などによって判定されますが、フリーランスの業務委託などでは、原則として役務提供が完了し、収入すべき権利が確定した時点で売上計上を検討する必要があります。意図的でなくても、こうした期ズレは申告漏れとして指摘されるため、注意が必要です。
(2) プライベートと事業の経費の線引き
個人事業主の調査で頻出するのが、経費の線引きです。事業に関係する支出かどうかが問われます。家事関連費(自宅家賃・光熱費・通信費など)については、事業で使っている割合を合理的に説明できるかがポイントになります。
「なんとなく経費にしていた」というものは、説明を求められたときに困ることになります。日頃から、事業との関連を意識して記録しておくことが大切です。
(3) 消費税・インボイス関連
所得税だけでなく、消費税も調査の対象になります。とくに、インボイス制度の開始後は、課税事業者になった個人事業主が増えており、消費税の申告内容も確認されます。経過措置の適用などで誤りが生じやすい部分でもあります。
(関連記事:インボイス2割特例の期限と3割特例の新設|経過措置の見直しを解説)
5. 税務調査に備えて今からできること
(1) 帳簿・領収書・通帳の整え方
税務調査で最も基本となるのは、帳簿・領収書・通帳がきちんと整理されていることです。日々の取引を正確に記帳し、領収書や請求書を保存しておくことが、何よりの備えになります。
会計ソフトを使っている場合も、銀行口座やクレジットカードと連携させ、記帳漏れがないようにしておくと安心です。「後でまとめて」ではなく、日々こまめに整えておくことが、いざというときの負担を大きく減らします。
なお、帳簿や領収書などの書類には、法律で定められた保存期間があります。青色申告の場合、帳簿や決算関係書類は原則7年間の保存が必要です(その他の取引関係書類は5年間など、書類の種類によって5年・7年の区分があります)。調査では過去5年分(悪質な場合は7年分)が確認されるため、少なくともその期間の書類は、すぐに取り出せる状態で保管しておくことが重要です。
(2) 迷ったら早めに専門家へ(自主的な見直しのすすめ)
「この経費は認められるのか」「売上の計上時期はこれでよいのか」と迷う点があれば、調査を待つのではなく、早めに税理士に相談して自主的に見直しておくことをお勧めします。誤りに気づいた時点で自主的に修正申告をすれば、調査を受けてから指摘されるよりも、ペナルティを抑えられます。
(関連記事:税務署から「お尋ね」が届いたら|無視のリスクと対応を解説)
(3) 来てしまったときの初動(あわてない・嘘をつかない・一人で抱えない)
実際に税務調査の連絡が来たときに大切なのは、次の3つです。
- あわてない:事前通知の電話でその場で日程を即答せず、落ち着いて対応する
- 嘘をつかない:その場しのぎの説明は、かえって不利になる。事実を整理して正確に伝える
- 一人で抱えない:早めに税務調査経験のある税理士に相談し、対応方針を一緒に考える
調査の現場では、納税者の説明内容が記録され、後の判断に影響することがあります。私自身、共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)でも整理しましたが、初動の対応が結果を左右することは少なくありません。
6. よくある質問
Q1. 赤字でも税務調査は来ますか?
来る可能性はあります。赤字であっても、その申告内容に不自然な点があれば、確認の対象となり得ます。また、消費税の申告や、過去の黒字年度との比較などの観点から調査が行われることもあります。「赤字だから安心」とは言えません。
Q2. 個人事業主は何年分さかのぼられますか?
法律上は原則として5年分までが目安です。ただし、所得を意図的に隠すなど、偽りその他不正の行為があると判断された場合には、7年分までさかのぼって更正・決定が行われる可能性があります。
Q3. 税理士をつけていないと不利ですか?
税理士がいないこと自体が直ちに不利になるわけではありません。ただし、調査では専門的な判断が必要になる場面が多く、税務調査経験のある税理士が立ち会うことで、適切な対応や加算税の軽減につながることがあります。とくに、自己流で申告してきた方は、早めに相談されることをお勧めします。
また、税理士が関与している場合、税務署からの事前通知は税理士に対しても行われ、調査当日の立会いや、調査後の税務署とのやり取りも任せることができます。本業に集中しながら調査に対応できるという点でも、専門家のサポートには意味があります。
Q4. 税務調査を拒否できますか?
税務調査(任意調査)は強制捜査ではありませんが、税務署には質問検査権があり、正当な理由なく帳簿書類等の提示・提出を拒むことはできません。拒否を続けると、罰則の対象となったり、かえって不利な状況を招いたりすることがあります。日程の変更を申し入れることはできますが、調査そのものを無視し続ける対応は避けるべきです。
Q5. 相談だけでも対応してもらえますか?
はい、相談だけでも問題ありません。「自分は調査の対象になりそうか」「日頃の申告内容に不安がある」といった段階のご相談も承っています。早い段階でご相談いただくほど、取れる対応の選択肢が増えます。
7. まとめ——備えがあれば、税務調査は恐れるものではない
個人事業主・フリーランスにも、税務調査は来ます。「自分のような規模には関係ない」という思い込みは、正確ではありません。一方で、過度に恐れる必要もありません。日頃から帳簿・領収書・通帳を整え、迷う点は早めに見直しておけば、税務調査は淡々と乗り切れるものです。
大切なのは、調査を恐れて何もしないことではなく、正しく備えておくこと、そして不安な点は早めに専門家に相談することです。とくに、自己流で申告してきた方や、経費・売上の計上に内心不安がある方は、調査を待つのではなく、先に手を打っておくことで安心して事業を続けられます。
「自分は対象になりそうか不安だ」「申告内容を一度見てほしい」という段階でも、対応は可能です。一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
個人事業主・フリーランスの税務調査でお困りの方へ
以下のような状況の方は、早めの対応をおすすめします。
- 個人事業主・フリーランスで、税務調査の対象になりそうか不安がある
- 自己流・会計ソフト任せで申告してきて、内容に自信がない
- 経費の線引きや売上の計上時期に迷いがある
- 税務署から事前通知やお尋ねが届いた
- 無申告・期限後申告の状態を是正したい
- 調査が来る前に、申告内容を一度見直しておきたい
国税OB(元大阪国税局)の税理士が、個人事業主・フリーランスの税務調査対応、調査が来る前の自主的な見直し、調査に発展した場合の初動対応について、当局側の視点も踏まえて対応します。
顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所での対応または提携する国税OB税理士のネットワークを活用し、最適な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
引用・参考文献
・国税通則法24条(更正)、25条(決定)、65条(過少申告加算税)、66条(無申告加算税)、68条(重加算税)、70条(国税の更正、決定等の期間制限)、74条の2(質問検査権)、74条の9(事前通知)
・国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
・国税庁タックスアンサーNo.2024「確定申告を忘れたとき」
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応、無申告対応、国際課税、富裕層・資産家、インターネット取引など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
