せどり・転売の無申告が税務署にバレる仕組み——元国税調査官が「資料情報」の実態を解説
「自分は副業で小さくやっているだけだから、税務署にバレるはずがない」――せどり・転売を手がける方から、そのような声を耳にすることがあります。
しかし、元国税調査官として現場を経験し、また執筆者として国税庁の公表資料を分析してきた立場から申し上げれば、その認識は現在の調査環境とは大きく乖離しています。
むしろ、インターネット取引こそ、国税当局が最も効率的に「資料情報」を収集できる分野なのです。
本稿では、せどり・転売の無申告がどのような経路で税務署に把握されるのか、そして把握された後にどのようなペナルティが待ち受けているのかを、私自身の執筆内容(税務弘報2026年3月号・『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』税務研究会出版局)を踏まえて解説します。
1. せどり・転売業者を取り巻く調査環境——国税庁公表データから
まず、国税庁が令和7年12月に公表した「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」に基づく事実を確認します。
(1) インターネット取引への調査件数
令和6事務年度のシェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引の調査件数は1,155件、追徴税額は35億円となりました。
注目すべきはその内訳です。ネット通販等が592件(51.3%)と過半数を占めており、デジタルコンテンツ156件(13.5%)、シェアリングビジネス109件(9.4%)と続いています(出所:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」7頁)。
つまり、インターネット取引に対する税務調査の過半数は、ネット通販——すなわちせどり・転売・ECを含む取引に向けられているということです。
(2) 無申告者への調査は過去最高水準
私が税務弘報2026年3月号の特集「税務調査の傾向と対策~令和8年以降の対応ポイントは」の所得税パートを執筆した際に強調したのは、無申告者への調査が年々厳しさを増しているという事実です。
具体的な数字を挙げます。令和6事務年度の所得税無申告者に対する調査件数は4,812件(対前年比91.2%)と減少したものの、追徴税額は252億円(対前年比114.5%)と増加し、過去最高を更新しました。1件当たりの追徴税額は524万円(対前年比125.7%)という高水準にあります。
調査件数が減ったにもかかわらず追徴税額が増えた——これは当局が「実地調査」と「簡易な接触」を明確に使い分け、高額・悪質と見込まれる事案に実地調査の事務量を集中投下していることを示しています。
(3) ネット取引は「資料源開発が極めて有効に機能する分野」
ここが本稿で最も伝えたいポイントです。
税務弘報の拙稿では、シェアリングエコノミー等取引について「基本的にインターネット上のプラットフォームを介するため、当局による『資料源開発』が極めて有効に機能する分野である」と記述しました。
また、国税庁では電子商取引専門調査チームが中心となって資料情報等を収集・分析しており、KSK2導入や内部事務センターへの事務移管により、データ活用による選定が一層進むと考えられます。
これはつまり、現金商売と異なり、せどり・転売はプラットフォームと決済記録という「動かぬ証拠」が必ず残る取引形態であるということを意味します。
2. 税務署がせどらーを把握する5つのルート
それでは、具体的に税務署はどのようにしてせどり・転売業者を把握するのでしょうか。実務上想定される主なルートを5つ挙げます。
① プラットフォーマーからの資料情報
Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング、メルカリ、eBayといったプラットフォームに対して、国税当局は国税通則法第74条の7の2(特定取引に係る情報照会制度)等に基づき、利用者の取引情報を照会することができます。
照会が行われると、プラットフォームは利用者の氏名・住所・取引金額・取引件数等の情報を国税当局に提供します。これらの情報は電子商取引専門調査チームに集約され、申告内容との突合が行われます。
② 決済代行会社からの情報
カード決済・QR決済・ネットバンク決済を仲介する決済代行会社も、資料情報の重要な供給源です。売上の入金履歴から、事業規模を推定することが可能です。
③ 金融機関の入金履歴調査
税務調査が開始されれば、調査官は銀行口座の入出金履歴を精査します。プラットフォームからの入金、クレジットカード会社からの入金、個人間送金の受領履歴などから、申告されていない売上を把握します。
「生活用口座と事業用口座を分けていないから大丈夫」という発想は、残念ながら逆効果です。生活用口座に事業収入が入金されていれば、それもすべて売上の計算根拠となります。
④ KSK2による横断的データ照合
令和8年中に導入予定のKSK2(国税総合管理システムの後継)は、「データ中心の事務処理」や「課税・徴収の効率化・高度化」を推進する基盤となることが確実です(出所:国税庁「令和5年10月5日 全国国税局課税(第一・第二)部長(次長)会議資料」)。
KSK2が稼働すれば、プラットフォームからの資料情報、金融機関の取引履歴、確定申告の有無、住民票情報といった複数のデータソースが横断的に照合されるようになります。過去に比べ、無申告・過少申告の発見精度は格段に上がるとみてよいでしょう。
⑤ 反面調査・密告
仕入先への反面調査、同業者からの情報提供、SNSでの発信内容の確認など、人的な情報収集ルートも依然として重要です。特にSNSで「せどりで〇〇万円稼いだ」と発信している方は、それ自体が格好の調査端緒になります。
3. 「バレない」と言われている3つの誤解
誤解① 「少額だからバレない」
令和6事務年度の所得税無申告者に対する実地調査の1件当たり申告漏れ所得金額は2,992万円、1件当たり追徴税額は524万円に及びます。
ただし、これは「実地調査」という事務量を大きく投入する類型の数字です。当局はこれ以外に「簡易な接触」(令和6事務年度で全体68.9万件、対前年比123.7%)という手法も大幅に増やしており、少額案件に対しても行政指導レベルで接触が入るケースが急増しています。
誤解② 「副業だからバレない」
近年、無申告重加算税の調査事例として注目されたのが、動画投稿により多額の広告収入を得ながら確定申告を行っていなかったユーチューバーの事案です。
拙著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』第2章でも紹介しましたが、このユーチューバーは当初「確定申告が必要なことは知らなかった」と説明していました。しかし、税務調査が進む中で「税務調査を受けた場合にどう対応するか」という趣旨の動画を視聴していたことが判明し、意図的な無申告を認めたため、重加算税の賦課に至っています(出所:2023年3月11日 朝日新聞デジタル)。
「知らなかった」という主張は、実質的な認識を示す客観的証拠があれば通用しません。せどりについても、ノウハウ本の購入履歴、オンラインサロンの受講履歴、関連動画の視聴履歴などから、「知らなかったとは評価できない」と認定されるリスクは十分にあります。
誤解③ 「名義を変えればバレない」
家族名義の口座、家族名義のプラットフォームアカウントを使った取引についても、税務調査で実態が確認されれば「仮装隠蔽行為」として重加算税の対象となり得ます。
国税庁の事務運営指針「申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて」では、「本人以外の名義又は架空名義で行っていること」が仮装隠蔽行為の典型例として挙げられています。
4. 税務調査で作成される「質問応答記録書」のリスク
重加算税の賦課が見込まれる税務調査では、高い確率で「質問応答記録書」が作成されます。これは税務署の調査官が納税者の供述を録取し、仮装隠蔽行為の立証資料とするものです。
拙著の第2章では、所得税調査における質問応答記録書の実務対応を詳しく解説しました。特に重要なのは、次の点です。
- 重加算税の賦課要件は「仮装隠蔽行為の存在」であり、その有無は質問応答記録書の記載内容で立証される
- 無申告事案では、帳簿自体が存在しないことが多いため、納税者の主観的意図(「知っていながら申告しなかった」)の立証が鍵となる
- 調査担当者は課税要件の充足を強く意識して質問を組み立てる傾向があるため、実際の事実関係と齟齬が生じないよう慎重に確認する必要がある
せどりの調査においても、「いつ頃から転売で利益を得ていたか」「確定申告が必要との認識はあったか」「仕入先や販売先はどこか」といった質問が想定されます。ここでの供述が、後の重加算税賦課の決定的な証拠となります。
5. 無申告だった場合のペナルティ
(1) 無申告加算税
期限内に申告をしなかった場合、原則として納付すべき税額に対し一定の割合が加算されます。令和5年度改正により、税額が高額になるほど加算税率も上がる段階構造が強化されました。
(2) 無申告重加算税
仮装隠蔽行為を伴う無申告の場合、加算税は40%(短期間に繰り返し無申告を行っていた場合は50%)という極めて重い水準になります。
拙著でも触れましたが、近年の国税庁の内部資料(個人課税事務提要【事務手続編】第10条第6節11(1))では、基準期間の課税売上高を連年1,000万円以下に圧縮している事案について、合理的な説明がなければ消費税の無申告重加算税を賦課するという方針が明記されています。
これはせどらーにも直接影響する内容です。「意図的に年間売上を1,000万円以下に抑えて消費税申告を回避していた」と認定されれば、消費税についても重加算税が課される可能性があります。
(3) 延滞税
本税・加算税に加えて延滞税が発生します。期間が長引くほど金額は大きくなり、数年分が累積すれば当初の本税の数倍の負担となるケースも珍しくありません。
(4) 刑事罰
悪質性が極めて高いと判断された場合、所得税法違反(単純無申告ほ脱犯:5年以下の懲役または500万円以下の罰金、偽りその他不正の行為による無申告ほ脱犯:10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金)として告発・起訴される可能性もあります。
6. 今からできる対応策
対応策① 自主的な期限後申告
税務調査の事前通知を受ける前に自主的に期限後申告を行えば、無申告加算税は原則5%に軽減されます(一定の要件あり)。重加算税の対象となるような悪質な事案でない限り、自主申告は極めて有効な選択肢です。
対応策② 税務調査の予告があった場合の対応
税務署から「税務調査を実施したい」という連絡が入った場合、その時点で自主的な修正申告を行っても、すでに調査開始後であれば加算税の軽減効果は限定的です。しかし、調査前の段階で修正申告を行うことは、拙著でも「実務上の有力な選択肢」として位置づけています。
対応策③ 税理士への相談
せどり・転売の税務調査は、プラットフォームごとの取引データの復元、仕入原価の算定、消費税の課税区分の判定など、専門的な論点が多数含まれます。また、調査対応の過程で作成される質問応答記録書の内容は、その後の不服申立て・訴訟にも影響します。
できるだけ早期に、税務調査対応の経験が豊富な税理士に相談されることをお勧めします。
7. 最後に——大阪国税局・資料調査課出身税理士からのメッセージ
私、市田佳祐は、2011年に大阪国税局に入局し、令和5年6月に退官するまで、主に資料調査課(国際課税・富裕層担当)で調査事務に従事しました。
資料調査課は、国税局の中でも特に「資料情報の収集・活用」を本業とする部署です。ネット取引・海外取引・富裕層取引といった、通常の税務署では把握が難しい取引形態をどのように捕捉するか——これを日常的に検討していた立場から申し上げれば、せどり・転売という事業形態は、当局にとって極めて「見えやすい」分野です。
だからこそ、無申告のまま放置することのリスクは年々高まっています。令和8年のKSK2稼働以降、このリスクはさらに顕在化することが確実です。
もし現時点で過去の申告に不安がある方、あるいは既に税務調査の連絡を受けている方がいらっしゃれば、手遅れになる前にご相談いただければと思います。元国税調査官として現場の思考を熟知している立場から、最適な対応策をご提案します。
せどり・転売の税務でお困りの方へ
大阪国税局・資料調査課出身の税理士が、以下の案件に対応します。
- せどり・転売の税務調査対応(事前準備・立会い・交渉)
- 過去分の期限後申告・修正申告の作成
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引用・参考文献
・国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
・市田佳祐「所得税——税務調査の傾向と対策〜令和8年以降の対応ポイントは」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)
著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
大阪国税局・資料調査課出身の税理士。市田税理士事務所代表。国際課税・富裕層調査の実務経験を活かし、税務調査対応・水商売・暗号資産・せどり等のインターネット取引に関する税務に対応。

