インボイス2割特例の期限と3割特例の新設|元国税調査官が経過措置の見直しを解説


著者:市田佳祐(税理士・国税OB)

「インボイス制度の2割特例が令和8年9月で終わると聞いたが、来年以降どうなるのか分からない」
「新設される3割特例は誰が使えるのか、法人でも使えるのか知りたい」
「免税事業者からの仕入の8割控除は、いつまで使えるのか」
「2割特例の翌課税期間に簡易課税に移行したい場合、いつまでに届出書を提出すればよいか」

令和8年度税制改正により、インボイス制度の経過措置が大きく見直されます。インボイス制度の開始時に免税事業者から課税事業者となった事業者の方や、免税事業者からの仕入が多い中小企業の方にとって、令和8年9月から10月にかけて、インボイス制度の経過措置について複数の見直しが順次適用されるため、対応の検討が必要となります。

誤解されやすい点ですが、今回の改正は経過措置の「終了」ではなく、見直し・延長・段階的な縮減です。2割特例は令和8年9月30日が属する課税期間で適用期限を迎えますが、個人事業者については新たに「3割特例」が創設され、令和9年分・令和10年分の申告で利用できます。一方、免税事業者からの仕入に係る8割控除も、適用期限が2年延長されつつ、控除割合が段階的に縮小される取扱いに見直されます。

もっとも、各経過措置の適用要件・適用時期は複雑であり、法人と個人事業者で取扱いが異なる箇所もあります。改正内容を正確に理解しないまま申告を行うと、本来適用できる軽減措置を見落としたり、逆に適用要件を満たさないまま処理してしまうおそれがあります。

この記事では、令和8年度税制改正によるインボイス経過措置の見直しの全体像、2割特例の継続と3割特例の新設、8割控除から7・5・3割控除への段階的縮減、簡易課税への円滑な移行措置、特定金属くず特例の創設について、元国税調査官の立場から整理します。


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1. 令和8年度税制改正でインボイス制度の経過措置はどう変わるか

(1) 改正の全体像

令和8年度税制改正におけるインボイス制度の経過措置の見直しは、主に次の3つの柱で構成されています。

  • 2割特例の適用期限の確認と、個人事業者向け3割特例の新設
  • 8割控除の見直し(7・5・3割控除へ)と適用期限の2年延長、適用上限額の引下げ
  • 2割特例・3割特例から簡易課税への円滑な移行措置

このほか、特定金属くず特例の創設も改正項目に含まれます。

(2) 改正の背景

インボイス制度は令和5年10月1日に開始され、以降、経過措置として「2割特例」(免税事業者から課税事業者となった事業者の事務負担軽減)、「8割控除」(免税事業者からの課税仕入れに係る仕入税額控除の経過措置)などが運用されてきました。

これらの経過措置は、当初の制度設計上、令和8年9月30日(2割特例)や令和8年9月30日以後の段階的縮減(8割控除)を予定していましたが、インボイス制度の定着状況や、小規模事業者・中小事業者への影響を踏まえて、令和8年度税制改正で見直しが行われました。

(3) 主な適用時期

主な経過措置の見直しの適用時期は次のとおりです。

項目 適用時期
2割特例の継続 令和8年9月30日が属する課税期間まで
3割特例の新設(個人事業者) 令和9年分・令和10年分の申告
8割控除→7・5・3割控除への見直し 令和8年10月1日以後に開始する課税期間から
7・5・3割控除の適用上限額1億円 令和8年10月1日以後に開始する課税期間から
特定金属くず特例の創設 令和8年9月1日以後の課税仕入れから

(4) 法人と個人事業者で取扱いが異なる点

特に重要な点として、3割特例は個人事業者のみが対象となります。法人は3割特例の対象外であり、令和8年9月30日が属する課税期間以降は、原則どおり一般課税または簡易課税で申告することになります。

この点は、自社が法人か個人事業者かによって今後の選択肢が大きく異なるため、初動の段階で正確に理解しておくことが重要です。


2. 2割特例の適用期限と新設される「3割特例」

(1) 2割特例の継続(法人・個人事業者共通)

2割特例(納付税額を売上税額の2割とできる経過措置)は、当初の制度どおり、令和8年9月30日が属する課税期間まで継続されます。

つまり、12月決算法人や個人事業者(暦年)の場合は、令和8年(令和8年1月1日〜令和8年12月31日)が属する課税期間まで2割特例を利用できることになります。3月決算法人の場合は、令和9年3月期(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)が属する課税期間まで2割特例を利用できる、という整理です。

(2) 3割特例の新設(個人事業者限定)

令和8年度税制改正で新設される3割特例は、インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者に係る令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告において、納付税額を売上税額の3割とすることができる特例です。

2割特例の適用期限の到来に合わせて、個人事業者の事務負担をさらに2年間軽減するための措置として位置づけられています。

(3) 3割特例の主な適用要件

3割特例の主な適用要件は次のとおりです(国税庁ホームページ「インボイス経過措置の見直し等」)。

  • 個人事業者であること(法人は対象外)
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること(令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること

つまり、インボイス制度がなければ免税事業者であったはずの個人事業者が、3割特例の対象となります。

(4) 3割特例の計算イメージ

3割特例を適用する場合、納付税額は次の計算式で算出されます。

納付税額 = 売上に係る消費税額 × 30%

仕入に係る消費税額は計算上不要であり、インボイス保存も不要となります。売上税額さえ把握できれば計算できる、簡便な仕組みです。

(5) 3割特例の適用対象外となるケース

次のような場合は、3割特例の適用を受けることができません。

  • 法人(法人は3割特例の対象外)
  • インボイス発行事業者でない課税事業者
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円を超える者
  • 調整対象固定資産・高額特定資産等の取得により免税事業者とならない者
  • 課税期間を短縮している者

(6) 法人の取扱い

繰り返しになりますが、法人は3割特例の対象外です。2割特例が適用される最終の課税期間(令和8年9月30日が属する課税期間)の翌課税期間以降は、一般課税または簡易課税のいずれかで申告することになります。

このため、法人の場合は、2割特例が適用される最終の課税期間の翌課税期間以降について、一般課税と簡易課税のいずれが有利か、早めに試算しておくことが重要です。


3. 8割控除が「7・5・3割控除」へ——適用期限の延長と上限引下げ

(1) 控除可能割合の段階的引下げ

免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れにつき、その一定割合を控除できる経過措置(従来の「8割控除」)について、控除可能割合が段階的に縮小される取扱いに見直されました。

適用期間 控除可能割合
令和5年10月1日〜令和8年9月30日 80%(改正前から継続)
令和8年10月1日〜令和10年9月30日 70%(新設)
令和10年10月1日〜令和12年9月30日 50%(改正前と同じ)
令和12年10月1日〜令和13年9月30日 30%(新設)
令和13年10月1日以後 0%(控除不可)

改正前のスケジュールでは、令和8年10月1日から3年間50%、その後0%となる予定でしたが、改正後は70%→50%→30%→0%と4段階で縮減されることになり、最終的な適用期限が2年延長されました。

(2) 適用期限の2年延長

改正前は令和11年9月30日が最終的な適用期限でしたが、改正後は令和13年9月30日まで適用期限が延長されました。

これにより、免税事業者からの仕入が多い中小事業者にとっては、激変緩和の期間が確保されることになります。

(3) 適用上限額の引下げ(10億円→1億円)

もう一つの重要な改正点として、適用上限額の引下げがあります。

7・5・3割控除については、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年又は事業年度で1億円(改正前:10億円)を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて適用できません。

適用上限額が10億円から1億円に大幅に引き下げられたことで、規模の大きな取引については経過措置の利用が制限されることになります。

(4) 適用時期

令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。


4. 2割特例・3割特例から簡易課税への円滑な移行措置

(1) 通常の簡易課税の届出期限

簡易課税制度の適用を受けるには、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署長に提出する必要があります。

たとえば、令和10年1月1日から始まる課税期間から簡易課税の適用を受けたい個人事業者は、原則として令和9年12月31日までに届出書を提出する必要があります。

(2) 経過措置による届出期限の特例

もっとも、2割特例または3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税制度の適用を受けようとする場合は、その適用を受けようとする課税期間の申告期限までに届出書を提出することで、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることが可能となります。

つまり、2割特例または3割特例の翌課税期間から簡易課税に移行する場合に限り、届出期限が大幅に延長されることになります。

(3) 具体例(法人)

3月決算法人で、令和9年3月期(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)に2割特例を適用した場合、その翌課税期間である令和10年3月期(令和9年4月1日〜令和10年3月31日)から簡易課税の適用を受けたいケースを考えてみます。

この場合、原則的には令和9年3月31日までに届出書を提出する必要がありますが、経過措置により令和10年3月期の申告期限である令和10年5月31日までに届出書を提出すれば、令和10年3月期から簡易課税の適用を受けられます。

(4) 具体例(個人事業者)

個人事業者で、令和10年分に3割特例を適用した場合、その翌年である令和11年分から簡易課税の適用を受けたいケースを考えてみます。

この場合、原則的には令和10年12月31日までに届出書を提出する必要がありますが、経過措置により令和11年分の申告期限である令和12年4月1日までに届出書を提出すれば、令和11年分から簡易課税の適用を受けられます(申告期限は原則3月31日ですが、令和12年は土日の関係で4月1日)。

(5) 簡易課税のみなし仕入率(参考)

参考までに、簡易課税制度を適用するときの事業区分およびみなし仕入率は次のとおりです。

事業区分 みなし仕入率
第1種事業(卸売業) 90%
第2種事業(小売業、農林漁業のうち飲食料品譲渡に係る事業) 80%
第3種事業(農林漁業(飲食料品譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業等) 70%
第4種事業(他の事業区分に該当しないもの。飲食店業等) 60%
第5種事業(運輸通信業、金融業、保険業、サービス業(飲食店業を除く)) 50%
第6種事業(不動産業) 40%

簡易課税制度は、選択したら原則として2年間は継続適用する必要があります。


5. その他の改正——特定金属くず特例の創設

(1) 改正の背景

令和8年度税制改正では、特定金属くず特例が創設されました。これは、金属盗難の防止等を目的とする「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」(以下「金属盗対策法」)に対応した改正です。

(2) 特例の内容

金属盗対策法に規定する特定金属くずについて、従来の「古物商特例」や「再生資源等特例」の対象から除いた上で、次の要件を満たす場合に、帳簿のみの保存により仕入税額控除を認める特例が新たに設けられました。

  • 金属盗対策法上の特定金属くず買受業の届出を行っている事業者であること
  • 適格請求書発行事業者でない者から、棚卸資産(消耗品を除く)として特定金属くずを買い受けること

(3) 帳簿の記載事項

特定金属くず特例の適用を受ける場合、帳簿には次の事項の記載が必要となります。

  • 特定金属くず特例の対象となる旨
  • 課税仕入れの相手方の住所又は所在地(金属盗対策法により本人特定事項の確認が不要とされているものは記載不要)

(4) 適用時期

令和8年9月1日以後に行う課税仕入れについて適用されます。金属くずを扱う事業者は、改正の適用開始までに、金属盗対策法上の届出状況や帳簿記載の運用を確認しておく必要があります。


6. 経過措置の見直しに合わせて今から検討すべきこと

(1) 自分が「2割特例」「3割特例」のどちらに該当するかを確認する

まず、自社・自分自身が今後どの経過措置の適用対象となるかを整理することが重要です。判断の出発点は、次の3点です。

  • 法人か、個人事業者か(法人は3割特例の対象外)
  • インボイス発行事業者の登録を受けているか
  • 基準期間の課税売上高はいくらか(3割特例は1,000万円以下が要件)

これにより、令和8年9月以降の選択肢が決まってきます。

(2) 簡易課税への移行を検討するタイミング

2割特例または3割特例の終了後は、一般課税または簡易課税のいずれかで申告することになります。

簡易課税は、業種によっては2割特例・3割特例と税負担が大きく異なる場合があるため、早めの試算が重要です。前述のとおり、2割・3割特例の翌課税期間から簡易課税に移行する場合には届出期限の特例があるため、申告のタイミングまでに移行の要否を検討することができます。

(3) 免税事業者からの仕入が多い場合の影響試算

免税事業者からの仕入が多い中小事業者の方は、7・5・3割控除の控除可能割合の段階的引下げ適用上限額の引下げ(10億円→1億円)による影響を試算しておくことが重要です。

特に、適用上限額が10分の1に引き下げられる影響は、規模の大きな取引を行う事業者にとっては大きくなる可能性があります。

(4) 早期に消費税に詳しい税理士に相談する意義

インボイス経過措置の見直しは、適用要件・適用時期・計算方法のすべてが複雑です。法人と個人事業者で取扱いが異なる箇所もあり、自己流の判断では本来適用できる軽減措置を見落としたり、逆に適用要件を満たさないまま処理してしまうおそれがあります。

私自身、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)の特集「税務調査の傾向と対策」でも整理しましたが、近年は税務署のデータ活用が進み、申告内容と取引情報の突合精度が高まっています。経過措置の見直しを正しく理解し、適切な申告を行うことが、税務調査リスクの軽減にもつながります。

不安がある場合は、早めに消費税に詳しい税理士へご相談されることをお勧めします。


インボイス経過措置の見直しでお困りの方へ

以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。

  • 2割特例を利用してきたが、令和8年9月以降の対応方針が決まらない
  • 個人事業者で、3割特例の適用要件に該当するか確認したい
  • 2割特例・3割特例から簡易課税への移行を検討している
  • 免税事業者からの仕入が多く、7・5・3割控除の影響を試算したい
  • 金属くずを扱う事業者で、特定金属くず特例の運用を確認したい
  • 顧問税理士はいるが、消費税の経過措置について別の専門家にも相談したい

国税OB(元大阪国税局)の税理士が、インボイス経過措置の見直しの整理、簡易課税への移行検討、消費税申告全般について、当局側の視点も踏まえて対応します。

顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所での対応または提携する国税OB税理士のネットワークを活用し、最適な対応を提供します。

顧問契約に係るご相談は初回無料。スポット相談は1時間33,000円(税込)です。関西全域・オンラインで全国対応。

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引用・参考文献
・消費税法、消費税法施行令、消費税法施行規則
・所得税法等の一部を改正する法律(令和8年度税制改正関連)
・財務省「令和8年度税制改正」(令和8年4月発行)
・国税庁「インボイス経過措置の見直し等」(国税庁ホームページ)
・国税庁「インボイス制度関係Q&A」
・国税庁タックスアンサーNo.6505「簡易課税制度」
・盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(金属盗対策法)
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)

著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応、消費税申告、国際課税、富裕層・資産家、無申告対応、インターネット取引など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。