令和8年度税制改正の個人所得課税|基礎控除・NISA・ミニマムタックスを解説


著者:市田佳祐(税理士・国税OB)

「令和8年度の税制改正で、基礎控除や給与所得控除がいくら引き上げられるのか知りたい」
「住宅ローン控除の延長やNISAの拡充は、自分に関係するのか確認したい」
「合計所得が大きい場合の『極めて高い所得への負担適正化措置』が、どう変わるのか不安だ」

令和8年度税制改正では、個人所得課税について、基礎控除・給与所得控除、住宅ローン控除、NISA、ミニマムタックス、ひとり親控除など、幅広い改正が行われます。

特に、給与所得者や個人事業主には基礎控除・給与所得控除の引上げが、住宅取得を検討している方には住宅ローン控除の延長が、富裕層・高所得者にはミニマムタックスの見直しが関係します。改正の適用時期は項目ごとに異なるため、自分に関係する改正を整理して理解しておくことが重要です。

この記事では、令和8年度税制改正のうち、個人に関係する主な改正内容について、適用時期と注意点を、元国税調査官の立場から整理します。

この記事でわかること

  • 令和8年度税制改正で個人に関係する主な改正項目
  • 基礎控除・給与所得控除がいつから、どのように変わるか
  • 住宅ローン控除・NISA・ひとり親控除の主な変更点
  • 富裕層・高所得者が注意すべきミニマムタックスの見直し

1. 令和8年度の個人所得課税改正の全体像

(1) 主な改正項目

令和8年度税制改正における個人所得課税の主な改正項目は、次の5つです。

  • 基礎控除・給与所得控除の引上げ(物価上昇局面における対応)
  • 住宅ローン控除の拡充(適用期限の5年延長等)
  • NISAの拡充(つみたて投資枠の対象年齢を0〜17歳に拡大)
  • 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し(いわゆるミニマムタックス)
  • ひとり親控除の拡充(控除額の引上げ)

(2) 適用時期の違い

これらの改正は、適用される時期が項目ごとに異なります。

改正項目 主な適用時期
基礎控除・給与所得控除の引上げ(本則) 令和8年分以後
基礎控除の一部加算・給与所得控除の5万円上乗せ(特例) 令和8年分・令和9年分
住宅ローン控除の拡充 令和12年入居分まで延長
NISAの拡充(未成年者のつみたて投資枠) 令和9年以後
ミニマムタックスの見直し 令和9年分の所得から
ひとり親控除の拡充 令和9年分の所得から

自分がどの改正の影響を受けるか、また、いつから影響を受けるかを整理しておくことが重要です。


2. 基礎控除・給与所得控除の引上げ

(1) 物価上昇を踏まえた基礎控除等の見直し

令和8年度税制改正では、物価上昇局面における税負担の調整として、税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(CPI総合)の上昇率を踏まえ、基礎控除等を見直す仕組みが設けられました。令和8年度改正では、これを踏まえて、基礎控除の本則部分および給与所得控除の最低保障額を、それぞれ4万円引き上げることとされました。

これは、令和6・令和7年の消費者物価指数(CPI総合)の上昇率(2年分で約6.0%)を踏まえ、物価上昇局面における負担調整として行われるものです。

(2) 令和7年度改正で措置した上乗せ特例の引上げ

基礎控除については、令和7年度改正で設けられた上乗せ特例についても見直しが行われます。令和8年度税制改正では、この上乗せ特例について、合計所得金額489万円(給与収入665万円相当)以下の場合の上乗せ額を42万円まで引き上げるとともに、給与所得控除の最低保障額を5万円上乗せする特例を創設します(いずれも令和8年分・令和9年分)。

所得が一定水準以下の方については、基礎控除の上乗せにより、税負担の軽減がより大きくなる仕組みです。

(3) 給与所得控除の最低保障額の引上げ

給与所得控除の最低保障額は、次のように引き上げられます。令和8年度改正では、本則部分が65万円から69万円に引き上げられ、さらに令和8年分・令和9年分については特例により5万円が上乗せされ、結果として74万円となります。

区分 給与所得控除の最低保障額
令和7年度改正 55万円 → 65万円(最大10万円引上げ)
令和8年度改正(本則) 65万円 → 69万円(4万円引上げ)
令和8年度改正(令和8・9年分の特例) 本則69万円にさらに5万円上乗せ → 74万円

給与収入が比較的少ない方ほど、最低保障額の引上げによる恩恵を受けやすくなります。

(4) 自分の場合の影響イメージ

基礎控除・給与所得控除の引上げは、所得税・住民税の課税対象となる所得を圧縮する効果があります。給与所得者の場合、年末調整や確定申告の際に控除額が反映されます。

もっとも、上乗せ特例には合計所得金額による要件があり、所得水準によって適用される控除額が異なります。自分の所得がどの区分に該当するかを確認することが重要です。


3. 住宅ローン控除の拡充

(1) 適用期限の5年延長

住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)について、適用期限が令和12年入居分まで5年間延長されました。これにより、令和12年12月31日までに入居した場合も、引き続き住宅ローン控除の適用を受けられます。

(2) 既存住宅の借入限度額の引上げ

既存住宅(中古住宅)の利活用の促進や省エネ性能の向上の観点から、一定の既存住宅に係る借入限度額の引上げ等が行われます。

新築住宅・買取再販住宅と既存住宅とで、住宅の性能区分(認定長期優良住宅、ZEH水準省エネ住宅、省エネ基準適合住宅等)に応じた借入限度額が設定されています。

(3) 子育て世帯・若者夫婦世帯等への上乗せ

子育て世帯・若者夫婦世帯等(特例対象個人。19歳未満の扶養親族を有する者のほか、40歳未満で配偶者を有する者等を含みます)については、借入限度額の上乗せ措置が設けられています。たとえば、新築住宅・買取再販住宅の認定長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合、通常の借入限度額4,500万円に対し、特例対象個人は5,000万円となります。

控除率は0.7%、控除期間は新築住宅等で原則13年です。既存住宅については、認定長期優良住宅などの認定住宅等である場合は13年、その他の既存住宅は10年となります。

(4) 立地要件(令和10年以降入居分)

令和10年以降の入居分からは、立地要件が加わります。土砂災害特別警戒区域等のいわゆる災害レッドゾーンにおける新築(建替えを除く)は、住宅ローン控除の適用対象外となります(既存住宅等は適用対象)。

住宅の取得を検討している場合は、立地が要件に該当しないかを確認しておくことが重要です。


4. NISAの拡充——0〜17歳への対象拡大

(1) つみたて投資枠を0〜17歳に拡充

次世代の資産形成を促進し、長期・安定的な投資を通じて、大学進学等の成人後のライフイベントに伴う必要資金を備えられるよう、つみたて投資枠の対象年齢が0〜17歳に拡充されます。この未成年者向けのつみたて投資枠は、令和9年以後の各年に設けられるものとされています。

従来、NISAは18歳以上が対象でしたが、改正により0〜17歳の未成年者についても、つみたて投資枠を利用できるようになります。

(2) 年間投資枠・非課税保有限度額

0〜17歳のつみたて投資枠について、年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円が設定されます。

0〜17歳の非課税保有限度額600万円は、18歳以上のNISA(非課税保有限度額1,800万円)とは別枠ではなく、18歳到達時に自動的に移行する仕組みとされています。

(3) 12歳以降の払出し(子の同意要件)

0〜17歳のNISAでは、原則として親権者等が口座を管理しますが、12歳以降においては、子の同意を得た場合にのみ、親権者等による払出しが可能となります。

払出しには、資金の使途が子のためのものであり、子が払出しに同意したことを示す書面とともに、親権者等(口座管理者)が申出書を金融機関に提出する必要があります。

未成年者の資産形成を、長期・安定的な投資として促進する趣旨が反映された仕組みです。


5. 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し

(1) いわゆるミニマムタックスとは

極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(いわゆるミニマムタックス)は、株式や不動産の譲渡益などにより非常に大きな所得がある方について、所得税の負担が一定水準を下回らないようにするための仕組みです。

一般的には、株式や不動産の譲渡所得などを含めて所得が非常に大きい方が注意すべき改正であり、制度上は、後述する「基準所得金額」に基づいて判定します。

所得税は、給与・事業所得などの総合課税の所得には累進税率(最高45%)が適用される一方、株式の譲渡所得などの分離課税の所得には一律の税率(所得税15%)が適用されます。このため、分離課税の所得の割合が大きい高所得者ほど、所得全体に対する所得税の負担率が低くなる傾向がありました。

ミニマムタックスは、この負担率の低下を調整するための仕組みです。

(2) 見直しの内容——特別控除額の引下げと税率の引上げ

令和8年度税制改正では、ミニマムタックスについて、次の2つの見直しが行われます。

項目 見直し前 見直し後
特別控除額 3.3億円 1.65億円
税率 22.5% 30%

見直し後は、基準所得金額から特別控除額1億6,500万円を控除した金額の30%相当額が、基準所得税額を上回る場合に、その差額分を申告納税する仕組みとなります。

(3) 対象となる所得の範囲

ミニマムタックスの計算に用いる基準所得金額には、株式の譲渡所得のみならず、土地建物の譲渡所得や給与・事業所得、その他の各種所得を合算した金額が用いられます。

ただし、スタートアップ再投資やNISA関連の非課税所得は対象外であるほか、政策的な観点から設けられている特別控除後の金額が用いられます。

(4) 適用時期

この見直しは、令和9年分の所得から適用されます。

合計所得が極めて高い水準にある方は、見直し前と比べて負担が増加する可能性があります。私自身、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)で富裕層に対する調査の動向を整理しましたが、極めて高い所得層に対しては、申告内容の確認が一層重視される傾向にあります。改正内容を正確に理解し、適切な申告を行うことが重要です。


6. ひとり親控除の拡充

(1) 控除額の引上げ

ひとり親控除について、所得税の控除額が35万円から38万円に引き上げられます(令和9年分の所得から適用)。あわせて、個人住民税のひとり親控除も30万円から33万円に引き上げられます(令和10年度分以後の住民税に適用)。

(2) ひとり親の要件

ひとり親控除の対象となる「ひとり親」の要件は、次のとおりです。

  • 現に婚姻をしていない者、または配偶者の生死が明らかでない者であること
  • 生計を一にする子(総所得金額等が62万円以下であり、他の者の扶養親族・同一生計配偶者とされていない子)を有すること
  • 合計所得金額が500万円以下であること
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる者がいないこと(住民票の続柄の「夫(未届)」「妻(未届)」の記載で判別)

要件を満たすひとり親世帯にとっては、控除額の引上げによる税負担の軽減につながります。


7. 改正を踏まえて今から確認すべきこと

(1) 自分に関係する改正項目を整理する

令和8年度の個人所得課税改正は、対象となる読者層が幅広いことが特徴です。まずは、自分がどの改正の影響を受けるかを整理することが重要です。

  • 給与所得者・個人事業主 → 基礎控除・給与所得控除の引上げ
  • 住宅取得を検討している方 → 住宅ローン控除の拡充・立地要件
  • 子の資産形成を考えている方 → NISAの拡充
  • 合計所得が極めて高い方 → ミニマムタックスの見直し
  • ひとり親世帯 → ひとり親控除の拡充

(2) 富裕層・高所得者が特に注意すべき点

合計所得が極めて高い富裕層・高所得者の方は、ミニマムタックスの見直し(特別控除額の引下げと税率の引上げ)による影響が大きくなる可能性があります。

特に、株式の譲渡所得や土地建物の譲渡所得が多い年については、基準所得金額に基づくミニマムタックスの計算額と基準所得税額を比較し、追加の申告納税が必要となるかを確認しておくことが重要です。海外資産・海外取引がある場合は、国外財産調書や居住者・非居住者の判定とあわせて、総合的な検討が必要となります。

(関連記事:国外財産調書の未提出と税務調査|元国税調査官が加算税・把握経路を解説)

(関連記事:居住者・非居住者の判定|元国税調査官が「生活の本拠」の認定ロジックを解説)

(3) タックスプランニングの見直し

基礎控除・給与所得控除の引上げ、住宅ローン控除の延長、NISAの拡充などは、いずれもタックスプランニングに影響します。改正内容を踏まえて、確定申告や資産形成の方針を見直すことが望ましいといえます。

(4) 早期に税理士に相談する意義

個人所得課税の改正は項目が多く、適用時期や要件もそれぞれ異なります。特に、株式や不動産の譲渡所得が多い年、海外資産・海外取引がある場合、または住宅取得や資産形成を予定している場合には、改正内容を踏まえた事前確認が重要です。

令和8年度税制改正は、適用時期が項目ごとに異なります。申告時期になってから慌てるのではなく、早い段階で自分に関係する改正を整理しておくことが大切です。特に、ミニマムタックスの見直しの影響を受ける富裕層・高所得者の方は、改正前後で負担がどう変わるかの試算が重要となるため、早めに税理士へご相談されることをお勧めします。


令和8年度の個人所得課税改正でお困りの方へ

以下のような状況の方は、早めの確認をおすすめします。

  • 合計所得が極めて高く、ミニマムタックスの見直しの影響を確認したい
  • 株式・不動産の譲渡所得が多く、追加の申告納税が必要か試算したい
  • 海外資産・海外取引があり、改正後のタックスプランニングを検討したい
  • 住宅取得を検討しており、住宅ローン控除の要件を確認したい
  • 確定申告全般について、改正を踏まえた見直しをしたい
  • 顧問税理士はいるが、富裕層課税について別の専門家にも相談したい

国税OB(元大阪国税局)の税理士が、富裕層・高所得者の所得税申告、ミニマムタックスの試算、国際課税を含むタックスプランニングについて、当局側の視点も踏まえて対応します。

顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所での対応または提携する国税OB税理士のネットワークを活用し、最適な対応を提供します。

顧問契約に係るご相談は初回無料。スポット相談は1時間33,000円(税込)です。関西全域・オンラインで全国対応。

個人所得課税の改正について相談する


引用・参考文献
・所得税法、租税特別措置法
・所得税法等の一部を改正する法律(令和8年度税制改正関連)
・財務省「令和8年度税制改正」(令和8年4月発行)
・国税庁タックスアンサーNo.1100「所得控除のあらまし」
・国税庁タックスアンサーNo.1213「住宅ローン控除の対象となる住宅ローン等の要件」
・金融庁「NISA特設ウェブサイト」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)

著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。富裕層・資産家、国際課税、税務調査対応、無申告対応、インターネット取引など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。