あなたに税務調査は来る?|リスクのセルフチェック10項目を元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(元大阪国税局 国税OB税理士)

「周りで調査に入られた人がいて、自分も来るのではないかと急に不安になった」
「経費を多めに入れている自覚はある。どこまでが危ないのか知りたい」
「無申告の年がある。調査に選ばれやすい状態なのか自分では判断できない」

税務調査への不安は、「自分が今どういう状態なのか分からない」ことから生まれます。税務調査は、一般にイメージされるような単純な無作為抽選ではなく、申告内容、資料情報、過去の申告状況などを踏まえて、確認の必要性が高いと考えられる先から選定されていくものと考えられます。裏を返せば、調査官が何を見ているかを知り、自分の状態を点検すれば、リスクの高低はある程度自分で判断できます。

この記事では、大阪国税局の資料調査課で調査事務に従事していた税理士が、調査対象の選ばれ方の仕組みと、ご自身で確認できるセルフチェック10項目、当てはまった場合に今からできる対応を解説します。

結論:調査は「不整合の蓄積」で選ばれやすくなる。10項目で自己点検し、当てはまるなら連絡が来る前に動く

先に結論をお伝えします。調査対象の選定は、申告書の数字そのものより、「申告と周辺情報が合っているか」で行われます。売上と入金、所得と生活水準、経費率と業種の実態。こうした突き合わせで不整合が積み上がった人が選ばれやすくなります。本記事のセルフチェック10項目は、調査官が選定時に見ているポイントを納税者側から点検できる形に置き換えたものです。複数当てはまった方は、調査の連絡を待つのではなく、記録の整理と申告内容の見直しを先に行ってください。税務署から調査の事前通知を受ける前に自主的に対応すれば、修正申告では過少申告加算税がかからず、期限後申告でも無申告加算税が原則5%に軽減されます。不安が具体的になった方は、記事末尾の無料リスク診断もご活用ください。

この記事でわかること

  • 税務調査の対象が「選ばれる」仕組み(KSKシステムとAIによる選定)
  • 調査官が選定時に見ている不整合と、セルフチェック10項目(★内側視点)
  • 当てはまった場合に今からできる対応(記録整理・自主的な申告の見直し)

1. 税務調査は「選ばれて」来る:選定の仕組み

国税当局は、申告書のデータや各種資料情報を収集・分析し、税務調査等に活用しています。KSK(国税総合管理)システムは、全国の国税局・税務署を結び、地域や税目を越えて情報を一元的に管理する基幹システムとされています。調査対象の選定はこうしたデータの分析を踏まえて行われ、国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)でも、調査等の選定にAIを活用して効率的に行っている旨が明示されています。同事務年度の調査等の件数は73万6千件、追徴税額の総額は1,431億円と過去最高の水準です。

つまり「たまたま当たる」のではなく、データ上の違和感が大きい先ほど選定の優先度が高くなりやすい、というのが実態に近い姿です。全体としてどのくらいの割合で調査が行われているかは税務調査の確率の記事で解説していますが、平均の確率よりも重要なのは、ご自身が「違和感の大きい側」にいるかどうかです。

2. 調査官は選定時に何を見ているか:元国税調査官の視点

私が資料調査課(国税局で大口事案・悪質事案を担当する部署。通称「料調」)で調査事務に従事していた経験から言えば、選定段階で見ているのは、一言でいえば「本人の申告」と「本人以外から集まる情報」のずれです。売上として申告された金額と、支払調書や取引先の資料から見える金額。申告所得と、住まい・車・資産状況から推測される生活水準。同業・同規模と比べたときの経費率の異常値。個々の情報は小さくても、複数の角度からのずれが同じ方向を指すと、選定の優先度は上がっていきます。たとえば、申告売上は横ばいなのに支払調書上の受取額が増えている、経費率だけが同業平均から大きく外れている、といった形です。

重要なのは、この突き合わせは本人が何もしなくても進むという点です。支払調書の対象となる支払については支払側から資料が提出され、口座の動きは記録に残り、開業届や過去の申告は蓄積されています。「申告しなければ存在が知られない」「現金なら分からない」という感覚は、周辺情報から推測されるという実務の前では通用しませんでした。次章からの10項目は、この「ずれが生まれやすい場所」を納税者側から点検できるように並べたものです。

3. セルフチェック(1)申告内容の4項目

チェック1:申告した売上と、口座・決済アプリの入金合計を照合したことがない。売上の計上漏れは調査で最も基本的な確認事項です。複数の口座や決済サービスを使っている方ほど、集計から漏れる入金が生まれやすくなります。

チェック2:経費に、プライベートの支出が混ざっている自覚がある。家事関連費(自宅家賃・車・飲食など)を根拠のない割合で経費計上している状態は、同業比での経費率の異常値として表れやすいポイントです。

チェック3:申告している所得では、いまの生活水準を説明できない。申告所得が低いのに住宅ローンや高額な買い物があるという状態は、申告外の収入の存在を推測させる典型的な不整合です。

チェック4:無申告の年がある。または申告期限に遅れることが多い。無申告は選定以前の問題として重点対象です。同資料では、所得税の無申告者に対する実地調査は1件当たりの申告漏れ所得金額が2,992万円と実地調査全体の約2倍で、追徴税額は1件当たり524万円にのぼります。放置した場合の全体像は確定申告をしないとどうなるかの記事をご覧ください。

4. セルフチェック(2)お金の流れの3項目

チェック5:事業用と私用の口座・カードが分かれていない。混在した口座は、生活費の出入りと売上・経費の区別がつかず、調査での説明に最も苦労するパターンです。区別がつかないこと自体が、確認範囲を広げる要因になります。

チェック6:現金でも受け取る売上があるのに、日々の記録(レジ記録・日報・帳簿)を残していない。現金を含む売上は記録がなければ再現できず、当局側は仕入・光熱費・客単価などから売上を推計するアプローチを取ります。記録がないことは「分からないから安全」ではなく「推計されるから不利」に働きます。通帳や口座がどう確認されるかは税務調査と通帳の記事で解説しています。

チェック7:不動産の売却、まとまった贈与、保険金の受取など、大きなお金が動いた年の申告内容を確認していない。不動産や保険は、一定の取引について支払調書等で当局に情報が届きます。大きな資金移動があった年の申告漏れは、突き合わせで浮かびやすい論点です。

5. セルフチェック(3)事業と立場の3項目

チェック8:売上が現金や決済アプリ中心で、単価×件数から第三者でも売上を推計しやすい業態である。業態そのものが問題なのではなく、記録が薄いと推計と申告のずれが検証しやすい構造にあるという意味です。この構造に当てはまる方ほど、日々の記録の価値が高くなります。

チェック9:開業や法人成りから数年が経ち、売上・利益が伸びているが、一度も調査を受けたことがない。事業が軌道に乗り申告額が大きく動く時期は、過去との比較で変化が目立ちやすく、確認の対象になりやすい局面です。

チェック10:主要な取引先・支払元に調査が入った、または自分への支払が支払調書等の法定資料や、取引先に残る請求書・インボイス等の記録から把握され得る立場にある。取引先の調査に伴う反面調査や、支払側の資料から自分の受取額が把握される立場にある場合、自分の申告だけが漏れていると不整合が直接表面化します。

6. 当てはまりが多い場合に起きること

チェックの結果はどう読めばよいでしょうか。1〜2個であれば、多くの事業者に見られる一般的な改善課題です。3個以上、特にチェック3(生活水準との不整合)やチェック4(無申告)を含む場合は、選定の優先度が上がりやすい状態と考えて、先回りの対応をおすすめします。

調査で申告漏れが指摘されると、本来の税額に加えて、過少申告加算税、無申告加算税、延滞税がかかる場合があります。過少申告加算税は、調査で更正を予知した後の修正申告等では原則10%、一定部分は15%です。無申告加算税は、調査後の期限後申告等では原則15%ですが、令和5年分以降は、納付すべき税額が300万円を超える部分について30%となる場合があります。また、仮装・隠蔽があると認定されれば重加算税の対象になります。対象期間も原則5年分、偽りその他不正の行為があるときは最長7年分に及びます(詳しくは税務調査は何年分さかのぼる?の記事をご覧ください)。当てはまりが多いまま時間が経つほど、対象年分と負担は積み上がっていきます。

7. 当てはまった人が今からできること

やるべきことは3つです。第1に、記録の整理。口座・決済アプリの入金履歴と申告売上の照合、経費の領収書の年分ごとの整理から始めてください。具体的には、直近の年分について全口座の入金合計を出し、申告した売上と差がないかを確認するだけでも、ご自身の状態はかなり正確に把握できます。チェック1・5・6は、この作業だけで大きく改善します。第2に、申告内容の見直し。過去の申告に漏れが見つかった場合、税務署から調査の事前通知を受ける前に自主的に対応すれば、修正申告であれば過少申告加算税はかかりません。期限後申告の場合でも、無申告加算税は原則5%に軽減されます(タックスアンサーNo.2024・No.2026)。調査で指摘されてからでは選べない、先に動いた人だけの選択肢です。第3に、判断に迷う論点の相談。家事関連費の割合や無申告年分の整理など、自分では線引きが難しい論点は、調査対応の経験がある税理士に相談して方針を決めるのが確実です。

8. まずは現在地の確認から:無料リスク診断のご案内

10項目を読んで「自分は大丈夫だろうか」と感じた方のために、当事務所では匿名・約1分で試せる税務調査リスクの無料診断ツールをご用意しています。いくつかの質問に答えるだけで、リスクの度合いの目安と、優先して整えるべきポイントを確認できます。この記事のチェック項目とあわせて、まずはご自身の現在地を把握することから始めてください。診断は下記のボタンからご利用いただけます。

よくある質問

Q1. 税務調査の対象は、ランダムに選ばれているのではないのですか?

A. 単純な無作為の抽選ではありません。申告内容や各種資料情報、過去の申告状況などの分析を踏まえ、確認の必要性が高いと考えられる先から選定されるものと考えられます。国税庁の公表資料でも、調査等の選定にAIを活用していることが明示されています。

Q2. チェックに複数当てはまりました。すぐに調査が来るということですか?

A. 直ちに調査が来るという意味ではありません。当てはまる項目が多いほど選定されやすい状態にあるという目安です。重要なのは、連絡が来る前なら記録の整理や自主的な申告の見直しで状態を改善でき、加算税の負担も軽くできるという点です。不安を放置せず、先に動くことをおすすめします。

Q3. 開業してから数年、一度も調査が来ていません。もう来ないと考えてよいですか?

A. そうは言えません。調査の対象期間は原則5年分(不正がある場合は最長7年分)さかのぼれるため、当局には時間をかけて情報を蓄積してから接触する選択肢があります。調査が来ていない期間は「問題がないと認められた期間」ではなく、「まだ確認されていない期間」と考えて記録を整えておくのが安全です。

Q4. 副業やフリマアプリの小さな収入も、チェックの対象になりますか?

A. なります。決済サービスやプラットフォームの取引は運営会社側に記録が残り、規模が小さくても突き合わせは可能です。給与所得者の場合、給与以外の所得が年間20万円を超えると所得税の確定申告が必要で、20万円以下でも住民税の申告は別途必要です。金額が小さいから対象外、ということはありません。

Q5. 過去の申告の誤りに気づきました。自分から直すと、かえって目をつけられませんか?

A. 逆です。税務署から調査の事前通知を受ける前であれば、修正申告の場合は過少申告加算税がかからず、期限後申告の場合でも無申告加算税は原則5%に軽減されます。自主的な是正は制度上も優遇されており、調査で指摘されるまで待つことに利点はありません。判断に迷う場合は税理士に相談のうえ進めてください。

Q6. 診断ツールでは何が分かるのですか?

A. いくつかの質問に答えることで、税務調査リスクの度合いの目安と、優先して見直すべきポイントを確認できます。匿名・約1分・登録不要でご利用いただけます。診断結果を踏まえて具体的に相談したい場合は、当事務所の初回無料相談をご利用ください。

まとめ:不安の正体は「不整合」。点検できるものは、正すこともできる

税務調査は、申告と周辺情報の不整合が蓄積した先から選ばれます。本記事の10項目は、その不整合が生まれやすい場所の点検リストです。複数当てはまった方も、連絡が来る前であれば、記録の整理と自主的な申告の見直しという確実な打ち手があります。漠然とした不安のまま過ごすことが最も消耗しますので、まずは現在地の確認から始めてください。

点検の結果、具体的な心配が見つかった方は、調査対応の経験がある税理士に早めにご相談ください。

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引用・参考文献

  • 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
  • 国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」関係公表資料(KSKシステム・データ活用)
  • 国税庁タックスアンサーNo.1900(給与所得者で確定申告が必要な人)、No.2024(確定申告を忘れたとき)、No.2026(確定申告を間違えたとき)
  • 国税通則法第65条(過少申告加算税)、第66条(無申告加算税)、第68条(重加算税)、第70条(更正・決定の期間制限)

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。