同人作家に税務調査は来る?|元国税調査官が即売会の売上と無申告を解説

著者:市田佳祐(元大阪国税局 国税OB税理士)

「即売会の現金売上まで、税務署に分かるものなのだろうか」
「同人活動の利益が増えてきたのに、何年も確定申告をしていない」
「商業の原稿料と同人の売上が混ざって、何をどう申告すればよいのか分からない」

このような不安をお持ちの同人作家・同人サークルの方は少なくありません。同人活動の売上は、即売会での現金販売、書店委託、ダウンロード販売サイトと複数のルートに分かれており、帳簿を付けていない方も多いのが実情です。しかしこの3つのルートは、いずれも外部の資料から検証されやすい構造を持っています。

この記事では、元国税調査官(大阪国税局 個人課税課・資料調査課)として調査事務に従事していた税理士が、同人作家の税務調査で調査官が重点的に確認するポイントと、無申告を続けるリスク、日頃からできる備えを解説します。

結論:同人活動の売上は把握されやすい。無申告の放置が最大のリスク

先に結論をお伝えします。同人作家にも税務調査は行われます。「即売会は現金だから分からない」という認識は実務と異なり、印刷会社への反面調査による発行部数の把握、書店委託先の販売データ、ダウンロード販売サイトへの照会など、売上は外部資料から検証されやすい構造です。最も重い結果につながるのは、利益が出ているのに申告しない状態を続けることです。逆に言えば、売上の記録と在庫の管理を整え、期限後でも自主的に申告すれば、負担は大きく軽くなります。すでに数年分の無申告がある方や税務署から連絡が来た方は、早めに税務調査に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。

この記事でわかること

  • 同人作家の売上3ルート(即売会・書店委託・DL販売)が税務署にどう把握されるか
  • 調査官が確認するポイント(元資料調査課の内側視点)と在庫・経費の落とし穴
  • 無申告・「20万円以下」の誤解と、期限後申告による立て直し方

1. 同人作家にも税務調査は来るのか:最新統計から

同人活動による利益は、規模や継続性に応じて事業所得または雑所得に当たり、一定の所得があれば確定申告の義務があります。専業・副業を問わず、税務調査の対象にもなります。

国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)によると、所得税について、実地調査と簡易な接触(文書や電話、来署依頼による確認)を合わせた「調査等」の件数は73万6千件と、前事務年度の60万5千件から大きく増加し、追徴税額の総額は1,431億円と過去最高になりました。国税庁は調査対象の選定にAI(人工知能)を活用しており、インターネット取引については電子商取引専門調査チームによる調査の取組も同資料で紹介されています。ネット上で販売活動をしている個人は、従来以上に把握されやすくなっているといえます。

また同資料によると、所得税無申告者に対する実地調査(特別・一般)では、1件当たりの申告漏れ所得金額が2,992万円と、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1,486万円の約2倍に上り、追徴税額は総額252億円・1件当たり524万円といずれも過去最高でした。同人活動は「趣味の延長」という意識から無申告になりやすい分野ですが、利益が出ている以上、無申告の状態は重点的に確認される対象です(関連記事:税務調査の確率は何%?|元国税調査官が「あなたに調査が来る可能性」の見積もり方を解説)。

2. 調査官が重点的に確認するポイント:元国税調査官の視点

私が大阪国税局の資料調査課(国税局で大口事案・悪質事案を担当する部署。通称「料調」)や個人課税部門で調査事務に従事していた経験から言えば、現金を含む売上のある業種で「現金だから分からない」が通用することはありません。調査官は帳簿の外側にある資料から売上の規模を推測し、申告額(または無申告の事実)と突き合わせます。同人作家の場合、売上の3ルートすべてに検証手段があります。


同人作家の売上3ルートの検証構造の図解。即売会の現金売上は印刷部数、頒布価格、在庫数、口座入金などから検証され、書店委託は委託先の販売データ、DL販売は運営会社への照会により、外部資料から確認されやすい

  • 即売会の現金売上:印刷会社への反面調査で発行部数や印刷履歴を把握すれば、頒布価格・在庫数・委託販売データ・口座への入金などを組み合わせて、売上規模が検証されることがあります(関連記事:反面調査
  • 書店委託(同人ショップ):委託先の販売データ・支払明細には、通常、誰にいくら支払ったかの記録が残ります。委託先への調査から作家側の申告状況の確認につながることがあります
  • ダウンロード販売・電子販売:運営会社への照会により、販売実績と支払額を把握できます。振込である以上、銀行口座にも記録が残ります(関連記事:税務調査と通帳

実際、同資料には、インターネット取引に関する調査で、売上に係る書類を破棄していた事案について取引先への反面調査で収入を把握し、書類の破棄を隠蔽行為として重加算税を賦課した事例が掲載されています。記録を残さないことは防御になるどころか、むしろ重いペナルティ(過少申告の場合35%、無申告の場合40%の重加算税)につながり得るのが実務です。

3. 即売会の売上と書店委託の売上計上

売上の計上には、いくつか誤りやすいポイントがあります。

第一に、書店委託やダウンロード販売について、販売額と販売手数料が明細上区分されている場合は、原則として手数料を差し引かれた入金額ではなく差引前の販売総額を売上に計上し、手数料は経費に計上します。入金額だけを売上にしていると、売上の規模が実際より小さく見え、消費税の判定にも影響します。なお、買切り・卸売型など契約形態が異なる場合は、明細や契約内容に応じて処理を確認してください。

第二に、計上時期です。売上は入金日ではなく、販売された時点で計上するのが原則です。年末の冬の大型イベントの売上や、12月に委託先で販売された分の入金が翌年1月以降になる場合、その売上は本年分に計上する必要があります。この期ズレは、調査で確認されやすい点です。

4. 在庫(棚卸)の落とし穴:刷った分ではなく売れた分が原価

同人誌の印刷費は、支払った年に全額を経費にできるわけではありません。経費(売上原価)になるのは売れた分に対応する部分だけで、売れ残った既刊は年末に在庫(棚卸資産)として計上し、翌年以降に繰り越します。計算のかたちは「年初の在庫+その年の印刷費等-年末の在庫=売上原価」です。

年末の在庫には、手元の既刊だけでなく、書店委託先に預けている在庫やグッズも含まれます。委託先の管理画面等で在庫数を確認できることが多いため、年末時点の数を記録しておいてください。印刷費全額をその年の経費にしていて、在庫の計上がない申告は、調査で指摘されやすい典型例です。なお、見本誌・無償配布分・廃棄した在庫がある場合は、部数と理由を記録し、在庫表や廃棄記録として残しておくと説明しやすくなります。

5. 商業原稿料の源泉徴収と支払調書

商業誌の原稿料や挿絵の報酬は、支払者である出版社等が、支払金額の10.21%(同一人への1回の支払金額が100万円を超える部分は20.42%)の所得税等を源泉徴収する対象です(所得税法第204条第1項第1号、国税庁タックスアンサーNo.2795)。また、作家・画家に対する原稿料・画料等については、同一人への年間支払額が5万円を超える場合など、一定の提出範囲に該当すると支払調書が税務署へ提出されます(国税庁タックスアンサーNo.7431)。そのため、商業原稿の収入は税務署に把握されやすい収入です。

ここで誤解が多いのは「源泉徴収されているから申告しなくてよい」という認識です。源泉徴収は概算の前払いにすぎず、同人売上と合算した確定申告で税額が確定します。経費や各種控除を反映した結果、還付になる方もいれば、同人売上の利益が大きければ追加納付になる方もいます。商業収入だけ申告して同人売上を除外している場合、支払調書と申告書の突合から不自然さが浮かびやすい点にも注意が必要です。

6. 経費とアシスタント・外注費

作画用の機材やソフト、画材、資料代、取材費、イベント参加費・交通費、委託手数料などは、同人活動との関連性が説明できる範囲で必要経費になります。資料代は範囲が曖昧になりやすい費目なので、どの作品のための資料かをメモしておくと、調査での説明がしやすくなります。10万円以上の機材(パソコン、液晶タブレット等)は原則として資産に計上し、耐用年数にわたり減価償却を行います。

アシスタントに報酬を支払う場合は、外注費か給与かが論点になります。契約の名称ではなく、指揮監督の有無、他の人が代わりに作業できるか(代替性)、報酬の性格などの実態で判断され(消費税法基本通達1-1-1)、実態が雇用なら給与としての源泉徴収が必要です。また、外注として漫画やイラストの制作を依頼する場合、その報酬が源泉徴収の対象になることがあります。支払う側になったときの処理は、事前に確認しておくと安全です。

7. 無申告と「20万円以下」の誤解

会社勤めをしながら副業で同人活動をしている方は、給与所得・退職所得以外の所得(売上から経費を引いた利益)が年20万円を超える場合、原則として所得税の確定申告が必要です。ここでよくある誤解が2つあります。

第一に、この20万円以下の申告不要制度は所得税の取扱いであり、住民税の申告が不要になるわけではありません。住民税については、住所地の自治体の案内に従って申告の要否を確認する必要があります。第二に、扶養に入っている方(学生・主婦など)は、所得が一定額を超えると扶養控除や配偶者控除の対象から外れ、家族の税負担に影響します。申告をしないままでいると、後から扶養の是正という形で家族に通知が届くことがあります。

数年分の無申告がある場合でも、調査を待つのと自主的に申告するのとでは、結果が大きく異なります。調査通知の前、かつ更正・決定を予知する前に自主的に修正申告・期限後申告を行うと、過少申告加算税が課されない場合や、無申告加算税が軽減される場合があるためです。ただし、期限後申告では無申告加算税が課されることもあります。放置の期間が延びるほど延滞税も膨らみますので、気づいた時点で動くことをおすすめします。

8. 消費税とインボイスの注意点

原則として、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者になります。この判定は、原則として課税売上高で行います。書店委託やダウンロード販売について、販売額と販売手数料が明細上区分されている委託販売型の場合は、手数料差引前の販売総額を基礎に、即売会・書店委託・ダウンロード販売・商業原稿料などの課税売上を合算して確認します。なお、買切り・卸売型など契約形態が異なる場合や、インボイス登録をしている場合は、別途確認が必要です。入金ベースで数えていて1,000万円を超えていることに気づかず、所得税と併せて消費税の無申告を指摘されるケースがあります。

インボイス制度については、同人誌やグッズの買い手は消費者が中心のため、登録が当然に必要というわけではありません。一方、法人からの依頼が多い方は、取引先から適格請求書発行事業者の登録を求められる場合があります。登録すれば基準期間の売上にかかわらず消費税の申告が必要になるため、収入の構成を踏まえて判断してください。

9. 税務調査の連絡が来たときの対応

税務署からの接触は、実地調査の事前通知(国税通則法第74条の9)だけでなく、「お尋ね」文書や来署依頼の形も多くあります。私自身、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿した論稿でも整理しましたが、その連絡が実地調査なのか行政指導なのかを見極めたうえで、対応方針を検討することが重要です。

連絡が来たら、まず売上の分かる資料(イベントごとの頒布記録、委託先の支払明細、販売サイトの売上データ、通帳)と経費の資料を整理してください。調査対象期間は通常3年分程度から始まりますが、申告漏れの内容によっては5年分に広がることが一般的で、偽りその他不正の行為があると判断されれば最長7年分に及ぶことがあります(国税通則法第70条。関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説)。

また、調査の過程では、納税者の説明内容を書面にした「質問応答記録書」が作成されることがあります。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、この書類は重加算税の賦課要件(仮装・隠蔽)の立証に用いられる重要書類であり、記載内容が実際の事実関係と乖離していないかを確認したうえで署名することが大切です。売上記録がない期間の説明は言い方ひとつで印象が変わるため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

関連ページ:無申告の年分をどう整理するかは、無申告・期限後申告のご相談ページで詳しく説明しています。

よくある質問

Q1. 即売会の現金売上は、本当に税務署に分かるのですか?

A. 把握される可能性は十分にあります。印刷会社への反面調査で発行部数や印刷履歴を確認すれば、頒布価格とあわせて売上規模を推計できますし、書店委託やダウンロード販売のデータ、銀行口座の入出金との整合も検証されます。「現金だから記録が残らない」という前提は、調査の実務とは異なります。

Q2. 何年も申告していません。今からどうすればよいですか?

A. 調査の連絡を待たず、自主的に期限後申告をすることをおすすめします。調査通知の前、かつ更正・決定を予知する前に自主的に申告すれば、過少申告加算税が課されない場合や無申告加算税が軽減される場合があり(期限後申告では無申告加算税が課されることもあります)、重加算税と判断されるリスクも下がる傾向があります。売上資料が残っていない期間がある場合の整理の仕方も含め、税理士に相談すると安全です。

Q3. 売れ残った同人誌の印刷費は経費になりますか?

A. その年の経費になるのは売れた分に対応する部分だけです。売れ残った既刊は年末に在庫(棚卸資産)として計上し、翌年以降に売れた時点で経費化されます。手元の在庫だけでなく、書店委託先に預けている分も年末在庫に含まれる点に注意してください。

Q4. 商業原稿は源泉徴収されているので、申告しなくてよいですか?

A. 申告は必要です。源泉徴収は概算の前払いにすぎず、同人売上などと合算した確定申告で税額が確定します。経費や控除を反映して還付になる方もいます。また、原稿料は一定の提出範囲に該当すると支払調書で税務署に報告されるため、商業収入だけ申告して同人売上を除外すると、不自然さが目立ちやすくなります。

Q5. 副業の所得が20万円以下なら、何もしなくてよいですか?

A. 所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が不要になるわけではなく、住所地の自治体の案内に従って申告の要否を確認する必要があります。また、扶養に入っている方は所得が一定額を超えると扶養から外れ、家族の税負担に影響します。20万円以下かどうかは売上ではなく利益(売上-経費)で判定するため、在庫の計算を誤ると判定自体がずれる点にも注意してください。

Q6. 税理士に相談すると、ペンネームや活動内容は知られてしまいますか?

A. 税理士には法律上の守秘義務があり、業務で知った情報を外部に漏らすことはありません。活動ジャンルを問わず、売上と経費の数字を整理して申告するのが税理士の仕事です。無申告の整理や調査の立会いだけのスポットでの依頼も可能ですので、抱え込まずにご相談ください。

まとめ:売上3ルートは検証されやすい。記録と自主申告が最善の備え

同人作家の売上は、即売会・書店委託・ダウンロード販売のいずれのルートも、印刷部数・販売データ・口座記録といった外部資料から検証されやすい構造にあります。国税庁の令和6事務年度統計が示すとおり、AIの活用と電子商取引への調査の取組により、ネット上の販売活動は従来以上に把握されやすくなっています。

備えの基本はシンプルです。イベントごとの頒布記録と委託先の明細を残す、年末に在庫を数える、利益が出たら申告する。この3つができていれば、調査は過度に恐れるものではありません。数年分の無申告がある方、税務署から連絡が来た方は、状況が複雑になる前に、税務調査に詳しい税理士へご相談ください。

税務調査の連絡が来た方、申告に不安がある方へ

当事務所は、元大阪国税局の国税OBの税理士が対応します。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。

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引用・参考文献

  • 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
    https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/shotoku_shohi/index.htm
  • 国税庁タックスアンサーNo.2795(原稿料や講演料等を支払ったとき)、No.7431(「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等)、No.1900(給与所得者で確定申告が必要な人)
  • 所得税法第204条第1項第1号(原稿料等の源泉徴収)
  • 国税通則法第70条(国税の更正、決定等の期間制限)、第74条の9(納税義務者に対する調査の事前通知等)
  • 消費税法基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)
  • 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
  • 『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。