外国税額控除で引ききれない税金はどうなる?|3年繰越・控除限度額を元国税調査官が解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「海外で税金を払ったのに、日本の確定申告では控除しきれませんでした」
「外国税額控除で引ききれなかった税金は、そのまま損になるのでしょうか」
「外国株を売却して海外でも税金を払った場合、日本で外国税額控除できるのでしょうか」
海外所得がある方の確定申告では、このような疑問が生じます。外国税額控除は、外国で払った税金をそのまま日本の税金から差し引く制度ではなく、日本側の控除限度額や所得の源泉地、租税条約まで確認する必要があります。
私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、税理士として税務調査への対応に強みを持っています。この記事では、外国税額控除で税金を引ききれない理由、3年間の繰越制度、外国株式を売却した場合の注意点まで整理します。
結論:外国税額控除で引ききれなくても、すぐに切り捨てとは限らない
外国で所得税に相当する税金を払っていても、その税額をその年の日本の所得税等から控除しきれるとは限りません。外国税額控除には、日本側で計算する控除限度額があるためです。
外国所得税額が所得税・復興特別所得税・地方税について計算される各控除限度額の合計を超える場合には、一定の「控除限度超過額」が生じます。反対に、外国所得税額が少ない年には「所得税の控除余裕額」や「地方税の控除余裕額」が生じることがあり、一定の要件の下で前年以前3年内の金額を使った繰越控除が認められます。
ただし、外国で課税された税金なら何でも外国税額控除の対象になるわけではありません。外国税の性質、所得が生じた時期、居住者・非居住者の区分、租税条約上の課税権まで確認する必要があります。
この記事でわかること
- 外国税額控除で外国税を引ききれない理由
- 控除限度額・控除限度超過額・控除余裕額の仕組み
- 外国税額控除の3年間の繰越制度
- 非永住者・非居住者期間中の所得に対する外国税の注意点
- 外国株式の譲渡益と居住地国課税・国外源泉所得の関係
第1章 外国税額控除とは?
外国税額控除は、国外で生じた所得について外国でも所得税に相当する税金が課され、日本でもその所得が課税対象となる場合に、国際的な二重課税を調整する制度です。
(1)外国で払った税金をそのまま控除する制度ではない
居住者が外国所得税を納付することとなった場合、一定の外国所得税額について、日本の所得税額から控除できます。ただし、控除額には上限があります。
所得税の控除限度額は、基本的に「その年分の所得税額 × 調整国外所得金額 ÷ 所得総額」で計算します。調整国外所得金額が所得総額を超える場合には、所得総額に相当する金額が上限です。
(2)非永住者は調整国外所得金額の範囲にも注意
非永住者については、調整国外所得金額に含める国外源泉所得の範囲が限定されます。国外所得金額のうち、国内で支払われた国外源泉所得または国外から送金された国外源泉所得に係る部分が対象です。
そのため、非永住者については、国外で所得が生じているというだけで、その所得のすべてが外国税額控除の控除限度額計算に入るわけではありません。非永住者の課税範囲と送金の考え方は、非永住者の送金課税の記事でも整理しています。
(3)復興特別所得税・地方税にも控除限度額がある
外国所得税額が所得税の控除限度額を超える場合には、一定の範囲で復興特別所得税からも控除します。さらに地方税にも外国税額控除の制度があります。
したがって、「所得税の控除限度額を超えた部分=そのまま翌年へ繰越し」と単純には判断できません。所得税、復興特別所得税、地方税の各限度額と控除順序を確認する必要があります。
第2章 調査官が重点的に確認するポイント
外国税額控除では、外国で税金を払った事実だけでなく、その外国税が日本の制度上の対象になるのか、日本側で計算した国外所得と対応しているのかが重要です。
(1)外国で課税された税金の内容
まず、外国で払った税金が所得税法上の「外国所得税」に該当するかを確認します。外国税の明細書や外国の確定申告書に税額が記載されていても、それだけで日本の外国税額控除の対象になるとは限りません。
(2)日本で申告した国外所得との対応関係
外国で課税された所得と、日本で国外源泉所得として計算した所得が対応しているかを確認します。必要経費、取得価額、減価償却、所得区分、為替換算などの違いにより、外国の課税所得と日本の所得金額が一致しない場合があります。
(3)外国税額控除の明細書と証明資料
外国税額控除を適用する場合には、「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」等と、外国所得税を課されたことを証する書類等を確認します。複数の国や所得がある場合には、国別・所得別に資料を整理しておくことが重要です。
(4)過年度の控除限度超過額・控除余裕額
3年繰越を利用する場合には、前年だけではなく前年以前3年内の申告内容を確認します。複数年分がある場合は、一番古い年から順次調整するルールがあるため、各年の申告書と明細書を連続して確認します。
(5)後日の減額・還付
外国税額控除を受けた外国所得税が、後日、外国で減額・還付されることがあります。この場合には日本側の外国税額控除も調整対象となるため、最初の納税額だけでなく、その後の更正・還付まで確認します。
私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、外国税額控除では「外国で税金を払った」という一点だけで処理するより、どの所得に対する税なのか、いつ納付義務が確定したのか、条約上その国に課税権があるのかを資料から順に確認することが実務上の分かれ目です。
第3章 なぜ外国税額控除を使い切れないことがある?
(1)日本側に控除限度額がある
外国税額控除は、日本で課税される国外所得に対応する税額を超えて外国税を控除する制度ではありません。例えば外国の税率が日本より高い場合、外国で多額の税金を払っていても、日本側の控除限度額を超える部分はその年に控除しきれないことがあります。
(2)外国と日本で所得計算が異なる
外国で100万円の所得として課税されていても、日本の税法上の所得金額が同じ100万円になるとは限りません。必要経費、取得価額、減価償却、所得区分、為替換算などが異なるためです。
(3)外国税額控除はどの年分で適用する?
外国税額控除は、原則として外国所得税を「納付することとなる日」の属する年分の所得税・復興特別所得税から控除します。そのため、国外所得が発生した年と、外国所得税の納付義務が確定して控除を適用する年が一致しないことがあります。
なお、納付することが確定した外国所得税について、継続して実際に納付した日の属する年分で控除している場合には、その方法も認められています。
また、国外転出時課税の対象となった資産については、国外転出後にその資産の譲渡等に対して外国所得税が課された場合、一定の要件の下で、その外国所得税を国外転出の日の属する年に納付することとなったものとみなして外国税額控除を計算できる特例があります。
(4)非居住者期間中の所得に対する外国税は対象外
外国所得税を納付することとなった年に日本の居住者であっても、その税が、その年以前に非居住者であった期間内に生じた所得に対して課されたものである場合には、居住者の外国税額控除の対象になりません。
海外赴任から帰国した後に外国税額が確定した場合は、税額が確定した時期だけでなく、その外国税がどの期間の所得に対して課されたものか、その期間に日本の居住者だったかまで確認する必要があります。帰国年の税務全般は、海外から帰国した人の税金と税務調査でも解説しています。
第4章 控除限度超過額とは?|引ききれなかった外国税
外国税額控除の対象となる外国所得税額が、その年の所得税・復興特別所得税・地方税の各控除限度額の合計を超える場合、その超える部分が「控除限度超過額」となります。
例えば説明を単純化し、外国所得税額が50万円、各控除限度額の合計が35万円であれば、15万円が控除限度超過額となります。この15万円はその年に使い切れませんが、一定の要件を満たせば繰越控除の対象となります。
実際の計算では、所得税、復興特別所得税、地方税それぞれの控除順序や限度額を考慮する必要があります。
第5章 外国税額控除の3年繰越はどう使う?
(1)過去の控除限度超過額を後の年に利用できる場合
その年の外国所得税額がその年の所得税の控除限度額に満たない場合、前年以前3年内から繰り越された一定の控除限度超過額があれば、その年の所得税の控除余裕額を限度として控除できる場合があります。
例えば令和8年に生じた一定の控除限度超過額は、要件を満たせば令和9年から令和11年までの繰越計算で利用できる可能性があります。無期限に残る制度ではありません。
(2)過去の控除余裕額を利用できる場合もある
反対に、その年の外国所得税額が所得税・復興特別所得税・地方税の各控除限度額の合計を超えた場合、前年以前3年内に控除余裕額があるときは、法定の充当順序に従って繰越控除限度額等を計算し、一定額を追加で控除できる場合があります。
過去の所得税の控除余裕額と地方税の控除余裕額を単純に合計して、その合計額をそのまま所得税から控除する制度ではありません。一番古い年から順に、同一年では所得税の控除余裕額、地方税の控除余裕額の順に充当するものとして計算します。
(3)古い年の金額から順番に調整する
複数年分の控除限度超過額や控除余裕額がある場合は、法令上の順序に従って調整します。「3年前の外国税を好きな年に自由に控除する」という制度ではありません。
第6章 控除余裕額とは?|使わなかった限度額も重要
(1)所得税の控除余裕額
その年に納付することとなる外国所得税額が、その年の所得税の控除限度額に満たない場合には、その所得税の控除限度額から外国所得税額を差し引いた一定額が「所得税の控除余裕額」となります。
(2)地方税の控除余裕額
地方税についても、外国所得税額と所得税・復興特別所得税の各控除限度額との関係に応じて「地方税の控除余裕額」が生じる場合があります。繰越計算上は、所得税の控除余裕額と地方税の控除余裕額を区分して管理します。
「復興特別所得税の控除余裕額」という独立した繰越項目があるわけではありません。
(3)単年度の申告書だけでは判断できない
繰越計算では、過去の控除限度超過額、所得税の控除余裕額、地方税の控除余裕額を確認します。そのため、ある1年分の申告書だけでは外国税額控除の適正額を判断できない場合があります。
第7章 外国で払った税金でも外国税額控除できないことがある
(1)外国所得税に該当しない税
外国の税金であっても、一定の附帯税や、納税者が任意に還付を請求できる一定の税などは、所得税法上の外国所得税に含まれません。まず、その税金自体が外国税額控除の対象となる「外国所得税」に該当するかを確認します。
(2)外国所得税でも控除対象から除外されるものがある
外国所得税に該当しても、居住者がその年以前に非居住者であった期間内に生じた所得に対して課される外国所得税額など、外国税額控除の対象から除外されるものがあります。
(3)租税条約で相手国が課税できない税額
租税条約上、相手国が課すことのできる額を超える部分や、条約上免除すべき部分は、日本の外国税額控除の対象になりません。「外国で実際に徴収されたから、日本でそのまま控除する」という処理はできず、外国側で条約に基づく還付手続等を検討する場合があります。
(4)外国税が後日減額・還付された場合
外国税額控除を受けた年の翌年以後7年内に、その外国所得税額が減額された場合には、日本側でも調整が必要です。
原則として、まず減額された年に納付することとなる外国所得税額から減額分を差し引きます。それだけで調整しきれない場合には、減額年の前年以前3年内の控除限度超過額から一定額を減額し、それでも調整しきれない一定額は、減額された年分の雑所得の総収入金額に算入する取扱いがあります。
第8章 外国株式の譲渡益は「居住地課税=国内源泉所得」ではない
(1)日本居住者の外国株売却益は日本で課税される
日本の居住者は、非永住者に関する課税範囲の例外を除き、国内で生じた所得だけでなく国外で生じた所得も日本で課税対象となります。そのため、日本の居住者が外国株式を売却して譲渡益が生じた場合、日本へ売却代金を送金していなくても原則として日本の申告対象です。
海外証券口座での譲渡所得の計算や為替換算は、海外証券口座の株式・ETF売却と確定申告で詳しく解説しています。
(2)日本で課税されるから国内源泉所得になるわけではない
日本居住者の外国株式の譲渡益が日本で課税されるのは、居住者に原則として国外所得も含めた課税が行われるためです。「日本に課税権がある=国内源泉所得」という意味ではありません。
国税庁は国外源泉所得の一つとして「国外にある資産の譲渡により生ずる一定の所得」を挙げています。外国法人株式など国外にある資産の譲渡から生じる一定の所得は、外国税額控除の控除限度額を計算する際の国外所得金額に含まれ得ます。
(3)租税条約の居住地国課税と所得の源泉地は別問題
租税条約によっては、一般的な株式譲渡益について、譲渡者の居住地国だけに課税権を認める場合があります。例えば日本居住者による外国株式の売却について、日本のみで課税され、外国側では課税されないケースがあります。
しかし、「租税条約上、日本が居住地国として課税する」ことと「日本国内源泉所得である」ことは別問題です。租税条約に国外源泉所得について国内法と異なる定めがある場合には、その条約の定めも確認します。
(4)外国株の譲渡で外国税を払ったら条約も確認
外国株式の譲渡益について外国で税金を払った場合でも、外国税額控除を機械的に適用せず、その税が外国所得税に該当するか、条約上外国側に課税権があるか、条約上の限度を超えていないかを確認します。
海外不動産の売却でも同様に、現地税と日本の課税の調整が問題になります。詳しくは、海外不動産の売却と確定申告をご覧ください。
第9章 過去の外国税額控除を使っていなかった場合
(1)まず過年度資料を並べる
過去の確定申告書、外国税額控除に関する明細書、外国税の明細書や納税証明、海外所得の計算資料、外国税の還付・減額資料などを確認します。3年繰越を確認する場合は、単年度ではなく複数年を並べる必要があります。
(2)外国税額控除を失念していた場合
外国税額控除を適用していなかった場合の手続は、当初申告の内容、対象年分、外国税額が確定した時期、過年度に外国税額控除の明細書等を提出していたかによって確認します。
税額を減額する更正の請求が問題となる場合もありますが、個別の事実関係を確認せず一律には判断できません。繰越控除については、対象となる一番古い年以後の各年について申告書等と明細書を提出していることなどの要件があります。
(3)外国税の還付まで確認する
外国税額控除を受けた後に外国税が減額・還付されている場合には、日本側で調整が必要となることがあります。海外口座の入出金だけでなく、外国での課税・納付・還付履歴まで一連で確認してください。
よくある質問
Q1. 外国で払った税金は日本の所得税からそのまま引けますか?
いいえ。外国税額控除には控除限度額があり、外国で払った税額をその年に控除しきれないことがあります。また、所得税法上の外国所得税に該当しない税や、外国所得税に該当しても外国税額控除の対象から除外される税額があります。
Q2. 外国税額控除で引ききれなかった税金はどうなりますか?
一定の控除限度超過額については、前年以前3年内の控除余裕額等との関係で、後の年の外国税額控除に利用できる場合があります。無期限に繰り越せる制度ではありません。
Q3. 外国税額控除の3年繰越はいつまで使えますか?
原則として前年以前3年内の控除限度超過額や控除余裕額を利用する仕組みです。例えば令和8年に生じた一定の控除限度超過額は、要件を満たせば令和9年から令和11年までの繰越計算で利用できる可能性があります。
Q4. 海外赴任中の所得に対する外国税を帰国後に払った場合、外国税額控除できますか?
外国所得税を納付することとなった年に日本の居住者であっても、その外国税が、日本の非居住者であった期間内に生じた所得に対して課されたものである場合には、居住者の外国税額控除の対象になりません。帰国後に外国税が確定した場合は、その税がどの期間の所得に対するものかを確認する必要があります。
Q5. 外国株を売却して外国で税金を払えば、外国税額控除できますか?
外国で税金を払っただけでは判断できません。日本居住者の外国株式の譲渡益は日本で課税されますが、それは国内源泉所得だからではなく、居住者が原則として国外所得も含めて課税されるためです。租税条約によって外国側に課税権がない場合には、外国で課された税額が日本の外国税額控除の対象にならないことがあります。
Q6. 過去の確定申告で外国税額控除を忘れていました。どうすればよいですか?
過去の申告書、外国税額控除の明細書、外国税の納付資料、国外所得の計算資料などを確認します。その上で、更正の請求等が可能か、3年間の繰越額に影響するか、繰越控除に必要な過年度の申告・明細書の要件を満たしているかを年分ごとに検討します。
まとめ:外国税額控除は外国で払った税額だけを見ない
外国税額控除では、外国でいくら税金を払ったかだけでは正しい計算はできません。外国税の性質、適用する年分、日本側の国外所得、控除限度額、3年以内の控除限度超過額・控除余裕額、後日の減額・還付、租税条約上の課税権まで確認します。
特に外国株式では、「日本の居住者なので日本で課税される」ことと「国内源泉所得である」ことは同じではありません。外国法人株式など国外にある資産の譲渡による一定の所得は国外源泉所得となり得る一方、租税条約によっては居住地国である日本だけに課税権が認められる場合があります。
また、外国税額控除を適用する年に日本の居住者であっても、過去に非居住者であった期間内に生じた所得に対する外国所得税は対象になりません。「何の所得に対する税金か」「その所得がいつ生じたか」「その時点で居住者だったか」「外国に課税権があるか」を順に確認することが重要です。
外国税額控除を含む海外所得の申告について税務署から確認を受けている方は、「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁 タックスアンサー No.1240「居住者に係る外国税額控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.1937「居住者が海外で株式等を売却した場合の課税関係等」
- 国税庁 タックスアンサー No.1936「海外勤務中に株式を譲渡した場合」
- 国税庁 タックスアンサー No.2010「納税義務者となる個人」
- 国税庁 タックスアンサー No.2878「国内源泉所得の範囲」
- 所得税法第95条(外国税額控除)
- 所得税法施行令第221条以下
- 所得税基本通達 法第95条《外国税額控除》関係
- 地方税法における外国税額控除関係規定
- 日本が締結する各租税条約の譲渡所得条項
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
