建設業・一人親方の税務調査|元国税調査官が売上計上・現金収入の注意点を解説
著者:市田佳祐(税理士・国税OB)
「一人親方として独立したが、自分のところにも税務調査は来るのか」
「工事の入金と完成の時期がずれるが、売上はいつ計上すればいいのか」
「現金でのやり取りや手間請けが多い。どこまできちんとしておくべきか」
建設業、とりわけ一人親方や個人の建設業者は、現金取引や手間請け、工事代金の入金時期をめぐって、税務調査で問題になりやすい論点が多い業種です。現金や手間請けでのやり取りが多く、工事の完成と入金のタイミングがずれやすいため、申告漏れや計上時期の誤りが起きやすい構造があります。
中でも調査官が重視するのが、「売上をいつ計上したか」(計上時期)と「現金収入をすべて計上しているか」(計上漏れ)です。ここに誤りがあると、多額の追徴や、場合によっては重い加算税につながります。
この記事では、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、建設業・一人親方の税務調査で調査官が必ず見るポイント、売上計上時期と現金収入の注意点、外注費・経費の論点、そして正しい備えを解説します。
この記事でわかること
- 建設業・一人親方が税務調査で問題になりやすい理由
- 売上の計上時期(期ズレ・未成工事)の考え方
- 現金売上・手間請けの計上漏れがなぜ狙われるのか
- 外注費・経費の注意点と正しい備え
1. 建設業・一人親方は税務調査で問題になりやすい論点が多い
すべての業種が均等に調査されるわけではありません。税務署は、限られた人員の中で、申告漏れの可能性が高いと見込まれる先に調査を集中させています。その中で、建設業は構造的に申告漏れや計上時期の誤りが起きやすく、注目されやすい業種です。理由は、業種の構造にあります。
- 工事の完成と入金の時期がずれやすい:売上をいつ計上するかの判断が難しく、誤りや先送りが起きやすい
- 現金・手間請けでのやり取りが多い:記録が残りにくく、売上の計上漏れが起きやすい
- 外注関係が複雑:下請け・孫請け・応援など、人やお金の流れが入り組んでいる
- 帳簿付けが後回しになりがち:現場が忙しく、記帳や資料整理が追いつかないことが多い
「一人親方だから、規模が小さいから来ない」とは限りません。むしろ、申告内容や資料情報から申告漏れが見込まれれば、規模にかかわらず対象になります。とりわけ、元請けの調査の過程で外注先として名前が挙がり、そこから一人親方側の申告が確認される、という流れも珍しくありません。自分は小規模でも、取引先の調査をきっかけに対象になり得るということです。
(関連記事:税務調査が来る確率は?どんな人に来るのか|元国税調査官が選ばれる基準を解説)
2. 調査官が建設業で必ず見るポイント——内側の視点
建設業の調査には、調査官が「まずここを確認する」という定番のポイントがあります。調査の現場での経験から、重要な順に整理します。
(1) 売上の計上時期(期ズレ)
建設業の調査で最も基本かつ重要な確認事項が、売上をいつ計上したかです。工事の完成・引渡しと入金のタイミングがずれやすい建設業では、本来計上すべき年分に売上が計上されているか(翌期に先送りしていないか)が、徹底的に確認されます。詳しくは次章で説明します。
(2) 現金売上・手間請けの計上漏れ
現金で受け取った工事代金や、手間請けの収入が、きちんと売上に計上されているかが確認されます。通帳に入金されない現金収入は、計上漏れが起きやすいポイントとして、特に注意して見られます。これも次章で掘り下げます。
(3) 外注費の実在性
計上された外注費について、その外注先が実在し、実際にその取引があったのかが確認されます。架空の外注費を計上して所得を圧縮していないか、という観点です。必要に応じて、外注先への反面調査(取引先への確認)が行われることもあります。
(関連記事:反面調査とは?|元国税調査官がどんなときに行われるか・拒否できるかを解説)
(4) 経費の妥当性
計上された経費が、事業のために使われた妥当なものか、私的な支出が混ざっていないかが確認されます。一人親方の場合は特に、事業とプライベートの線引きが論点になります。
3. 売上の計上時期(期ズレ)を掘り下げる
(1) 売上は「完成・引渡し」の時点で計上する
売上は、入金があった時ではなく、原則として、工事の完成・引渡しなど、収入すべき権利が確定した時点で計上します。つまり、「お金が入ってきたら売上」「請求書を出したら売上」ではなく、約束した工事を完成させて引き渡した時点が、売上を計上すべきタイミングです。
建設業は、この「完成・引渡し」と「入金」の時期がずれやすい業種です。年末に工事が完成・引渡し済みなのに、入金が翌年だからといって翌年の売上にしていると、計上時期の誤りになります。
(2) 決算期またぎの「先送り」が狙われる
調査官が特に注目するのが、事業年度(個人なら12月)をまたぐ工事です。本来は今年計上すべき完成工事を、翌年に先送りしていないか。逆に、来期の経費を当期に前倒ししていないか。決算期の前後の取引は、計上時期がずらされやすいため、重点的に確認されます。
意図的に売上を翌期へ先送りすれば、その年の所得が不当に圧縮されます。これが「意図的な繰り延べ」と評価されれば、単なる計上時期の誤り(期ズレ)にとどまらず、より重い問題として扱われることもあります。
(3) 工事が進行中の場合(未成工事)
決算時点でまだ完成していない工事(未成工事)について、すでに受け取っている前受金や着手金の扱いにも注意が必要です。完成・引渡し前の入金は、原則として、その時点ではまだ売上ではなく、前受金などとして処理し、完成・引渡しの時点で売上に計上します。一方、それまでにかかった費用も、対応する売上が立つまでは費用化せず、資産として繰り越すのが基本です。
規模の大きい長期の工事では、工事の進み具合に応じて売上を計上する方法(工事進行基準など)が問題になることもありますが、一人親方や小規模事業者の場合は、まず「完成・引渡しで計上する」という原則をおさえることが大切です。
4. 現金売上・手間請けの計上漏れ
(1) 通帳を通らない現金が、最も狙われる
建設業では、小規模な工事や手間請けで、現金で代金を受け取ることがあります。通帳に入金されない現金収入は、計上漏れが最も起きやすいポイントであり、調査官が最も神経を使って確認する部分です。
「現金だから記録が残らない、分からないだろう」という考えは通用しません。取引先の帳簿、請求書・領収書、税務署が保有する資料情報、必要に応じた反面調査などと突き合わせれば、申告されていない現金収入は把握され得ます。
(関連記事:税務調査で通帳はどこまで見られる?|元国税調査官が個人口座・家族口座の扱いを解説)
(2) 現金売上の計上漏れは、重加算税のリスク
現金売上の計上漏れは、その態様によって扱いが変わります。単なる記帳漏れであれば過少申告の問題ですが、現金売上をことさら帳簿に載せず、意図的に除外していたと評価されれば、隠蔽・仮装として重加算税の対象になり得ます。建設業で重い結果を招きやすいのが、まさにこの現金売上の意図的な除外です。
(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説)
(3) だからこそ、現金収入こそ記録する
逆に言えば、現金で受け取った収入こそ、きちんと記録し、もれなく売上に計上しておくことが、自分を守ることにつながります。現金の入金記録や手書きの受領メモでも、残しておけば説明の裏づけになります。「現金は記録しない」のではなく「現金こそ記録する」——これが建設業の鉄則です。
5. 外注費・経費の注意点
(1) 外注費は「実在するか」が確認される
外注費については、かつては「外注費か給与か」という区分が調査の大きな争点でした。インボイス制度の導入後は、外注先の登録状況や適格請求書の保存といった点に実務の重心が移りつつありますが、区分の問題がなくなったわけではなく、実態が雇用に近ければ給与と判断され得る点は変わりません。
そのうえで、現在の調査でより確認されやすいのは、外注費が実在するかです。架空の外注先への支払いを装って所得を圧縮していないか、金額の水増しがないか。誰に・どの現場で・どの作業を・いくらで依頼したかを記録し、請求書・支払いの記録を残しておくことが、実在性を示す土台になります。架空外注は、隠蔽・仮装として重加算税の対象にもなり得る、重い問題です。
(2) インボイス制度との関係
インボイス制度の下では、原則として、仕入税額控除を受けるために帳簿と適格請求書(インボイス)等の保存が必要です。外注先が適格請求書発行事業者かどうかによって、消費税の負担に影響が出ることがあります。免税事業者等からの仕入れについては経過措置があり、仕入税額控除できる割合は段階的に見直されます。また、インボイス登録をした小規模な個人事業者については、一定の要件のもとで納付税額を抑える特例が設けられています。制度改正が続いている分野ですので、外注先の登録状況や自社の消費税負担については、最新の取扱いを確認することが大切です。外注の多い建設業では、外注先の登録状況の確認と適格請求書の保存が重要です。
(3) 一人親方が注意すべき経費
一人親方の調査では、経費の中身も確認されます。特に、事業とプライベートが混ざりやすい項目に注意が必要です。車両・ガソリン代や携帯電話などは、仕事とプライベートで兼用している場合、事業で使う割合(事業按分)を超えて経費にしていると否認されることがあります。工具・作業着は私的な衣類との区別が、交際費・飲食代は仕事の実態があるかが問われます。事業用口座から私的な支出をした分を経費にしていないか、という生活費との混同も見られます。
また、生計を一にする家族に手伝ってもらい対価を支払っている場合、原則として給与は必要経費になりませんが、青色申告であれば青色事業専従者給与の届出・支給額の相当性・専従要件を、白色申告であれば事業専従者控除の要件を満たしているかが確認されます。
経費を否認されないための基本は、「事業のために使った」と説明できる根拠(領収書・使用状況)を残しておくことです。按分が必要なものは、合理的な基準で按分し、その考え方を説明できるようにしておきましょう。
6. 知っておきたい実務ポイント
(1) 帳簿の不備そのものが不利になることがある
税務調査では、売上や経費の中身だけでなく、帳簿がきちんと作成・保存されているかも確認されます。現金売上を後からまとめて記録している、領収書だけはあるが帳簿に反映されていない、外注費の支払先や作業内容が分からないといった状態では、取引の実態を自分の資料で説明できません。
特に、調査で帳簿の提示・提出を求められたにもかかわらず提示できない場合や、帳簿の売上の記載が著しく不十分な場合などには、加算税の面でも不利になることがあります。具体的には、売上に関する帳簿を保存していない場合や、売上の記載が著しく不十分な場合には、通常の過少申告加算税・無申告加算税に一定割合が加重されることがあります。建設業・一人親方の場合、現場が忙しく記帳が後回しになりがちですが、帳簿を整えておくことは、調査対応における基本的な備えです。
(2) 過去の誤りに気づいたら、調査前に
過去の申告に誤りの心当たりがある場合は、調査の連絡が来る前に自主的な修正申告を検討することで、加算税の負担を抑えられる可能性があります。調査通知を受ける前の自主的な修正申告であれば、過少申告加算税は原則として課されません(本税と延滞税は別途必要になる場合があります)。
(関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説)
7. 正しい備え
建設業・一人親方が税務調査に備えるために、やっておくべきことを整理します。
- 売上計上時期の管理:工事ごとに、完成・引渡しの時期を記録し、その時点で売上を計上する。決算期をまたぐ工事は特に注意する。
- 現金収入の記録:現金で受け取った工事代金も、もれなく売上に計上し、受領の記録を残す。
- 外注先の管理:誰に・いつ・いくら・何の作業を依頼したかを記録し、請求書・適格請求書を保存する。
- 帳簿の整備と経費の按分:記帳を最新に保ち、私的支出と事業支出を分ける。按分の根拠を残す。
- 不安があれば専門家へ:売上計上時期やインボイス対応に不安があれば、調査が来る前に税理士に相談する。
8. よくある質問
Q1. 一人親方でも、本当に税務調査は来ますか?
来ることがあります。規模の大小ではなく、申告内容や資料情報から申告漏れが見込まれるかどうかで対象は選ばれます。一人親方であっても、現金収入の計上漏れや売上計上時期の問題が疑われれば、調査の対象になり得ます。「小規模だから大丈夫」という油断は禁物です。
Q2. 工事代金は、入金された年の売上にすればよいですか?
いいえ。売上は原則として、入金時ではなく、工事の完成・引渡しなど収入すべき権利が確定した時点で計上します。完成・引渡しが終わっていれば、入金が翌年でも、完成した年の売上になります。入金ベースで計上していると、計上時期の誤りを指摘される可能性があります。
Q3. 現金で受け取った工事代金は、どう扱えばよいですか?
現金で受け取った代金も、当然に売上として計上が必要です。通帳に入金されないからといって計上しないでいると、計上漏れとなり、意図的な除外と評価されれば重加算税の対象になり得ます。現金収入こそ、受領の記録を残し、もれなく計上することが大切です。
Q4. 白色申告でも税務調査は来ますか?
来ます。白色申告でも、記帳・帳簿等の保存は必要であり、調査の対象になります。むしろ、帳簿の整備が不十分だと、取引の実態を自分の資料で説明できず、不利になることがあります。青色・白色を問わず、記録を残しておくことが大切です。
Q5. 未成工事(完成前の工事)の前受金は、売上に入れるべきですか?
完成・引渡し前に受け取った前受金や着手金は、原則として、その時点ではまだ売上ではなく、前受金などとして処理し、完成・引渡しの時点で売上に計上します。あわせて、それまでにかかった費用も、対応する売上が立つまでは資産として繰り越すのが基本です。判断に迷う場合は、税理士に確認することをお勧めします。
9. まとめ——売上の計上時期と現金収入の記録が要
建設業・一人親方は、工事の完成と入金の時期がずれやすく、現金・手間請けが多いため、税務調査で問題になりやすい論点が多い業種です。調査官が必ず見るのは、売上の計上時期(期ズレ)、現金売上の計上漏れ、外注費の実在性、そして経費の妥当性です。
中でも、売上をいつ計上したか(完成・引渡し基準)と、現金収入をもれなく計上しているかは、建設業の調査の核心です。意図的な売上の先送りや現金売上の除外は、重い結果を招きかねません。だからこそ、工事ごとの完成時期を管理し、現金収入こそ記録し、帳簿を整えておくことが、最大の備えになります。
「売上の計上時期は合っているか」「現金収入の申告に不安がある」という方は、調査の連絡が来る前の今の段階でご相談ください。
建設業・一人親方の税務調査でお困りの方へ
以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。
- 工事代金の売上計上時期(完成・引渡し)の判断に不安がある
- 現金や手間請けの収入の申告に、心当たりがある
- 帳簿や請求書の整備が追いついていない
- 外注先の管理やインボイス制度への対応に不安がある
- すでに税務調査の連絡が来ている
国税OB(元大阪国税局)の税理士が、売上計上の整理、現金収入・経費の点検、調査前の自主的な見直し、調査当日の立会いについて、当局側の視点も踏まえてサポートします。建設業特有の論点を踏まえた対応が可能です。
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引用・参考文献
・所得税法36条(収入金額)、37条(必要経費)、消費税法30条(仕入税額控除)
・国税庁「確定申告を間違えたとき」「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」
・国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の概要」
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応・立会い、無申告対応、重加算税、国際課税など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

