整体・接骨院・鍼灸に税務調査は来る?|元国税調査官が現金収入と療養費の注意点を解説
著者:市田佳祐(税理士・国税OB)
「整体院・接骨院を経営しているが、自分のところにも税務調査は来るのか」
「自費の収入は、どこまできちんとしておくべきか」
「療養費(保険)の収入は、税務上どう扱われるのか」
整体・接骨院・鍼灸といった施術所は、税務調査で問題になりやすい論点が多い業種です。自費の施術では現金を含む窓口収入が生じやすく、回数券やプリペイドのような前払いもあり、さらに業態によって保険(療養費)が絡むかどうかが分かれるなど、収入の管理が複雑になりやすいためです。
そして、この業種の調査には業態ごとの「見られ方」があります。接骨院(柔道整復師)などは療養費(保険収入)が保険者等を通じて把握されやすいのに対し、自費の収入は計上漏れが起きやすいとされ、税務調査の重点になります。
この記事では、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、施術所の税務調査で調査官が重点的に確認するポイント、自費収入と療養費の税務上の注意点、そして正しい備えを解説します。
この記事でわかること
- 整体・接骨院・鍼灸が税務調査で問題になりやすい理由
- 調査官が施術所で重点的に確認するポイント(内側の視点)
- 業態(保険あり・全額自費)で税務がどう違うのか
- 現金を含む自費収入・回数券・経費の注意点と正しい備え
1. 整体・接骨院・鍼灸は税務調査で問題になりやすい論点が多い
すべての納税者が均等に調査されるわけではありません。税務署は、限られた人員の中で、申告漏れの可能性が高いと見込まれる先に調査を集中させています。その中で、施術所は構造的に論点が多く、注目されやすい業種です。理由は次のとおりです。
- 現金を含む自費収入が生じやすい:キャッシュレスが普及してきたとはいえ、現金収入も残り、計上漏れが起きやすいとされる
- 回数券・プリペイドがある:前払いの収入があり、計上時期の処理が複雑になりやすい
- 業態で税務が違う:保険(療養費)が絡む業態と、全額自費の業態があり、収入の構成が異なる
- 家族経営・専従者が多い:家族が受付などを手伝うケースが多く、給与の扱いが論点になりやすい
「小さな施術所だから来ない」とは限りません。むしろ、申告内容や収入の状況から申告漏れが見込まれれば、規模にかかわらず対象になります。調査がどう選ばれるかについては、次の記事で詳しく解説しています。
(関連記事:税務調査が来る確率は?どんな人に来るのか|元国税調査官が選ばれる基準を解説)
2. 調査官が施術所で重点的に確認するポイント——内側の視点
施術所の調査には、調査官が重点的に確認する定番のポイントがあります。調査の現場で見てきた経験から、重要な順に整理します。
(1) 現金を含む自費収入の計上漏れ
施術所の調査で最も中心になる確認事項が、自費の施術料金がもれなく計上されているかです。自費(自由施術)は現金を含む窓口収入が生じやすく、収入の計上漏れが起きやすいとされます。予約システムやレジ、キャッシュレス決済の記録などと照らし合わせて、申告売上が不自然に少なくないかが見られます。詳しくは次章で説明します。
(2) 回数券・プリペイドの計上時期
回数券やプリペイドのように、施術料金を前払いで受け取る仕組みがある場合、その収入をいつ計上するかが確認されます。前払いを受けた時点と、実際に施術を行った時点のどちらで計上するかは、処理を誤りやすいポイントです。
(3) 療養費(保険収入)と自費収入の区分
接骨院など、保険(療養費)が絡む業態では、療養費による収入と、自費による収入の両方を、もれなく計上しているかが確認されます。療養費は保険者等を通じて把握されやすい一方、自費の収入は計上漏れが起きやすいため、両者の区分と計上が見られます。
(4) 専従者・家族への給与
家族が受付や施術の補助を手伝い、その対価を支払っている場合、勤務の実態に見合った給与か、専従者給与の要件を満たしているかが確認されます。
3. 業態で違う——保険(療養費)が絡むかどうか
整体・接骨院・鍼灸は、まとめて語られがちですが、業態によって保険(療養費)が絡むかどうかが異なり、それが税務上の収入の構成にも影響します。
(1) 接骨院・整骨院(柔道整復師)
柔道整復師が施術を行う接骨院・整骨院では、外傷性の負傷である打撲・捻挫・挫傷、骨折・脱臼などについて、一定の要件のもとで療養費(保険)の対象になります。なお、骨折・脱臼については、緊急の場合を除き、あらかじめ医師の同意が必要です。単なる肩こりや筋肉疲労などは、保険の対象になりません。多くの接骨院では、患者が窓口で一部負担金だけを支払い、残りを施術所が保険者に請求する「受領委任払い」という形がとられています。この療養費による収入は、保険者等を通じて支払われるため、記録として残ります。
(2) 鍼灸・あん摩マッサージ指圧
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師による施術も、医師の同意などの一定の要件を満たす場合には、療養費(保険)の対象になることがあります。ただし、要件を満たさない施術は全額自費です。
(3) 整体・カイロプラクティックなどの民間施術
一方、一般的な整体やカイロプラクティックは、柔道整復師・はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師といった国家資格に基づく療養費対象の施術とは異なり、原則として保険の対象にならず、全額が自費収入になります。つまり、整体院の収入は基本的に自費収入であり、その分、予約・レジ・入金記録などとの整合性が税務上重要になります。
(4) 保険収入は把握されやすく、自費収入が重点になる
このように業態によって違いはありますが、共通していえるのは、療養費(保険収入)は保険者等を通じて把握されやすいのに対し、自費の収入は施術所側の管理に委ねられる部分が大きいという点です。だからこそ、税務調査では、自費の収入がもれなく計上されているかが重点的に確認されます。
なお、療養費の請求内容そのものの適否(施術の部位数や請求の正確性など)は、厚生局や保険者による指導・監査という、税務調査とは別の制度で確認される事柄です。税務調査は、あくまで所得・売上・経費の計算が適正かを確認するものですが、施術所としては、両方の観点から適正な運営を心がけることが大切です。
なお、消費税については、健康保険法等に基づく療養費の支給に係る療養は非課税とされ、その療養について患者が負担する一部負担金部分も非課税に含まれます。一方、自費の施術や物販などは、内容に応じて課税関係の確認が必要です。課税売上が一定の規模になる場合には、消費税の納税義務も関わってきます。
4. 現金を含む自費収入はどう把握されるのか
(1) 「現金だから分からない」は通用しない
「自費の収入は現金分も多く、記録が残らないから、少なく申告しても分からないだろう」——これは陥りやすい誤解です。調査官は、現金収入を直接見られなくても、さまざまな周辺情報から、本来あるべき収入を推測します。
具体的には、予約システムの記録、レジのデータ、キャッシュレス決済の記録、施術の記録(カルテ)、回数券の販売状況などを突き合わせ、申告された収入と整合するかを検証します。近年はキャッシュレス決済が普及し、その記録は明確に残るため、現金分だけを少なく申告すると、かえってキャッシュレス分との比率が不自然になって目立つ、ということも起こります。
(関連記事:税務調査で通帳はどこまで見られる?|元国税調査官が個人口座・家族口座の扱いを解説)
(2) 自費収入の意図的な除外は、重加算税のリスク
自費収入の計上漏れは、その態様によって扱いが変わります。単なる記帳漏れであれば過少申告の問題ですが、収入の一部をことさら帳簿に載せないなど、意図的に除外していたと評価されれば、隠蔽・仮装として重加算税の対象になり得ます。
(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説)
(3) 回数券・プリペイドの計上時期
回数券やプリペイドは、税務上、収入をどの時点で計上するかが問題になります。基本的には、前払いを受けた時点では未施術分を前受金として管理し、施術の都度、売上に振り替えていく考え方になります。期末に未消化の回数券がある場合や、有効期限切れ・失効分がある場合には、その処理が適切かが確認されることがあります。
5. 専従者給与・経費の注意点
(1) 専従者・家族への給与
施術所では、配偶者や家族が受付・経理・施術の補助を手伝っているケースが多くあります。院長と生計を一にする配偶者や親族に支払う給与は、原則として必要経費になりません。ただし、青色申告であれば青色事業専従者給与の届出・支給額の相当性・専従要件を、白色申告であれば事業専従者控除の要件を満たしているかが確認されます。勤務の実態がないのに給与を支払っていたり、勤務実態に比べて高額すぎたりすると、否認されることがあります。
(2) 業務委託の施術者は外注費か給与か
施術者を業務委託の形で受け入れている場合、その支払いが外注費か給与かが論点になることがあります。契約の名目だけでなく、勤務時間の拘束、指揮監督、報酬の決め方などの実態によって判断されます。実態が雇用に近ければ、給与と認定され、源泉徴収などの問題が生じることがあります。
(3) 経費の妥当性
施術に使う備品・消耗品、研修費、賃料などが、事業のために使われた妥当なものかが確認されます。自宅兼用の店舗の家賃・光熱費などは、事業で使う割合(事業按分)を超えて経費にしていると否認されることがあります。私的な支出が混ざっていないか、按分が合理的かを、説明できるようにしておきましょう。
6. 正しい備え
整体・接骨院・鍼灸が税務調査に備えるために、やっておくべきことを整理します。
- 自費収入の記録:現金を含む自費の収入を、予約・カルテ・レジの記録と整合する形で、もれなく計上する。日々の収入を正確に記録する。
- 療養費と自費の区分:保険が絡む業態では、療養費による収入と自費による収入を区分し、両方をもれなく計上する。
- 回数券・プリペイドの管理:前払いの収入は前受金として管理し、施術の都度、売上に振り替える。未消化分を把握しておく。
- 人件費・経費の管理:専従者給与や業務委託の処理を整え、経費の按分の根拠を残す。
- 不安があれば専門家へ:自費収入の処理や回数券の計上に不安があれば、調査が来る前に税理士に相談する。
過去の申告に誤りの心当たりがある場合は、調査の連絡が来る前に自主的な修正申告を検討することで、加算税の負担を抑えられる可能性があります。
(関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説)
7. よくある質問
Q1. 整体院(全額自費)でも、税務調査は来ますか?
来ることがあります。整体は保険が絡まず全額自費であるため、収入の管理が施術所側に委ねられる部分が大きく、自費収入の計上が適切かが確認されます。保険が絡まないからといって調査の対象外になるわけではなく、むしろ自費中心であることが、収入の計上の正確性を重点的に見られる理由になります。
Q2. 療養費(保険)の収入は、税務上どう扱われますか?
療養費による収入も、事業の収入として、もれなく売上に計上する必要があります。療養費は保険者等を通じて支払われ記録に残るため、把握されやすい収入です。なお、療養費の請求内容そのものの適否は、厚生局や保険者による指導・監査という税務とは別の制度で確認される事柄であり、税務調査では、収入・経費の計算が適正かが確認されます。
Q3. 回数券で前払いを受けた分は、いつ売上にすればよいですか?
基本的には、前払いを受けた時点では、まだ施術していない部分を前受金として管理し、施術の都度、売上に振り替えていく考え方になります。期末に未消化の回数券がある場合や、有効期限切れ・失効分がある場合には、その処理が適切かが確認されることがあります。前払いを受けた時点、施術時点、失効時点の処理が一貫して説明できるようにしておくことが大切です。
Q4. 家族に支払う給与は、どこまで認められますか?
院長と生計を一にする家族に支払う給与については、勤務の実態があり、支給額がその勤務内容に見合っていることが必要です。青色申告であれば青色事業専従者給与の届出と要件、白色申告であれば事業専従者控除の要件を満たしている必要があります。勤務実態がないのに給与を支払っていたり、実態に比べて高額すぎたりすると、否認の対象になります。勤務実態が分かる記録を残しておくことが大切です。
Q5. 開業したばかりでも、税務調査は来ますか?
開業して間もない時期に来ることは多くはありませんが、絶対に来ないわけではありません。一般には、ある程度の事業期間を経て、複数年分の申告内容を確認できる段階で調査が行われることが多いとされます。ただし、開業当初から記帳や収入の管理を正確に行っておくことが、将来の調査への備えになります。
8. まとめ——現金を含む自費収入の記録と回数券の処理が要
整体・接骨院・鍼灸は、現金を含む自費収入が生じやすく、回数券などの前払いもあり、業態によって保険(療養費)が絡むかどうかが分かれるため、税務調査で問題になりやすい論点が多い業種です。調査官が重点的に確認するのは、現金を含む自費収入の計上漏れ、回数券・プリペイドの計上時期、療養費と自費の区分、そして専従者給与です。
中でも、把握されやすい療養費(保険収入)に対し、自費の収入は施術所側の管理に委ねられる部分が大きく、計上漏れが起きやすいため、調査の重点になります。だからこそ、自費の収入を予約・カルテ・レジの記録と整合する形でもれなく計上し、回数券の前受金を正しく処理しておくことが、最大の備えになります。
「自費収入の処理は大丈夫か」「回数券の計上時期が正しいか不安だ」という方は、調査の連絡が来る前の今の段階でご相談ください。
整体・接骨院・鍼灸の税務調査でお困りの方へ
以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。
- 自費収入、特に現金収入の処理に心当たりがある
- 療養費(保険)と自費の収入の区分に不安がある
- 回数券・プリペイドの計上時期が正しいか不安だ
- 専従者給与や業務委託の処理に不安がある
- すでに税務調査の連絡が来ている
国税OB(元大阪国税局)の税理士が、自費収入・経費の点検、回数券や療養費の処理の確認、調査前の自主的な見直し、調査当日の立会いについて、当局側の視点も踏まえてサポートします。施術所特有の論点を踏まえた対応が可能です。
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引用・参考文献
・所得税法36条(収入金額)、37条(必要経費)、27条(事業所得)、28条(給与所得)
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・国税庁「やさしい必要経費の知識」「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
・厚生労働省「柔道整復師の施術に係る療養費」「はり・きゅう、あん摩・マッサージの施術に係る療養費」関係資料
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応・立会い、無申告対応、重加算税、国際課税など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

