小説家の確定申告と税務調査|元国税調査官が取材費・書斎・資料代の経費判定を解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「印税が急に増えた年があるが、経費の付け方に自信がない」
「取材と称した旅行や、読んだ本の代金をどこまで経費にしてよいのか分からない」
「自宅の書斎を経費にしているが、税務調査で否認されないか不安だ」
小説家・作家として活動する方から、このような相談を受けることがあります。
出版社から受け取る印税や原稿料は、一定額を超えるものについて支払う側から税務署に支払調書が提出されるため、収入の金額が税務署に把握されやすい構造にあります。
その結果、小説家の税務調査では「売上が漏れていないか」よりも「計上した経費が業務上必要なものか」が中心的な論点になる傾向があります。
私は元大阪国税局(個人課税課・資料調査課)の税理士です。この記事では、小説家の確定申告で問題になりやすい経費の判定を、調査官の視点から整理します。
結論:印税は把握されやすく、税務調査の論点は経費に集中する
小説家の税務調査について、先に結論をまとめます。
- 出版社からの印税・原稿料は、源泉徴収と支払調書の仕組みにより、収入の存在と金額が税務署に把握されやすい
- そのため調査の重点は、取材費・資料代・書斎の家事按分・飲食交際費といった「業務との関連性が問われる経費」に置かれる傾向がある
- 経費は「領収書があるか」だけではなく、その支出が業務に必要なものであり、業務との関連性を用途や利用状況と併せて説明できるかで判断される
- 電子書籍の配信収入や同人誌の頒布収入など、支払調書の仕組みがない収入は、収入側の論点として別途確認される
- 経費の否認は、記録の有無で結果が大きく変わる。作品との対応関係を残しておくことが、確定申告段階でできる備えになる
この記事でわかること
- 小説家の収入が税務署にどのように把握されるか
- 調査官が小説家の経費で重点的に確認する5つのポイント
- 取材費・資料代・書斎・交際費の具体的な線引き
- 兼業作家の所得区分と、変動所得の平均課税の考え方
- 経費が否認された場合の追徴と、事前通知が来たときの準備
1. 小説家の収入と支払調書:収入が把握される仕組み
小説家の収入は、おおむね次のように分けられます。
- 出版社からの原稿料・印税(紙の書籍、雑誌連載、文庫化、電子書籍の出版社経由分)
- 電子書籍の直接配信による収入(海外プラットフォームを含む)
- 小説投稿サイトの収益分配
- 同人誌即売会や通販サイトでの頒布収入
- 講演料、審査員料、コラム執筆料
- 文学賞の賞金、映像化・コミカライズに伴う二次利用料
このうち出版社から支払われる原稿料や著作権の使用料は、原則として所得税法第204条第1項第1号に定める報酬・料金に該当し、支払時に源泉徴収されます。源泉徴収税率は、同一人に対する1回の支払金額について、100万円以下の部分が10.21%、100万円を超える部分が20.42%です(所得税法第205条)。
さらに、一定額を超える原稿料等(同一人に対する年間の支払合計額が5万円を超えるもの)は「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の対象となり、支払った出版社から税務署に提出されます(所得税法第225条第1項第3号、タックスアンサーNo.7431)。
この支払調書は、税務署側で受け取った本人の申告内容と突き合わせることができる資料です。印税や原稿料の金額が、申告書に記載された収入と一致しているかは、調査以前の段階で確認される余地があります。
一方で、海外プラットフォームを通じた電子書籍の直接配信収入や、同人誌の頒布収入、一部の投稿サイト収益には、源泉徴収も支払調書も介在しないものがあります。これらは収入側の確認対象として残ります。この点は第2章で触れます。
なお、源泉徴収されていることと、確定申告が不要であることは別の問題です。源泉徴収はあくまで前払いであり、確定申告が必要な方は年間の所得を計算して申告し、源泉徴収税額と精算します(給与所得者で給与以外の所得が20万円以下である場合など、所得税の確定申告を要しない場合もあります。タックスアンサーNo.1900)。申告が必要であるにもかかわらず、印税が源泉徴収されていることを理由に申告を省略すると、無申告として扱われることがあります。
2. 調査官が重点的に確認するポイント
私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、収入の裏付け資料が整っている業種ほど、調査官の関心は経費の中身に向かいます。小説家の場合、確認の重点は次の5点に置かれる傾向があります。
(1)取材旅行に私的な部分が含まれていないか
「作品の舞台を見るために旅行した」という説明は、それ自体は自然なものです。しかし、家族同行の旅行、観光地での滞在、執筆した作品と関係のない地域への旅行が「取材費」として計上されている場合、調査官はその旅行と作品との対応関係を確認します。
旅行の日程、同行者、訪問先、そしてどの作品のどの場面に反映されたかを説明できるかどうかが分かれ目になります。
(2)書籍・映像・ゲーム等の資料購入費の業務関連性
小説家にとって読書や映像鑑賞は創作の源泉であり、資料費として経費になる余地があります。ただし、娯楽として消費されるものと区別がつかない点が、調査官の目には課題として映ります。
年間の書籍代が数十万円に及ぶ場合、購入した書籍の傾向、執筆中のジャンルとの関係、参考にした作品名などが問われることがあります。
(3)自宅書斎の家事按分の根拠
自宅の一室を書斎として使用している場合、家賃や光熱費のうち業務に使用した部分は経費になります。しかし按分割合の根拠が曖昧な場合や、寝室や居間を兼ねた空間の全体を経費にしている場合は、否認の対象になりやすい傾向があります。
(4)編集者・同業者との飲食が交際費として適切か
担当編集者との打合せや、同業の作家との会食は、業務との関連が認められる余地があります。一方で、相手の氏名や関係が記録されていない飲食、家族との外食、頻度が過大な飲み会は、家事費と判断されることがあります。
(5)家族への外注費・給与と、支払調書のない収入
配偶者や親族に資料整理や校正を依頼し、外注費や給与を支払っている場合、実際の業務内容と対価の相当性が確認されます。生計を一にする親族への支払は、原則として必要経費にならず、青色事業専従者給与などの制度の要件を満たす場合に限り経費となります(所得税法第56条、第57条)。
また、海外プラットフォームからの電子書籍収入や同人誌の頒布収入は、通帳や決済サービスの入金履歴から確認されることがあります。「出版社からの印税は申告したが、電子書籍の直接配信分は申告していない」というケースは、調査官の側から見ると比較的見つけやすい論点です。
3. 取材費の線引き:旅行・宿泊・体験費用
必要経費の基本は、所得税法第37条に定める「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」です。取材費については、次の観点で整理すると説明しやすくなります。
(1)作品との対応関係を記録する
旅行の前後で、どの作品のために、どの場所を、どのような目的で訪れたかをメモや写真で残しておきます。執筆後であれば、作品のどの章や場面に反映されたかを紐づけておくと、調査の場面で説明が容易になります。
取材ノートや執筆日誌は、税務上の証憑として作られたものでなくても、業務関連性を示す資料として役立つ余地があります。
(2)私的部分は区分する
取材旅行に観光や家族の同行が含まれる場合、その部分を除いて経費計上する方が無難です。所得税法施行令第96条は、家事上の経費に関連する経費について、業務の遂行上必要であり、その必要である部分を明らかに区分できる場合に限り必要経費に算入できると定めています。
家族分の交通費や宿泊費を経費に含めている場合は、否認の理由として指摘されやすい部分です。
(3)体験費用の扱い
作中に登場する職業や趣味を体験するための費用(乗馬、料理教室、スポーツ観戦など)は、作品との対応関係が明確であれば経費となる余地があります。ただし、継続的な趣味として行っているものを後付けで取材と位置づけることは、説明が難しくなります。
4. 資料代の考え方:本・漫画・動画配信・ゲーム
資料代は、小説家の経費の中でも業務関連性の立証が問われやすい項目です。
(1)経費になる余地があるもの
執筆中の作品に関する専門書、同ジャンルの小説、時代考証のための史料、取材先に関する資料などは、執筆業務との関連性・必要性を説明できるものであれば、経費になる余地があります。新刊の動向を把握するための同業作家の作品も、業務との関連を説明できれば同様です。
(2)判断が分かれるもの
動画配信サービスの月額料金、ゲームソフト、漫画雑誌の定期購読などは、業務と私生活の両方で使われる性質があります。その全部を経費にするのではなく、利用実態に応じた按分を検討することが現実的です。
所得税基本通達45-1は、家事関連費のうち必要経費となる部分を「業務の内容等を総合勘案して判定する」としており、一律の基準があるわけではありません。
(3)記録の残し方
購入した書籍や視聴した作品を、執筆中の作品名とともに記録しておく方法が考えられます。一覧表にしておけば、調査官に対して「この作品のためにこれを読んだ」と示すことができます。
私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、経費の正当性は説明の具体性で判断が変わります。「資料として必要だった」という一般論では否認を覆しにくい一方で、作品と資料の対応を具体的に示せる場合は、調査官側も経費性を認める方向で検討しやすくなります。
5. 自宅の書斎と家事按分
自宅で執筆している場合、家賃、光熱費、通信費などを業務使用部分に限って経費にできます。
(1)按分の根拠
面積按分(書斎の床面積が自宅全体に占める割合)や、使用時間による按分が一般的です。所得税法施行令第96条の「明らかに区分できる」という要件を満たすためには、間取り図や執筆時間の記録など、割合を説明できる資料を残しておくことが望まれます。
(2)否認されやすいパターン
書斎が寝室や子ども部屋を兼ねている場合、その部屋全体の面積を業務使用とすることは説明が難しくなります。また、持ち家の場合は住宅ローンの元本返済は経費になりません(減価償却費や固定資産税の業務使用部分は経費となる余地があります)。
(3)パソコン・椅子・机など
10万円未満のものは消耗品費として一括で経費にできます。10万円以上のものは原則として減価償却の対象ですが、10万円以上20万円未満のものは3年間で均等に償却する一括償却資産とすることができます。また、一定の中小事業者に該当する青色申告者は少額減価償却資産の特例を適用でき、令和8年4月1日以後に取得するものについては、その上限が1件40万円未満・年間合計300万円に改められています(令和8年度税制改正)。これらも業務使用割合に応じた按分が前提になります。
6. 交際費・会議費:編集者との打合せと同業者との飲食
担当編集者との打合せを兼ねた飲食、同業者との情報交換の会食は、業務との関連が認められる余地があります。一方、個人事業主の交際費は法人と異なり金額の上限がない分、業務関連性が問われます。
- 相手の氏名・所属・人数を領収書の裏などに記録する
- 打合せの内容(作品名、企画の段階など)を簡単にメモしておく
- 家族や友人との飲食は計上しない
- 授賞式やパーティーの参加費は、業務上の人脈形成として説明できる範囲で計上する
頻度が多い飲食や、深夜・休日の飲食が多い場合、調査官は私的な飲食が混入していないかを確認する傾向があります。記録があれば説明できますが、記録がなければ家事費と判断される方向に傾きやすくなります。
7. 所得区分と変動所得の平均課税
(1)事業所得か雑所得か
小説の執筆による所得は、事業所得または業務に係る雑所得に区分されます。区分は営利性・継続性・独立性・事業規模・記帳や帳簿書類の保存状況などを総合して判断されます。
所得税基本通達35-2(令和4年改正)では、事業所得に該当するかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度で行われているかにより判定するとされています。特に、その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存していない場合は、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除き、原則として業務に係る雑所得として取り扱われます。帳簿書類を保存している場合でも、収入金額が例年300万円以下で主たる収入に対する割合が小さいときなどは個別に判定されます。会社員との兼業で執筆している方は、帳簿を備えているかどうかが所得区分に影響する点に注意が必要です。
雑所得の場合は青色申告特別控除や損益通算などが使えません。経費の計上に関しても、事業所得と同様に業務関連性が求められます。
(2)変動所得の平均課税
原稿料や印税による所得は、所得税法上の「変動所得」に当たります(所得税法第2条第1項第23号)。年によって収入の変動が大きい小説家のために、平均課税という制度があります(所得税法第90条)。
適用要件は2つの場合に分かれます。その年の変動所得の金額が前年および前々年の変動所得の合計額の2分の1を超える場合は、その年の変動所得と臨時所得の合計額が総所得金額の20%以上であることが要件です。一方、その年の変動所得が前2年の変動所得の平均額以下である場合は、その年の臨時所得の金額だけで総所得金額の20%以上であるかを判定します。要件を満たせば、累進税率による負担を緩和する効果があります。
ヒット作や映像化で収入が急増した年には、この制度の適用を検討する価値があります。適用には確定申告書への記載と計算明細書の添付が必要です。
(3)文学賞の賞金
文学賞の賞金の所得区分は、単に執筆活動と関連しているかどうかだけで決まるものではありません。賞金の発生原因、著作や役務の直接の対価であるか、応募等の働きかけがあるか、通常の文筆活動に付随して得られる収入といえるかなどを総合して判断します。国税庁の文書回答事例には、事業として執筆活動を行う作家が、既に出版された作品を対象として一方的に選考された文学賞の副賞を受領したケースについて、一時所得に該当するとされた例があります(東京国税局文書回答事例「吉川英治文学新人賞の受賞に伴って受領した副賞の取扱いについて」)。賞の性質によって判断が分かれるため、個別に確認することが望まれます。
8. 経費が否認された場合の追徴と加算税
税務調査で経費の一部が否認されると、修正申告または更正により所得が増加し、本税に加えて加算税が課される場合があり、延滞税が生じることがあります。
(1)過少申告加算税
家事関連費の混入や按分割合の過大計上など、見解の相違や計上誤りによる否認の場合は、過少申告加算税の対象となります。税率は時点によって異なり、調査通知を受ける前に自主的に修正申告した場合は課されず、調査通知後・更正を予知する前の修正申告では5%(一定額を超える部分は10%)、税務調査で否認されて更正を予知した後に修正申告した場合や更正を受けた場合は10%(一定額を超える部分は15%)です(タックスアンサーNo.2026)。
(2)重加算税との分かれ目
重加算税は、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装し、それに基づいて申告した場合等に課されます。単なる計上漏れや見解の相違だけで直ちに適用されるものではありません。
小説家の経費で重加算税が問題になるのは、存在しない取引の領収書を作成した場合や、家族旅行の領収書を取材費として偽装した場合など、仮装と評価される行為があったときです。私的な支出を経費に含めていたというだけでは、通常は過少申告加算税にとどまります。
(3)無申告だった場合
そもそも確定申告をしていなかった場合は、無申告加算税の対象になります。実地調査に係る調査通知(対象税目・対象期間等の通知)を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、50万円以下の部分10%・50万円超300万円以下の部分15%・300万円超の部分25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は法定申告期限により区分が異なります)。なお、反復して無申告となっている場合や、帳簿の不提示・記載不備がある場合には、さらに加重されることがあります。
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)によると、無申告者に対する実地調査(特別・一般調査)では、1件当たりの申告漏れ所得金額は2,992万円、追徴税額は524万円となっています。この数値は調査対象として選定された事案の実績であり、業界全体の申告漏れ額や調査確率を示すものではありません。
9. 税務調査の事前通知が来たときの準備
税務調査は、原則として、事前に国税通則法第74条の9に基づく事前通知が行われます。連絡を受けてから調査日までの間に、次の準備をしておくと対応がしやすくなります。
(1)領収書と作品の対応表を整える
経費の領収書を年度ごとに整理し、取材費・資料代については対応する作品名を一覧にしておきます。後から整理することは問題ありませんが、存在しなかった証憑を作成することは仮装に当たるため避けてください。再整理した資料は、作成時期と根拠資料を明確にしておきます。
(2)通帳と入金の確認
出版社からの入金のほか、海外プラットフォームからの送金、決済サービスからの入金が申告に含まれているかを確認します。申告漏れが見つかった場合は、調査日前に自主的に修正申告を行う選択肢があります。
(3)質問応答記録書への向き合い方
調査の過程で、調査官が質問と回答を記録した「質問応答記録書」の作成を求めることがあります。取材旅行の目的や書斎の使用状況などについて、記憶が曖昧な点は曖昧なまま答え、推測で断定しないことが大切です。記録書の内容は後の処分の根拠になるため、署名前に内容を確認してください。
この点は、共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳しく整理しています。
(4)税理士への相談
経費の業務関連性は、説明の組み立て方で結果が変わる論点です。事前通知を受けた段階で税理士に相談すれば、資料の整理と説明の方針を事前に検討できます。
よくある質問
Q1. 印税は源泉徴収されているので、確定申告は不要ですか?
源泉徴収は前払いであり、確定申告が不要になるわけではありません。年間の所得を計算して申告し、源泉徴収税額と精算します。経費を計上することで還付になる場合もあります。なお、給与所得者で執筆による所得が20万円以下の場合など、所得税の確定申告を要しないケースもありますが、住民税の申告は原則として必要です。
Q2. 読んだ小説や漫画の代金はすべて経費になりますか?
執筆中の作品との関連を説明できるものは資料費として経費になる余地があります。娯楽として読んだものと区別がつかない場合は否認される可能性があるため、作品名と対応づけた記録を残しておくことが望まれます。
Q3. 家族と一緒に行った取材旅行はどう扱われますか?
本人の取材に必要な部分と、家族分や観光部分を区分し、業務に必要な部分に限って経費にするのが原則です。区分できない場合は全体が家事費と判断される可能性があります。
Q4. 海外の電子書籍プラットフォームからの収入は申告が必要ですか?
原則として申告対象です。源泉徴収や支払調書の仕組みがなくても、非永住者以外の居住者は、国内外を問わずすべての所得が課税対象となります。ただし、非永住者に該当する場合は課税所得の範囲が異なります。また、支払者が海外であることだけで国外源泉所得になるわけではないため、所得の性質や契約内容を確認する必要があります。外貨で受け取った場合は円換算して計上します。消費税の取扱いは契約内容によって判断が分かれるため、個別の確認が必要です。
Q5. 経費を多めに計上していた場合、重加算税になりますか?
私的な支出の混入や按分の過大といった計上誤りは、通常、過少申告加算税の対象です。重加算税は領収書の偽造など隠蔽・仮装と評価される行為があった場合に課されるものであり、見解の相違だけで直ちに適用されるものではありません。
Q6. ヒット作で収入が急増した年の税負担を抑える方法はありますか?
原稿料・印税は変動所得に当たるため、要件を満たせば平均課税(所得税法第90条)を適用できます。確定申告書への記載と計算明細書の添付が必要ですので、申告前に要件を確認してください。
まとめ:小説家の税務調査は「記録で説明できる経費」かどうかで決まる
小説家の印税・原稿料は、源泉徴収と支払調書の仕組みによって税務署に把握されやすく、調査の重点は経費の業務関連性に置かれる傾向があります。
取材費、資料代、書斎の家事按分、交際費のいずれも、領収書の有無だけではなく、業務との関連性や利用実態を具体的に説明できるかで判断が分かれます。確定申告の段階で、執筆日誌や資料一覧のような記録を残しておくことが、調査への備えになります。
あわせて、海外プラットフォームからの収入や同人誌の頒布収入など、支払調書のない収入の申告漏れがないかを確認しておいてください。収入が急増した年には、変動所得の平均課税の適用も検討する価値があります。
関連する記事もあわせてご覧ください。
取材費や資料代の経費判定は、調査官との説明の組み立て方で結果が変わる論点です。税務調査への対応全般については、「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもご覧ください。
引用・参考文献
- 所得税法第2条第1項第23号(変動所得)、第37条(必要経費)、第45条(家事関連費等の必要経費不算入)、第56条・第57条(親族が事業から受ける対価)、第90条(変動所得及び臨時所得の平均課税)、第204条・第205条(源泉徴収)、第225条(支払調書)
- 所得税法施行令第96条(家事関連費)
- 所得税基本通達35-2(業務に係る雑所得の例示)、45-1・45-2(家事関連費)
- 国税通則法第74条の9(事前通知)
- 国税庁タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」、No.2010「納税義務者となる個人」、No.2026「確定申告を間違えたとき」、No.2210「やさしい必要経費の知識」、No.2792「源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」、No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」、No.7431「「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等」
- 国税庁「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」および同説明書
- 東京国税局文書回答事例「吉川英治文学新人賞の受賞に伴って受領した副賞の取扱いについて」
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
- 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

