弁護士・司法書士・行政書士に税務調査は来る?|元国税調査官が論点を解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「着手金は入金したときの売上でよいのだろうか」
「預り金と報酬の区分が、通帳の上で曖昧になっていないか不安だ」
「源泉徴収されているから、申告は大きく間違えないと思っていたが自信がない」
開業されている弁護士・司法書士・行政書士の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。法律や手続きの専門家でも税務は専門外という方が多く、報酬の計上時期や預り金の処理といった論点が自己流のまま年数を経ているケースは少なくありません。この記事では、元大阪国税局で調査事務に従事した税理士が、士業の税務調査で問題になりやすい論点と対応を解説します。
結論:士業の収入は支払記録・受任記録等から確認される。計上時期と預り金の区分が調査の中心
先に結論をお伝えします。士業の報酬のうち、弁護士・司法書士等への報酬は、支払者が法人や一定の個人事業者である場合、源泉徴収や支払調書を通じて税務署に把握されやすい構造にあります(行政書士の通常業務の報酬は原則として対象外です)。売上の計上漏れがあれば支払記録や受任記録等との照合によって発見されやすく、調査で実際に問題になるのは、着手金・成功報酬の計上時期(期ずれ)、預り金と報酬の区分、経費の範囲といった処理の論点です。
裏を返せば、報酬の計上ルールを整理し、預り口座と事件簿・受任簿を対応づけて管理していれば、大きな指摘を受けるリスクは抑えられます。恐れるべきは調査ではなく、記録と区分の曖昧さです。
この記事でわかること
- 士業に対する税務調査の現状と、収入が把握されるしくみ
- 調査官が重点的に確認するポイント(内側の視点)
- 着手金・成功報酬・タイムチャージの計上時期の考え方
- 預り金と報酬の区分、源泉徴収と確定申告の関係
- 申告漏れがあった場合の加算税と、調査の連絡が来たときの対応
1. 士業と税務調査の現状
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表・全国計)によると、所得税の調査等の件数は実地調査と簡易な接触を合わせて73万6千件、追徴税額の総額は1,431億円と過去最高になっています。実地調査(特別・一般)の1件当たり申告漏れ所得金額は1,486万円で、調査対象の選定にはAIも活用されています。
これらは士業に限った数字ではありませんが、弁護士・司法書士・行政書士は個人事業者として事業所得を申告する方が多く、依頼者からの支払記録が残りやすいという特徴があります。申告内容と資料情報の差があれば、実地調査のほか、簡易な接触(文書や電話による確認等)の対象になり得ます。当局は実地調査と簡易な接触を使い分けて効率的に確認を進めており、令和6事務年度の簡易な接触件数は前事務年度から増加しています。なお、簡易な接触には、更正の請求に基づく減額更正や添付書類の提出依頼等も含まれます。個人に対する調査全般の傾向は「個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?」でも解説しています。
2. 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の内側視点)
調査官はどこを見ているのか。情報の入手経路と確認の手順から整理します。
(1)支払調書・源泉徴収による収入の把握
弁護士・司法書士等の個人に支払われる報酬は、支払者が法人である場合や、給与等を支払う個人事業者である場合には、原則として所得税法第204条に基づく源泉徴収の対象となります。これらの報酬は、同一人への年間支払額が原則5万円を超える場合に支払調書の提出対象です。つまり、誰からいくらの報酬を受け取ったかという情報の相当部分が、申告前から税務署側に蓄積されています。一方、通常の官公署提出書類の作成などに係る行政書士報酬は、原則として源泉徴収・支払調書の対象外です(建築代理士等の対象業務に該当する場合は取扱いが異なります)。申告された売上と支払調書の集計に開きがあれば、その差の原因が確認されます。
(2)預り口座を含む通帳の資金の流れ
士業の口座には、報酬のほか、登録免許税や供託金、実費などの預り金が混在しがちです。調査では、預り口座を含む口座の入出金と、事件簿・受任簿・請求書との対応関係が確認されます。私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、士業のように記録の残る職業では、受任の記録と入金を1件ずつ突き合わせ、計上漏れの入金や、預り金として処理された中に実質は報酬であるものがないかを確認していくのが基本の進め方でした。口座の見られ方は「税務調査と通帳」で詳しく解説しています。
(3)個人の依頼者からの報酬・現金収入
個人の依頼者から受け取る報酬については、依頼者が給与等の支払者でない個人であれば、弁護士・司法書士報酬であっても原則として源泉徴収は行われません(源泉徴収の要否と支払調書の提出要否は別に判断されます)。税務署側に源泉徴収等の資料情報がない場合でも、受任簿や裁判所・法務局への申請記録、入金状況といった周辺情報から、受任件数と収入の規模が確認されることがあります。現金であれば分からないという考えは通用しません。行政書士の通常業務の報酬は源泉徴収・支払調書の対象外であるため、自身の帳簿と受任記録の整備がより重要です。
3. 報酬の計上時期:着手金・成功報酬・タイムチャージ
士業の調査で最も典型的な指摘が、売上の計上時期(期ずれ)です。計上時期は、入金日ではなく報酬を受け取る権利が確定した時点が基準となり、契約や業務の内容によって異なります。
人的役務の提供による報酬は、原則として役務の提供を完了した時点で収入となりますが、契約や慣習により、期間の経過又は役務提供の程度に応じて報酬を受け取ることとされている場合は、その収入すべき事由が生じた時点で計上します。着手金については、その名称や返還義務の有無だけで計上時期が一律に決まるわけではありません。受任時又は業務着手時に報酬請求権が確定し、その金額が受任自体又はその時点までに提供した役務の対価と認められる場合は、その時点で計上します。一方、その全部又は一部が今後提供する役務の対価としての前受金に当たる場合は、役務の完了や進捗等に応じて計上時期を判断します。成功報酬は成功条件が成就し報酬額が確定した時点、タイムチャージや顧問料は役務の提供に応じて対応する期間の収益とするのが基本です(現金主義の特例を適用している場合は取扱いが異なります)。年内に収入すべき事由が生じた着手金を翌年の入金時まで計上しない、年内に確定した成功報酬を入金まで計上しないといった処理は、期ずれとして指摘される可能性があります。契約書や委任契約の条項で、いつ権利が確定するのかを整理しておきましょう。年をまたぐ案件は、計上年分を受任簿上で明示しておくと、申告時の判断も調査での説明も安定します。報酬を分割で受け取る場合も、権利確定の時期と入金の時期は別の問題として整理が必要です。
4. 預り金と報酬の区分
登録免許税、印紙代、供託金、裁判所への予納金といった実費・公租公課の預りは売上ではありません。一方、これらと報酬が同じ口座で一括入金されると、区分が曖昧になりがちです。
問題になりやすいのは、預り金勘定に入れたまま精算されず実質的に報酬となっているもの、実費の預りと実際の支出との差額が返金も収益計上もされずに残っているものです。逆に、預り金を誤って売上に含め過大申告になっているケースもあります。事件ごとに預り金残高を管理し、終結時に精算して報酬部分を確定させることが、調査での説明を容易にします。
5. 源泉徴収と確定申告の関係
源泉徴収をめぐっては、資格及び支払者の区分によって取扱いが異なる点に注意が必要です。個人の弁護士・司法書士に支払われる報酬は、支払者が法人である場合又は給与等の支払者である個人の場合、原則として所得税法第204条による源泉徴収の対象となります。司法書士の報酬は、1回の支払金額から1万円を差し引いた残額に対して源泉徴収されます。一方、行政書士の通常業務の報酬は同条に列挙されていないため、原則として源泉徴収の対象外です(依頼した業務が建築代理士等の対象業務に該当する場合は取扱いが異なります)。
ここで誤解が多いのが、「源泉徴収されているから申告はしなくてよい」という考えです。源泉徴収はあくまで概算の前払いであり、事業所得は確定申告で精算します。経費を差し引いた結果、源泉徴収された税額が納めすぎなら還付され、所得が大きければ追加の納税が生じます。源泉徴収の有無にかかわらず、確定申告が必要な場合には自ら申告・納税します。
6. 必要経費で問題になりやすい論点
士業の経費は、業務上直接必要かどうかで判断されます。各士業会の会費や研修費、業務用の書籍・判例データベースの利用料などは業務との関連が明確です。一方、問題になりやすいのは次のような支出です。
交際費は、依頼者や紹介元との会食など業務上の必要性を説明できるものに限られ、相手先や目的の記録がないものは指摘されやすくなります。自宅兼事務所の家賃や水道光熱費は、業務使用部分を面積や使用時間などの合理的な基準で按分します。車両を業務と私用で兼用する場合の按分や、スーツ・時計といった身の回り品の扱いも、家事費との区分が問われやすい論点です。領収書があるだけで経費になるわけではなく、迷う支出は業務との関連を示すメモを残しておくことが後の説明を支えます。
7. 消費税とインボイス
士業の報酬は、原則として消費税の課税対象です。納税義務は、基準期間(前々年)の課税売上高に加え、特定期間の課税売上高等も参照して判定します。また、それまで免税事業者であった者が年の途中でインボイス登録を受けた場合は、原則として登録日以後の取引について消費税の申告が必要です。なお、基準期間等の判定により既に課税事業者である場合は、登録日前を含む課税期間全体が申告対象となります。
実費の取扱いにも注意が必要です。登録免許税、印紙代、官公署の手数料など、法令上依頼者が本来負担すべき金額を立替払いし、請求書・帳簿上、報酬と明確に区分して実費どおりに精算している場合は、士業側の課税売上げに含めない取扱いができます。一方、交通費や宿泊費などは、実費精算であっても当然に課税対象外となるわけではなく、依頼者による直接払いと実質的に認められる場合を除き、原則として役務提供の対価に含まれます。誰が本来の支払義務者かと、請求書・帳簿上の区分が要点です。
8. 無申告・申告漏れがあった場合
売上の計上漏れや無申告があった場合、期限後申告・修正申告のタイミングで加算税の負担が変わります。実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、50万円以下の部分10%・50万円超300万円以下15%・300万円超25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は区分が異なります)。
また、預り金勘定を利用して報酬を意図的に売上から除外していたと認定される場合には、重加算税の対象になり得ます。重加算税は、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装して申告した場合等に課されるもので、単なる計上漏れや見解の相違だけで直ちに適用されるものではありません。調査で確認される期間については「税務調査は何年分さかのぼる?」をご覧ください。
9. 調査の連絡が来たときの対応
税務署からの接触には、実地調査の調査通知のほか「お尋ね」などの文書照会もあります。その接触が実地調査なのか行政指導なのかを見極めて対応することが出発点です。文書照会への対応は「税務署から「お尋ね」が届いたら」をご覧ください。
資料の準備では、受任簿・事件簿、請求書控え、預り金の管理記録、通帳を事件単位で対応づけます。なお、依頼者との関係では守秘義務への配慮が必要ですが、守秘義務の対象となる資料であっても、税務調査に必要な範囲で提示・提出を求められる場合があります。一方で、調査官にも厳格な守秘義務があり、質問検査は調査のために必要な範囲で行われます。事件内容を無制限に開示するのではなく、課税関係との関連性、資料提出の必要性、代替資料の有無などを確認しながら開示範囲を検討することが重要で、迷う資料がある場合も含め、対応方針は早めに税理士へ相談することをおすすめします。調査の過程で作成される質問応答記録書は、後の課税処分や重加算税認定の判断に影響する重要書類です。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、記載内容が事実と一致しているかを十分に確認し、誤りがあれば訂正を求めたうえで署名の可否を判断することが大切です。
まとめ:計上ルールと預り金管理の整備が最大の備え
弁護士・司法書士の報酬は、源泉徴収や支払調書を通じて税務署に把握されやすい構造にあります。一方、行政書士の通常業務の報酬はこれらの対象外ですが、帳簿・受任記録・請求書・入金記録等との整合性が確認されます。士業の調査の中心は、着手金・成功報酬の計上時期、預り金と報酬の区分、経費の範囲といった処理の論点になります。報酬の計上ルールを契約に沿って整理し、預り金を事件ごとに管理し、経費の根拠を残す。この基本を整えておけば、調査で大きな指摘を受けるリスクは抑えられます。申告に不安がある方や調査の連絡を受けた方は、早めに専門家へ相談してください。
よくある質問
Q1. 弁護士・司法書士・行政書士にも税務調査は来ますか?
士業も個人事業者として税務調査の対象になります。弁護士・司法書士の報酬は、源泉徴収や支払調書の情報と申告内容が照合されることがあります。行政書士を含む士業では、受任記録・請求書・通帳・預り金の管理記録等との整合性が確認され、計上時期や預り金の処理に疑問がある場合には、調査や文書照会の対象になり得ます。
Q2. 着手金はいつの収入になりますか?
入金日だけでなく、契約内容と役務の提供状況に基づき、報酬について収入すべき事由が生じた時点を確認します。着手金という名称や返還義務の有無だけで一律に決まるものではなく、受任自体の対価なのか、今後の役務に対する前受金なのかによって判断が異なります。なお、現金主義の特例を適用している場合は取扱いが異なります。
Q3. 預り金も売上に含める必要がありますか?
登録免許税や印紙代、供託金などの実費・公租公課の預りは売上ではありません。ただし、精算されないまま実質的に報酬となっている部分は収益として計上する必要があります。事件ごとに預り金残高を管理し、終結時に精算することが重要です。
Q4. 源泉徴収されていれば確定申告はしなくてよいですか?
源泉徴収は概算の前払いであり、事業所得は確定申告で精算する必要があります。確定申告が必要な場合には、源泉徴収の有無にかかわらず自ら申告・納税します。なお、行政書士の通常業務の報酬は原則として源泉徴収の対象外です。
Q5. 売上の計上漏れを指摘されたらどうなりますか?
期ずれや計上漏れは修正申告等の対象となり、過少申告加算税や延滞税が生じることがあります。預り金勘定を利用した意図的な売上除外と認定されるような場合には、重加算税の対象になり得ます。指摘の内容に応じて、事実関係を確認したうえで対応を検討してください。
Q6. 税務調査は何年分さかのぼりますか?
調査では当初3年分程度の資料を求められることがありますが、問題の内容によって対象期間が拡大されます。法律上、増額更正等ができる期間は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。無申告の場合も原則5年分が対象となります。
市田税理士事務所は、元国税調査官(大阪国税局 資料調査課 出身)の税理士が税務調査への対応をサポートする事務所です。顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
士業に限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
- 所得税法第204条(源泉徴収義務)
- 国税庁タックスアンサーNo.2793「報酬・料金等の源泉徴収義務者」、No.2801「司法書士等に支払う報酬・料金」、No.7431「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の提出範囲」
- 国税庁質疑応答事例「行政書士に報酬を支払った場合」「実費弁償金の課税」
- 所得税基本通達36-8、国税庁「税務調査手続に関するFAQ」
- 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

