為替差益に税務調査は来る?|元国税調査官がFX・外貨預金と最高裁初判断を解説

著者:市田佳祐(税理士・国税OB)

「FXや外貨預金で為替差益は出たが、自分のところにも税務調査は来るのか」
「証券会社が源泉徴収してくれていると思っていたが、本当に申告しなくてよいのか」
「海外のFX業者や海外口座の利益は、日本の税務署に把握されないのではないか」

円安が長く続くなかで、外貨預金やFX(外国為替証拠金取引)で為替差益を得る方が増えています。
一方で、為替差益は税務調査で問題になりやすい論点が多い分野です。取引の種類によって課税の方法がまったく異なり、
申告の要否や税率、損益通算・損失繰越の扱いを取り違えやすいうえ、海外取引の申告漏れが起きやすいためです。

そして、この分野の調査には、為替差益ならではの「見られ方」があります。中でも中心になりやすいのが、
その利益をいつ・どの所得区分で申告したか(実現時期と課税区分)です。とくに「円に戻していないから利益は出ていない」という誤解は、
国税庁が公式の例示で明確に否定しているうえ、令和8年6月には最高裁判所も、外貨から外貨への交換等の時点での課税を適法とする初判断を示しました。申告漏れとして指摘される典型例になっています。

この記事では、調査する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、為替差益の課税区分、国税庁の例示による実現時期の考え方、
税務署が利益を把握する経路、調査で指摘されやすいポイント、そして正しい備えを解説します。

この記事でわかること

  • 為替差益が税務調査で問題になりやすい理由
  • 調査官が為替差益で重点的に確認するポイント(内側の視点)
  • 取引の種類ごとに異なる課税区分(外貨預金・為替予約付・国内FX・海外FX)
  • 為替差益は「いつ」実現するのか——国税庁の質疑応答事例による4つの例示
  • 【令和8年6月・最高裁初判断】外貨から外貨への交換等の為替差益も課税対象
  • 税務署が為替差益を把握する経路(支払調書・国外送金等調書・CRS・国外財産調書)
  • 損益通算・損失繰越の注意点と、正しい備え

Table of Contents

1. 為替差益は税務調査で問題になりやすい論点が多い

すべての納税者が均等に調査されるわけではありません。税務署は、限られた人員の中で、申告漏れの可能性が高いと見込まれる先に調査を集中させています。
その中で、為替差益は構造的に論点が多く、注目されやすい分野です。理由は次のとおりです。

  • 課税区分が取引ごとに異なる:外貨預金・為替予約付・国内FX・海外FXで、税率も申告方法も変わり、取り違えが起きやすい。
  • 実現時期を誤解しやすい:「円に戻していないから利益は出ていない」と考えがちだが、別の外貨への交換や外貨での資産購入でも為替差益は実現する。
  • 申告漏れが起きやすい:「源泉徴収されているはず」「少額だから不要だろう」という思い込みから、無申告になりやすい。
  • 海外取引が絡みやすい:海外FX業者や海外口座の利益は、把握されにくいと誤解されがちだが、実際には各種調書やCRSで把握され得る。

「一般の会社員や少額の投資だから来ない」とは限りません。むしろ、申告内容や取引の状況から申告漏れが見込まれれば、規模にかかわらず対象になります。
調査がどう選ばれるかについては、次の記事で詳しく解説しています。

(関連記事:税務調査が来る確率は?どんな人に来るのか|元国税調査官が選ばれる基準を解説

2. 調査官が為替差益で重点的に確認するポイント——内側の視点

為替差益の調査には、調査官が重点的に確認する定番のポイントがあります。私は資料調査課で国際課税・富裕層調査に従事してきましたが、その経験から、重要な順に整理します。

(1) 利益の申告漏れ・実現時期の誤り

まず確認されるのが、FXや外貨預金で利益が出ているのに申告そのものがされていないケース、そして、円に戻していなくても実現している為替差益
(別の外貨への交換、外貨での金融商品・不動産の購入など)を認識していないケースです。とくに海外の口座で外貨から外貨への運用を繰り返している方は、
本人に申告漏れの自覚がないまま、多額の為替差益が積み上がっていることがあります。

(2) 所得区分(国内FX・海外FX・外貨預金)

次に、その利益を正しい所得区分で申告しているかが確認されます。国内FXの申告分離課税と、海外FX・外貨預金の総合課税とを取り違えていないか、
という点です。区分を誤ると、税額そのものが変わります。

(3) 損益通算・損失繰越

損失がある場合は、通算できる範囲を守っているか、損失繰越の手続き要件を満たしているかが見られます。
FXの損失を株式や暗号資産と相殺していないか、繰越のための連続申告が抜けていないか、といった点です。

(4) 海外取引の把握との整合

海外FX業者や海外口座を使った取引について、国外送金等調書やCRS(共通報告基準)で把握した情報と、申告内容が整合しているかが確認されます。
「海外だから見えない」という前提は、すでに通用しにくくなっています。

3. 為替差益の課税区分——取引の種類で変わる

為替差益の税務でもっとも間違えやすいのが、この所得区分です。どの取引で得たかによって、次のように扱いが分かれます。

(1) 外貨預金の為替差益(原則:雑所得・総合課税)

外貨預金の為替差益は、原則として雑所得として総合課税の対象になります。給与所得などほかの所得と合算し、金額に応じた累進税率で課税され、原則として確定申告が必要です。
なお、外貨預金の利息そのものは利子所得で、国内の金融機関のものであれば源泉分離課税(20.315%)となり、申告は不要です。

(2) 為替予約等により円換算額を確定させた外貨預金(源泉分離課税)

外貨建預貯金のうち、元本と利子をあらかじめ定められた利率により円または他の外貨に換算して支払うこととされている一定のものの換算差益は、
いわゆる金融類似商品の収益として源泉分離課税(20.315%)の対象となり、金融機関側で税金が差し引かれるため、確定申告は不要です
(所得税法174条7号、租税特別措置法41条の10、国税庁タックスアンサーNo.1520)。
預入時に為替予約を付して満期時の円換算額を確定させる外貨定期預金が、その典型例です。同じ外貨預金でも、この要件を満たすかどうかで扱いが分かれます。

(3) 国内のFX(先物取引に係る雑所得等・申告分離課税)

金融商品取引法に基づく登録を受けた国内のFX業者との店頭取引や、取引所FXで得た利益は、「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象となり、
税率は一律20.315%です(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%。租税特別措置法41条の14)。ほかの所得とは分けて計算します。
なお、申告分離課税の対象となるのは、金融商品取引業者(第一種金融商品取引業者)または登録金融機関等との一定の取引に限られます。無登録業者との取引などは、国内での取引であっても申告分離課税の対象外となる場合があります。

(4) 海外のFX(総合課税)

一方、海外のFX業者との取引は、金融商品取引法上の登録がないことが一般的で、その場合は申告分離課税の対象になりません。総合課税の雑所得として、ほかの所得と合算した累進税率(所得税・復興特別所得税で5.105%〜45.945%、これに住民税が加わります)で課税されます。
同じFXでも、国内業者と海外業者とで課税の仕組みが根本的に異なる点は、特に誤りやすいところです。

ポイント:「為替差益」とひとくくりにせず、外貨預金か/為替予約の有無/国内FXか海外FXか、で課税区分を分けて考える必要があります。
区分を誤ると、税額そのものや申告の要否を取り違えることになります。

4. 為替差益は「いつ」実現するのか——国税庁の例示で確認

外貨を保有しているだけの含み益には課税されません。では、どの時点で為替差益が「実現」して課税対象になるのか。
ここが実務で最も判断に迷うところですが、国税庁は質疑応答事例で具体的な例示を公表しています。
外貨建取引を行った場合の円換算の基本ルール(所得税法57条の3)を前提に、代表的な4つのケースを確認します。

(1) 外貨を円に戻した場合——認識する(基本形)

1ドル100円のときに取得した1万ドルを、1ドル140円のときに円に戻せば、40万円の為替差益が実現します。これが最も基本的なパターンで、雑所得として申告が必要です。

(2) 同じ外貨のまま別の銀行に預け替えた場合——認識しない

A銀行の米ドル建て定期預金が満期になり、その元本を米ドルのままB銀行に預け入れた場合は、為替差益を認識する必要はありません。
同一の外国通貨で預入・払出が行われる限り、外貨の保有状態に実質的な変化がないためです(所得税法施行令167条の6第2項、国税庁質疑応答事例「外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い」)。

(3) 別の外貨に交換した場合——認識する

円を介さずに、米ドルをユーロなど別の外国通貨に交換した場合でも、その交換時点で為替差損益を認識する必要があります
国税庁の例示では、100万円を1ドル100円で1万ドルに交換し、その後この1万ドルを1ユーロ150円のときに8,000ユーロに交換したケースで、
(150円×8,000ユーロ)−(100円×1万ドル)=20万円の為替差益を認識するとされています
(質疑応答事例「保有する外国通貨を他の外国通貨に交換した場合の為替差損益の取扱い」)。

「円に戻していないから利益は出ていない」という理解は、ここで明確に否定されています。そして令和8年6月、この外貨から外貨への交換に課税する取扱いの適法性は、最高裁判所の初判断によっても確定しました。次章で詳しく解説します。

(4) 外貨のまま金融商品や不動産を購入した場合——認識する

外貨預金を払い出して、外貨建MMFなどの金融商品に投資した場合や、海外の不動産を外貨で購入した場合も、
その投資・購入の時点で為替差益を認識する必要があります。新たな経済的価値を持った資産に置き換わったことで、
それまで評価差額にすぎなかった為替差損益が実現した、と考えられるためです。

国税庁の例示では、1ドル90円のときに預け入れた10万ドルの外貨預金を払い出し、1ドル105円のときに全額を外貨建MMFに投資したケースで、
(105円−90円)×10万ドル=150万円の為替差益を認識するとされています(質疑応答事例「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」)。
米国内の不動産を外貨で購入した場合も同様で、購入に充てた外貨の部分について為替差益を認識します(購入に充てず外貨のまま保有し続けている部分については、認識しません)。

ポイント:為替差益が実現するのは「円に戻したとき」だけではありません。別の外貨への交換や、外貨のままの金融商品・不動産の購入でも実現します。
認識しなくてよいのは、同一の外貨のまま預け替えるなど、外貨の保有状態に実質的な変化がない場合に限られます。
海外口座で外貨建ての運用を繰り返している方は、取引のたびに為替差損益が発生している可能性があります。

5. 【令和8年6月】外貨間交換等の為替差益への課税、最高裁が「適法」と初判断

前章の「別の外貨への交換で為替差益が実現する」という取扱いについて、押さえておくべき最新の重要判決があります。
令和8年6月16日、最高裁判所第三小法廷(林道晴裁判長)は、外国通貨により他の種類の外国通貨または同一の外国通貨建ての有価証券を取得した取引について、
その取引の時点で円換算の為替差益に係る所得が生じ得るとし、課税を適法とする初めての判断を示しました。裁判官5人全員一致の結論です。
つまり、円を介さない外貨同士の両替だけでなく、たとえば米ドルで米ドル建ての有価証券を購入した場合も、この判決の対象に含まれます。

(1) 事案の概要——スイスの銀行での外貨建て運用

1・2審の認定によると、日本在住の投資家がスイスの銀行の口座に多額の資金を送金して資産運用を一任したところ、
銀行側は、日本円から取得した外国通貨を別の外国通貨に両替したり、外貨建ての有価証券を取得したりする取引を繰り返しました。
投資家がこれらの取引で生じた為替差益を所得に含めずに確定申告をしたところ、東京国税局から、多額の為替差益が課税対象の所得に当たるとして更正処分を受け、
その取消しを求めて争ったものです。投資家側は「円で払い戻すまでは利益は確定していない」と主張しました。

取引のイメージを単純化すると、たとえば1ドル100円のときに1万6,000ドルを取得し(円換算160万円)、
その後1ポンド170円のときにこの米ドルを1万ポンドに交換した(円換算170万円)とすると、円に一度も戻していなくても、
この交換の時点で差額の10万円が為替差益として雑所得になる——これが国税当局の課税であり、争われた点です。

(2) 最高裁の判断——他の外貨の取得時点で経済的価値が固定化される

最高裁は、円との関係で為替相場により変動していた外貨の経済的価値は、他の種類の外国通貨や外国通貨建ての有価証券を取得した時点で、
取得した資産の価値をもって固定化されると指摘し、その円換算額が所得税法36条の「収入すべき金額」に当たると判断しました。
これは、第4章で確認した国税庁の例示(外貨間の交換・外貨建MMFへの投資で為替差益を認識する)と整合する判断です。
1審・東京地裁(令和4年8月)、2審・東京高裁(令和5年5月)に続き、投資家側の上告を棄却し、課税処分を適法とした判決が確定しています。
外貨を円に戻したときの課税は従来から確立していましたが、円転を伴わない外貨同士の取引について、司法として初めて明確な基準が示されたことになります。

(3) 実務への影響——国税当局の運用が司法により追認された

国税当局は従来から、前章の質疑応答事例のとおり「外貨同士の交換時点で為替差損益が実現し、課税対象になる」とする運用を続けてきました。
今回の最高裁判決は、この課税実務を最高裁レベルで追認したものです。調査の現場から見れば、外貨間交換等の為替差益の申告漏れは、
今後いっそう指摘しやすくなったといえます。外貨建ての投資信託や有価証券を組み合わせた運用をしている方、海外口座で外貨間の両替を繰り返している方は、
過去の申告に漏れがないか、確認しておくことをおすすめします。

なお、林裁判長ら3人の裁判官は補足意見で、為替差損益への課税には所得税法上の明文規定がなく、あくまで現行法の解釈にとどまるとしたうえで、
課税のあり方を抜本的に検討し、必要な法的手当てを講じることが強く望まれると述べています。今後の税制改正の動きにも注目が必要です。

6. 「源泉徴収されているはず」という誤解

(1) FXに源泉徴収ありの特定口座はない

上場株式の取引では、証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を選んでいれば、利益から税金が差し引かれ、確定申告をしなくてよい場合があります。
この感覚のまま、FXの利益も「口座側で源泉徴収されているはず」と考えてしまう方がいらっしゃいます。しかし、FXには株式のような源泉徴収ありの特定口座の制度はありません
利益が出れば、原則として自分で確定申告をして納税する必要があります。

(2) 20万円以下でも住民税の申告は必要

給与所得者で、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要となる場合があります。
ただし、この場合でも住民税の申告は必要です。また、医療費控除や住宅ローン控除(初年度)などで確定申告をする場合には、
20万円以下の為替差益も含めてすべて申告する必要があります。所得税の申告が不要だからといって、何もしなくてよいわけではありません。

7. 税務署はどこから為替差益を把握するのか——内側の視点

「海外のことは分からないだろう」という前提は、為替差益についても通用しにくくなっています。税務署は次のような複数の経路から情報を集めています。

(1) 先物取引に関する支払調書

国内のFX業者は、顧客の差金等決済の損益に関する支払調書を税務署に提出しています。国内FXの利益は、税務署側で把握される前提と考えておくべきです。

(2) 国外送金等調書

金融機関は、100万円を超える国外への送金・国外からの受金について、税務署長に調書を提出します。海外口座とのお金の動きは記録に残ります。

(3) CRS(共通報告基準)

参加国・地域の金融機関が把握する口座情報を、各国の税務当局間で自動的に交換する仕組みです。日本の居住者が海外に持つ口座の残高や利子・配当等の情報は、その所在国から国税庁へ提供されます。
CRSについては令和6年度税制改正を踏まえた制度の見直しも行われており、令和8年から改正後の制度が施行され、令和9年以後は改正後の制度に基づく金融口座情報の報告・交換が行われることとされています。情報交換の枠組みは、今後さらに充実していく方向にあります。

(4) 国外財産調書

その年の年末に5,000万円を超える国外財産を持つ方は、その内容を記載した調書を提出する義務があります。提出の有無そのものも、把握の手がかりになります。

海外送金に関して税務署から確認の連絡(お尋ね)が届くこともあります。その性質や対応については、次の記事で整理しています。
また、預金の動きがどこまで見られるかも、あわせてご確認ください。

(関連記事:税務署から「お尋ね」が届いたら|元国税調査官が無視のリスクと対応を解説
(関連記事:税務調査で通帳はどこまで見られる?|元国税調査官が個人口座・家族口座の扱いを解説

8. 損益通算・損失繰越と重加算税の注意点

(1) 損益通算できる範囲

損益通算ができるのは「先物取引に係る雑所得等」の範囲内に限られます。国内FX同士のほか、先物・オプション取引や一定のCFDなど、同じ区分に含まれる取引の損益とは通算できますが、
株式の譲渡益・配当とは相殺できません。海外FX(総合課税の雑所得)と国内FX(申告分離)も、課税区分が異なるため通算できません。
なお、外貨預金の為替差損や海外FXの損失は、総合課税の雑所得の範囲内であれば、暗号資産の利益など他の雑所得との内部通算が可能です。
ただし、暗号資産については、令和8年度税制改正により一定の「特定暗号資産」の課税方式が申告分離課税へ見直される方向が示されているため、適用開始後は通算関係が変わる可能性がある点に注意が必要です。

(2) 損失繰越は「連続申告」が要件

国内FXの損失は、翌年以後3年間にわたって「先物取引に係る雑所得等」から繰越控除できます(租税特別措置法41条の15)。ただし、そのためには損失が出た年以降も連続して確定申告を続け、所定の計算明細書・付表を添付する必要があります。
どこかの年で申告を怠ると、その後の繰越が認められません。なお、海外FXや外貨預金の為替差損には、損失の繰越制度がありません。

(3) 意図的な除外は重加算税の対象になる

うっかりの申告漏れと、意図的な除外とでは、扱いが大きく異なります。海外口座の利益を故意に申告から外したり、取引の記録を隠したりといった隠蔽・仮装があったと判断されると、
通常の加算税よりも重い重加算税が課されます。CRSや各種調書によって把握の網が広がっている以上、そのリスクは以前より確実に高まっています。

(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説

9. 正しい備え

為替差益の申告に備えるために、やっておくべきことを整理します。

  • 取引の記録を残す:FX業者から交付される年間損益報告書を保存し、国内・海外の別を区別して管理する。
  • 実現のタイミングを記録する:外貨預金の預入・払戻しの明細を残し、円転だけでなく、他の外貨への交換、外貨での金融商品・資産の購入の時期と金額も記録する。
  • 外貨の取得レートを管理する:外貨の取得が複数回に及ぶ場合は、取得時期・取得レート・数量の記録を保存し、合理的かつ継続的な方法で取得価額を計算できるようにしておく。実務上は総平均法に準ずる方法等により整理されることがありますが、明文の規定があるわけではなく、個別事情に応じた検討が必要です。
  • 課税区分を正しく分ける:外貨預金・為替予約付・国内FX・海外FXの別に応じて、総合課税か申告分離課税かを正しく判定する。
  • 損失も申告する:繰越を使うなら、損失が出た年も連続して確定申告を行い、必要な明細書・付表を添付する。
  • 不安があれば専門家へ:実現時期の判定や損益通算、海外取引の処理に不安があれば、調査が来る前に税理士に相談する。

過去の申告に誤りの心当たりがある場合は、税務署からの指摘を待つのではなく、調査の連絡が来る前に自主的な期限後申告・修正申告を検討することで、加算税の負担を抑えられる可能性があります。
また、海外への移住や海外資産の管理を検討している方は、そもそもどの国で課税されるかという判定が為替差益の課税の前提になるため、居住者・非居住者の判定もあわせてご確認ください。

(関連記事:税務調査は何年分さかのぼる?|元国税調査官が3年・5年・7年の違いと決まり方を解説
(関連記事:居住者・非居住者の判定|元国税調査官が「生活の本拠」の認定ロジックを解説

10. よくある質問

Q1. 一般の会社員や少額の投資でも、税務調査は来ますか?

来ることがあります。規模の大小ではなく、申告内容や取引の状況から申告漏れが見込まれるかどうかで対象は選ばれます。
国内FXの利益は業者からの支払調書で税務署に把握されるため、無申告や所得区分の誤りが疑われれば、少額でも対象になり得ます。

Q2. FXや外貨預金の利益は、確定申告が必要ですか?

原則として必要です。国内FXの利益は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税、海外FXや外貨預金の為替差益は総合課税の雑所得となり、いずれも原則として確定申告の対象です。
給与所得者で給与・退職所得以外の所得が20万円以下の場合など、所得税の申告が不要となるケースもありますが、その場合でも住民税の申告は必要です。

Q3. 外貨を円に戻していなければ、為替差益は課税されないのですか?

そうとは限りません。円への交換だけでなく、米ドルをユーロに換えるなど別の外貨への交換や、外貨のまま外貨建MMF・不動産などを購入した場合にも、その時点で為替差益が実現し、課税の対象になります。
国税庁の質疑応答事例で示されている取扱いであり、外貨から外貨への交換については、令和8年6月16日の最高裁判決でも課税は適法との初判断が示されています。
認識しなくてよいのは、同じ外貨のまま別の銀行に預け替えるなど、外貨の保有状態に実質的な変化がない場合に限られます。

Q4. 海外のFX業者や海外口座の利益は、税務署に把握されないのですか?

そうとは限りません。国外送金等調書やCRS(共通報告基準)による国際的な情報交換により、海外口座や海外取引の情報も税務当局に共有される仕組みが整っています。
「海外だから見えない」という前提で申告をしないことは避けるべきです。

Q5. 国内FXと海外FXで、税金の扱いは違いますか?

違います。国内FXは申告分離課税で税率は一律20.315%、海外FXは総合課税で累進税率が適用されます。
また、損失を翌年以後3年間繰り越せる制度は国内FXにはありますが、海外FXにはありません。

Q6. FXの損失は、株式や暗号資産の利益と相殺できますか?

国内FXの損失は、「先物取引に係る雑所得等」(国内FX・先物・オプション取引・一定のCFDなど)の範囲内でのみ通算でき、株式の譲渡益・配当や暗号資産の利益とは相殺できません。
一方、海外FXの損失や外貨預金の為替差損は総合課税の雑所得なので、暗号資産の利益など、同じ総合課税の雑所得の範囲内であれば内部通算が可能です。
なお、暗号資産は令和8年度税制改正で課税方式の見直しが予定されており、適用開始後は通算関係が変わる可能性があります。

11. まとめ——実現時期と課税区分の見極めが要

為替差益の税務は、外貨預金・為替予約付・国内FX・海外FXという取引の種類ごとに、課税区分がはっきり分かれています。
そして、為替差益が実現するのは円に戻したときだけではなく、別の外貨への交換や、外貨のままの金融商品・不動産の購入の時点でも実現します。
この取扱いは、令和8年6月の最高裁初判断によって司法レベルでも確定しました。
調査官が重点的に確認するのは、この実現時期の判定を含む利益の申告漏れ、所得区分の適否、損益通算・損失繰越の処理、そして海外取引の把握との整合です。

中でも、国税庁の例示を踏まえて実現時期を正しく判定し、取引の種類ごとに課税区分を見極めて申告すること——これが調査対応の核心です。
だからこそ、年間損益報告書や外貨の取得レートの記録を残し、課税区分を正しく分け、損失も含めて申告し、必要なら早めに専門家に相談することが、最大の備えになります。
さらに、令和8年9月以降、国税システムの更改(KSK2)に伴う対応が進む中で、国税当局による各種調書・資料情報の活用と分析は、今後も高度化していく方向にあると考えられます。外貨建て資産・海外取引の申告状況は、これまで以上に確認しやすくなっていくとみておくべきでしょう。

「FXや外貨預金の申告は大丈夫か」「外貨のまま運用してきた取引の処理に不安がある」という方は、調査の連絡が来る前の今の段階でご相談ください。

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※本記事は一般的な解説であり、個別の事案への適用を保証するものではありません。実際の判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。税制・解釈は将来変更される可能性があります。

引用・参考文献

  • 所得税法35条(雑所得)、36条(収入金額)、57条の3(外貨建取引の換算)、174条7号、同法施行令167条の6第2項
  • 租税特別措置法41条の10(源泉分離課税)、41条の14(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)、41条の15(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)
  • 国税庁タックスアンサー No.1520「金融類似商品と税金」、No.1521「外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」、No.1522「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」、No.1523「先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」
  • 国税庁 質疑応答事例「外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い」「保有する外国通貨を他の外国通貨に交換した場合の為替差損益の取扱い」「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」ほか(令和7年8月1日現在法令等)
  • 最高裁令和8年6月16日第三小法廷判決(外国通貨により他の種類の外国通貨または同一の外国通貨建て有価証券を取得した取引に係る為替差益への課税を適法とする初判断。1審:東京地裁令和4年8月31日判決、2審:東京高裁令和5年5月判決)および同判決に関する令和8年6月の各種報道
  • 令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月閣議決定)暗号資産税制関係、CRS(共通報告基準)に係る令和6年度税制改正
  • 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外送金等調書法)/国外財産調書制度
  • CRS(共通報告基準)に基づく非居住者金融口座情報の自動的情報交換
  • 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
  • 市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
  • 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)

著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。
税務調査対応・立会い、国際課税、富裕層・資産家、海外資産・クロスボーダー取引、無申告対応など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。