居酒屋に税務調査は来る?|現金売上と酒の仕入を元国税調査官が解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「現金で支払うお客さんの分は、把握されないと思っていた」
「宴会の予約金やキャンセル料は、どう処理すればいいのか分からない」
「お酒の仕入と売上のバランスを調査で見られると聞いて不安になった」
居酒屋を営む方から、このようなご相談をいただくことがあります。居酒屋は現金での支払いがなお残る業種ですが、酒類の仕入数量という「隠しにくい記録」があり、売上規模を推計しやすい構造を持っています。この記事では、元大阪国税局で調査事務に従事した税理士が、居酒屋の税務調査で問題になりやすい論点と対応を、調査官の視点から解説します。
結論:現金でも売上は把握され得る。酒の仕入数量という「隠しにくい記録」が基準になる
先に結論をお伝えします。居酒屋の売上は、現金取引が多くても把握されにくいわけではありません。生ビールの樽、瓶ビール、焼酎やウイスキーのボトルの仕入数量は酒販店(仕入先)側にも記録が残り、1杯・1本当たりの提供量で割り戻せば、販売数量と売上規模のおおよその見当がつきます。申告された売上がこれらの数字と整合しなければ、その差の原因が調査で確認されます。
調査で実際に問題になるのは、現金売上の計上漏れのほか、お通し代や宴会の前受金・キャンセル料の処理、まかない・自家消費、酒類と料理で異なる消費税率の区分といった、居酒屋特有の論点です。日々の売上記録と酒類・食材の仕入記録が対応していれば、調査を過度に恐れる必要はありません。
この記事でわかること
- 居酒屋の売上が税務署に把握されるしくみ(内側の視点)
- 生ビールの樽・瓶・ボトルの仕入数量からの売上推計
- お通し・宴会の前受金・キャンセル料の正しい処理
- まかないの非課税要件と自家消費のルール
- 酒類は持ち帰りでも10%となる消費税率の区分と、無申告だった場合の対応
1. 居酒屋と税務調査の現状
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表・全国計)によると、所得税の調査等の件数は実地調査と簡易な接触を合わせて73万6千件、追徴税額の総額は1,431億円と過去最高になっています。実地調査(特別・一般)の1件当たり申告漏れ所得金額は1,486万円で、調査対象の選定にはAIも活用されています。
同資料の「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」には、キャバクラ、バー、スナックなどの飲食関連業種も含まれています。ただし、この順位は実施された調査1件当たりの申告漏れ所得金額を示すものであり、業種別の調査件数や税務調査を受ける確率を示すものではありません。居酒屋を含む飲食店は、現金を含む売上、仕入と在庫、家族従業員など、調査で確認されやすい論点が多い業種であり、規模の大小を問わず調査の対象になり得ます。個人に対する調査全般の傾向は「個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?」でも解説しています。
2. 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の内側視点)
居酒屋の調査で、調査官はどこを見ているのか。確認の手順から整理します。
(1)酒類の仕入数量からの売上推計
私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、酒類を提供する飲食店の調査で重視するのは「動かしにくい数字」でした。その代表が酒類の仕入数量です。生ビールの樽の本数、瓶ビールのケース数、焼酎・ウイスキー・日本酒のボトルの本数は、酒販店側の販売記録にも残るため隠しにくく、1杯当たりの注ぎ量や1本当たりの提供杯数で割り戻せば、販売数量のおおよその見当がつきます。ドリンクの販売数量が見えれば、ドリンクとフードの売上構成比から店全体の売上規模も推計できます。申告売上から計算した原価率が、店の価格設定や同業の水準に比べて不自然に高い場合、それは仕入に見合う売上が計上されていない可能性を示すサインとして検討されます。現金だから分からないという考えは通用しません。
(2)レジ・ハンディ・伝票との突合
POSレジやハンディ端末には注文と会計の記録が残り、手書き伝票の店でも伝票の連番や保存状況が確認されます。これらの記録と、帳簿の売上、レジ現金、口座への入金が対応しているかが突合されます。会計記録の一部を除いて帳簿に付け替える処理は、記録の不整合として表れ、売上除外(重加算税の対象になり得る行為)と認定されるリスクが高い典型例です。
(3)現金管理と生活費のバランス
深夜帯まで営業する居酒屋では、日々のレジ締めと現金管理の記録が特に重要です。事業用口座と生活用口座の資金の流れ、申告所得と生活水準のバランスも確認され、申告している所得では説明のつかない預金の増加や支出があれば、その原資が確認されます。口座の見られ方は「税務調査と通帳」で詳しく解説しています。
3. 売上の論点:お通し・前受金・キャンセル料
(1)現金売上とお通し代
売上は、現金・キャッシュレスを問わず、その日の会計をすべて計上するのが基本です。お通し代や席料、サービス料も店の売上であり、計上から漏らすことはできません。キャッシュレス決済は手数料が差し引かれて入金されるため、入金額ではなく販売額の総額を売上に計上し、手数料は経費として処理します。
(2)宴会の予約金・前受金の計上時期
宴会コースの予約金や事前振込は、受け取った時点では前受金であり、原則として宴会を実施した日(料理・飲物を提供した日)の売上に計上します。年末に受け取った予約金を、宴会実施が翌年なのに受取年の売上とする、あるいは実施済みなのに計上しないといった処理は、期ずれや計上漏れとして指摘されます。
(3)キャンセル料の取扱い
予約のキャンセル料を受け取った場合、それは店の収入として所得の計算に含める必要があります。一方、消費税の取扱いは性格によって異なります。解約手続の事務手数料としての性格のものは課税対象、来店されなかったことによる逸失利益の補填(損害賠償金)としての性格のものは不課税です。両者を区分せず一括して受け取っている場合は、その総額を不課税として取り扱うこととされています。無断キャンセル対策でキャンセル料を設ける店が増えているだけに、収入計上の漏れと消費税区分の両面を整理しておきましょう。
4. まかないと自家消費
従業員に支給するまかないは、①従業員が食事の価額の半分以上を負担していること、②使用者の負担額(食事の価額から従業員負担分を差し引いた金額)が1か月当たり7,500円(税抜)以下であること、の2つをどちらも満たせば給与として課税されません。この限度額は、令和8年4月1日以後に支給する食事について、従来の3,500円から引き上げられたものです。店で調理して支給する場合の食事の価額は、材料費など調理に直接かかった費用の合計額で計算します。要件を満たさない場合は、食事の価額から従業員負担分を差し引いた金額が給与として課税され、源泉徴収の対象になります。
また、個人事業主本人や生計を一にする家族が店の料理や酒を飲食した場合は、所得税上、自家消費として収入に計上する必要があります。計上額は原則として通常の販売価額ですが、棚卸資産の取得価額以上で、かつ通常の販売価額のおおむね70%以上の金額を帳簿に記載して収入計上している場合は、その金額が認められます。なお、消費税の課税事業者については、自家消費が消費税上のみなし譲渡にも該当し、所得税とは評価の基準が異なるため、別途確認が必要です。
5. 経費で問題になりやすい論点
酒類や食材の仕入代金は、すべてが購入した年や事業年度の経費になるわけではありません。年末または期末に残っている酒類・食材は棚卸資産として計上し、売上原価を計算する必要があります。未開封の瓶・ボトルだけでなく、金額的重要性に応じて開封済みの酒類の残量や、廃棄・破損の記録、ボトルキープ分と店の在庫との区分も整理しておきましょう。
そのうえで、家賃、水道光熱費、消耗品、修繕費は事業との関連が確認しやすい支出です。問題になりやすいのは次の点です。
自宅兼店舗の場合の家賃・水道光熱費は、店舗部分の面積や使用実態などの合理的な基準で按分する必要があります。食材の廃棄は、廃棄の事実と数量の記録があるかどうかで経費としての説明のしやすさが変わります。家族への給与は、個人事業者が生計を一にする配偶者や親族に支払う場合、原則として必要経費にならず、青色事業専従者給与(事前の届出、専従性、実際の支払い、金額の相当性が要件)または白色申告者の事業専従者控除の制度によることになります。アルバイトへの給与は、源泉徴収や源泉所得税の納付、年末調整の対象者については年末調整を適切に行っているかが確認されます。また、店の酒や料理を事業主本人や生計を一にする家族が私的に飲食した場合は自家消費として、友人などに私的に無償提供した場合は贈与として、原則として収入計上が必要です(取得価額以上かつ通常販売価額のおおむね70%以上を帳簿に記載して収入計上する特例は、贈与にも適用されます)。ただし、取引先への接待など事業上の目的で提供した場合は、私的な消費とは区別して判断します。領収書があるだけで経費になるわけではなく、用途と併せて説明できる必要があります。
6. 消費税とインボイス:酒類は持ち帰りでも10%
店内での飲食は標準税率10%です。料理の持ち帰り(テイクアウト)は軽減税率8%が適用されますが、酒類は軽減税率の対象外のため、瓶ビールや日本酒などを持ち帰り用に販売しても10%のままです。同じ「持ち帰り」でも料理と酒で税率が分かれるため、レジで税率区分を分けて集計し、申告でも区分して計算する必要があります(顧客の指定した場所で調理や配膳等を行うケータリングは10%です)。
納税義務は、基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかに加え、特定期間の課税売上高によっても判定されます(国内事業者は、特定期間の課税売上高に代えて給与等支払額で判定することもできます)。また、インボイス登録の効力が生じている期間は、売上規模にかかわらず申告が必要です。接待利用の多い居酒屋では、法人客からインボイス(適格請求書)の交付を求められる場面が多く、登録の要否と申告義務はセットで整理しておく必要があります。
7. 無申告・売上除外だった場合
申告が必要だったのに申告していなかった場合、期限後申告のタイミングによって加算税の負担が変わります。実地調査に係る調査通知(対象税目・対象期間等の通知)を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、納付すべき税額のうち50万円以下の部分は10%・50万円超300万円以下の部分は15%・300万円超の部分は25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は法定申告期限により区分が異なります)。
売上の一部除外や伝票の破棄など隠蔽・仮装があったと認定された場合には、重加算税が課され、対象期間も偽りその他不正の行為がある場合は7年に及びます。調査で確認される期間については「税務調査は何年分さかのぼる?」をご覧ください。心当たりのある方は、調査の連絡が来る前の自主的な対応が、負担を抑える近道です。
8. 調査の連絡が来たときの対応
税務署からの接触には、実地調査の調査通知のほか「お尋ね」などの文書照会もあります。その接触が実地調査なのか行政指導なのかを見極めて対応することが出発点です。文書照会への対応は「税務署から「お尋ね」が届いたら」をご覧ください。
資料の準備では、POS・ハンディの集計や伝票、レジ締めの記録、酒類・食材の仕入の請求書・納品書、予約・キャンセルの記録、通帳を時系列で対応づけて整理します。記録が一部残っていない場合も、現存する客観的資料による再整理・復元は可能です。一方、存在しなかった証憑の作成や偽装は認められません。調査の過程で作成される質問応答記録書は、後の課税処分や重加算税認定の判断に影響する重要書類です。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、記載内容が事実と一致しているかを十分に確認し、誤りがあれば訂正を求めたうえで署名の可否を判断することが大切です。早い段階で、税務調査への対応経験のある税理士に相談してください。
まとめ:酒の仕入・会計記録・帳簿の整合が最大の備え
居酒屋の売上は、生ビールの樽や瓶・ボトルの仕入数量、POSや伝票の会計記録という隠しにくい数字から把握され得ます。現金売上とお通し代を漏れなく計上すること、宴会の前受金とキャンセル料の適切な処理、まかない(従業員が価額の半分以上を負担し使用者負担が月7,500円(税抜)以下なら非課税)と自家消費の整理、酒類は持ち帰りでも10%という税率区分。この基本を整え、仕入・会計記録・帳簿の数字が整合していれば、調査を過度に恐れる必要はありません。申告に不安がある方や調査の連絡を受けた方は、資料の整理と並行して早めに専門家へ相談してください。
よくある質問
Q1. 現金の売上でも税務署に把握されますか?
把握される可能性があります。酒類の仕入数量は酒販店側にも記録が残り、1杯・1本当たりの提供量で割り戻せば販売数量と売上規模は推計できます。POSや伝票の記録も確認されるため、現金だから分からないという考えは通用しません。
Q2. 酒の仕入量から売上が分かるというのは本当ですか?
おおよその推計は可能です。生ビールの樽数や瓶・ボトルの本数から販売杯数の見当をつけ、ドリンクとフードの構成比から店全体の売上規模を検討する手法は、飲食店の調査で用いられることがあります。申告売上との開きが大きければ、その原因が確認されます。
Q3. お通し代やキャンセル料も売上・収入になりますか?
なります。お通し代や席料は店の売上として計上が必要です。キャンセル料も収入に計上する必要がありますが、消費税は、事務手数料の性格なら課税、逸失利益の補填(損害賠償)の性格なら不課税、区分せず一括受領ならその総額が不課税として取り扱われます。
Q4. 従業員へのまかないにも税金がかかりますか?
従業員が食事の価額の半分以上を負担し、使用者の負担額が月7,500円(税抜)以下であれば、給与として課税されません。この限度額は令和8年4月1日以後に支給する食事について3,500円から引き上げられたものです。要件を満たさない場合は、使用者負担分が給与として課税されます。
Q5. 持ち帰り用に販売するお酒も軽減税率8%になりますか?
なりません。酒類は軽減税率の対象外のため、持ち帰り用の販売でも標準税率10%です。料理の持ち帰りは8%が適用されるため、同じ持ち帰りでも料理と酒類で税率を区分して集計する必要があります。
Q6. 税務調査は何年分さかのぼりますか?
調査では当初3年分程度の資料を求められることがありますが、問題の内容によって対象期間が拡大されます。法律上、増額更正等ができる期間は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。無申告の場合も原則5年分が対象となります。
市田税理士事務所は、元大阪国税局・資料調査課OBの税理士が税務調査への対応をサポートする事務所です。顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
居酒屋に限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
- 国税庁タックスアンサーNo.2594「食事を支給したとき」(令和8年4月1日以後の非課税限度額の引上げ)
- 所得税法第39条、所得税基本通達39-1・39-2
- 国税庁タックスアンサーNo.6253「キャンセル料」、No.6102「消費税の軽減税率制度」、No.6317「個人事業者の自家消費の取扱い」、No.6501「納税義務の免除」
- 国税庁タックスアンサーNo.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」、No.2024「確定申告を忘れたとき」
- 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
