競馬・競艇の払戻金は申告が必要?|国税職員の脱税事件から元国税調査官が解説
著者:市田佳祐(税理士・元大阪国税局 資料調査課)
「ネット投票で大きく的中したが、税金のことは考えていなかった」
「トータルでは負けているのに、税金がかかると聞いて不安になった」
「税務署から連絡が来たら、どう対応すればいいのか分からない」
令和8年8月、競艇の払戻金などの所得を申告しなかった疑いなどで、国税職員が懲戒免職となり、刑事告発される事件が報道されました。税務のプロである国税職員ですら処分される。このニュースを見て、ご自身の馬券や舟券の払戻金が心配になった方も多いのではないでしょうか。
この記事では、元大阪国税局の税理士が、公営競技の払戻金にかかる税金の仕組みと、無申告がどのように把握されるのかを、調査する側の視点も交えて解説します。
結論:払戻金は原則一時所得。外れ馬券・舟券は経費にならず、トータル負けでも課税され得る
先に結論をお伝えします。競馬・競艇・競輪・オートレースの払戻金は、原則として一時所得に該当し、年間の的中額によっては確定申告が必要です。注意すべきなのは、所得の計算で差し引けるのは的中した投票券の購入費用だけで、外れ馬券・外れ舟券の購入費用は差し引けないことです。
このため、年間のトータル収支では負けていても、税金の計算上は多額の所得が生じることがあります。
また、ネット投票は購入・払戻・入出金のすべてが記録に残る取引です。無申告のまま税務調査を受けると無申告加算税や延滞税で負担が膨らむ一方、調査の連絡が来る前に自主的に期限後申告をすれば、一般に、調査通知後に対応する場合よりも追加負担を抑えやすくなります。
この記事でわかること
- 国税職員の脱税事件から見える、払戻金課税の落とし穴
- 一時所得の計算方法と、外れ馬券・舟券が経費にならない理由
- ネット投票の記録が国税当局に把握される仕組み(元調査官の内側視点)
- 申告が必要になる基準と、無申告のペナルティ
第1章 国税職員の脱税事件:何が起きたか
令和8年8月7日の報道各紙によると、関東信越国税局は、茨城県内の税務署に勤務する20代の職員を懲戒免職処分とし、所得税法違反などの疑いで検察庁に刑事告発しました。
報道によれば、この職員は約3年間にわたり勤務時間中にもネットで舟券の購入や入出金を繰り返し、令和5年から令和7年までの3年間に競艇の払戻金などによる所得約3億3,400万円を申告せず、所得税約1億3,500万円を脱税した疑いが持たれています。また、この間に8億円以上の舟券を購入していたと報じられています。
ここで押さえておきたいのは、税法上の一般論として、払戻金が一時所得に該当する場合には外れ舟券の購入費用を差し引けないため、年間の収支が赤字であっても課税所得が生じることがある、という点です(仕組みは第3章で解説します)。「トータルで負けているから税金は関係ない」という思い込みは、公営競技の税金で最も多い誤解のひとつです。
税務行政に携わる職員でありながら、払戻金などの所得を申告しなかった疑いを含む一連の非違行為により、懲戒免職・刑事告発という厳しい結果となりました。一般の方の的中についても、当局が公平に対応するのは当然の流れです。そもそも自分に調査が来る可能性がどの程度あるのかは、「税務調査の確率」の記事もあわせてご覧ください。
第2章 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の内側視点)
調査する側が公営競技の払戻金をどう見ているのか、元調査官の視点から解説します。
(1)ネット投票は購入・払戻・入出金のすべてが記録に残る
まず理解しておくべきなのは、「申告しなければ分からない」という考えは通用しないことです。即PATやテレボートなどのネット投票は、会員登録した銀行口座と直結しており、運営側には投票・払戻し等の電子的な記録が、金融機関には関連する入出金の記録が残ります。調査官は本人の申告がなくても、こうした周辺情報から的中の規模を推測できます。
銀行口座の入金がどのように確認されるかは「税務調査と通帳」の記事で詳しく解説しています。
(2)情報照会制度と反面調査の仕組み
国税当局が事業者から取引情報を入手する手段は、法律で整備されています。国税通則法第74条の12第1項に基づく事業者等への協力要請に加えて、令和2年1月からは、高額・悪質な無申告者等を特定するため特に必要な場合に、事業者に取引者の情報の報告を求める制度(国税通則法第74条の7の2)が施行されています。
個別の調査の場面でも、金融機関などへの反面調査によって、特定の人の入出金の状況を確認することが可能です。
(3)口座の入金と生活実態の整合性
私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、多額の入金が続く口座は、調査の場面でその出どころの説明を求められることがほとんどです。給与や事業の収入だけでは説明のつかない入金があれば、調査官はその性質を確認しにいきます。
払戻金は金額が大きく、入金の記録も明確なため、周辺情報から浮かび上がりやすい収入だというのが、調査の現場の実感です。
第3章 払戻金は原則「一時所得」:外れ馬券・舟券は経費にならない
競馬・競輪・オートレース・ボートレース(競艇)の払戻金は、原則として一時所得に該当します。一時所得の金額は、次の算式で計算します(国税庁「公営競技の払戻金の支払を受けた方へ」)。
一時所得の金額=払戻金に係る受取額-払戻金に係る投票額(的中した投票券の購入費用)-特別控除額(最高50万円)
そして、この一時所得の金額の2分の1が、給与など他の所得と合算されて課税されます。ここで最も重要なのは、差し引けるのは「的中した」投票券の購入費用だけで、外れ馬券・外れ舟券の購入費用は差し引けないという点です。
簡単な例で確認します。年間で、10万円分の投票が的中して300万円の払戻を受け、ほかに90万円分の外れ投票券を購入していたとします。収支のトータルは200万円のプラスですが、税金の計算では外れの90万円を引けないため、一時所得の金額は300万円-10万円-50万円=240万円となり、その2分の1の120万円が課税の対象に加わります。
仮に外れが400万円分あってトータルでは大きなマイナスでも、課税対象の計算は変わりません。収支が赤字でも税金の計算上は所得が生じ得るのは、この仕組みによるものです。
第4章 雑所得になるのは例外的な場合
「外れ馬券も経費になった裁判があったのでは」と思われた方もいるかもしれません。確かに、最高裁平成29年12月15日判決は、馬券の払戻金が雑所得に該当し、外れ馬券の購入費用も必要経費になると判断しました。国税庁も平成30年7月にこの判決を踏まえた取扱いを公表しています。
ただし、これは営利を目的とする継続的行為から生じたと認められる、例外的な場合の話です。雑所得とされた事案では、予想の確度と的中時の配当率の組合せによって定めた購入パターンに従い、年間を通じてほぼ全てのレースで多数の馬券を購入することを目標として、6年間にわたり継続的に馬券を購入し、各年で利益を上げていました。
国税庁も、こうした購入パターンによる場合や、自動購入ソフトウェアと独自の条件設定による場合を、雑所得となり得る例として示しています。週末に予想を楽しみながら購入する一般的な態様であれば、払戻金は一時所得に該当し、外れ投票券は経費にならないと考えておくべきです。
ご自身の購入態様がどちらに当たるか判断に迷う場合は、専門家に相談することをおすすめします。
第5章 申告が必要になる基準:50万円控除と20万円ルール
では、どの程度の的中から申告を意識すべきでしょうか。まず、一時所得には最高50万円の特別控除があるため、年間の払戻益(受取額から的中投票券の購入費用を引いた金額)が50万円以下で、ほかに一時所得がなければ、一時所得の金額はゼロとなります。
次に、会社員やアルバイトなど、給与収入が2,000万円以下で、給与を1か所から受けており、その給与の全部が源泉徴収の対象となっている方(年末調整が済んでいる方)は、給与以外の所得が年間20万円以下であれば、原則として、所得税の確定申告は不要とされています(所得税法第121条)。
一時所得の場合、この20万円は2分の1を掛けた後の金額で判定します。例えば、給与以外に他の所得がない方であれば、年間の払戻益が90万円のとき(90万円-50万円)×2分の1=20万円となり、計算上はこの基準に収まります。ただし、副業収入など他の所得がある場合は合算して判定するため、ご自身の状況に応じた確認が必要です。
なお、この特例は所得税だけのものであり、住民税には20万円以下の特例がありません。所得税の確定申告が不要な場合でも、お住まいの市区町村への住民税の申告が必要になることがあります。また、給与のない方は、原則として、所得金額から基礎控除などの所得控除を差し引いて計算した結果、納付すべき所得税額が生じる場合に確定申告が必要になります。
舟券を買う側ではなく、レースに出走して賞金を得る側の税務は別の枠組みになります。次の記事で解説しています。
(関連記事:競艇選手(ボートレーサー)の確定申告と税務調査の注意点|元国税調査官が解説)
第6章 窓口で現金購入した場合の注意点
「ネット投票ではなく、競馬場や場外で現金購入なら記録が残らないのでは」と考える方もいます。確かに、窓口での現金購入はネット投票のような網羅的な購入履歴は残りにくいといえます。しかし、高額の払戻金を受け取れば、その資金はどこかに移動します。銀行口座への入金、大きな買い物、借入金の返済など、お金の動きは周辺の記録に表れます。
申告された所得だけでは説明のつかない資産の増え方があれば、調査官はその出どころを確認しにいきます。購入方法にかかわらず、申告が必要な的中があれば正しく申告することが、結局は最も安全な選択です。
第7章 無申告のペナルティ:加算税と延滞税
申告義務があるのに確定申告をしないまま税務調査で指摘されると、本来の所得税(本税)に加えて、次のような負担が生じます。
まず無申告加算税です。令和5年分以後の場合、調査による決定を予知した後に期限後申告をしたときは、納付すべき税額のうち50万円までの部分は15%、50万円を超え300万円までの部分は20%、300万円を超える部分は30%の税率で課されます(調査の事前通知を受けた後、決定を予知する前に申告した場合は10%・15%・25%)。
さらに、前年・前々年にも無申告加算税等を課されていた場合には10%が加重されるなど、繰り返しの無申告には重い措置が用意されています。加えて、収入を隠す目的で記録や書類を破棄するなど、隠蔽・仮装があったと認定されると、無申告加算税に代えて40%の重加算税が課されることがあります。納付が遅れた期間に応じた延滞税もかかります。
一方、税務署から調査の通知が来る前に自主的に期限後申告をした場合、無申告加算税は原則として5%に軽減されます。一般に、調査通知後に対応する場合よりも追加負担を抑えやすくなります。無申告を続けた場合の詳細は「確定申告をしないとどうなるか」の記事で、調査で確認される年分の範囲は「税務調査は何年分さかのぼる?」の記事で詳しく解説しています。
払戻金の申告をしていない年分がある場合の対応は、次のページで説明しています。
(関連ページ:無申告・期限後申告のご相談)
第8章 税務調査の連絡が来たときの対応
税務署から電話や文書で連絡が来たら、まず落ち着いて、調査なのか行政指導(お尋ね等)なのかを確認しましょう。いずれの場合も、無視は避けるべき対応です。放置した場合、申告状況等によっては調査に移行することがあります。また、申告義務があるのに申告しないときは、税務署長が所得金額や税額を決定することがあります。
調査までの間に、ネット投票の履歴、銀行口座の明細など、手元の資料をできる範囲で整理しておきましょう。ネット投票であれば、過去の投票履歴や精算の記録をサイトから確認できる場合があり、的中投票額の集計に役立ちます。国税庁も払戻金の所得計算用のエクセル計算書を公開しており、開催日・受取額・投票額を整理する形式が示されています。
また、調査の過程では、調査官が納税者の説明を「質問応答記録書」という書面にまとめることがあります。加算税の判断などに影響し得る重要な書面であり、留意点は共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも解説していますが、内容をよく確認しないまま署名することは避けるべきです。不安があれば、この段階から税理士に立会いを依頼できます。
出走する選手側の賞金の扱いは、また別の枠組みになります。プロ選手の税務は次の記事で整理しています。
(関連記事:プロスポーツ選手の税務調査と確定申告|契約金・賞金・簡易課税を元国税調査官が解説)
第9章 税理士に相談するメリット
払戻金の申告は、的中投票額の集計や一時所得と雑所得の区分判断など、独特の論点があります。税理士は、残っている記録から所得を計算し直し、期限後申告の内容を整えられます。調査の連絡が来ている場合には、調査官とのやり取りの窓口となり、指摘事項の妥当性を検討したうえで対応できます。
特に、調査する側の実務を知る国税OB税理士であれば、調査官がどの資料を見て、どこを確認しにくるのかを踏まえた準備ができます。早い段階での相談が、結果的に負担を抑える近道になることが多いというのが実感です。
よくある質問
Q1. 宝くじやサッカーくじ(toto)にも税金がかかりますか?
A. かかりません。宝くじの当せん金やスポーツ振興くじの払戻金は、法律により非課税とされています。一方、競馬・競輪・オートレース・ボートレースの払戻金は課税対象であり、この違いはよく誤解されるところです。
Q2. 年間のトータルでは負けているのに、税金がかかるのですか?
A. かかる場合があります。払戻金は原則として一時所得に該当し、差し引けるのは的中した投票券の購入費用だけで、外れ馬券・外れ舟券の購入費用は差し引けません。このため、収支のトータルでは負けていても、税金の計算上は所得が生じることがあります。
Q3. 会社員の場合、どの程度の的中から確定申告が必要ですか?
A. 給与収入2,000万円以下で給与を1か所から受け、年末調整が済んでいる方は、給与以外の所得が年間20万円以下なら、原則として所得税の確定申告は不要です。一時所得は特別控除50万円を引いた後の2分の1で判定するため、他に所得がなければ払戻益が年間90万円以下がひとつの目安になります。ただし住民税の申告は別途必要になる場合があります。
Q4. ネット投票と窓口の現金購入で、把握のされ方は違いますか?
A. ネット投票は投票履歴・払戻・入出金のすべてが電子的に記録され、情報照会や反面調査で確認され得ます。窓口の現金購入は網羅的な履歴は残りにくいものの、払戻金の入金や使い道はお金の動きとして周辺の記録に表れるため、申告が必要な的中は購入方法にかかわらず申告すべきです。
Q5. 無申告の場合、何年分さかのぼって調査されますか?
A. 税務署が更正・決定できる期間は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。実務上は直近3年分から確認されることがありますが、一律に3年で済むわけではなく、無申告の状況によっては対象期間が広がる可能性があります。
Q6. 税務署から連絡が来る前に申告すれば、負担は減りますか?
A. はい。調査の通知前に自主的に期限後申告をした場合、無申告加算税は原則として5%に軽減されます。一般に、調査通知後に対応する場合よりも追加負担を抑えやすくなります。延滞税も納付が早いほど少なくなるため、早めの対応が有利です。
まとめ:「トータルで負けているから大丈夫」が最大の落とし穴
競馬・競艇の払戻金は原則として一時所得であり、外れ馬券・舟券は経費になりません。収支のトータルで負けていても課税され得る仕組みであり、税務のプロである国税職員ですら、払戻金などの無申告で億単位の脱税に問われる時代です。
ネット投票では、運営側に投票・払戻し等の記録が、金融機関には関連する入出金の記録が残り、国税当局は情報照会や反面調査を通じて確認できます。心当たりのある的中がある方は、調査の連絡が来る前の自主的な申告が、負担を抑える現実的な選択肢です。ひとりで悩まず、専門家にご相談ください。
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引用・参考文献
- 国税庁「公営競技の払戻金の支払を受けた方へ」(リーフレット・所得の計算書)
- 国税庁「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」(平成30年7月)
- 国税庁タックスアンサーNo.1490「一時所得」、No.2024「確定申告を忘れたとき」
- 所得税法第121条
- テレ朝NEWS「税務署職員の男が約1億3500万円脱税か 関東信越国税局が懲戒処分にし刑事告発」(令和8年8月7日)
- 市田佳祐ほか共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

