ブリーダー・ペットショップの税務調査|大阪国税局の集中調査事例を元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「子犬・子猫の売上は現金や対面のやり取りが多いから、把握されないと思っていた」
「販売用の動物と繁殖用の親犬・親猫は、税金の計算でどう扱えばよいのか分からない」
「自治体に報告している頭数と、申告している売上の数字が合っているか不安だ」

ブリーダーやペットショップを営む方から、このようなご相談をいただくことがあります。ペット業界は巣ごもり需要をきっかけに市場が拡大し、子犬・子猫が1頭数十万円で取引されることも珍しくなくなりました。一方で、売上の増加に申告の実務が追いついていないケースや、動物という「生き物」ならではの税務処理の難しさから、調査で指摘を受けるケースも生じています。この記事では、元大阪国税局で調査事務に従事した税理士が、ブリーダー・ペットショップの税務調査で問題になりやすい論点と対応を解説します。

結論:頭数報告・オークション記録・入金から売上は把握される。区分と記録の整備が最大の備え

先に結論をお伝えします。ブリーダー・ペットショップの売上は、現金や対面の取引が多くても、把握されにくい業種ではありません。犬猫等の販売業者には動物愛護管理法に基づく帳簿の備付けや自治体への定期報告があり、所有数・販売数・死亡数などの「商売の規模を示す数字」が行政に記録されています。ペットオークションや販売サイト、ショップへの卸しには事業者側の取引記録が残り、口座への入金は資金の流れとして追うことができます。

実際、大阪国税局は巣ごもり需要で活況となったペット業界を重点的に調査し、滋賀県のブリーダーらの多額の申告漏れを指摘したと報じられています。調査で実際に問題になるのは、売上の計上漏れに加えて、販売用の動物(棚卸資産)と繁殖用の親犬・親猫(減価償却資産)の区分、自宅兼飼育施設の経費の按分といった、この業種特有の処理です。数字の整合と区分の整理ができていれば、過度に恐れる必要はありません。

この記事でわかること

  • 大阪国税局がペット業界を集中調査した事例の概要
  • 調査官が頭数報告・取引記録から売上を把握するしくみ(内側の視点)
  • 現金販売・オークション・交配料など売上の論点
  • 販売用の動物と繁殖用の親犬・親猫の税務上の区分
  • 経費の按分、消費税、無申告だった場合の対応

1. ブリーダー・ペットショップと税務調査の現状:大阪国税局の集中調査事例

国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表・全国計)によると、所得税の調査等の件数は実地調査と簡易な接触を合わせて73万6千件、追徴税額の総額は1,431億円と過去最高になっています。実地調査(特別・一般)の1件当たり申告漏れ所得金額は1,486万円で、調査対象の選定にはAIも活用されています。

ペット業界に対しては、大阪国税局管内で集中調査が行われた事例があります。当時の新聞各紙の報道によると、犬や猫を販売目的で飼育する滋賀県内のブリーダー6人が大阪国税局の税務調査を受け、5年間で総額約2億3,500万円の申告漏れを指摘され、うち約1億6,000万円は所得隠しと認定されて、重加算税を含む追徴税額は計約7,800万円に上ったとされています。あわせて、ペットオークションを運営する京都府の会社2社も計約3,400万円の申告漏れを指摘されたと報じられました。巣ごもり需要でペットの人気が高まる中、当局が業界を重点的に調査した結果とされています。

この報道事例からは、個々のブリーダーだけでなく、オークション運営会社という「取引の結節点」にも調査が及んだことがうかがえます。取引の結節点に調査が入れば、そこを経由する多数の出品者・落札者の取引記録が資料情報として把握され得ることになります。個人に対する調査全般の傾向は「個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?」でも解説しています。

2. 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の内側視点)

調査官はどこを見ているのか。情報の入手経路から整理します。

(1)自治体への頭数報告と申告の突合

犬猫等販売業者は、動物愛護管理法に基づき第一種動物取扱業の登録を受け、個体ごとの帳簿(台帳)を備え付けるとともに、毎年度、年度当初の所有数、月ごとの新たな所有数、販売・引渡し・死亡数、年度末の所有数などを都道府県等へ報告することとされています。この報告は動物愛護のための制度ですが、飼育・販売の規模を示す数字が行政に記録されるという意味で、申告内容との整合を検討する手がかりにもなり得ます。報告している販売数に対して申告売上が少なすぎれば、その差の原因が問題になります。逆に、所得を隠す目的で報告の頭数を実際より少なくする行為は、隠蔽・仮装と評価されるリスクを高めます。

(2)オークション・販売サイト・ショップへの反面調査

ペットオークションの落札記録、ペット販売サイトの取引データ、ペットショップの仕入記録は、それぞれの事業者側に残ります。必要に応じて反面調査(取引先等への照会)や資料情報の収集の対象になり、第1章の事例のとおり、オークション運営会社自体が調査を受けることもあります。ブリーダーが自分の記録を残していなくても、取引の相手方の記録から販売実績を組み立てることは可能です。

(3)通帳・現金・飼育実態

口座への入金は資金の流れとして確認され、対面の現金販売であっても、飼育している頭数、餌代や医療費の支出規模、ワクチン接種の記録といった周辺情報から、販売規模は推測されます。私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、現金取引の多い事業では、売上の記録そのものよりも、仕入や飼育に関する支出、在庫の量、行政への届出内容といった動かしにくい数字から収入規模の見当をつけ、申告との開きを検討するのが基本の進め方でした。現金だから分からないという考えは通用しません。口座の見られ方は「税務調査と通帳」で詳しく解説しています。

3. 売上で問題になりやすい論点

(1)販売経路ごとの計上漏れ

ブリーダーの売上には、オークションへの出品、ペットショップへの卸し、販売サイト経由の直販、自宅・繁殖施設での対面販売、交配料(種オスの貸出しの対価)など複数の経路があります。犬猫を一般消費者に販売する場合は、原則として対面での説明・現物確認が求められるため、引渡し時に現金で受け取る取引も残っています。経路ごとに記録の残り方が異なるため、一部の経路だけ帳簿から漏れる形の計上漏れが典型的に生じます。すべての販売経路を洗い出し、経路ごとに売上を集計できる形にしておくことが基本です。また、オークションでは出品手数料や落札手数料が差し引かれた後の金額が振り込まれるのが通常です。契約上、出品者本人が販売主体となる通常の取引では、入金額をそのまま売上に計上すると売上が過少になるため、落札額の総額を売上に計上し、差し引かれた手数料は経費として処理するのが原則です。精算書は取引ごとに保存してください。

(2)売上の計上時期

販売用の犬猫など棚卸資産の売上は、原則として入金日ではなく、相手方に引き渡した日に計上します。オークション等の委託販売では、原則としてオークション運営会社等が販売した日が基準となりますが、契約内容や精算書の交付方法によって取扱いが異なる場合があります。年末の引渡しと翌年の入金など、年をまたぐ取引は計上年分を整理しておきましょう。

4. 動物の税務上の区分:販売用は棚卸資産、繁殖用は減価償却資産

この業種で特有なのが、動物という資産の区分です。

販売するために飼育している子犬・子猫は、商品としての棚卸資産です。年末(法人は期末)に売れ残っている個体は在庫として計上する必要があり、購入した個体の仕入代金や、自家繁殖の個体に係る飼育費用のうち取得原価を構成するものの整理も必要になります。在庫の計上漏れは所得の過少計上に直結します。ペットショップの場合は、店頭の生体だけでなく、フードや用品などの物販在庫、預かり中の個体との区分も含めて、期末の棚卸しを正確に行うことが求められます。

一方、繁殖のために継続して使用する親犬・親猫は、販売目的の商品ではなく、事業用の減価償却資産に該当し得ます。少額減価償却資産の取扱い等が適用される場合を除き、原則として資産計上し、繁殖用として事業の用に供した後に減価償却します。減価償却資産として処理する場合、耐用年数省令別表第一の「器具及び備品―生物―動物―その他のもの」に該当し、法定耐用年数は原則として8年と考えられます。ただし、中古で取得した場合の耐用年数や、繁殖からの引退後に販売・譲渡した場合の処理などは個別の検討が必要です。取得価額・取得時期・用途の記録を残したうえで、処理方針は個別に確認することをおすすめします。

5. 経費で問題になりやすい論点

餌代、医療費・ワクチン、ケア用品、ケージや空調などの設備費、オークションの手数料は、事業との関連性を確認しやすい支出です。ただし、販売用の動物に係る餌代や医療費などについては、その年の経費とするものと、棚卸資産の取得原価を構成するものとを適切に区分する必要があります。問題になりやすいのは、自宅兼飼育施設の家賃・水道光熱費です。飼育スペースの面積や使用実態などの合理的な基準で事業部分を按分する必要があり、根拠なくすべてを経費に計上する処理は指摘の対象になります。また、自家で飼育しているペット(販売・繁殖に関係しない個体)の餌代や医療費は家事費であり、事業の経費とは区分しなければなりません。車両をオークション会場への輸送や引渡しと私用の両方に使っている場合の按分も同様です。また、家族が飼育や店舗運営を手伝っている場合も注意が必要です。個人事業者が生計を一にする配偶者や親族に支払う給与は原則として必要経費にならず、青色申告者の青色事業専従者給与(事前の届出、専従性、実際の支払い、給与額の相当性などが要件)または白色申告者の事業専従者控除の制度によることになります。法人が家族に給与を支払う場合も、勤務実態と給与額の妥当性を説明できる資料が必要です。領収書があるだけで経費になるわけではなく、用途や利用状況と併せて説明できる必要があります。

6. 消費税とインボイス

犬や猫などの生体の販売は、消費税の課税対象です。ペットとして販売される生体やペットフードは「飲食料品」に当たらないため、軽減税率の対象ではなく標準税率(10%)が適用されます。納税義務は、基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかに加え、特定期間の課税売上高によっても判定されます。特定期間は、個人事業者の場合は前年1月1日から6月30日まで、法人の場合は原則として前事業年度開始の日から6か月間です。国内事業者は、特定期間の課税売上高に代えて給与等支払額で判定することもできます。売上が急増した場合は、基準期間または特定期間の判定により、消費税の申告義務が生じる可能性があります。売上が伸びた方は、年分・事業年度ごとの課税売上高を確認してください。また、インボイス登録の効力が生じている期間は、売上規模にかかわらず申告が必要です。ペットショップや法人への卸しがある場合、取引先からインボイスの交付を求められることもあり、登録の要否と申告義務はセットで整理しておく必要があります。

7. 無申告・所得隠しだった場合

売上を申告していなかった場合、期限後申告のタイミングによって加算税の負担が変わります。実地調査に係る調査通知(対象税目・対象期間等の通知)を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、納付すべき税額のうち50万円以下の部分は10%・50万円超300万円以下の部分は15%・300万円超の部分は25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は法定申告期限により区分が異なります)。

さらに、売上の除外を隠す目的で、個体台帳を破棄・改ざんしたり、行政への報告頭数を意図的に少なくしたりしたと認定された場合には、隠蔽・仮装の有力な事情となり、重加算税の対象となる可能性があります。重加算税は、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装して申告した場合等に課されるもので、単なる計上漏れや見解の相違だけで直ちに適用されるものではありません。第1章の事例でも、申告漏れの相当部分が所得隠しと認定されたと報じられています。調査で確認される期間については「税務調査は何年分さかのぼる?」をご覧ください。

8. 調査の連絡が来たときの対応

税務署からの接触には、実地調査の調査通知のほか「お尋ね」などの文書照会もあります。その接触が実地調査なのか行政指導なのかを見極めて対応することが出発点です。文書照会への対応は「税務署から「お尋ね」が届いたら」をご覧ください。

資料の準備では、個体管理の帳簿(台帳)、自治体への報告の控え、オークションの精算書、販売サイトの取引履歴、通帳、餌代・医療費の領収書を、販売経路と時系列で対応づけて整理します。個体台帳の記録と売上の計上が1件ずつ対応しているかを自分で先に突き合わせておくと、調査での説明が格段に楽になります。記録が一部残っていない場合も、現存する客観的資料による再整理・復元は可能です。一方、存在しなかった証憑の作成や偽装は認められません。調査の過程で作成される質問応答記録書は、後の課税処分や重加算税認定の判断に影響する重要書類です。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、記載内容が事実と一致しているかを十分に確認し、誤りがあれば訂正を求めたうえで署名の可否を判断することが大切です。早い段階で、税務調査への対応経験のある税理士に相談してください。

まとめ:頭数・取引・入金の整合が取れていれば恐れることはない

ブリーダー・ペットショップの売上は、自治体への頭数報告、オークションや販売サイトの取引記録、口座への入金といった複数の記録から把握され得ます。大阪国税局管内では業界への集中調査が報じられており、記録の破棄や報告の過少といった隠蔽は重加算税につながりかねません。裏を返せば、販売経路ごとの売上集計、販売用と繁殖用の動物の区分、飼育経費の按分という基本を整え、行政への報告と申告の数字の整合が取れていれば、調査を過度に恐れる必要はありません。申告に不安がある方や調査の連絡を受けた方は、資料の整理と並行して早めに専門家へ相談してください。

よくある質問

Q1. 現金や対面の販売でも税務署に把握されますか?

把握される可能性があります。自治体への頭数・販売数の報告、オークションや販売サイトの取引記録、仕入・飼育費用の支出規模といった周辺情報から、販売実績は推測されます。現金だから分からないという考えは通用しません。

Q2. 繁殖用の親犬・親猫の購入代金は経費になりますか?

繁殖用の親犬・親猫は事業のために継続して使用する資産として、減価償却資産に該当し得ます。少額減価償却資産の取扱い等が適用される場合を除き、購入した年に一括で経費とするのではなく、資産計上して償却する処理が基本です。取扱いに幅のある領域のため、処理方針は個別に確認してください。

Q3. 自治体への頭数報告と税務申告は照合されるのですか?

頭数報告は動物愛護のための制度ですが、年度当初・年度末の所有数、新たに所有した数、販売等した数など、事業規模を示す記録として、申告内容との整合を検討する手がかりになり得ます。報告と申告の数字に大きな開きがあれば、その原因が確認される可能性があります。

Q4. 趣味の延長で繁殖・販売していても申告は必要ですか?

販売によって利益が生じた場合は、事業所得または雑所得などとして課税対象になる可能性があります。確定申告が必要かどうかは、所得の金額、他の所得の状況、給与の年末調整の有無などによって異なります。動物取扱業の登録の有無だけで決まるものではありません。判断に迷う場合は早めに確認してください。

Q5. 無申告のまま調査の連絡が来た場合はどうすればよいですか?

調査を無視せず、個体管理の帳簿や取引履歴、入出金記録などの資料を整理して対応してください。調査通知後でも決定を予知する前の期限後申告であれば加算税が軽減される区分があります。早い段階で税理士に相談することをおすすめします。

Q6. 税務調査は何年分さかのぼりますか?

調査では当初3年分程度の資料を求められることがありますが、問題の内容によって対象期間が拡大されます。法律上、増額更正等ができる期間は原則5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。無申告の場合も原則5年分が対象となります。

市田税理士事務所は、元国税調査官(大阪国税局 資料調査課 出身)の税理士が税務調査への対応をサポートする事務所です。顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。

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引用・参考文献

  • 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
  • 動物の愛護及び管理に関する法律(第一種動物取扱業の登録、犬猫等販売業者の帳簿の備付け・定期報告)
  • 国税庁タックスアンサーNo.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」、No.2100「減価償却のあらまし」、No.2024「確定申告を忘れたとき」、No.6501「納税義務の免除」・特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例
  • 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一
  • 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。