税務調査は税理士なしで対応できる?|個人事業主の場合を元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「税務署から調査の連絡が来たが、顧問税理士はいない」
「税理士に頼むと費用がかかる。自分で対応できないだろうか」
「税理士なしだと、調査で不利に扱われるのではないか」

個人事業主やフリーランスの方の多くは、顧問税理士を付けずに自分で申告しています。その状態で税務調査の連絡が来たとき、最初に浮かぶのがこの問いだと思います。結論から言えば、税務調査は法律上、税理士なしで対応できます。税理士への依頼は権利であって義務ではなく、本人だけで調査を受けることに何の問題もありません。税理士がいないこと自体を理由に、不利益な取扱いを受ける制度ではありません。

税務調査の結論は、取引の実態や申告内容、証拠資料、法令の適用によって決まります。ただし、資料の整理や説明の仕方によって、事実関係の伝わり方や争点の整理に差が生じることがあります。この記事では、大阪国税局で調査事務に従事していた税理士が、調査官側から見た税理士がいる調査といない調査の違い、自分で対応する場合の注意点、そして税理士に依頼した方がよい場面を解説します。

結論:自分で対応できる。ただし「事実を整理して答える」ことができるかで差が出る。迷う局面が来たら途中からの依頼もできる

先に結論をお伝えします。帳簿と原資料が揃っていて、聞かれたことに事実で答えられるなら、本人だけの対応で問題なく終わる調査は多くあります。差が出るのは、記録が乏しい、無申告の年分がある、重加算税が論点になる、質問応答記録書への署名を求められる、といった局面です。ここでは、受け答えや資料の示し方が、事実認定や加算税の判断に影響することがあります。そして重要なのは、税理士への依頼は調査の途中からでも、調査結果の説明を受ける段階からでも可能だということです。最初に自分で受けたからといって、最後まで一人で抱える必要はありません。

この記事でわかること

  • 調査官から見て、税理士がいる調査といない調査は何が違ったか(★内側視点)
  • 自分で対応する場合にやるべき準備と、当日の受け答えの原則
  • 税理士に依頼した方がよい5つの場面と、途中から依頼する方法

1. 前提の整理:税理士なしの調査対応は制度上まったく問題ない

税務調査で税理士に依頼できるのは「税務代理」という税理士の独占業務ですが、依頼するかどうかは納税者の自由です。個人事業主への調査では、本人だけで対応するケースは珍しくありません。事前通知や調査終了時の説明などの法定手続は、税理士の有無にかかわらず適用されます。事前通知では調査の日時・場所・対象税目・対象期間などが伝えられ、日程の都合が悪ければ調整を求めることもできます。おおまかな流れも押さえておきましょう。個人への実地調査は、事前通知のあと、自宅や事業所などで臨場調査が行われ、その後、必要に応じて追加資料の提出や電話でのやり取りを経て、最後に調査結果の説明(指摘事項がある場合はその内容と金額・理由の説明)が行われます。臨場の日数や調査全体の期間は、事業規模や帳簿の状況、確認事項によって異なります。臨場の当日だけで全てが決まるわけではなく、後日のやり取りで挽回も悪化もあり得ます。個人への調査全般の流れは個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?の記事をご覧ください。

2. 調査官から見た、税理士がいる調査といない調査の違い

私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、税理士の有無そのものより、「事実関係が整理された状態で議論できるか」が調査の進み方を分けていました。その上で、本人だけの調査で見られがちだった傾向が3つあります。

第1に、質問への答えが必要以上に広がることです。聞かれたことに答えるだけでよいのに、不安から背景事情や推測まで話してしまい、そこから新しい確認事項が生まれる。調査官にとって発言はすべて確認の手がかりですから、話が広がるほど調査は長くなります。第2に、記憶で答えてしまうことです。「たぶんこうだったと思います」という回答は、後から資料と食い違ったとき、単なる記憶違いでも説明に苦労する材料になります。第3に、その場の雰囲気で同意してしまうことです。指摘の意味を十分理解しないまま「そうかもしれません」と受けてしまうと、後から覆すのは容易ではありません。税理士が同席する調査では、この3つが起きにくく、争点が早く絞られる分、結果として調査期間が短くなる事案が多かったというのが実感です。逆に言えば、本人だけの対応でも、記録が揃っていて、話が事実と資料に基づいている方との調査は、税理士の有無にかかわらず淡々と進みました。分けるのは代理人の有無ではなく、この状態を自分で作れるかどうかです。

3. 自分で対応する場合の準備:資料を年分ごとに揃える

準備の柱は資料です。対象年分の申告書・決算書(収支内訳書・青色申告決算書)、帳簿、売上の記録(請求書・レジ記録・決済明細)、経費の領収書・請求書、通帳、契約書を年分ごとに整理してください。ポイントは、申告書の数字と原資料が突き合わせられる状態にしておくことです。資料が不足している場合、通帳・請求書・決済明細など現存する客観的資料に基づいて取引内容を再整理・復元することは可能です。ただし、存在しなかった証憑を作成したり、作成日や内容を偽ったり、後から作成した資料を当時から存在していた原始記録のように装ったりしてはいけません。こうした行為は仮装・隠蔽として重加算税の対象になり得ます。再作成した資料は、作成時期と根拠資料を明確にしてください。原資料が残っていない場合は、その旨を説明したうえで、残っている客観的資料から可能な範囲で事実関係を整理する方が適切です。あわせて、事業用とプライベートの資料・口座を分けておくと、事業取引と私的取引を区別しやすくなり、帳簿との照合や説明がしやすくなります。帳簿書類等を税務署が預かる(留置き)場合は、業務上必要な資料の写しを手元に残し、留置きの対象物を記載した書面の交付を受けてください。

4. 当日の受け答えの原則:事実だけを、聞かれた範囲で

当日の原則はシンプルです。第1に、聞かれたことに、事実だけを答える。推測や記憶頼みの断定はせず、覚えていないことは「確認して後日回答します」と保留してかまいません。第2に、資料に基づいて答える。口頭の説明より、帳簿や原資料を示しながらの説明の方が、議論がぶれません。第3に、その場で同意を急がない。指摘を受けても、意味と根拠を確認し、検討の時間を取ってから回答して問題ありません。なお、調査での説明内容は、事案に応じて質問応答記録書として書面化され、重加算税の判断等に用いられることがあります。署名・押印を求められた場合は、記載内容が自分の説明と一致しているかを確認したうえで対応してください。内容に誤りがあれば訂正を申し出ることができ、その場で直ちに応じる義務はありません。この書面への対応は、私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳しく整理しています。もう一つ、実務的なコツとして、調査官とのやり取りは日付・質問・回答(保留にした事項と回答期限)をその日のうちにメモしておくこと。後日回答の抜け漏れを防げるうえ、言った言わないの食い違いも避けられます。

5. 税理士に依頼した方がよい5つの場面

次のいずれかに当てはまる場合は、費用をかけてでも依頼を検討する価値があります。(1)無申告の年分がある。過去分の所得の再計算と期限後申告の判断が必要で、対応の巧拙が加算税の区分に直結します。(2)重加算税を示唆された。重加算税は、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠蔽・仮装し、それに基づいて申告した場合等に課されるもので、単なる計上漏れだけで直ちに適用されるものではありません。どの事実が問題とされているのかを整理して主張する専門性が要ります。(3)現金を含む売上が中心で、記録が乏しい。売上の推計が論点になると、推計の前提を検証する知識の差が金額の差になります。(4)調査結果の説明を受け、修正申告を勧められた段階。修正申告書を提出すると、その修正申告そのものについては不服申立てができなくなるため、応じるか否かの判断には専門的な検討が必要です(国税通則法第74条の11)。(5)対象年分が長い、または取引が複雑。更正・決定の期間は原則5年、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合などには7年です(税務調査は何年分さかのぼる?)。

6. 途中からの依頼もできる:税務代理は調査の最中でも間に合う

「最初に一人で受けてしまったから、もう頼めない」ということはありません。税理士は、税務代理権限証書を税務署に提出することで、調査の途中からでも代理人として関与できます。実務上も、初回の臨場を本人だけで受け、論点が見えてきた段階や、調査結果の説明の前の段階から税理士が入るケースは普通にあります。むしろ、指摘事項が具体化した段階の方が、税理士側も何を検討すべきかが明確です。「ここまでは自分で、ここからは専門家と」という切り替えは、費用を抑えながら要所を押さえる現実的な選択肢です。

7. 費用対効果の考え方

税理士への依頼費用は、調査対応の範囲(相談のみ・立会い・折衝まで)によって変わります。判断の物差しは、費用の額そのものではなく、検討対象になっている追徴税額・加算税との比較です。たとえば、重加算税か過少申告加算税かの区分が変わるだけでも負担額は大きく動きますし、対象年分が1年違えば本税も延滞税も変わります。逆に、帳簿が整っていて論点が軽微なら、依頼せず自分で対応するという判断も合理的です。迷う場合は、依頼するかどうかを決める前に、状況を伝えて見通しを聞く単発の相談から始める方法もあります。

8. 調査が来る前にできる備え

最後に、まだ調査の連絡が来ていない方へ。備えの基本は、申告書の数字を原資料で説明できる状態を保つことです。売上の記録と決済明細・通帳の照合、経費の領収書の保存、家事按分の根拠のメモ。これだけで、調査対応の難易度は大きく下がります。また、無申告の年分や申告内容に不安がある場合、実地調査の前に、税務署から文書で申告内容の確認を求められる段階もあります(税務署から「お尋ね」が届いたら)。実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に是正した場合、過少申告であれば原則として過少申告加算税は課されず、無申告であれば無申告加算税は原則5%です。調査通知の後や、更正・決定を予知した後では、加算税の割合が高くなる場合があります。なお、申告内容や過去の調査結果、事業内容などから、事前通知をすると正確な課税標準等の把握が困難になるおそれがあると判断された場合には、事前通知なしで調査が行われることがあります(無予告調査とは何か)。

よくある質問

Q1. 税理士なしで調査を受けると、不利に扱われませんか?

A. 税理士がいないこと自体を理由に、不利益な取扱いを受ける制度ではありません。差が出るとすれば、受け答えや資料整理の質によるものです。聞かれたことに事実で答え、資料に基づいて説明できていれば、本人だけの対応で問題なく終わる調査は多くあります。

Q2. 調査の連絡が来ました。日程は指定されたとおりにするしかありませんか?

A. 都合が悪ければ調整を求めることができます。事前通知の際に、仕事の繁忙や資料準備の都合を伝えて日程を相談することは通常の対応です。準備の時間を確保することは、本人対応の場合ほど重要になります。

Q3. 質問に答えられないことがあったら、その場でどうすればよいですか?

A. 「確認して後日回答します」と保留してかまいません。記憶があいまいなまま推測で答える方が、後から資料と食い違ったときに説明に苦労します。事実と資料に基づいて答えることを優先してください。

Q4. 質問応答記録書への署名を求められたら、応じなければいけませんか?

A. 記載内容が自分の説明と一致しているかを確認したうえで対応してください。内容に誤りがあれば訂正を申し出ることができ、その場で直ちに応じる義務はありません。この書面は重加算税の判断等に用いられることがあるため、確認せずに署名することは避けてください。

Q5. 調査が始まってからでも、税理士に依頼できますか?

A. できます。税理士は税務代理権限証書を提出することで、調査の途中からでも代理人として関与できます。論点が具体化した段階や、調査結果の説明を受ける前の段階からの依頼も、実務上は一般的です。

Q6. 無申告の年分があります。自分で対応するのは難しいでしょうか?

A. 無申告の場合、過去分の所得の再計算、期限後申告の判断、加算税の区分など、対応の巧拙が負担額に直結する論点が重なります。実地調査に係る調査通知を受ける前に自主的に期限後申告をした場合、無申告加算税は原則5%です(通知後や、調査による決定を予知した後では、より高い割合となる場合があります)。放置せず、早い段階で税理士に相談することをおすすめします。

まとめ:一人で受けてもいい。一人で抱え込む必要はない

税務調査は税理士なしで対応できますし、資料が整っていればそれで十分な調査も多くあります。大切なのは、事実だけを聞かれた範囲で答えること、資料に基づいて説明すること、そして同意や署名を急がないこと。この3つを守れば、本人対応の弱点の大半は消えます。そのうえで、無申告・重加算税・修正申告の判断といった局面が来たら、途中からでも専門家を入れられることを思い出してください。一人で受け始めた調査を、一人で終わらせる義務はありません。

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引用・参考文献

  • 税理士法第2条(税理士の業務:税務代理)、第30条(税務代理の権限の明示:税務代理権限証書)
  • 国税通則法第74条の9(事前通知)、第74条の11(調査の終了の際の手続:調査結果の内容の説明、修正申告等の勧奨、不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨の説明・書面交付)
  • 国税通則法第65条(過少申告加算税)、第66条(無申告加算税)、第68条(重加算税)、第70条(更正・決定の期間制限)、第74条の7(提出物件の留置き)
  • 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」、国税庁タックスアンサーNo.2024(確定申告を忘れたとき)
  • 市田佳祐ほか『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。