不動産オーナーの法人化と相続税対策|否認リスクを抑える設計を元国税調査官が解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)
「アパートを法人化すれば、相続税は本当に下がるのだろうか」
「役員報酬をいくらにすれば、税務署に否認されないのか」
「管理料や名義の設定を、どこまでやっても問題にならないのか」
賃貸物件をお持ちのオーナーの方から、法人化(資産管理会社の設立)と相続税対策について、こうしたご相談が増えています。法人化による節税は広く知られる一方、やり方を誤ると税務署に否認されるという不安もつきまといます。この記事では、元大阪国税局で調査事務に従事した税理士が、不動産オーナーの法人化と相続税対策で問題になりやすい論点と、否認リスクを抑える設計の考え方を解説します。
結論:法人化による節税は適法。ただし収益の帰属と取引の実態が伴っていることが前提
先に結論をお伝えします。不動産を法人で保有・管理し、所得を分散して相続財産の増加を抑えること自体は、適法な節税です。問題になるのは、その節税が実態を伴っているかという一点に集約されます。収益が本当に法人に帰属しているか、管理料や役員報酬が役務の対価として適正か、土地や建物の貸借に見合った設定がされているか。ここに無理があると、同族会社の行為計算否認(法人税法第132条等)や、相続税評価における総則6項などによって、想定した節税効果が覆されることがあります。
恐れるべきは法人化という手法そのものではなく、実態の伴わない設計です。税負担だけを目的にせず、管理・運営の実体を備えた形にすることが、否認リスクを抑える最大の備えになります。
この記事でわかること
- 不動産オーナーの法人化(資産管理会社)の3類型と節税のしくみ
- 調査官が法人の実態をどこで確認するか(内側の視点)
- 同族会社の行為計算否認・過大な管理料・役員報酬で問題になりやすい論点
- 借地権の認定課税と土地の無償返還に関する届出書
- 相続税評価と総則6項、否認リスクを抑える設計の考え方
1. 不動産オーナーの法人化とは:3つの類型と節税のしくみ
不動産オーナーの法人化とは、個人で所有・経営していた賃貸不動産を、自分や家族が株主・役員となる会社(資産管理会社)を通じて保有・管理するしくみです。主な類型は次の3つです。
- 管理型:物件は個人所有のまま、管理業務を法人に委託し、法人へ管理料を支払う
- サブリース型(転貸型):法人が個人からアパート等を一括で借り上げ、入居者へ転貸する
- 所有型(建物所有型):建物を法人へ移転し、法人が家賃収入を得る(土地は個人所有のまま貸すことが多い)
節税のしくみは大きく2つあります。ひとつは所得の分散です。個人に集中していた家賃収入を法人に移し、家族へ役員報酬として支払うことで、超過累進税率の高い個人の所得税を抑えます。もうひとつは、個人に将来蓄積する家賃収入を抑え、家族への適正な役員報酬や株式の生前移転などを通じて、財産の帰属を分散し得る点です。ただし、法人内に留保された利益や資産は、原則として非上場株式(取引相場のない株式)の評価額に反映されるため、単に法人に資金を残すだけで相続財産が減少するわけではありません。いずれも制度上認められた手法ですが、効果を得られるかどうかは設計と実態次第です。
2. 調査官が重点的に確認するポイント(元調査官の内側視点)
資産管理会社に対する調査で、調査官はどこを見ているのか。要点は「法人に実態があるか」です。
(1)収益が本当に法人に帰属しているか
形式上は法人の収入としていても、実態が個人のままであれば、収益の帰属が個人に引き戻されることがあります。賃貸借契約の名義、家賃の入金口座、賃借人との窓口、管理実務を誰が担っているか。これらが個人のままで法人は名義だけという状態は、問題になりやすい論点です。
(2)法人の実体があるか
法人を作っただけで中身がない状態は見抜かれます。取締役会や株主総会の記録、法人の帳簿、法人名義の契約や通帳、業務の履歴といった周辺情報から、法人の活動実態は把握されます。私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、同族の資産管理会社では、契約書の日付や入金の流れ、家族が受け取る報酬に見合う勤務や役務の実態を、資料情報や関係者への確認から丁寧に組み立てていくのが通常でした。名義や形式だけを整えても、資金の流れと実務の担い手が伴っていなければ、実態に即して課税関係が見直されます。口座の見られ方は「税務調査と通帳」で解説しています。
(3)家族への給与・報酬が役務に見合っているか
所得分散の中心である家族への役員報酬は、勤務や職務の実態に見合っているかが確認されます。業務にほとんど関与していない家族への多額の報酬は、不相当に高額な部分として否認される可能性があります。
3. 同族会社の行為計算否認(伝家の宝刀)
資産管理会社の設計で最も意識すべきなのが、同族会社の行為計算否認です。これは、同族会社の行為や計算で、これを認めると税負担を不当に減少させる結果になると認められる場合に、税務署長がその行為や計算を引き直して課税できる制度で、法人税法第132条、所得税法第157条、相続税法第64条に規定されています。
「不当に減少させる」かどうかの判断に当たっては、その行為や計算が、通常の経済人の行為として不自然・不合理であるかという経済的合理性が重視されます。租税負担の軽減を意図していたという事情だけで直ちに否認されるものではありませんが、税務上の利益を除いて合理的な説明が困難な取引は、否認リスクが高くなります。
資産管理会社の文脈では、実態に見合わない過大な管理料の支払い、無利息や著しく低い利率での貸付け、事業目的の説明がつかない資産の移転などが、典型的に問題になり得ます。制度が所得税・法人税・相続税のいずれにも用意されている点にも注意が必要です。重加算税との関係は「重加算税とは」もあわせてご覧ください。調査で確認される期間の考え方は「税務調査は何年分さかのぼる?」もご参照ください。
4. 管理料・役員報酬で問題になりやすい論点
(1)管理型の管理料が過大と判断される類型
管理型で個人から法人へ支払う管理料は、実際の管理業務の内容と対価のバランスが問われます。過去の裁判例・裁決でも、管理の実体が乏しいのに家賃収入の高い割合を管理料として支払っていたケースで、過大部分が否認された例があります。管理料の水準は、実際に法人が担う業務(入居者募集、契約管理、集金、修繕手配等)の範囲と、外部の管理会社へ委託した場合の相場を踏まえて設定し、業務の履歴を残すことが重要です。
(2)役員報酬の「不相当に高額な部分」
法人が役員へ支払う報酬のうち、職務の内容や法人の収益、同規模同業の支給状況などに照らして不相当に高額と認められる部分は、損金に算入できません。特に、勤務実態が乏しい家族役員への報酬は、金額の妥当性を説明できるようにしておく必要があります。あわせて、定期同額給与など損金算入のための形式的要件を満たしているかも確認されます。
5. 借地権の認定課税と土地の無償返還に関する届出書
所有型で建物を法人に移す場合、土地は個人所有のまま法人へ貸すことが多く、ここで借地権の問題が生じます。権利金を授受する慣行がある地域で、権利金を収受せず、地代も相当の地代に満たない場合には、土地所有者や借地人の属性、契約内容に応じて、権利金相当額の認定課税や受贈益課税が問題となります。
権利金の認定課税を行わない方法は、主に二つあります。ひとつは相当の地代(更地価額のおおむね年6%程度)を収受する方法、もうひとつは、将来その土地を無償で返還することを契約し、「土地の無償返還に関する届出書」を貸主と借主が連名で税務署へ提出する方法です(法人税基本通達13の1の7)。両者は基本的に代替的な取扱いで、地代が相当の地代に満たない場合であっても、一定の要件を満たして届出書を提出することで、借地権相当額についての権利金の認定課税を避けることができます。ただし、貸主が法人で、実際に収受する地代が相当の地代を下回る場合には、その差額相当額を借主に贈与したものとして取り扱われるため、届出書の提出によってすべての課税関係が解消するわけではありません。なお、相当の地代は、おおむね3年以下の期間ごとに土地の価額等を踏まえて見直す取扱いとされています。
相続税評価では、賃貸借契約に基づき届出書が提出されている貸宅地は、原則として自用地としての価額の80%相当額で評価されます。ただし、地代を支払わない使用貸借の場合は、原則として自用地価額の100%評価となります。また、土地所有者が借地法人の同族関係者であり、その法人の株式を評価する場合には、一定の要件の下で、残る20%相当額が株式の純資産価額に算入されます。設定の仕方が相続税評価にも影響するため、所得税・法人税と相続税を通して整合的に組み立てることが求められます。
6. 相続税評価と総則6項
相続税対策としての不動産活用では、財産評価基本通達に基づく評価額が市場価格より低くなることを利用します。この評価の乖離自体は制度上想定されたものですが、乖離を狙った極端な取得・設計に対しては、総則6項(財産評価基本通達6項)による否認が問題になります。
総則6項は、通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産について、国税庁長官の指示を受けて評価するという定めです。令和4年4月19日の最高裁判決では、相続開始の約2年半から3年半前に、多額の借入金によって不動産を取得し、そのうち一物件を相続後に売却した事案について、評価通達6項を適用して通達の定める通常の評価方法によらず、鑑定評価による課税を行うことが適法と判断されました。最高裁は、評価額と時価との乖離だけでは足りず、通達による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するといえる事情があるかどうかを重視しています。
また、居住用の区分所有財産(分譲マンション)については、令和6年1月1日以後の相続・贈与から、区分所有補正率を用いた新しい評価方法が適用されています。従来の評価額と市場価格との乖離を踏まえ、評価水準が0.6未満の場合には市場価格の60%程度となるよう評価額を引き上げる一方、評価水準が1を超える場合には評価額を引き下げるなど、評価水準に応じた補正が行われます。相続税対策として不動産を活用する場合は、こうした評価ルールの変更も踏まえておく必要があります。
7. 法人化のタイミングと出口の考え方
法人化には設立や不動産移転に伴うコスト(登録免許税、不動産取得税、司法書士報酬等)がかかり、規模や所得水準によっては、かえって負担が増えることもあります。特に、既存の土地・建物を個人から法人へ移転する場合には、これらに加えて、個人側の譲渡所得税や、売主が消費税の課税事業者に該当する場合の建物部分の消費税(土地の譲渡は非課税)も検討する必要があります。一般に、家賃収入や課税所得が一定規模を超え、所得分散と将来の財産増加の抑制の効果がコストを上回る見込みがある場合に、法人化の検討余地が出てきます。
また、法人化は設立して終わりではなく、その後の運営と出口(承継・解散)まで見据えた設計が必要です。株式の承継をどうするか、将来の売却や相続時にどう評価されるか。目先の税負担だけで判断すると、後の局面で想定外の課税が生じることがあります。無理な圧縮を狙うより、管理・運営の実体を備えた持続可能な形にすることが、結果的に否認リスクを抑えることにつながります。
8. 税理士に相談する場合のポイント
不動産オーナーの法人化と相続税対策は、所得税・法人税・相続税・消費税が横断的に関わり、借地権や財産評価といった専門性の高い論点も絡みます。設計の入口を誤ると、後の税務調査で行為計算否認や評価の見直しにつながることもあります。調査の過程で作成される質問応答記録書は、後の課税処分や重加算税認定の判断に影響する重要書類です。私が共著した『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)でも詳述していますが、記載内容が事実と一致しているかを十分に確認したうえで、署名の可否を判断することが大切です。法人化を検討する段階から、資産税と税務調査の両方に対応した経験のある税理士に相談し、実態の伴う設計を組み立てることが望まれます。
まとめ:実態を伴う設計が否認リスクを抑える
不動産オーナーの法人化は、所得分散や、個人側に将来蓄積する財産の増加を抑える点で有効となることがあります。ただし、法人内に留保された利益や資産は法人株式の評価額に反映されるため、法人化するだけで相続財産が減少するわけではありません。効果を左右するのは設計と実態です。収益の帰属、管理料や役員報酬の妥当性、借地権の設定、相続税評価のいずれについても、実態を伴い、第三者との取引として説明できる形にしておくことが、同族会社の行為計算否認や総則6項による否認を避ける前提になります。目先の節税だけを目的にした無理な設計は避け、法人化を検討する段階から専門家に相談することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 法人化すれば相続税は本当に下がりますか?
法人化によって、所得分散や個人側に将来蓄積する財産の増加を抑えられることはあります。ただし、法人内に留保された利益や資産は原則として法人株式の評価額に反映されます。また、設立や不動産移転のコストもかかるため、法人化するだけで相続税が下がるわけではありません。効果は物件の規模や家族構成、設計によって異なるため、事前の試算が重要です。
Q2. 資産管理会社は税務調査で問題になりやすいのですか?
すべての資産管理会社が問題になるわけではありませんが、収益の帰属や管理料・役員報酬の妥当性、法人の実体が伴っているかが確認されやすい論点です。名義や形式だけを整えて実態が伴わない場合に、指摘を受けやすくなります。
Q3. 家族への役員報酬はいくらまで認められますか?
一律の上限はありません。職務の内容、勤務の実態、法人の収益、同規模同業の支給状況などに照らして不相当に高額と認められる部分は損金に算入できません。実際の勤務や役務の内容を説明できる水準にとどめることが重要です。
Q4. 管理料はどのくらいの水準なら問題になりにくいですか?
一律の相場はありませんが、法人が実際に担う管理業務の範囲と、外部の管理会社へ委託した場合の相場を踏まえて設定することが基本です。管理の実体が乏しいのに家賃収入の高い割合を管理料としていると、過大部分が否認される可能性があります。
Q5. 土地の無償返還に関する届出書とは何ですか?
個人の土地を同族法人へ貸す際に、権利金の認定課税を避けるため、貸主と借主が連名で将来無償で土地を返還する旨を税務署へ届け出る手続きです。地代が相当の地代に満たない場合でも、届出書の提出により借地権相当額の認定課税を避けられます。賃貸借契約に基づき届出書が提出されている貸宅地の相続税評価額は、原則として自用地価額の80%相当額となります(使用貸借の場合は原則100%)。
Q6. 総則6項で否認されるのはどのようなケースですか?
評価額と時価が乖離していること自体ではなく、通達による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するといえる事情があるかどうかが問題となります。多額の借入金による不動産取得などを通じて著しい税負担の軽減を生じさせた事案では、評価通達6項を適用し、通達の定める通常の評価方法とは異なる価額で課税されることがあります。
市田税理士事務所は、元国税調査官(大阪国税局 資料調査課 出身)の税理士が税務調査への対応をサポートする事務所です。顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
不動産オーナーの法人化に限らず、大阪で税務調査の連絡が来てお困りの方や、相続・資産税の対応にご不安のある方は、対応の流れや料金をまとめた「大阪の税務調査に強い国税OB税理士」のページもあわせてご覧ください。
引用・参考文献
- 法人税法第132条(同族会社等の行為又は計算の否認)、所得税法第157条、相続税法第64条
- 財産評価基本通達6項(総則6項)
- 国税庁「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達・令和5年10月)
- 法人税基本通達13の1の7(土地の無償返還に関する届出書)
- 最高裁令和4年4月19日判決(財産評価基本通達6項の適用に関する判断)
- 国税不服審判所「過大な不動産管理料につき所得税法第157条を適用した事例」(平成元年7月5日裁決、平成4年11月19日裁決)、「不動産管理料について管理実態が認められなかった事例」(平成18年6月13日裁決)
- 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

