海外年金を日本居住者が受け取ると確定申告は必要?|元国税調査官が解説

著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官)

「海外で働いていた時の年金を、日本に帰国してから受け取っています。日本でも確定申告が必要ですか?」
「海外の口座に年金が入っており、日本へ送金していません。日本の税金はかかりますか?」
「海外ですでに税金を引かれていますが、日本で二重に課税されるのでしょうか?」

海外勤務や海外移住を経験した方が日本へ帰国すると、外国の社会保障制度、企業年金、退職年金、個人年金などを受け取り続けることがあります。ところが、「海外の年金」という名前だけでは、日本での所得区分や確定申告の要否は決まりません。

私は大阪国税局で個人課税や富裕層に対する調査事務に従事した後、税理士として税務調査への対応を専門にしています。この記事では、海外年金を日本居住者が受け取る場合について、日本での課税、公的年金等の区分、為替換算、外国税額控除、租税条約、申告漏れがあった場合の対応まで整理します。

結論:海外年金は「居住者区分・年金の種類・支払地・条約」を確認して申告要否を判断する

非永住者以外の日本の居住者は、原則として国内外で生じた所得が日本の所得税の対象です。そのため、海外で受け取る年金であっても、日本の課税対象となる可能性があります。一方、非永住者については国外源泉所得の国内払い・国外からの送金の有無などで課税範囲が変わります。

また、外国の法令に基づく一定の社会保険・共済制度の年金などは、日本では「公的年金等に係る雑所得」として扱われます。これに対し、民間の個人年金保険などは「公的年金等以外の雑所得」となることがあり、制度や契約内容の確認が必要です。

特に注意したいのが、公的年金等の収入が400万円以下であれば確定申告が不要になる制度です。国外で支払われ、日本の源泉徴収の対象とされない一定の外国年金を含む場合、この年金所得者向けの申告不要制度は適用できません。ただし、給与の年間収入金額が2,000万円以下で、給与を1か所から受け、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となるなど一定の給与所得者は、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であれば、別の申告不要規定が適用される場合があります。

この記事でわかること

  • 海外年金が日本で課税される基本的な考え方
  • 公的年金等とそれ以外の年金の区分
  • 年金所得者の400万円基準と外国年金の注意点
  • 外貨で受け取った年金の円換算方法
  • 外国税額控除・租税条約・申告漏れへの対応

第1章 まず日本の「居住者・非居住者」を確認する

(1)非永住者以外の居住者は国外所得も原則として課税対象

所得税法では、個人を居住者と非居住者に分け、さらに居住者の中に非永住者という区分があります。国税庁は、非永住者以外の居住者について、国内で生じた所得だけでなく国外で生じた所得も課税対象になると整理しています。

したがって、海外の年金支払機関から外国口座に振り込まれているという理由だけで、日本の所得税の対象外になるわけではありません。まず日本の税法上、自分がどの居住者区分に該当するかを確認する必要があります。

(2)非永住者は国外源泉所得の送金関係に注意

非永住者とは、居住者のうち日本国籍がなく、過去10年以内に日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下の方をいいます。非永住者は、国外源泉所得について、国内で支払われたものや国外から国内へ送金されたものが課税対象となる仕組みです。

外国の法令に基づく社会保険制度等に類する年金は、一定の場合、国外源泉所得に含まれます。そのため、非永住者については「海外年金を受け取った」という事実だけでなく、年金の制度、支払先口座、同じ年に行った日本への送金などを確認する必要があります。

なお、非永住者の送金課税は、送金の原資を個別に追跡して「この送金は年金から」と判定するだけの仕組みではありません。所得税基本通達7-3では、その年の国外払所得と送金受領額を基に、法令上の順序で国外源泉所得のうち送金があったものとみなされる金額を計算する取扱いが示されています。

居住者・非居住者の判定は住民票だけで決まるものではありません。生活の本拠を客観的事実から判定します。詳しくは、居住者・非居住者の判定基準で解説しています。

第2章 調査官が海外年金について重点的に確認するポイント

以下は、法令上の課税要件に加え、私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験を踏まえて整理した実務上の確認ポイントです。海外年金の申告内容を確認する場面では、単に「年金の入金額」だけでなく、その年金の法的性質、受給開始時期、海外での課税、日本への送金、申告書との整合性などが確認事項となり得ます。

(1)何の制度から支給されている年金か

最初の確認点は、年金の名称ではなく制度の中身です。外国政府の社会保障制度、勤務先の退職年金、民間保険会社の個人年金では、日本の所得税上の扱いが同じとは限りません。支給決定通知、制度説明書、契約書、過去の勤務先資料などが重要です。

(2)年間の受給額と入金口座

毎月の年金額、年間受給額、入金先となっている外国口座を確認します。日本へ送金していない場合でも、非永住者以外の居住者であれば、それだけで課税対象外にはなりません。

(3)日本への送金額

非永住者では、日本への送金が課税範囲に影響します。年金だけでなく、同じ年に海外預金から日本へ資金移動をしている場合には、送金額と国外所得の関係を整理する必要があります。

海外送金が税務上どのように確認されるかは、海外送金は税務署にどう把握される?でも詳しく解説しています。

(4)外国で源泉徴収・納税されている税額

外国で税金が差し引かれている場合は、その税の名称、課税対象、税率、納付時期を確認します。外国で税金が引かれているから日本で申告しなくてよい、という整理にはなりません。日本側で課税される場合は、租税条約や外国税額控除を確認します。

(5)過去の確定申告との整合性

海外年金を数年間受け取っている場合、前年以前の申告内容との整合性も確認されます。ある年から突然申告を始めた場合や、海外送金は申告しているのに年金収入の記載がない場合には、過年度分の確認が必要になることがあります。

私が大阪国税局で調査事務に従事していた経験から言えば、国際関係の所得は「海外だから分かりにくい」という前提で処理するより、制度資料、口座明細、送金記録、外国の課税資料を時系列でそろえて説明できる状態にしておくことが実務上重要です。

第3章 海外年金は「公的年金等」か、それ以外の雑所得か

(1)一定の外国年金は公的年金等に係る雑所得

所得税法第35条では、公的年金等に係る所得を雑所得として扱います。国税庁の確定申告の手引きでも、国民年金、厚生年金、確定給付企業年金、確定拠出年金などと並び、「一定の外国年金」が公的年金等に含まれると説明されています。

また、外国の法令に基づく制度で、日本の国民年金や厚生年金などの社会保険・共済制度に類するものに基づく年金等は、国外源泉所得の一つとして国税庁の外国税額控除の説明にも掲げられています。

(2)公的年金等なら公的年金等控除を使って所得を計算

公的年金等に該当する場合は、年間の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を差し引いて雑所得を計算します。控除額は、受給者の年齢、公的年金等の収入金額、公的年金等以外の合計所得金額によって変わります。

外国年金だけを単独で計算するのではなく、日本の国民年金・厚生年金なども受給している場合には、公的年金等の収入金額を合計して計算する点に注意が必要です。

(3)民間の個人年金などは別の計算になることがある

民間の個人年金保険など、公的年金等に該当しない年金は、公的年金等以外の雑所得として「総収入金額から必要経費を差し引く」方法で計算することがあります。

海外の勤務先から受け取る企業年金や、一時金と年金を選択できる制度も、名称だけで区分するのは適切ではありません。契約・制度の法的性質、本人拠出、勤務に基づく給付かどうかなどを確認して判定します。

第4章 「年金400万円以下なら申告不要」が外国年金では使えないことがある

(1)年金所得者の確定申告不要制度

公的年金等を受給している方には、公的年金等の収入金額が400万円以下で、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下など、一定の要件を満たす場合に所得税の確定申告を不要とする制度があります。

(2)源泉徴収されない外国年金を含む場合は対象外

この制度は、公的年金等の全部が日本の所得税の源泉徴収の対象となる場合に限られます。国税庁の質疑応答事例では、源泉徴収の対象とされない外国の法令に基づく公的年金等が含まれる場合、年金所得者向けの申告不要制度は使えず、所得税法第120条第1項の申告書提出要件を満たす限り確定申告が必要と整理されています。

したがって、「年金が400万円以下だから申告しなくてよい」と機械的に判断するのは危険です。外国年金が日本の源泉徴収対象かどうかを先に確認します。

(3)給与所得者の20万円基準は別の制度

一方、給与の年間収入金額が2,000万円以下で、給与を1か所から受け、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合など、一定の給与所得者については、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であれば、原則として所得税の確定申告を要しない取扱いがあります。こちらは年金所得者の400万円基準とは別の規定です。

そのため、外国年金がある方の申告要否は「400万円以下か」だけでは判断できません。給与の有無、年金以外の所得、控除を受けるために確定申告をするかどうかなども含めて確認します。所得税の確定申告をする場合は20万円以下の所得も申告に含めます。また、所得税の確定申告を要しない場合でも、住民税の申告が必要となる場合があります。

第5章 外貨で受け取った海外年金は受取時のTTMで円換算する

(1)外貨のまま受け取っていても円換算が必要

日本の確定申告では、外貨建ての年金収入を日本円に換算します。国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、海外からの年金収入について、外貨で支払を受けた場合は、支払を受けた時の電信売買相場の仲値(TTM)で日本円に換算し、1年間の支払金額を合計して入力する方法が案内されています。

(2)毎月受給なら各受取時点で換算する

例えば毎月1回、年間12回の年金を受け取る場合は、それぞれの支払を受けた時点のTTMで円換算し、年間の円換算額を集計するのが基本です。非永住者の課税範囲は別途判定しますが、円換算の場面では、日本への送金日ではなく支払を受けた時点のレートを確認します。

(3)為替レートの根拠を保存する

所得税基本通達57の3-2では、電信売買相場の仲値は原則としてその者の主たる取引金融機関のものによるとされ、合理的なものを継続して使用している場合も認める取扱いです。申告後に計算根拠を説明できるよう、年金の支払日、外貨額、使用したTTM、日本円換算額とレート資料を保存しておくとよいでしょう。

例えば、ある月に1,000米ドルの年金を受け取り、その受取時のTTMが1米ドル150円であれば、その回の円換算額は15万円です。翌月のTTMが異なれば翌月分はそのレートで計算し、各回の円換算額を積み上げて年間収入を整理します。

第6章 海外でも課税されている場合は租税条約と外国税額控除を確認する

(1)外国で課税済みでも日本の申告が不要とは限らない

日本の居住者が海外年金について外国でも所得税に相当する税を負担している場合、日本でも同じ年金が課税対象となれば二重課税が生じることがあります。この調整手段の一つが外国税額控除です。

(2)外国税額控除には限度額がある

外国税額控除は、外国で納付した税額をそのまま日本税額から差し引く仕組みではありません。所得税法第95条に基づき、国外所得金額などを基礎に計算した控除限度額の範囲で控除します。控除しきれない外国所得税額や控除余裕額には、一定の範囲で3年間の繰越制度があります。

(3)租税条約で相手国の課税権を先に確認する

年金の課税関係は租税条約によって異なります。条約によって居住地国のみが課税できる年金、源泉地国にも課税権が残る年金、政府勤務に基づく年金について特別な条項がある場合などがあります。

条約上、相手国が課税できない部分まで外国で税金を徴収されている場合、その超過部分が日本の外国税額控除の対象にならないことがあります。そのため、「外国で引かれた税額を日本で控除する」という順番ではなく、まず条約上の課税権を確認することが重要です。

(4)外国税額控除には資料が必要

外国税額控除を適用する場合は、「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」のほか、外国所得税を課されたことを証する書類、外国税の名称・金額・納付日等を説明する書類、国外源泉所得の計算明細などが必要です。

第7章 海外年金を申告していなかった場合の対応

(1)まず申告が必要だった年分を切り分ける

海外年金を申告していなかった場合でも、すべての年分について同じ対応になるとは限りません。各年について居住者区分、非永住者該当性、年金の種類、年間受給額、給与その他の所得、外国税、送金状況を整理し、申告義務があったかを判定します。

(2)申告が必要なら期限後申告・修正申告を検討する

本来確定申告が必要だったのに提出していない場合は期限後申告、申告済みでも海外年金を漏らしていた場合は修正申告を検討します。税務署からの調査通知を受ける前に自主的に期限後申告をした場合と、調査通知後では無申告加算税の取扱いが異なります。

無申告の場合の更正・決定の期間制限は原則として法定申告期限から5年で、偽りその他不正の行為がある場合は7年となります。具体的にどの年分まで確認するかは、申告状況と事実関係に応じて整理します。

(3)税務署から「お尋ね」が来た場合

海外所得に関して税務署から文書や電話で確認を受けた場合は、実地調査なのか行政指導としての確認なのかを見極めます。対応の考え方は、税務署から「お尋ね」が届いたらも参考にしてください。

第8章 帰国前・受給開始前から準備しておきたい資料

(1)年金制度そのものが分かる資料

支給決定通知書、制度概要、加入期間、勤務先、本人拠出額、事業主拠出額、受給開始日などを確認できる資料を保存します。年金の名称だけで所得区分を決められない場合に特に重要です。

(2)年間受給額が分かる資料

年間支払通知、月次明細、外国口座の入金履歴をそろえます。年間支給額と口座入金額が手数料等で一致しない場合は、その差額の理由も確認しておきます。

(3)外国での課税資料

外国の源泉徴収票、納税証明書、確定申告書、年次税額通知などを保存します。租税条約の適用や外国税額控除の確認に必要となることがあります。

(4)帰国年は居住者となった日を確認する

帰国した年は、年の途中で日本の居住者となることがあります。帰国前と帰国後で日本の課税範囲が変わるため、帰国日、住居、勤務開始日、家族の移動などを時系列で整理しておくことが重要です。

帰国後の海外所得全般については、海外から帰国した人の税金と税務調査でも整理しています。

第9章 海外年金で判断を誤りやすい5つのケース

(1)海外口座で受け取っているから日本では申告不要と考える

非永住者以外の居住者は、原則として国外所得も日本の課税対象です。入金口座が外国にあることだけでは申告不要の根拠になりません。

(2)400万円以下だから申告不要と考える

国外で支払われ、日本の源泉徴収の対象とされない外国の公的年金等を含む場合、年金所得者向けの400万円以下の申告不要制度は利用できません。別の申告不要規定に該当するかは別途確認します。

(3)外国で税金を払ったので日本では課税されないと考える

外国で課税されていることと、日本で課税されることは別問題です。租税条約と日本の国内法を確認し、二重課税が生じる場合に外国税額控除を検討します。

(4)毎年の受給額を入金日の為替ではなく適当な年平均で換算する

国税庁の海外年金の入力方法では、支払を受けた時のTTMで換算する方法が示されています。換算方法と根拠レートを記録しておくことが重要です。

(5)制度名だけで公的年金等と判断する

海外の制度は日本の名称と一致しません。社会保障年金、企業年金、民間保険、退職一時金などを区分するため、制度規約や支給根拠を確認します。

よくある質問

Q1. 海外年金を外国口座で受け取っているだけでも日本で申告が必要ですか?

非永住者以外の日本の居住者で、日本の課税対象となる海外年金であれば、外国口座で受け取っていることだけを理由に申告不要とはなりません。申告要否は年金の種類、金額、他の所得、適用できる申告不要制度などを確認して判断します。

Q2. 海外の公的年金が400万円以下なら確定申告は不要ですか?

国外で支払われ、日本の源泉徴収の対象とされない外国の公的年金等を含む場合、年金所得者向けの400万円以下の確定申告不要制度は適用できません。給与の年間収入金額が2,000万円以下で1か所から給与を受けるなど、給与所得者向けの別の申告不要規定に該当するかは個別に確認します。所得税の確定申告を要しない場合でも、住民税の申告が必要となる場合があります。

Q3. 海外年金はどの為替レートで日本円に換算しますか?

国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、海外からの年金を外貨で受け取った場合、支払を受けた時の電信売買相場の仲値(TTM)で日本円に換算し、1年間の金額を合計する方法が案内されています。

Q4. 海外で税金を引かれていれば日本では税金がかかりませんか?

外国で課税されていても、日本の居住者として日本で課税対象となる場合があります。租税条約で課税権を確認したうえで、二重課税が生じる場合は外国税額控除を検討します。条約上の限度を超えて外国で課税された部分は控除対象にならないことがあります。

Q5. 日本へ送金していない海外年金は課税されませんか?

非永住者以外の居住者は、原則として日本へ送金していない国外所得も課税対象です。非永住者は国外源泉所得の国内払い・国外からの送金などで課税範囲が変わるため、居住者区分と送金状況を確認する必要があります。

Q6. 過去の海外年金を申告していなかった場合はどうすればよいですか?

各年について申告義務があったかを確認し、未申告なら期限後申告、申告済みで年金収入が漏れていれば修正申告を検討します。居住者区分、年金資料、外国税、為替換算、送金状況を年分ごとに整理してから対応することが重要です。

まとめ:海外年金は受取口座ではなく課税関係を順番に確認する

海外年金の確定申告では、最初に日本の居住者区分を確認し、次に年金が公的年金等に該当するか、年間受給額はいくらか、国外払いか、非永住者なら送金があるか、外国で税金を負担しているか、租税条約がどう定めているかを順番に確認します。

特に、国外で支払われる一定の外国公的年金については、年金収入400万円以下という理由だけで申告不要と判断できない点が重要です。過年度分を含めて不明点がある場合は、支給通知、外国口座、税額資料、為替換算表をそろえてから確認すると整理しやすくなります。

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引用・参考文献

この記事を書いた人

市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。