海外送金は税務署にどう把握される?|元国税調査官が調査の入口を解説
著者:市田佳祐(税理士・元国税調査官/大阪国税局 資料調査課 出身)
「海外の家族に送金したら、税務署から書類が届いた。何か問題があったのだろうか」
「海外口座の運用益を申告していない。送金の記録から把握されるのだろうか」
「100万円を超えなければ、税務署には分からないと聞いたが本当か」
海外への送金や海外からの入金は、国内の振込と違い、税務署に情報が届く仕組みがあります。送金から数か月後、あるいは1年以上経ってから、税務署の問い合わせを受けることもあります。
私は元国税調査官(大阪国税局 個人課税課・資料調査課)の税理士です。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事していました。この記事では、海外送金の情報が税務署にどう届き、どこから調査に発展するのかを、調査する側にいた立場から解説します。
結論:100万円超の送金は調書で税務署に届く。ただし調書が出ること自体は日常
先に結論をお伝えします。100万円を超える国外送金と国外からの送金の受領については、金融機関が「国外送金等調書」を税務署に提出します。送金者・受領者の氏名や住所、金額、送金原因などが記載されており、税務署はこの情報を保有しています。
ただし、調書が提出されること自体は日常的なことで、それだけで調査になるわけではありません。国税庁の公表資料によれば、国外送金等調書の提出枚数は令和6事務年度で923万枚(前事務年度832万枚)と、近年は増加傾向にあります(国税庁レポート2026)。問題になるのは、調書の内容と申告内容が結び付かないときです。資金の出どころと使いみちを説明できる状態にしておくこと、申告が必要な所得があれば申告しておくこと。この2点に尽きます。
この記事でわかること
- 国外送金等調書の仕組み(100万円超・誰が・何を提出するのか)
- 調査官が調書のどこを見ているか(元調査官の視点)
- 「お尋ね」と税務調査の違い、届いたときの対応
- CRS情報・国外財産調書との関係と、国税庁が公表した調査事例
- 申告漏れに気づいた場合に早く動く意味
1. 国外送金等調書とは:100万円を超える送金が対象
国境を越える資金移動が自由になったことを受けて、内国税の適正な課税を確保するための制度として、国外送金等調書の提出制度が設けられています(いわゆる国外送金等調書法)。
国税庁の説明によれば、国外への送金および国外から受領した送金の金額が100万円を超えるものについて、送金者および受金者の氏名、住所、取引金額などを記載した調書を、送金等を行った金融機関が税務署に提出することとされています。送金の理由を記載する送金原因も、調書の記載事項に含まれます。
ポイントは3つです。送金だけでなく海外からの入金(受領)も対象であること、判定は1回の取引ごとに行われること、提出するのは金融機関であることです。窓口で提出する告知書などの情報が調書の基礎になります。
2. 調査官は調書のどこを見ているか:元調査官の視点
年間900万枚を超える調書がすべて調査につながるわけではありません。調査先の選定や準備では、調書と申告内容の突き合わせが行われます。
(1)送金原因と申告内容が結び付くか
調書には送金原因が記載されます。たとえば「不動産購入」とあるのに、その後の申告に不動産所得が出てこない。「投資」とあるのに、配当や利子、譲渡益の申告がない。このように、送金原因から想定される所得が申告に現れていない場合、確認の対象になりやすくなります。逆に、留学中の子への学費や生活費の送金は、所得税上の所得が生じる資金移動ではありませんが、贈与税の非課税要件を満たしているかは別途確認が必要です。
(2)資金の出どころが説明できるか
多額の送金があるのに、申告されている所得や手元資金と釣り合わない場合、その資金がどこから来たのかが論点になります。事業の売上除外や、贈与を受けた資金である可能性が検討されるためです。通帳の入出金がどこまで確認されるかは「税務調査で通帳はどこまで見られる?」で詳しく解説しています。
(3)繰り返しの送金と、その相手
単発の送金よりも、同じ相手先への継続的な送金や、海外の自分名義口座への資金移動のほうが、蓄財や運用の存在が想定されやすくなります。
私が資料調査課(国税局で大口事案・悪質事案を担当する部署。通称「料調」)で国際課税の調査事務に従事していた経験から言えば、調査官は調書を1枚だけ見て判断するわけではありません。過去の調書を時系列に並べ、申告内容や他の資料情報と合わせて全体像を組み立てます。「1回の送金を100万円以下に分ければ調書は出ない」と考える方がいますが、調書の提出対象でなくても、調査の過程で金融機関に照会すれば取引履歴は確認できます。調書がない=把握されない、ではありません。
3. 「お尋ね」が届いた場合:税務調査とは別の手続
調書の内容から確認が必要と判断された場合、まず「国外送金等に関するお尋ね」といった文書が届くことがあります。これは行政指導であり、実地の税務調査とは異なる手続です。
「お尋ね」は行政指導であり、税務調査における質問検査権に基づく回答義務とは異なります。ただし、回答しなければ確認が終了するわけではなく、追加の資料検討や税務調査に進むことがあります。申告漏れがある場合は、この段階で自主的に申告することにより、加算税の負担を抑えられる可能性があります。届いた文書が行政指導なのか調査の事前通知なのかを見極めることが先決です。詳しくは「税務署から「お尋ね」が届いたら」をご覧ください。
4. 問題になりやすいケースと、国税庁が公表した調査事例
海外送金そのものに税金がかかるわけではありません。問題になるのは、送金の背後にある所得や贈与が申告されていない場合です。典型的には次のようなケースです。
以下は、主として非永住者以外の居住者を前提とした典型例です。非永住者は、国外源泉所得のうち日本国内で支払われ、または日本国内に送金されたものが課税対象となるため、取扱いが異なります。
(1)海外口座で生じた所得:国外金融機関口座で受け取った利子・配当、投資信託の分配金や売却益など。なお、単なる評価益(含み益)は、通常、実現するまで課税対象になりません。確定申告の要否は、所得区分や金額等によって異なります。
(2)海外不動産の賃料:海外に所有する不動産を貸し付けている場合の賃料収入。
(3)親族間の資金移動:海外の親族への送金や、海外の親族からの多額の入金は、贈与に当たるかどうかが論点になります。
(4)事業の海外取引:輸出入や海外での役務提供に係る売上。
国税庁は、令和6事務年度の調査事例として、次の事案を公表しています。譲渡所得のみを申告していた方について、国外送金等調書を検討したところ国外からの送金が多額に上り、CRS情報から国外金融機関口座の保有が見込まれた。調査の結果、海外不動産を管理会社経由で貸し付けて賃料を得ていたことに加え、別の国の口座で投資信託の運用収益を受け入れ、預金利子を受領していたことが把握された。国税庁資料では、国外不動産の賃料収入と国外金融機関口座の利子収入について課税したとされ、所得税3年分について申告漏れ所得金額約2億6千百万円、追徴税額(加算税込み)約1億1千6百万円とされています(国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」)。
この事例が示すのは、入口が調書だったということです。送金の記録から、海外の資産と所得へ調査が展開しています。
5. CRS情報・国外財産調書との関係
税務署が把握する経路は、国外送金等調書だけではありません。国税庁は、海外投資を行っている個人や海外資産を保有している個人などに対して、国外送金等調書、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、CRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)などを効果的に活用し、積極的に調査を実施しているとしています。
CRS情報は、参加国・地域の税務当局が、非居住者の報告対象金融口座に関する情報を交換する仕組みです。国税庁レポート2026によると、令和6事務年度に日本が外国税務当局から受領したCRSによる非居住者の金融口座情報は、101か国・地域から約275万件に上ります。すべての国・口座が対象になるわけではありませんが、「海外の口座だから日本の税務署には分からない」と一律に考えることはできません。
また、その年の12月31日時点で価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する居住者(非永住者を除く)は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する必要があります。この調書を期限内に提出していれば、記載された国外財産に関して申告漏れが生じた場合でも過少申告加算税等が軽減される一方、提出がない場合や記載がない場合には加重される仕組みがあります(国税庁タックスアンサーNo.7456ほか)。なお、そもそも自分が居住者に当たるのかどうかは、これらの義務の前提になります。判定の考え方は「居住者・非居住者の判定」で解説しています。
6. 統計が示す海外取引調査の位置づけ
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)によると、海外投資等を行っている個人に対する調査は、実地調査(特別・一般)が2,666件(前事務年度2,584件)行われ、1件当たりの申告漏れ所得金額は3,459万円と、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1,486万円を上回っています。1件当たりの追徴税額は866万円で、全体の299万円の2.9倍です。
さらに、海外投資等を行っている富裕層に対する調査では、1件当たりの追徴税額が1,595万円と、全体の5.3倍に上っています。これらは全国の数字であり、特定の地域や属性の方に調査が集中していることを示すものではありません。ただし、海外が絡む事案は資料情報が蓄積されており、調査が行われた場合の追徴税額が大きくなる傾向は読み取れます。
7. 申告漏れに気づいたら:早く動くほど選択肢が残る
過去の送金について申告漏れに気づいた場合、早く動くほど加算税の負担を抑えられる可能性があります。
所得税について、実地調査に係る調査通知(対象税目・対象期間等の通知)を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税は原則5%です(延滞税は別途生じます)。調査通知を受けた後、調査による決定を予知する前の期限後申告では、令和5年分以後、50万円以下の部分10%・50万円超300万円以下の部分15%・300万円超の部分25%、決定を予知した後・決定後は同15%・20%・30%と、対応が遅れるほど段階的に重くなります(過年度分は法定申告期限により区分が異なります)。すでに期限内申告をしていて税額が不足していた場合は修正申告となり、調査通知前、かつ、更正を予知する前であれば、過少申告加算税は原則として課されません。
調査の対象期間は、実務上は当初3年分とされることが多く、状況により5年分に広がります。偽りその他不正の行為があると認められる場合は、最長7年分までさかのぼることがあります(法律上の更正・決定ができる期間は原則5年です)。詳しくは「税務調査は何年分さかのぼる?」をご覧ください。
8. 送金の前後にやっておきたいこと
大切なのは、後から説明できる状態にしておくことです。
資金の出どころが分かる記録(給与・事業収入・預金の取り崩し・不動産の売却代金など)と、送金の目的が分かる資料(学費の請求書、売買契約書、贈与契約書など)を保存しておきます。親族間の資金移動は、貸付けか贈与かを書面で明確にしておくと後の説明が容易です。海外口座で所得が生じている場合は、年間取引報告書などを取り寄せて申告に反映させます。
よくある質問
Q1. 100万円を超える海外送金をすると、税務調査が来るのですか?
調書が提出されること自体は日常的で、それだけで調査になるわけではありません。国税庁の公表資料でも、国外送金等調書の提出枚数は令和6事務年度で923万枚に上ります。問題になるのは、調書の内容と申告内容が結び付かない場合です。
Q2. 100万円以下に分けて送金すれば、税務署には分からないのですか?
国外送金等調書の提出対象は1回100万円を超えるものですが、対象外であれば把握されないというわけではありません。100万円以下に分けたとしても、調査の過程で金融機関への照会等により取引全体が確認されることがあります。分割した理由を含め、資金移動の実態を説明できるようにしておく必要があります。
Q3. 海外の家族への生活費の送金にも税金がかかりますか?
扶養義務者相互間で、生活費や教育費として通常必要と認められる金額を、必要な都度、直接その費用に充てるために送金した場合は、贈与税の課税対象となりません。一方、数年分をまとめて送金し、預金として残った部分や、株式・不動産の購入など別の目的に使用した部分は、贈与税の対象となることがあります。送金の目的が分かる資料を残しておくことが大切です。
Q4. 「国外送金等に関するお尋ね」が届きました。放置してよいですか?
放置は避けてください。「お尋ね」は行政指導であり、税務調査における質問検査権に基づく回答義務とは異なります。ただし、回答しなければ確認が終了するわけではなく、追加の資料検討や税務調査に進むことがあります。申告漏れがある場合、この段階で自主的に申告すれば加算税の負担を抑えられる可能性があります。
Q5. 海外の口座にある資産は、日本の税務署に把握されないのではないですか?
国税庁は、CRS情報や租税条約等に基づく情報交換制度を活用していると公表しています。CRS参加国・地域にある日本居住者の報告対象金融口座については、口座残高等が日本の国税当局に提供される仕組みがあります。すべての国・口座が対象となるわけではありませんが、「海外だから分からない」と一律に考えることはできません。
Q6. 何年も前の海外送金についても調べられますか?
調べられることがあります。所得税について更正・決定ができる期間は原則5年で、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。送金が贈与に当たる場合、贈与税については原則6年、不正がある場合は7年となります。対象となる税目や事実関係によって期間が異なります。調査では過去の調書が時系列で確認されるため、古い送金が論点になることもあります。
まとめ:調書は入口。説明できる状態にしておくことが備えになる
100万円を超える海外送金と海外からの入金は、金融機関から国外送金等調書として税務署に提出されます。ただし、調書が出ること自体は日常であり、それだけで調査になるわけではありません。調査官が見ているのは、送金原因から想定される所得が申告に現れているか、資金の出どころを説明できるかという点です。
CRS情報や情報交換制度も含めて、海外の資産や所得に関する情報が国税当局に届く仕組みは整っています。資金の性格を説明できる記録を残し、申告が必要な所得は申告しておく。これが最も確実な備えです。すでに申告漏れに心当たりがある方は、調査通知を受ける前に動くほど選択肢が残ります。海外が絡む論点は判断が難しいことも多いので、早めに専門家へご相談ください。
税務調査の連絡が来た方、申告に不安がある方へ
市田税理士事務所は、元国税調査官(大阪国税局 資料調査課 出身)の税理士が運営する事務所です。調査官側の実務を踏まえて、事前準備から調査立会い、指摘事項への対応までサポートします。ご依頼内容に応じて、当事務所で対応するほか、必要に応じて外部専門家との連携も検討し、状況に応じた適切な対応を提供します。
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引用・参考文献
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
- 国税庁レポート2026「Ⅳ 適正・公平な課税・徴収」(国外送金等調書の提出枚数、CRSによる非居住者の金融口座情報の自動的情報交換件数)
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
- 国税庁タックスアンサーNo.7456「国外財産調書の提出義務」
- 国税庁タックスアンサーNo.2010「納税義務者となる個人」
- 国税庁「扶養義務者から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」
- 国税庁タックスアンサーNo.2024「確定申告を忘れたとき」
- 国税通則法第65条(過少申告加算税)、第66条(無申告加算税)、第70条(国税の更正、決定等の期間制限)
- 市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)
- 市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
この記事を書いた人
市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。平成23年に大阪国税局入局後、令和5年6月まで国税職員として勤務し、同年8月に税理士登録(登録番号151935、近畿税理士会所属)。大阪国税局では資料調査課にて国際課税や富裕層に対する調査事務に従事したほか、総務課、個人課税課において税務行政に関する事務に従事。1級FP技能士。
共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年12月)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。

