税務調査では何を聞かれる?|元国税調査官が質問の意図と答え方を解説
著者:市田佳祐(税理士・国税OB)
「税務調査が決まったが、当日どんなことを聞かれるのか分からず不安だ」
「調査官の質問に、どこまで・どう答えればよいのか知りたい」
「うっかり余計なことを言って、不利になったりしないだろうか」
税務調査の事前通知を受けた方から、よくいただくのが「当日は何を聞かれるのですか」というご質問です。調査の経験がなければ、何を聞かれるか分からないこと自体が大きな不安になります。
誤解されやすい点ですが、調査官の質問は、思いつきでなされているわけではありません。一つひとつの質問には、申告内容を検証するための明確な意図があります。雑談のように見える序盤の会話にも、調査上の目的が含まれています。逆に言えば、質問の意図を知っていれば、過度に身構える必要はなく、落ち着いて事実を答えればよいことが分かります。
この記事では、質問する側だった元国税調査官(国税OB)の立場から、税務調査で聞かれることの全体像、定番の質問とその裏にある意図、そして答え方の原則について、内側の視点で解説します。
この記事でわかること
- 税務調査で聞かれることの全体像と、調査の進み方
- 序盤の「世間話」に含まれる調査上の意図
- よく聞かれる定番の質問と、その裏にある狙い
- 答え方の3原則と、回答がどう記録されるか
1. 税務調査で聞かれることの全体像
税務調査(実地調査)の質問は、おおむね次の流れで進みます。
| 段階 | 聞かれる内容 | 調査官の狙い |
|---|---|---|
| 序盤(午前) | 事業の概要、経歴、家族構成、1日の流れ | 事業の実態をつかみ、申告内容と照らす土台を作る |
| 中盤 | 売上の計上方法、経費の内容、現金・通帳の管理 | 帳簿と実態のズレ、計上漏れの有無を確認する |
| 終盤 | 個別の取引・疑問点の確認 | 具体的な非違(誤り)の有無を詰める |
ポイントは、序盤の何気ない会話から、すでに調査が始まっているということです。多くの方は「帳簿を見られること」が調査だと考えていますが、実際には、帳簿確認と並んで、納税者への質問(質問検査)は調査の重要な柱です。帳簿の数字だけでは、取引の実態や背景までは分からないからです。その数字が実態と合っているかは、本人の説明や資料との突合を通じて確認されます。
なお、質問の対象となる期間は、調査の事前通知で示された対象期間が基本です。実務上は直近3年分を対象に始まることが多い一方、法令上の更正期間との関係では原則5年、偽りその他不正の行為があるとされる場合には7年に及ぶこともあります。また、対象期間の申告内容を確認するために、開業時の経緯や対象期間より前の取引・資産形成について質問されることもあります。「対象期間外のことは答えてはいけない」ということではなく、事業の実態を理解するための文脈として聞かれている、と捉えれば十分です。
(関連記事:税務調査が来たら何をすべきか——元国税調査官が初動対応から終了まで解説)
2. 序盤の「世間話」の意図——雑談にも目的がある
調査当日の午前中、調査官はいきなり帳簿を見ることはせず、まず事業や経歴についての質問から入るのが一般的です。一見すると場を和ませる世間話のようですが、質問する側だった立場から言えば、ここには明確な目的があります。
(1) 事業の概要・仕事の流れ
「どんなお仕事ですか」「お客さんはどうやって見つけるのですか」「代金はどうやって受け取るのですか」——こうした質問で、調査官はお金の流れの全体像を頭に入れます。受注から入金までの流れが分かれば、「この事業なら、売上はこの口座に入るはずだ」「現金収入があるはずだ」という見立てができ、帳簿のどこを重点的に見るべきかが決まります。
(2) 経歴・開業の経緯
「以前は何をされていたのですか」「開業資金はどう用意されたのですか」という質問は、資産の形成過程を確認する意図があります。申告所得に比べて自宅や車が立派すぎる場合、その差を説明できる収入や資産が過去にあったのかを見ています。
(3) 家族構成・生活状況
家族の話題も、単なる雑談ではありません。生活費がどれくらいかかる世帯なのかを把握し、申告所得で生活が成り立つかという観点で見ています。申告所得が低いのに生活水準が高ければ、申告に表れていない収入があるのではないか、という見立てにつながります。
こうした序盤の質問に、嘘や誇張を交える必要はまったくありません。むしろ、ここでの説明と帳簿・実態が食い違うと、調査官の確認が深くなります。事実をそのまま話すことで、調査が円滑に進みやすくなります。
逆に、調査官の立場からすると、序盤の聴き取りで事業の実態が素直に把握できると、「この納税者は誠実に対応している」という心証が形成され、その後の調査も事務的に淡々と進みやすくなります。序盤の受け答えは、調査全体の空気を決める意味でも重要なのです。
3. よく聞かれる定番の質問と、その裏にある意図
中盤以降は、申告内容に直接かかわる質問に入ります。よく聞かれる定番の質問と、その意図を整理します。
(1) 「売上はどの時点で計上していますか」
売上の計上時期(期ズレ)は、調査で最も基本的な確認項目です。所得税では、現金主義の特例を選択している一定の小規模事業者等を除き、原則として、商品の引渡しや役務提供の完了などにより、収入すべき権利が確定した時点で売上を計上します。「入金されたときに売上にしています」という回答は、計上時期がずれている可能性を示すため、年末年始前後の取引を中心に確認が深くなります。
(2) 「現金売上はありますか。どう管理していますか」
現金商売の場合、レジやレシート、日々の現金の締め方を確認されます。現金は記録に残りにくいため、管理方法そのものから、計上漏れの起きやすさを見ている質問です。
(3) 「この経費はどんな支出ですか」
交際費・車両費・家事関連費(自宅家賃・通信費など)は、事業との関連性を質問されやすい項目です。「誰と・何の目的で」を説明できるか、事業で使っている割合に合理的な根拠があるかが見られています。
(4) 「通帳はこれですべてですか。個人用の口座はありますか」
事業用以外の口座に売上が入金されていないか、という確認です。税務署は、法定調書、取引先調査、各種資料情報などを通じて入金の事実を把握できる場合があるため、口座の存在を伏せることに意味はなく、かえって心証を悪くします。
(5) 「外注費を支払っている方は、どんな方ですか」
外注費は、調査で確認されやすい項目の一つです。実在する相手への実際の支払いか、業務の実態があるか、給与との区分は適切か(外注費と給与では源泉徴収や消費税の扱いが異なります)が見られています。請求書や支払いの記録、相手方の連絡先などを整理しておくと、スムーズに説明できます。
(6) 「年末時点の在庫(棚卸)はどう数えましたか」
物販などで在庫がある事業の場合、棚卸の方法は定番の質問です。在庫の計上が漏れると、その分だけ売上原価が過大になり、所得が少なく計算されるためです。「いつ・誰が・どうやって数えたか」を具体的に答えられるようにしておきます。
(7) 「ご家族への給与はどんな仕事に対するものですか」
家族への給与(専従者給与など)は、実際の業務内容と金額が見合っているかを確認されます。業務の実態を具体的に説明できるようにしておくことが大切です。
(関連記事:個人事業主・フリーランスに税務調査は来る?|対象になる人・流れ・対応を解説)
4. 答え方の3原則と、事前にできる準備
質問への答え方は、次の3つの原則を守れば十分です。
(1) 嘘をつかない
最も重要な原則です。調査官は、質問する前に資料情報や帳簿である程度の答えを把握していることが少なくありません。答えを知っている質問をあえてすることもあります。そこで事実と異なる説明をすると、既にある申告漏れについて「単なるミス」ではなく、隠蔽・仮装を伴うものではないかと疑われる材料になり、重加算税の問題に発展するおそれがあります。不利に思える事実でも、正直に話すことが結局は最善です。
たとえば、「この口座以外に入金される売上はありませんか」という質問に「ありません」と答えた後で、別口座への入金が判明したとします。最初から口座の存在を話していれば「申告漏れ」で済んだものが、嘘の答弁を挟んだことで「意図的に隠した」という評価に傾きかねません。誤りそのものより、誤りを取り繕う行為の方が、はるかに重い結果を招くのです。
(関連記事:税務調査で「重加算税になる」と言われたら|判断基準と対応を解説)
(2) 推測で答えない
「たぶん〜だったと思います」という推測の回答は、後から事実と食い違ったときに「説明が変わった」と受け取られるリスクがあります。記憶が曖昧なことは、「記憶が定かでないので、確認してお答えします」と答えるのが正解です。その場で全部答えきる必要はありません。
(3) 聞かれたことに答える(余計な話を広げない)
緊張や沈黙を埋めたい心理から、聞かれていないことまで話してしまう方がいます。誠実に答えることと、自分から話題を広げることは別です。質問の趣旨が分からなければ、「それはどういう趣旨のご質問ですか」と確認して構いません。
(4) 事前にできる準備——想定問答の整理
3原則を当日きちんと実践するためには、事前の準備が効きます。具体的には、調査の対象期間について、次の点をあらかじめ自分の言葉で整理しておくことです。
- 事業の内容と、受注から入金までの流れ(自分の事業を1分で説明できるか)
- 売上をいつ・どう計上しているか(計上のルール)
- 金額の大きい経費・交際費について、「誰と・何の目的か」
- 事業に使っている口座と、現金の管理方法
- 過去の申告で、自分でも気になっている点(あれば、先に税理士に相談)
特に最後の点は重要です。自分でも「ここは怪しいかもしれない」と思う箇所があるなら、調査当日に質問されてから慌てるのではなく、事前に税理士へ相談し、必要なら調査前に自主的な修正を検討する方が、加算税の面でも精神面でも、はるかに有利です。
(関連記事:修正申告と更正処分の違いは?|どちらを選ぶべきか・デメリットを解説)
5. 答えた内容はどう記録されるか
調査官への回答は、その場限りの会話では終わりません。調査官は聴き取った内容を記録し、重要な事項については、質問応答記録書という書面にまとめて、納税者に署名を求めることがあります。
質問応答記録書は、納税者の説明を一問一答形式で書面化したもので、後の課税判断——特に重加算税の賦課判断——の証拠資料として重要な意味を持ちます。私自身、共著『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)でこの書面の実務を詳しく整理しましたが、調査の現場での何気ない説明が、後から重要な証拠資料として扱われるという点は、ぜひ知っておいていただきたいところです。
だからこそ、前章の3原則(嘘をつかない・推測で答えない・余計に広げない)が重要になります。また、署名を求められた書面は、内容を十分に確認し、自分の説明と異なる記載があれば訂正を求めることができます。内容に納得できない場合は、安易に署名せず、税理士に確認してから対応することが重要です。対応に迷う場合は、署名の前に税理士に相談することをお勧めします。
なお、調査官の質問にどこまで・どう対応するかは、事前に税理士と打ち合わせておくと、当日落ち着いて臨めます。調査の事前通知を受けた段階での初動については、次の記事で整理しています。
(関連記事:税務調査の事前通知が来たら|日程変更・延期と初動対応を国税OB税理士が解説)
6. よくある質問
Q1. 質問に答えたくない場合、黙秘できますか?
税務調査(任意調査)は強制捜査ではありませんが、税務署には質問検査権があり、正当な理由なく答弁を拒んだり、偽りの答弁をしたりすることはできません(罰則の定めもあります)。ただし、記憶が曖昧なことを「確認してから答える」と保留することは、答弁の拒否ではなく、適切な対応です。
Q2. プライベートなこと(家族・趣味など)まで答える必要がありますか?
序盤の生活状況に関する質問には、前述のとおり調査上の意図があり、常識的な範囲で答えるのが円滑です。ただし、調査と関係のない事柄まで詳細に話す必要はありません。質問の趣旨が分からない場合は、趣旨を確認した上で答えれば十分です。
Q3. その場で答えられない質問はどうすればよいですか?
「確認してお答えします」と保留し、後日、資料を確認した上で正確に回答すれば問題ありません。曖昧な記憶のまま推測で答えるより、はるかに適切な対応です。
Q4. 質問されるのは1日中ですか?どれくらいの時間がかかりますか?
個人に対する実地調査は、一般には1〜2日で実施されることが多く、聴き取りが中心になるのは初日の午前であることが一般的です。午後以降は帳簿・資料の確認が中心になり、その過程で個別の質問を受ける、という流れが多いといえます。ただし、事案によっては複数日にわたることや、後日追加の確認を受けることもあります。
Q5. 調査官の質問に税理士が代わりに答えてもらえますか?
税務代理を委任した税理士は、調査に立ち会い、納税者を補佐できます。ただし、事業の実態に関する質問は、本人でなければ答えられないものも多くあります。税理士と事前に「どの質問は本人が答え、どこは税理士が補足するか」を整理しておくと、当日の負担が大きく減ります。
Q6. 答えた内容を後から訂正できますか?
事実と異なる説明をしてしまったことに気づいたら、できるだけ早く訂正を申し出るべきです。時間が経つほど「説明を変えた」という印象になりやすいため、気づいた時点で速やかに、正確な事実を伝え直すことが重要です。質問応答記録書への署名前であれば、記載内容の訂正を求めることもできます。
7. まとめ——質問の意図が分かれば、過度に恐れる必要はない
税務調査の質問は、序盤の世間話から個別の取引確認まで、すべてが「申告内容と事業の実態が合っているか」を検証するためのものです。意図の分からない質問に怯えるのではなく、聞かれていることの目的を理解し、事実を落ち着いて答える——それだけで、調査への対応は大きく変わります。
そして、答えに迷う質問、署名を求められた書面、納得できない指摘があったときは、一人で判断せず、税務調査の経験が豊富な税理士に相談してください。質問する側の経験があるからこそ見える「質問の裏の意図」を踏まえて、適切な対応をサポートできます。
税務調査の対応でお困りの方へ
以下のような状況の方は、できるだけ早くご相談ください。
- 税務調査の連絡が来たが、何を聞かれるのか不安で準備の仕方が分からない
- 調査官の質問にどこまで答えるべきか、事前に整理しておきたい
- 調査の途中だが、回答した内容や質問応答記録書への署名に不安がある
- 顧問税理士はいるが、税務調査の経験が豊富な専門家にも相談したい
- 調査当日の立会いを依頼したい
国税OB(元大阪国税局)の税理士が、税務調査の質問対応の事前準備、調査当日の立会い、質問応答記録書への対応について、当局側の視点も踏まえてサポートします。
顧問税理士がいる方の調査立会いのみのご依頼も可能です。ご依頼内容に応じて、当事務所での対応または提携する国税OB税理士のネットワークを活用し、状況に応じた適切な対応を提供します。
顧問契約・税務調査に関する初回相談は無料です。ただし、個別具体的な税務判断、セカンドオピニオン等はスポット相談として有料にて承ります。関西全域・オンラインで全国対応。
引用・参考文献
・国税通則法74条の2(質問検査権)、74条の9(事前通知)、128条(罰則)
・国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
・国税庁タックスアンサーNo.2200「収入金額とその計算」
・市田佳祐(共著)『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)
・市田佳祐「所得税 接触方法を見極めた上で対応の検討を」『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)
著者:市田佳祐(いちだ けいすけ)
税理士。市田税理士事務所代表(大阪市)。元大阪国税局・資料調査課勤務。資料調査課では国際課税や富裕層に対する調査事務に従事。税務調査対応、質問応答記録書への対応、重加算税、無申告対応、国際課税など、税務調査リスクの高い分野を中心に税務サポートを提供。共著に『質問応答記録書のポイントと税理士の対応策』(税務研究会出版局、2025年)、『税務弘報』2026年3月号(中央経済社)に寄稿。
